私が一番美しい【カナイア】
朝がきて、目が覚めた。
私の姿は依然としてカナイアのまま。
夢だったらどうしようと眠るのが怖かったけど。いざこうして、このままでいられると朝からテンションは上がる。
寝起きでも美しい顔。寝癖なんて付いていない。
化粧なんてする必要がないほどの顔立ち。
流石はゲームの世界。
しかも私はヒロインだからこそ、一番の美しさを持つ。
「レイ様に会いに行かなくちゃ」
陽はまだ昇っていない。
きっとレイ様もまだ寝てるはず。
おはようのキスをしたら、きっとレイ様も最高の目覚めになる。
キスをして、寝ぼけたレイ様のベッドに……。きゃー!!最高の展開!!
レイ様の部屋を探すために王宮内を出歩いていると、外に麗しの姿を見つけた。
木刀を手にして、鍛錬しているみたい。
──そっか!レイ様は元騎士だから。
たまに、汗が光るなんて表現を目にしたことがあるけど、バカみたいと鼻で笑っていた。
汗は光らないし、汚いだけ。
ずっとそう思っていた。この瞬間まで。
国宝級イケメン、ううん!世界の宝とも言えるレイ様のカッコ良さを表現する汗は美しい。
顔だけの男共と違って色気もあり、未来の旦那様の良さをまた一つ知ってしまった。
見ているだけで癒される。
「レイ様~!お疲れ様ですぅ」
すぐさま下に降りて、声をかけた。
近くで見るともっとカッコ良くて胸がキュンキュンする。
「レディー。勝手に出歩かないで欲しいとお願いしたはずですが?」
「もう~。そんな意地悪言わないで下さいよぉ。私とレイ様の仲じゃないですかぁ」
「はい?」
「やだぁ、私ったら。タオル持って来るの忘れちゃった」
近くに畳まれたタオルが置いてあり、それを取って広げると四隅に変な黒い物体が刺繍されていた。
「何これ。下手くそ」
完璧主義者のレイ様がこんな粗末な物を持っているはずがない。
男のレイ様が刺繍をするはずもないし。
そうか!無理やり押し付けられたのね!
優しいレイ様は断りきれずに受け取ってしまった。
人の優しさにつけ込んで押し売りをするなんて人として最低。
どこの女よ。貴族令嬢だとしたら、まともな教育を受けられない貧乏貴族ってことになる。
誰にでも優しいのは利点でも、優しすぎるが故に惚れられてしまったら意味がない。
レイ様を理解せずに、外見だけで判断する女と私は違う。
「レイ様。こんなゴミは私が捨てておきますから安心して下さい」
「それに触るな!!」
「え?」
声を荒らげたレイ様は蔑むような目で、タオルを奪い取った。
品行方正。言葉遣いも態度も、いつだって紳士だったレイ様とは思えない。
まるで別人。
私はヒロイン。愛おしい眼差しならともかく、その目はまるで……。
「レ、レイさ……」
「レイアークス様」
私に被せて名前を呼ぶ女。
──なんて馴れ馴れしい女なの!?
私のレイ様の腕に触れるなんて!!
みすぼらしい恰好から察するに侍女……メイドね。
名字も持たない平民風情が、身の程も弁えないなんて。
とんだアバズレじゃない!!
こんな女しかいない国で暮らさなくてはならないレイ様が不憫だわ。
結婚して、私が王族の仲間入りを果たしたほうが、この国のためになるとしても。
レイ様が婿養子として我が公爵家に嫁いだほうが安心よね。
こんな国からも出られるし、愛してやまない私と、私の家族とずっと一緒にいられる。
「わかりました。では、朝食後にお伺い致します」
「他人行儀ですね。相変わらず」
他人なのよ!あんたは!!
運良く王宮で働けて、レイ様と同じ空間にいられるからって勘違いしてんじゃないわよ!!
ブスのくせにレイ様にまとわりついて、迷惑してるって気付かないの?
あの程度の顔でよく外を出歩けるわね。私なら恥ずかしくて無理。
ブスって鏡を見たりしないから、自分が下の下だと理解していないのね。
「ところで、あちらの方は?」
「スリパフェフのドルッフィ公女だ」
「あぁ。スウェロが言っていた例の。初めまして。私は……」
「ちょっと!!レイ様にベタベタ触らないで!!平民の分際で不敬でしょ!!」
「レディー!!今すぐ部屋に戻って下さい」
「え?で、でも」
私がいなくなったら、そのアバズレがレイ様に無礼を働く。
私のレイ様に!!!!
「すまない、リズシャルネ。今後は同じことが起きないようにする」
「あら、私は気にしていませんよ?私にのみ、関することなら」
「……はぁ。スウェロに報告してもいいが、大事にはしないよう釘を刺しておいてくれ」
「かしこまりました」
ヒロインの前で他の女と喋るなんて……。
嫉妬して欲しいのだとしても、あんまりだわ。
──レイ様は女心をわかってない!!
よりにもよって平民なんかと口をきくなんて。王族として恥ずべき行為。
「ローズは生まれながらに魔力が高い。そんなに鑑定したところで、しばらくは安静にしていろとしか言えません」
「ウェスリーがローズと会えないから寂しがっているんです。エイメとも遊べなくてつまらなそうですし」
「それは私にはどうすることも出来ない。あと三~四日は我慢させて下さい」
「私やスウェロより、レイアークス様から言ってくれたほうがあの子も納得するんです」
「夫婦揃って私をこき使いたいようですね」
「そんなことありませんよ」
私へのフォローをすることなく、平民のことばかり気にかける。
将来、妻となる私を大切にしないなんて。
「うぅ……レイ様のバカァァ!!!!」




