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第12話「身分の壁の現実」


ベアトリスとのお茶会から数日経った、水曜日の朝。

差し込む朝日が教室の埃をきらきらと照らす中、キオはいつものように友人たちとの時間を過ごしていた。


「おはよう、みんな」


「おはよう、キオ君」


ルイが穏やかな笑顔で挨拶を返す。

先日の実家訪問を経て、彼女との距離は確実に縮まっていた。それでも、ふとした瞬間に身分の差を意識させられる場面はまだ多い。


「昨日の植物魔法の宿題、みんなできた?」


セドリックが心配そうに尋ねる。


「私はなんとか。でも、故郷くにのやり方で……精霊さんの力を借りて解いたから、こっちの基準でどう評価されるかわからないなー」


カリナが少し不安そうに答える。彼女の故郷の精霊魔法は、この国の基準に合っているか心配なようだ。


「大丈夫だよ。キルク先生は多様な解法を認めてくれる方だから」


キオがカリナを励ました、その時。


教室の入り口付近がにわかに色めき立ち、それまであった和やかな空気がすっと変わった。


入り口から、レナ・ロート・カルメン、アイリス・ブラウ・エーデルといった貴族の令嬢たちが数人、連れ立って入ってきた。


皆同じ制服を着ているのに、丁寧に施された化粧や美しく結い上げられた髪、上品なアクセサリーといった細部へのこだわりが、彼女たちの品格を際立たせている。


彼女たちは教室を見渡し、まっすぐキオの席へと近づいてくる。


ルイは反射的に身を縮こませた。

カリナとセドリックも、令嬢たちの気品ある佇まいに圧倒されるように表情を固くする。彼女たちが纏う空気は、平民の自分たちとは明らかに違う、生まれながらの格式の高さを感じさせた。


「キオ様、おはようございます」


レナが優雅な笑みを浮かべて声をかけた。その声のトーンは確かに丁寧だが、どこか特別な響きを持っている。


「おはようございます」


キオが丁寧に挨拶を返すと、令嬢たちは嬉しそうな表情を見せた。

キオが普段の友人たちに向けるのとは違う、丁寧な態度で応じているのを見て、ルイは少し困ったような顔をした。


「先日は、ベアトリス様とのお茶会はいかがでしたか?」


アイリスが興味深そうに尋ねる。その質問に、ルイの表情が曇った。高級サロンでのお茶会。それは想像もできない世界の話だった。


「有意義な時間でした」


キオが簡潔に答えると、令嬢たちは互いに意味ありげな視線を交わした。


「それでしたら、私たちもぜひキオ様とお時間をいただけませんでしょうか?」


レナが期待に満ちた表情で提案する。


「私、音楽について語り合いたくて。キオ様は音楽にもお詳しいと伺っておりますし」


「私は最新の魔法理論について。シュバルツ一族の空間魔法への造詣、ぜひお聞かせください」


次々と声をかけられる中、キオは少し困惑していた。彼女たちの視線には熱意がある。

だが、それがキオ個人への興味なのか、それとも「シュバルツ一族の三男」という立場への憧れなのか、判別が難しかった。


その時、キオの背後でルイが小さく手を胸に当て、寂しそうな表情を浮かべたのを、キオは見逃さなかった。


「皆さん、お気遣いいただき、ありがとうございます」


キオは令嬢たちの申し出に対して、丁寧に、しかし慎重に答えようとしていた。


「ただ、今は学校の勉強に集中したいと思っておりまして……」


キオが遠慮がちに断ろうとした時、レナが少し身を乗り出した。


「でしたら、勉強会という形ではいかがですか?私たち、今度新しくできた『ローズ・ド・エクシェル』の会員になりましたの。そちらには素晴らしい図書室もございます」


「『ローズ・ド・エクシェル』……」


キオが躊躇していると、アイリスが畳みかけるように言った。


「ローズガーデンよりもさらに格式の高い場所です。会員制で、厳選された方しか入れませんのよ。そちらでしたら、落ち着いて勉強もできますし」


その名前を聞いただけで、ルイ、カリナ、セドリックは息をのんだ。彼らのような平民には、名前を聞くことすら稀な、足を踏み入れることなど到底許されない世界の話だった。


「すごく……高そうな場所ね」


カリナが小声でつぶやく。

普段の明るい彼女にしては珍しく、少し沈んだ声だった。故郷のマルジャナ島では身分の差がこれほど厳格ではなかったため、カリナはこの王国の持つ階級制度の冷たさに戸惑っているようだった。


「あの……」


セドリックが申し訳なさそうに立ち上がった。


「僕たちは先に席に戻ります。キオ君、またあとで」


「待って、セドリック」


キオが引き留めようとしたが、セドリックは困ったような笑顔を見せる。


「大丈夫です。令嬢方とのお話、大切にしてください」


セドリックの声には、無理に明るく振る舞おうとする響きがあった。貴族の令嬢たちを前に、自分たちがこの場にそぐわないと理解している様子だ。


ルイも立ち上がり、深くお辞儀をした。


「私たちも失礼いたします。キオ様、お忙しいでしょうから」


その「キオ様」という呼び方に、キオは胸がちくりと痛んだ。


だが、貴族の令嬢たちの前では、ルイも「キオ君」とは呼べないのだろう。平民として、貴族に対する礼儀を示さなければならない立場なのだ。


「ルイ……」


キオが声をかけようとしたが、ルイはもう振り返らなかった。カリナとセドリックと一緒に、教室の後ろの方へ歩いていく。彼らなりに、この場での最善の振る舞いだと判断したのだろう。


「あら、お気遣いのできる方々なのね」


レナが上品に微笑んだが、その笑顔には微かな安堵の色が浮かんでいるように見えた。平民の子供たちがいると、やはり話しにくいことも多いのかもしれない。


「やはり、身分をわきまえていらっしゃる」


アイリスの無邪気な一言に、キオは先ほどとは違う鋭い痛みを感じた。


「あの……皆さん」


キオが静かに、しかしはっきりとした口調で言った。


「彼らは僕の大切な友人です」


その声は穏やかだったが、確固とした意志が込められていた。

令嬢たちは少し驚いた表情を見せた。シュバルツ一族の三男が、平民を「大切な友人」と公言するとは思わなかったのだろう。


「あ、もちろん、そうですわ。失礼いたしました」


レナが慌てて謝罪するが、その表情には困惑が残っていた。なぜシュバルツ一族のキオが平民との友情をそこまで重視するのか、理解しきれないでいる様子だ。


「私たちも、キオ様のお友達を軽んじるつもりはございません」


アイリスも慌てて付け加えたが、やはりその言葉には戸惑いが含まれているようだった。





授業が始まると、隣に座るオーウェンが小声で話しかけてきた。

「キオ、大丈夫か? 朝、令嬢たちが君に会いに来ていたようだな。少し心配になった」


オーウェンの表情には、友人としての純粋な気遣いと、王族として貴族社会の複雑さを理解している者特有の懸念が混じっていた。


「うん……。でも、少しムキになりすぎたかもしれない。ルイたちのことを軽く見られた気がして、耐えられなかったんだ」


キオが率直に答えると、オーウェンは少し考え込むような表情を見せた。


「君の気持ちはよく分かる。でも、貴族社会には貴族社会のルールがある」


オーウェンは慎重に言葉を選んでいる。


「令嬢たちも悪意があるわけじゃない。ただ、生まれた時からそういう環境で育ってきたから、平民との付き合い方が分からないんだ」


「そうかもしれないけど……」


「僕も王族として、似たような経験がある」


オーウェンの声がさらに小さくなる。


「マーカスが同行するのも、実はそうした理由の一部だ。僕が平民と親しくすることを快く思わない貴族もいるからね」


オーウェンの言葉にキオは何も言えなかった。


そういう人間は、前世でも、前々世でも見てきた。自分が令嬢たちに言ったことは、やはり……この世界では間違っていたのだろうか。


「でも、だからといって友情を諦める必要はない」


オーウェンの言葉に、キオは少し驚いた。


「ただ、やり方は考えた方がいい。あまり表立って令嬢たちを拒絶すると、君の立場が悪くなるかもしれない」


「どうすればいいと思う?」


「まずは、相手を完全に否定しないこと。そして、自分の価値観を少しずつ理解してもらうことだ」


オーウェンは王族として学んできた処世術を、友人として教えてくれている。


「君のご両親のように、貴族社会のしきたりに囚われず、真の愛情を築いた例もある。時間はかかるかもしれないが、きっと理解してくれる人も現れるはずだ」


「ああ……ちょっと考えてみるよ」


『自分にできるだろうか……』


そんな迷いを胸に抱えながら、キオは先生の話に意識を戻すため前を向いた。




昼休みになっても、キオは友人たちとうまく話すことができなかった。朝の出来事が、自分たちとの間に見えない壁を作ってしまったように感じられた。


『こんなつもりじゃなかったのに……』


キオは一人で図書館に向かった。静かな環境で、今朝の出来事を整理したかった。


静かな図書館の奥まった書架の陰で、ルイが一人で本を読んでいるのを見つけた。差し込む光が彼女の横顔を照らしている。その表情はいつもの穏やかさとは違い、どこか寂しげで、時折小さくため息をついているのが見えた。


「ルイ」


キオが静かに声をかけると、ルイは驚いて顔を上げた。


「あ、キオ君……」


ルイはいつものように「キオ君」と呼んでくれたが、その声はどこか弱々しく、元気がなかった。


「どうしたの? なんだか元気ないようだけど」


キオが心配そうに尋ねると、ルイは困ったような表情を見せた。


「いえ、その……さっきは令嬢方の前で『キオ様』なんて呼んだので、なんだか変な感じでして」


ルイは本を胸に抱きしめるようにして、小さな声で続けた。


「でも、あの場では仕方なかったですよね。貴族の方々の前で『キオ君』なんてお呼びするわけにはいかないし……私たち平民としては、きちんとした敬語を使わないといけませんから」


ルイの声には、自分たちの立場をわきまえた上での、どうしようもない諦めと複雑な気持ちが込められていた。


「君たちに気を遣わせてしまって、申し訳ない」


キオが素直に謝ると、ルイは慌てて首を振った。


「謝らないでください。これは私たちの問題ですから。キオ君は貴族として、令嬢方との関係も大切にしなければいけないでしょうし」


「そんなことない。僕にとって、君たちとの友情は何より大切なんだ。でも……」


キオが真剣な表情で言いかけて、少し言葉を詰まらせる。


「でも、君たちに気を遣わせてしまっているのも事実だ。さっきだって、令嬢たちがいる前では『キオ様』って呼ばざるを得なかった。それは君の優しさだと分かってる」


ルイは少し戸惑ったような顔を見せた。

ルイは胸元で本を抱きしめたまま、少し考え込むような仕草を見せた。


「私たちのせいで、キオ君が貴族社会で孤立してしまったら……」


「孤立なんて、そんなこと……」


「でも現実に、私たちが高級サロンに行くなんて、想像もできません。私たちと一緒にいることで、キオ君の選択肢が狭まってしまうのは申し訳ないです」


ルイの声は小さく、自分たちの立場をよく理解していることがその言葉から伝わってきた。


『また、気を遣わせてしまっている……。どうしたら、俺の本当の気持ちを伝えられるんだろう』


キオはしばし考えたあと、意を決したように顔を上げ、ルイに笑顔を向けた。


「確かに高級サロンは素晴らしい場所だった。綺麗な庭園に美味しい紅茶。きっと良い茶葉を使っていたんだろう」


キオの言葉に、ルイはますます俯いてしまう。


「でも……僕は、前に学園の中庭でみんなと飲んだ、カリナの故郷のお茶の方がずっと美味しいと感じたよ。オーウェンや君たちと飲むあのお茶は本当に……魅力的なんだ。ああ、それにルイの作るジンジャークッキーもね?」


キオの少し茶目っ気のある言い回しに、ルイはくすっと笑った。


「キオ君……」


「7年前、君の家族に出会った時、そこにあったのは温かい心だった」


キオは穏やかな声色で、しかし確かな情熱を込めて続けた。


「あの時、君のお母さんは『困っている子がいたら助けるのは当然』って言ってくれた。僕も同じ気持ちでいたい。身分とか立場とかじゃなくて、一人の人間として君たちと向き合いたいんだ」


ルイは目に涙を浮かべながらも、まだ複雑そうな表情を崩さない。


「ありがとうございます。でも……私たちは、キオ君の足を引っ張るような存在になりたくないんです」


「足を引っ張るなんて、そんなこと……」


「令嬢方が不快に思われたら、キオ君のお立場にも関わります」


ルイが改めて口にした懸念に、キオも考え込む。

彼女の心配は、決して的外れなものではなかった。実際、今朝の令嬢たちの態度には、平民への軽視が見え隠れしていた。


でも、だからといって友情を諦めるわけにはいかない。


「ルイ、僕は君たちとの時間を……この関係を守りたいんだ。それは僕自身の選択だから、君たちが責任を感じる必要はない」


キオの言葉に、ルイは驚いたような表情を見せた。


「でも……」


「彼女たちは色々な考えを持って、僕との接点を持とうとしているのはわかる。ただ、僕が求めているものは違うんだ」


キオは窓の外を見ながら続けた。


「前に話したことがあるけれど、僕は両親のような真の愛情で結ばれる関係を望んでいる。政略や計算じゃなくて、心からの絆を築きたい」


ルイは、キオの横顔を見つめた。その表情には、迷いのない決意があった。


「君たちとの関係はまさにそういうものだと思うんだ。利害関係じゃなくて、純粋に人として好きになった関係」


キオがルイの方を向くと、彼女の目にはまた涙が浮かんでいた。


「ありがとうございます。私も……私も、キオ君と友達でいたいです」


友達でいたいと言ってくれたルイの言葉に、キオは心から安堵した。


「ありがとう、ルイ」



放課後、キオが教室に戻ると、カリナとセドリックがルイと一緒に机を囲んで座っているのが見えた。まだ教室には何人かの生徒が残っている。


「みんな」


キオが近づくと、ルイとセドリックは少し緊張したような表情を見せた。


「あ、キオ君!どこ行ってたのよー」


カリナだけはいつものような元気さで接してくれる。変わらない明るさが、その場の空気を少し和らげてくれた。


「きっと図書館だよ。ねぇ、キオ君」


セドリックも努めて自然に接してくれているが、やはり朝ほどの遠慮がちな様子は拭いきれていない。

ルイも微笑みながら頷いてくれたものの、どこかぎこちなさが残っていた。


「みんな、今朝は申し訳なかった」


キオが三人に向かって頭を下げると、みんな慌てた。


「キオ君が謝ることじゃないよー」


カリナが慌てて言う。


「私たちも、少し敏感になりすぎてました」


ルイが申し訳なさそうに付け加えた。

その時、オーウェンもやってきた。


「やぁ、みんな」


「やぁ、オーウェン」


みんなが自然にオーウェンに挨拶を返す。そこに朝のような身分を意識した気まずい雰囲気はなかった。


「今日の数学の授業、難しかったな」


オーウェンは王族らしい気品を保ちつつも、ごく自然に同年代の学生としての話題を振ってくれた。


「私、ちょっと苦戦しちゃった」


カリナが苦笑いする。


「僕もです。でも、なんとか解けました」


セドリックが控えめに答える。


「僕も最後の問題で行き詰まった。今度の勉強会で確認しよう」


キオの提案に、みんなが頷いた。


「そうだ」


オーウェンが思い出したように言った。


「キオ、さっきの助言のことだけど、焦る必要はない。君の誠実さは、きっと伝わるはずだ」


そのオーウェンの言葉に、キオは笑顔を返すことが出来た。

まさにその時、教室の入り口が再び華やいだ。

レナとアイリスたちがやってきたのだ。放課後のやや静かになった教室に、彼女たちの靴音が響く。


「キオ様、ご機嫌麗しゅう」


レナが丁寧に挨拶する。


「ああ、こんにちは」


キオは丁寧に、しかし簡潔に挨拶する。


「今朝のお話の件はいかがですか?」


レナが期待を込めて尋ねる。


キオは少し考えてから、丁寧に答えた。


「皆さんのお申し出、本当にありがたく思っております」


「それでは……」


アイリスが期待に満ちた表情を見せる。


「ただ、申し訳ないのですが、お断りさせていただきたいと思います」


キオの丁寧だが明確な返事に、令嬢たちは困惑した表情を見せた。


「でも、なぜ……もしかして、何か不都合でも?」


レナが理解できないという様子で尋ねる。


「不都合ではございません。皆さんと過ごす時間も、きっと有意義なものになると思います」


キオは令嬢たちの厚意を否定しないよう、昼休みのオーウェンのアドバイスを思い出しながら、慎重に言葉を選んだ。


「ただ、今は友人たちともっと一緒に過ごしたいんです。まだ学校生活が始まったばかりで、知らないことや、やりたいことがたくさんあって」


キオの素直な言葉に、令嬢たちは少し拍子抜けしたような表情を見せた。もっと格式張った理由を予想していたのかもしれない。


「……ご友人というと、そちらの平民の方々のことでしょうか?」


アイリスが確認するような口調で尋ねる。


「はい。友情に身分の違いは関係ないと、僕は考えています。みんなと過ごす時間がとても楽しくて」


キオの言葉には、穏やかながらも揺るがない信念が込められていた。


「そんな……でも、私たちと過ごす時間の方が、キオ様のお立場にとって……」


レナが食い下がろうとしたが、キオは静かに首を振った。


「僕の立場について心配していただき、ありがとうございます。でも、僕はまだ13歳なので……今は同級生たちと楽しく過ごしたい年頃なんです」


笑顔で話すキオのその言葉に、令嬢たちは少し困惑した様子を見せた。あまりにも率直で年齢相応の答えだったからだ。


「僕はこういう人間なんです。もしよければ、これから少しずつ、僕という人間を知っていってもらえたら嬉しいです」


令嬢たちは複雑な表情を見せたが、キオの真摯な態度に、これ以上強引に迫ることはできないとわかったようだった。


「……そうですね。確かに、急ぎすぎたかもしれません」


レナが渋々といった感じで言った。


「私たちも、少しずつキオ様のことを理解してからにいたします」


アイリスも同意した。

令嬢たちが少し不満げながらも立ち去った後、教室には何とも言えない微妙な空気が流れた。


キオは苦笑いを浮かべるしかなかった。


その一連のやり取りを、教室の隅から静かに見つめている者がいた。


エルヴィンだ。


彼は時折眉をひそめて考え込むような仕草を見せながら、何を言うでもなく、ただじっとキオとルイたちを見つめていた。




その日の夕方、キオは自室で一人考えていた。


『身分のことをまったく考えないというのは、ただの現実逃避だ。貴族としての立場もちゃんと理解した上で、みんなとの関係を大事にしたい』


窓の外を見ると、鮮やかな夕日が校舎を美しく染め上げていた。


この美しい景色を、いつか何の気兼ねもなく友人たちと一緒に見られたら、どんなにいいだろう。


『キオ』


心の中でシュバルツの声が響く。


『少し……頑張ってみるか?』


『うん。オーウェンのアドバイスも大事にしながら、ちょっと頑張ってみようかと思う』


シュバルツは少し考えてから答えた。


『大丈夫だ。お前ならな』


『ふふ……ありがとう、シュバルツ』


空は、息をのむようなオレンジ色に染まっていた。


『きっと明日は晴れるな』


キオは前々世の知識をふと思い出しながら、その空を静かに見つめていた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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