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第2話「あの子との再会」


学校生活ってこんなに気を使うことあったっけ


入学式の翌日、キオは早めに教室へ向かった。初めての学校生活が始まる。自然に友達を作りたかった。


 1年A組の教室は、大きな窓から朝の光が差し込む明るい空間だった。机は自由席で、生徒たちは思い思いの場所に座っている。身分に関係なく好きな席を選べるというのが、この学校の方針だった。


 教室には既に何人かの生徒が来ていた。キオは適当な席に座りながら、教室を見回した。


 後方の席に、ルイの姿があった。彼女の隣には、昨日の入学式で見かけた褐色の肌をした少女が座っていて、二人は親しそうに話している。すぐ後ろの席には、茶色い髪の少年も座っていて、時々会話に加わっている。


『どうやって話しかけよう……』


 キオは迷った。でも、自然な機会があるまで待った方がいいかもしれない。


『キオ』


 心の中でシュバルツの声が響く。


『焦るな。機会は必ずある』


 その時、担任となる先生が教室に入ってきた。青い髪の中年男性で、落ち着いた雰囲気だった。


「おはようございます。皆さん、本日から本格的な学校生活が始まります」


 先生は教壇に立って、穏やかな声で話し始めた。


「まずは私の自己紹介から。私はブルー・ブラウ・シュトゥルムです。魔法理論を専門としており、皆さんの担任を務めさせていただきます」


 生徒たちは静かに聞いている。


「この王立魔法学校は、身分や出身に関係なく、すべての生徒が平等に学べる環境を提供することを理念としています。皆さんには四年間、この理念のもとで魔法を学び、人として成長していただきたいと思います」


 シュトゥルム先生は教室を見回しながら続けた。


「授業は魔法理論、実技練習、精霊学、歴史学など多岐にわたります。また、年に数回、実地研修も行います。寮生活を通じて、規律と協調性も身につけてください」


 キオは真剣に聞いていた。


「それでは、今日は学校の施設見学と簡単なオリエンテーションを行います。午後からは基礎的な魔法実習を予定しています」


 説明が終わると、生徒たちは立ち上がり始めた。キオも席を立って、どうしようか考えていた。


 その時、金髪の少年が近づいてきた。オーウェンだった。王族らしい気品はあるが、同世代らしい親しみやすさも感じられる。


「やあ、ネビウス卿」


「おはようございます、オーウェン殿下」


 キオは軽く頭を下げた。


「あまり畏まらないでくれ、昨日の挨拶はとても印象的だった。俺も王族としての立場は確かにあるが、身分に関係なく仲良くなるという考え方には共感している」


 オーウェンの言葉には王族らしい自信があったが、同世代らしい率直さもあった。


「ありがとうございます」


「よければ、施設見学を一緒にしないか?君とは仲良くなりたいと思っていてね。学校のことなど、色々話したい」


 オーウェンの提案に、キオは少し迷った。でも、断るわけにもいかない。


「僕でよければ、ぜひ」


「それと……よければ、キオと呼ばせてもらえるか?僕のことも、オーウェンでいい」


 オーウェンは真剣な表情で提案した。友達になりたいという気持ちが伝わってくる。


「喜んで」


 キオも嬉しくなった。オーウェンは王族という立場にありながら、思ったより気さくで親しみやすい人物のようだ。


 キオとオーウェンが一緒に教室を出ると、廊下で他の貴族の生徒たちが待っていた。黄の髪のゲルプ家の少年、紅の髪のロート家の少女、青の髪のブラウ家の少年など。


「ネビウス卿ですね。私はエルヴィン・ゲルプ・フォルケです」


「レナ・ロート・カルメンです」


「マルク・ブラウ・リヒテです」


 次々と自己紹介され、キオは丁寧に応対した。みんな貴族らしい気品があるが、同時にキオとのつながりを求めているのが分かった。でも、オーウェンと違って、どこか計算的な印象もある。


「この機会に色々とお話をしませんか」


「シュバルツ一族との方々とは昔からお付き合いがありまして」


「魔法理論についてご興味は」


 キオは礼儀正しく応答したが、内心では少し疲れを感じていた。貴族社会の形式的なやりとりは、どうしても気疲れしてしまう。オーウェンのような自然な親しみやすさとは、やはり違うようだ。


 施設見学が始まった。図書館、実技練習場、食堂、医務室など、学校内の様々な施設を回る。キオは貴族のグループと一緒に行動することになった。


「この図書館は素晴らしいですね」


「実技練習場も充実しています」


 オーウェンをはじめとする貴族たちとの会話は続いた。みんな真面目で礼儀正しいが、どこか距離感があった。


 昼食時間になって、食堂へ向かった。貴族のグループは自然に一緒のテーブルに座る。


「疲れが顔に出ているよ」


 オーウェンが話しかけてくる。


「オーウェンも同じでは?」


キオは苦笑いを浮かべだがオーウェンを楽しそうに笑った。

午後のオリエンテーションという名の魔法実習についての話となった


「午後の実習、楽しみだ。魔法について日々の鍛錬は欠かしていないんだが、誰かと一緒に行うことはなかなかなくてね。自分の力がどの程度なのか、ぜひ試してみたい」


 オーウェンは率直に自分気持ちを述べた


「はは、僕も凄く楽しみです」


 キオも相槌を打った。オーウェンの素直さに好感を持つ。


 キオは周囲を見回した。ルイは異国の少女と茶色の髪の少年と一緒に食事をしている。三人とも楽しそうだ。


『あの子たちと友達になりたいな』


 でも、今はこの場から離れるわけにはいかない。


 午後になって、実技練習場でのオリエンテーションが始まった。


「それでは、まずみなさんの魔法について知るために基本的な光の魔法から練習しましょう。二人一組になって、お互いに指導し合ってください」


 シュトゥルム先生の指示で、生徒たちはペアを作り始める。


 キオはこの機会に色々な人と話したかったが、オーウェンから話しかけられた


「キオのペアは僕でいいかな?」


爽やかな笑顔なのに有無を言わせない言葉に思わず笑ってしまう


「喜んで」


 キオとオーウェンがペアになった。少し離れたところで、ルイは異国の少女とペアになっている。


 光の玉を作る基本的な魔法だった。キオはすぐにコツを掴み、光の玉を作成してみる。


ほわほわと輝く玉が目の前に浮かんだ。


 オーウェンは魔法を始めると、その実力の高さがすぐに分かった。魔力量も豊富で、安定した大きな光の玉を作っている。まるで太陽のようだ。


「すごいな」


 キオが感心すると、オーウェンは率直に答えた。


「ありがとう。でも、実技は得意なんだが、体力を使う練習は苦手なんだ」


 キオは意外に思った。王族だからといって、すべてが完璧というわけではないのだ。むしろ、そうした弱点を素直に認める姿勢に好感を持った。オーウェンは思っていた以上に、自然体で付き合える相手かもしれない。


 実習が終わると、キオは疲れを感じていた。一日中貴族との付き合いで、気を遣いっぱなしだった。


「ネビウス卿、今度お茶でもいかがでしょうか」


 エルヴィンが声をかけてくる。


「この間、異国で人気の茶葉を手に入れまして、良ければ紅茶を飲みながらゆっくりお話ができたらと思います」


「まだまだ学校生活に慣れてない部分がありますので、また今度」


 キオは曖昧に答えて、その場を離れた。


 キオは一人で図書館に向かった。静かに過ごしたかった。一日中気を遣い続けて、精神的に疲れてしまった。


 図書館は広大で、魔法に関する書籍が豊富に揃っていた。キオは魔法理論の本を手に取って、読み始めた。


『今日は結局、ルイと話すことができなかった』


 少し残念に思いながら勉強していると、時間が過ぎていった。オーウェンは良い人そうだが、やはり一日中貴族との付き合いは疲れる。ルイともっと自然に話せる日は来るのだろうか。


 その夜、キオは寮の自室で今日のことを振り返った。


『結局、今日は貴族同士の付き合いばかりだった。ルイとは話すことができなかった』


『明日はもう少し自然に過ごしたいな』


『キオ』


 シュバルツの声が響く。


『どうした?』


『そんなに心配するな。焦らず、自然な機会を待てばいい』


『そうだな……でも、なかなか難しい』


『時間をかければ、きっと友達になれる』


 窓の外には星が瞬いている。明日はもっと自然に過ごせるだろうか。キオは今日の疲れを感じながらも、オーウェンとの出会いには少し希望を感じていた。少なくとも一人、自然に話せる友達ができそうな予感がある。でも、やはりルイともいつかは普通に話せるようになりたい。そんな想いを抱きながら、キオは眠りについた。


 翌日からも、こんな風に過ごすことになるのだろう。お互いに同じ学校にいながら、なかなか近づけない現実をキオは感じていた。



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