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第13話「硬さより柔軟さを」

しばらくして、キオは教室で貴族たちとの交流に疲れを感じていた。

キオが呼び方を変えることを提案してからエルヴィンを含む貴族たちが

積極的に声をかけてくるようになったのだ。


前のように様子を見ながらの声掛けはやめ

少しでもキオとの関係を深めようとアプローチしてくることがふえている。


「ネビウス様、昨日の魔法史の課題はもう終わられましたか?」


エルヴィンが丁寧に話しかけてくる。

お互いを「フォルケ君」「ネビウス様」と呼ぶようになったため

他の貴族よりも距離が近くなっている

エルヴィン自身もとてもうれしそうにキオに声をかけていた



「ああ、大体できてるよ、フォルケ君」


キオが答えると、エルヴィンの目が少し輝いた。

どうやらこのやりとりが新鮮に感じているらしい


「それでしたら、今度のグループ発表についてご相談があるのですが...」


その時、他の貴族たちも近づいてきた。

レナ・ロート・カルメンとマルク・ブラウ・リヒテ、そして数人の貴族学生たちだ。


「ネビウス様、お疲れ様です」


レナが上品に微笑みながら挨拶する。


「私たちも魔法史のグループワークについて、お知恵をお借りしたく」


「もちろん、できる範囲で」


キオは礼儀正しく応じたが、内心では少しため息をついていた。


「テーマは『古代魔法と現代への応用』ですが、どのような方向性がよろしいでしょうか?」


マルクが熱心に質問する。その視線は相変わらず熱すぎて、どうしたらいいかわからない。


「古代魔法は確かに興味深いテーマだね。文献をしっかり調べて、現代との比較をしてみたらどうかな」


キオの提案に、貴族たちは真剣にメモを取る。


「さすがネビウス様!」


「シュバルツ一族の知識は深いですね」


「ぜひ詳しくお聞かせください」


褒め言葉が次々と飛び交う。


「具体的には、どの時代の魔法に注目すべきでしょうか?」


レナが丁寧に尋ねる。


「そうですね...竜王時代の召喚魔法とか、興味深いかもしれませんね」


キオが答えると、エルヴィンが目を輝かせた。


「竜王時代ですか!それは素晴らしいアイデアです」


「私の家には、その時代の文献が少しございます」


マルクが得意げに言う。


「それは心強いね。でも、文献だけじゃなくて、実際の応用例も調べた方がいいと思う」


「応用例ですか?」


「現代でも使われている魔法の中に、古代魔法の技術が残っているものがあるはずだから」


キオの説明に、みんなが感心したように頷く。


「なるほど!」


「やはり視点が違いますね」


「ネビウス様のお考えは、いつも勉強になります」


キオには彼らの反応がとても辛かった。

でも、自分なりに彼らの期待に応えてあげなければと悩んでしまう。

彼らは悪い人たちではないし、真剣に接してくれているのだから。


「図書館の古代魔法コーナーは、許可制の文献も多いですが...」


エルヴィンが少し困ったような表情を見せる。


「そうだね。でも、基本的な研究には学校の図書館で十分な資料があるはずだよ。特別な文献が必要になったら、その時に考えよう」


「そうですね。まずは基礎から固めていきましょう」


エルヴィンが頷く。


「あの、ネビウス様」


レナが遠慮がちに声をかける。


「私たちのグループでの発表、もしお時間があるときに一度ご覧いただけませんでしょうか?」


「もちろん。でも、あまり気負わなくても...」


「いえいえ!ネビウス様にアドバイスをいただけるなんて、夢のようです」


マルクが興奮気味に言った。


その時、少し離れた席でルイたちが楽しそうに話している声が聞こえてきた。


「カリナ、その精霊魔法のコツをもう一度教えて」


「いいわよ!でも、まずは精霊さんとお話することから始めましょ」


「セドリック君、昨日の復習、一緒にやろうよ?」


そんな楽しそうな声がどうしても耳に入ってきてしまう

キオは無意識にそちらに視線を向けていた。


「ネビウス様?」


エルヴィンの声に我に返る。


「あ、ごめん。何だった?」


「古代魔法の文献について、どちらの図書館で調べるのが効率的かと...」


「ああ、それなら学校の図書館で十分だと思う。特別な許可が必要な文献もあるけど、基本的な研究には充分な資料があるはずだよ」


キオが答えながらも、心は別のところにあった。


『なんで私は、あそこにいないんだろう』


---


昼休み、キオは中庭で一人の時間を過ごしていた。秋も深まり、木々は美しく紅葉している。落ち葉がひらひらと舞い散る中、ベンチに座って空を見上げた。


『キオ』


心の中でシュバルツの声が響く。


『疲れているな』


『うん...なんだか分からないけど、疲れた』


『貴族たちとの交流がか?』


『そうかもしれない。みんな礼儀正しいし、悪い人たちじゃないんだ。私も彼らの期待に応えてあげたいと思ってしまうし』


キオは言葉を探した。


『でも、ルイたちとの時間も大切にしたい。両方を大事にしようとして、結果的にどちらも中途半端になってしまっているような気がするんだ』


『ふむ...』


『特にフォルケ君は、私が名前で呼んであげたらすごく嬉しそうにしてくれるし、決して悪い子じゃない。彼らなりに一生懸命接してくれているのも分かる』


『お前は彼らの期待に応えようと頑張りすぎているのではないか?』


シュバルツの指摘に、キオははっとした。


『私が...頑張りすぎている?』


『どちらとの関係も上手くやろうと考え過ぎているのではないか。相手を傷つけまいと考えることはお前の良さであり、その部分を俺は好いているが、必要以上に気を遣うのは違うと思うぞ』


『そうなのかな…。いや、そうかもしれない...だから疲れてしまうんだ』


その時、後ろから足音が聞こえた。振り返ると、オーウェンが歩いてくる。


「やあ、キオ。一人でどうしたんだ?」


「オーウェン。ちょっと考え事をしてて」


オーウェンが隣に座ると、心地よい沈黙が流れた。秋風が二人の頬を撫でていく。


「もしかして、貴族たちとの付き合いで疲れてるのか?」


オーウェンのその洞察力に、キオは苦笑いした。


「やっぱり分かる?」


「僕も同じような経験があるからね」


オーウェンが空を見上げながら続ける。


「無理はしなくていいんじゃないか?君らしい方法で関係を築いていけば良いと僕は思うよ。人間関係に正解はないからね。」


オーウェンの言葉に、キオの心が少し軽くなった。


「そういえば」


オーウェンが急に思い出したように言う。


「この間、シュトゥルム先生が食堂で期間限定のスイーツを食べてるのを見たんだ」


「え?シュトゥルム先生が?」


キオが驚く。いつも落ち着いて理論的な先生のイメージとは違いすぎる。


「そうなんだ。しかも、すごく嬉しそうな顔で。甘いものが好きなんて知らなかった」


「意外だね。あの先生がスイーツを...」


二人は顔を見合わせて笑った。


「人って、見た目と違う一面があるものなんだな」


オーウェンが感慨深そうに言う。


「そうだね。先生も、授業中とは全然違う表情をしてたんだろうな」


「きっと童心に戻ったような顔だったと思う」


キオも想像して微笑む。


「今度見つけたら、こっそり観察してみようか」


「それは面白そうだ。でも、バレないようにしないと」


そんな他愛もない会話をしながら、キオの気持ちはだいぶ軽くなっていた。


---


午後の魔法実技の授業で、今日は応用練習として複数人でのチーム作業が課題だった。


「4人一組になって、協力して魔法障壁を作ってください」


シュトゥルム先生の指示で、教室がざわめき始める。


キオは自然にオーウェンと視線を合わせたが、エルヴィンが先に声をかけてきた。


「ネビウス様、よろしければ僕たちのチームに」


レナとマルクも一緒だった。4人組としては完璧な構成だ。


キオは少し迷った。一方で、少し離れた場所でルイ、カリナ、セドリックが困っているのにも気づいた。3人組になっているが、もう一人メンバーが必要だ。


「あの...」


キオが答えに迷っていると、オーウェンが気づいてくれた。


「フォルケ君、申し訳ないが僕を君たちのチームに参加させてもらえるか?」


「え?」


エルヴィンが困惑したが、すぐに表情が明るくなった。王族であるオーウェンと同じチームになれるなんて、思いがけない幸運だった。


「もちろんです!光栄です、オーウェン様」


「キオ、君はあちらのチームに入ったらどうだ?」


オーウェンがルイたちの方を指差すと、キオの表情が明るくなった。


「ありがとう、オーウェン」


こうして、オーウェンは貴族チーム、キオは平民チームと分かれることになった。


---


「それでは、魔力を同調させて障壁を作ってみましょう」


セドリックが提案する。4人のチームは和やかな雰囲気に包まれていた。


「僕がサポートに回るから、みんなで合わせてやってみよう」


キオが言うと、みんなが頷いた。


実際に魔法を発動してみると、最初はうまくいかなかった。キオが魔力を込めすぎてしまい、障壁が異様に固く分厚くなってしまう。


「ちょっとキオ、魔力が強すぎて形がぐわんぐわんしてるわ!もうちょっと弱めて!」


カリナが慌てて指摘する。


「あ、ごめん!」


キオが苦笑いしながら魔力を調整する。


「大丈夫です、キオ君。みんなで合わせるのって、意外と難しいんですよね」


ルイが優しくフォローした。


「そうそう!私も最初は精霊さんとの魔力調整がうまくいかなくて大変だったのよ」


カリナも笑いながら言う。


「協力魔法は、お互いの魔力を感じ取ることが大切ですね」


セドリックが真面目に分析する。


お互いを気遣い、失敗を笑い合いながら、少しずつ改善していく。技術的には粗削りだったが、何か温かみがあった。


「今度はいい感じ!」


「うん、みんなの魔力がちゃんと合ってる」


最終的には美しい障壁が完成した。完璧ではないけれど、4人で作り上げたという達成感があった。


一方、オーウェンたちの貴族チームでは、エルヴィンが張り切って説明していた。


「ゲルプ一族の魔法理論では、魔力の流れを一定にすることが重要とされています」


「素晴らしい知識ですね、フォルケ君」


オーウェンが感心する。


「オーウェン様とご一緒できて光栄です」


レナも嬉しそうだった。


理論的には完璧で、4人の魔力レベルも高く、技術的な問題は何もない。スムーズに魔法障壁が完成した。


「さすがですね」


「オーウェン様がいらっしゃると、やはり違います」


貴族たちの賞賛の声が聞こえてくる中、キオは自分たちのチームでの温かい時間を噛みしめていた。


『やっぱり、私はここが居心地がいい』


---


授業が終わった後、エルヴィンが少し残念そうな表情で近づいてきた。


「ネビウス様、今日は別々のチームでしたね」


「そうだったね、フォルケ君」


「オーウェン様とご一緒できたのは光栄でしたが...」


エルヴィンは少し言いにくそうに続けた。


「やはりネビウス様ともっとお話ししたかったです」


その素直な言葉に、キオは首を傾げた。


「君はよく僕に話しかけてくれるね。もしかして...何か聞きたいことでもあった?」


キオのその質問にエルヴィンは複雑な表情を見せた。


「それは...」


エルヴィンは言葉を探したが、教室にはまだ他の生徒たちがいる。


「また...機会があるときに」


そう言って、エルヴィンは少し戸惑ったような表情で去っていった。


---


夕食時、キオは一人で食事をしていた。オーウェンは王族としての公務があり、ルイたちとも時間が合わなかった。


そこにエルヴィンが現れた。


「ネビウス様、お一人でお食事ですか?」


「ああ、今日はみんな都合が悪くて」


「もしよろしければ、ご一緒させていただけませんか?」


「もちろん」


エルヴィンが座ると、しばらく沈黙が続いた。


「フォルケ君、君はどうして僕によく話しかけてくれるんだい?」


キオは再びエルヴィンに質問を投げかける

そのキオの問いかけにエルヴィンは困惑していた。


「それは...」


エルヴィンは言葉を探した。自分でもよく分からないのだ。


「僕が言えたことでは無いけど、君の正直な気持ちが知りたいんだ」


キオの優しい言葉に、エルヴィンは迷いながらも口を開いた。


「最初は...家からも、シュバルツ一族の方々ともっと親しくするようにと言われていましたし」


キオは静かに聞いていた。


「でも、ネビウス様の入学式での挨拶を聞いて...なんというか」


エルヴィンは言葉に詰まった。


「うまく言えないのですが、他の方とは違うような気がして」


「そうか」


「ただ、私も自分が何を考えているのか、よく分からなくて...」


エルヴィンが困ったような表情を見せた。


その曖昧で混乱した様子に、キオは少し心を動かされた。


「フォルケ君、君が思うほど僕は特別じゃないよ」


エルヴィンは変わらず困惑の表情を浮かべる



「そうだね…じゃあお互いを知るために、君のことをもっと教えてくれないかな?」


「私のこと...ですか?」


「例えば、君の趣味は何?貴族としてじゃなく、エルヴィン・ゲルプ・フォルケ個人として」


突然の質問に、エルヴィンは戸惑った。


「趣味...」


「法律の勉強以外に、何か好きなことはある?」


エルヴィンは考え込んだ。こんなことを聞かれたのは初めてだった。


「えっと…実は...音楽が好きなんです。ヴァイオリンを弾くのですが」


「ヴァイオリンか...僕は楽器の演奏があまり得意ではないから、羨ましいよ」


キオの素直な言葉に、エルヴィンの表情が少し明るくなった。


「今度聞かせてくれる?」


「え...でも、人前で演奏するほどではないですし」


「上手い下手じゃなくて、君が好きなことを知りたいんだ」


エルヴィンの頬が少し赤くなった。


「そう言っていただけるなら...」


この瞬間、エルヴィン自身も気づかないうちに、初めて自然な空気が流れた。


---


その夜、寮の部屋でキオはシュバルツと会話していた。


『今日はどうだった?』


『うーん、少し前進があったかもしれない』


『エルヴィンとのことか?』


『うん。彼も悩んでいるんだなって分かった。どういう関係をどう築けばいい個のか迷ってるのかもしれないね』


『なるほど』


『私も、立場の違いを言い訳にして、心を閉ざしていた部分があったかもしれない』


キオは窓の外の星空を見上げた。


『でも、ルイたちとの関係と同じようにはいかないだろうね』


『それでいいのではないか?人それぞれ違う関係があっていい』


『そうだね。フォルケ君には、フォルケ君なりの友情の形があるはず』


『お前は過去にも色々な人と接してきただろう?その経験を活かせばいい』


『そうか...確かに、会社でも研究所でも、いろんなタイプの人がいたな』


キオは少し安心した。


『明日から、もう少し自然に接してみよう』


『そうしろ。きっとうまくいく』


---


翌朝の教室で、エルヴィンがいつもより控えめに近づいてきた。


「おはようございます、ネビウス様」


「おはよう、フォルケ君」


キオが微笑むと、エルヴィンも少し表情を和らげた。


「昨日は...貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」


「こちらこそ。君の音楽の話、面白かったよ」


その時、ルイたちがやってきた。


「おはよう、キオ君」


「おはようございます」


カリナとセドリックも挨拶する。エルヴィンは少し身構えたが、キオが自然に紹介した。


「フォルケ君、こちらは僕の友人たち」


「初めまして」


エルヴィンが丁寧に挨拶すると、ルイたちは少し戸惑いを見せた後、礼儀正しく返した。


「エルヴィン・ゲルプ・フォルケと申します」


「ルイ・リンネルです」


「カリナ・マージェン!」


「セドリック・モイヤーです」


少し緊張した空気が流れたが、キオが場を和ませた。


「フォルケ君はヴァイオリンが上手なんだ」


「あたしも音楽好きなのよ!」


カリナが明るく言うと、エルヴィンは少し驚いたような表情を見せた。


「そう...なのか、確かに君は前に...素晴らしい歌を歌っていたな」


エルヴィンが照れたように返すと、カリナの顔がぱっと明るくなった。


「褒めてくれてありがとう!」


「今度、一緒に音楽の話をしませんか?」


ルイの提案に、エルヴィンは戸惑った。しかし、キオの励ましの視線を受けて、小さく頷いた。


「はい...ぜひ」


これが、新しい関係の始まりだった。立場や出身に関係なく、共通の興味を通じて繋がる関係。


キオは、貴族社会の形式的な交流とは違う、もっと人間らしい繋がりを築けるかもしれないと感じ始めていた。


しかし、この変化が他の貴族たちにどのような影響を与えるのか、それはまだ誰も知らない。


新しい友情の形を模索する日々が、今始まろうとしていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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