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第14話「それぞれのペース」

エルヴィンと仲良くなったことで貴族との距離感についても

あまり悩むことはなくなった。

気を使うべきことももちろんあるが

自分の気持ちも大事にしたいと改めて感じたからだ。


エルヴィンもあれから少し変わった

キオやオーウェンに対しての挨拶も仰々しい感じではなくなり

セドリックやルイ、カリナ達との関係も

前よりは自然な感じへと変化した。


ただそんなエルヴィンの姿を

レナとマルクは複雑な顔で見ていた



暫くたった、ある日の午後、キオたちは体育館に集まっていた。今日は身体訓練の授業だ。男女別に分かれて行われるため、キオは男子生徒たちと一緒にいる。


キオはこの授業をとても楽しみにしていた


「おい、貴様ら!集合だ!」


筋肉隆々の中年男性が声をかけた。ヘルムート・アイゼン先生――元騎士出身の体育教師で、赤みがかった茶色の髪と厳格な表情、そして鎧でも着ているかのようなたくましい肉体が印象的だ。


「今日は基礎的な身体能力の測定と、簡単な格闘技の基本を叩き込む!魔法使いといえども、体力と基礎的な護身術は必要不可欠だからな!」


先生の話を生徒たちは真剣な表情で話を聞いていた。


キオの隣には、オーウェン、セドリック、エルヴィンが並んでいた。少し離れた場所にマルクがいるが、マルクの表情は固かった。


エルヴィンがキオと楽しそうに談笑していれば

複雑な顔で二人を見ていた。

そして時々、キオをじっと見つめることもあった。


そんなマルクに気づいていないキオは

ウキウキと心を踊らせていた


『OLだった時も前の人生も運動は得意じゃなかったけど』



『でも今は身体が動くと思うんだよね。小さい頃、ノックス兄さんと木登りして遊んだし、セク兄さんからも特訓と評した山登りに連れてかれたりしたしね』


「まずはランニングだ!校庭を3周、全力で駆け抜けろ!」


アイゼン先生の指示で、男子生徒たちは校庭に向かった。




走り始めてすぐに、キオは驚いた。

みんなが遅く感じる


『兄さんたちと遊んでたり山に昇ったおかげかな…?全然苦しくない!』


足音が軽やかにリズムを刻む。秋の涼しい風が頬を撫でて、とても気持ちがいい。


『あの頃は駅の階段だけで息切れしてたのに!前世でもずーっと部屋に引きこもっていたから運動は出来なかったけど。今は違う!若いっていいね!』


キオはチラリと周りを見渡す


オーウェンは最初は魔法の時と同じように余裕があったが、だんだん息が上がってきていた。セドリックは真面目にペースを保って走り、エルヴィンは貴族らしく品よく走っている。


そして意外だったのはマルクだった。運動神経が良いようで、先頭グループで軽やかに走っている。




2周目に入ると、キオは自然にペースを上げていた。

体が勝手に「もっと早く走れる」と教えてくれる。


3周目、キオは上位グループに入っていた。息もそれほど乱れていない。マルクと並走する形になった。


「...」


マルクは黙々と走っているが、時々キオを横目で見ていた。何か話しかけたそうな、でも話しかけられないような複雑な表情をしていた。その視線に耐えられず、キオは少しペースをあげマルクを追い抜かした。

後ろから感じる視線には気づかないフリをした。


「ネビウス、なかなかやるじゃないか!」


ゴールした時、アイゼン先生がたくましい腕を組んで満足そうに言った。


「ありがとうございます。体を動かすのって、楽しいですね」


キオの率直な感想に、アイゼン先生は豪快に笑った。


「そうだ!その調子だ!魔法使いも、まず体が資本だからな!」


マルクも少し遅れたタイミングでゴールしていたが、キオが先生と話しているのを少し離れた場所から見つめていた。




体育館に戻ると、次は基礎防衛魔法の時間だった。


「みんな身体も温まったろう!今度は護身のための基礎的な防衛魔法を叩き込む!自分の得意な魔法で盾を作るんだ!」


先生が豪快に大きな炎の盾を作る


「重要なのは魔法のコントロールだ!とっさの時に盾の形にできるか、それが生死を分ける!苦手を克服することも大事だが、得意を伸ばし、最強を目指せ!」


アイゼン先生の背中には見えないはずの炎が燃え盛っていた


「よし、二人一組になって実戦練習だ!」


アイゼン先生の声に

マルクは困ったようにキョロキョロと周りを見渡していた


そんなマルクにエルヴィンが声をかける


「マルク、一緒にやろう?」


マルクは驚いた顔をした後、戸惑ったような表情を浮かべた


「君と...?でも…いいのかい?」


「当たり前だろ。一緒に頑張ろう」


エルヴィンの言葉に、マルクは小さく頷いた。


キオはオーウェンと組み、セドリックは近くにいた別の生徒と組んだ。


「じゃあ、僕が攻撃役となろう。キオは盾を作ってくれ」


オーウェンが手をかざして、柔らかな光の球を作る。

キオは集中して、空間魔法で盾を作ろうとした。


手の前の空間がわずかに歪み、見た目には透明だが確かに存在する防御壁が現れた。空気そのものが圧縮され、曲げられて盾の形を成している。


オーウェンを勢いよく光の玉をキオへと飛ばした。


パンッ!

光の玉は空間の壁にあたって弾かれ消えた。


「面白いな!それがシュバルツ一族が得意とする空間魔法か。」


オーウェンなキオの前にある空間の歪みをじっくりと見ていた


「オーウェンも魔法のコントロールがうまいね。かなりのスピードだったよ」


「体力はないが、コントロールには自信があるんだ」


オーウェンは笑って言った


一方、エルヴィンとマルクのペアはぎこちなくスタートしていた。


「えっと...僕から攻撃役をする。マルクは受けてみてくれ」


エルヴィンが小さな電気を起こすと、マルクは水魔法で盾を作ろうとした。でも、緊張のせいかうまくいかない。水がぼたぼたと落ちてしまう。


「あ...す、すまない」


マルクは失敗に焦っている様子だった。


「安心しろ、マルク!お前なら大丈夫だ!そうだろ?」


エルヴィンはニヤリとマルクに笑みを浮かべる

マルクはそのエルヴィンのいつもの笑みに安堵を覚えた

そしてしっかり前を見据えて構える



「ま、任せてくれ!僕はブラウ一族なんだぞ!」


マルクが力強く言い放つと、今度は小さいながらもしっかりとした水の盾ができた。


「やった!ちゃんと盾の形になった!」


「やったじゃないか、マルク!」


エルヴィンが嬉しそうに手を叩くと、マルクも笑顔を見せた。




休憩時間になると、キオとオーウェンはエルヴィンやセドリックたちの元へと向かう


「みんな、お疲れ様」


キオが声をかけると、エルヴィンが振り返った。


「キオ様。お疲れ様です」


やってきたキオにマルクは身を固くしたが、エルヴィンにこづかれるとハッとしたように身だしなみを整えた。

キオもマルクの姿に少し身を構えたが

あのねっとりとした視線ではなくなっていた。



『視線が熱いことには変わらないけど…』



「リヒテ君、私も遠目で見ていたが、さっきの水の盾、形が安定してて綺麗だったと思う」


オーウェンが気さくに話しかける。


「本当ですか!」


マルクが少し嬉しそうに反応する。


「ああ。あまり大きくはなかったが、安定した魔力操作だったと思うぞ」


「そう言って頂けるのは...大変嬉しく思います」


マルクがぽつりと呟くが、チラッとキオにも期待の視線を向けていた


その様子に

エルヴィンはその後ろで少しため息を吐いていた


そんなマルクにセドリックが思い切った様子で

質問をぶつけた


「僕…魔力操作に興味があるんです…あるんだけど、それってやっぱり練習の積み重ねなのかな?それともコツがあるの?」



セドリックの様子に驚きつつも

マルクは少し恥ずかしげに答える


「もちろん…練習も大事だけど、父から教わった魔力操作とか。うまく魔力を操作するためのコツもあるさ」


そのマルクの回答に

セドリックは羨ましげに笑った


「いいなあ。僕は家族に魔法使いがいないから、全部自分で覚えないといけないんだ」


セドリックの素直な言葉に、マルクは少し考え込んだ。


「もし...もしよければ僕が教えてあげようか?その...水の魔法のコツを...」


マルクはセドリックに向けて、少しおどおどしながらも優しく答えた。


セドリックの目が輝く


「本当に?ありがとう!」


セドリックの大喜びに、マルクは照れたように微笑んだ。






午後は、より実践的な護身術の練習だった。


「今度は、相手の攻撃を避ける基本的な動きを叩き込む!」


アイゼン先生が力強い動きで、攻撃を避ける方法を示す。


「魔法に頼るだけでなく、体の動きで危険を回避することも重要だ!」


今度はキオとセドリック、オーウェンは別の生徒と

エルヴィンはマルクとペアになった。


「セドリック、いいよ」


「うん…はっ!」


セドリックが手を伸ばしてキオを掴もうとした。

そんなセドリックの手を払いのけ、体をひねって避けた。


キオは自身の身のこなしように感動する



『体が軽い!』




一方、マルク、エルヴィンコンビでは

マルクがエルヴィンを避けようとしてバランスを崩してしまったようだった


「おっと!」


エルヴィンが慌てて駆け寄って、マルクを支えた…と思ったら2人とも勢いよく倒れてしまう



ドサドサッ

少し砂埃がまった


「ってってて…大丈夫か、マルク?」


「痛たっ…あ...ありがとう、エルヴィン」


マルクが小さく呟く。


2人は沈黙したのち

「「プッ」」


と吹き出して笑った


「っはっは…今度はもっとゆっくりやろう」


「あははっ…うん、そうだね。エルヴィン」



授業前とは打って変わって

マルクの表情は柔らかかった






授業が終わって更衣室に向かう途中、5人は自然と一緒に歩いていた。

オーウェン、キオが並んで歩き

そのすぐ後ろをセドリックとマルク、エルヴィンが着いて歩く


「今日は疲れたけど楽しかったー」



キオが伸びをすると

オーウェンも楽しそうに笑った



「キオがあんなに運動が得意とは知らなかったよ。本当に羨ましい限りだ」


「ふふ、自分でもびっくりだよ」



そんなキオをマルクは見つめていたが

再び感じた脇の痛みに耐えられずエルヴィンを睨んだ

エルヴィンは飄々とした様子で上を向いていた


「体を動かすのって、勉強とは違う楽しさがあるね」


呟くように言ったセドリックの言葉にエルヴィンも反応する



「僕もだ。最初は『貴族に体育なんて必要なのか』と思っていたが、やってみると実に面白い」



「こほん…!そうだな。僕も同じ感想だ」


マルクも咳払いしつつエルヴィンに同意する



「今度は僕ともやろうね!」


セドリックがマルクに明るく言うと、マルクは少し驚いたような、でも嬉しそうな表情を見せた。


「まぁ、そうだな…せっかくだし、次の授業では一緒に組んでやろう」


「へへ、ありがとう!」


その光景を見ていたキオとオーウェンは目を合わせて笑った



「そうだね。みんなで一緒の方が楽しいよ」


キオの言葉に全員が頷き笑いあった





着替えて更衣室を出ると、女子の授業も終わったらしく、ルイとカリナが歩いてきた。


「お疲れ様!」


カリナが元気よく手を振る。


「お疲れ様です」


ルイも微笑んで挨拶する。


「女子の授業はどうだった?」


オーウェンが聞くと、カリナが弾んだ声で答えた。


「ダンスの基礎をやったの!私、故郷の踊りのおかげで結構うまくできたよ」


「ルイは?」


キオが尋ねる。


「私は...運動はあまり得意じゃないんですが、みんなと一緒だと楽しかったです」


キオもルイも互いに笑いあった


校舎に向かって歩きながら、7人は今日のことを話していた。


「今度の休みに、みんなで体育館使って練習しない?」


セドリックが提案する。


「それは楽しそうだね」


キオが賛成すると、みんなも頷いた。


「じゃ…じゃあ!その時は僕が水の魔法のコツを教えてあげようじゃないか!」


「え、いいの?ありがとう」


「あ…いや、別に感謝など不要だ!」


「ぶっ!」


素直なセドリックとどぎまぎしているマルクを見て

エルヴィンは思わず吹き出していた

すかさずマルクはエルヴィンを睨む



そんな2人の様子も気にせず

カリナが話し出す


「じゃあ私は踊りを教えてあげる!」


その場で華麗に踊るカリナは花の妖精のようだった


「僕は...えーっと...」


エルヴィンも何か案をだそうと頭を捻っていると、オーウェンが笑って言った。


「別にみんながみんな何か出来ないといけないわけじゃない。せっかくなんだからその場の雰囲気を楽しもう」


キオも笑って頷く



「オーウェンの言う通りだよ。せっかくのみんなとの交流の場なんだから、一緒に楽しもうよ」


「ふふふ、すごく楽しみですね」


ルイも微笑み

みんなで笑いあった


歩きながら、キオは心の中でシュバルツと話していた。


『なんだか色々あったけど、よかったね』


『マルクのことか?』


『うん。彼の視線には戸惑うことも多いけど、エルヴィンのお陰でなんとなく彼の雰囲気も分かってきたし』


『そうか…まぁ、何かあったら俺に言え』


『ふふ…ありがとう』




夕陽が美しく校舎を染めている。


身分も出身も性格も違う仲間たち。そして、その中に含まれる複雑な感情。



キオは温かい気持ちと共に、微かな不安も抱きながら、仲間たちと共に歩き続けた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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