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偽物令嬢〜幸せを手にした元悪役令嬢は平和で平穏な愛しい日々を暮らしています〜  作者: あいみ
真の悪役令嬢はどちらか〜貴方は私の未来の旦那様♡〜
6/11

話し合い【レイアークス】

 「私が呼んだのはシオンだけのはずだが?」


 部屋に戻ればシオンはいた。スウェロも一緒に。大して珍しい組み合わせではない。

 ノアールは日当たりの良い窓辺で昼寝中。


 ナンシーにはこのまま待機をしてもらう。


【アーク!!】

 「起きていたのか」


 飛びかかってきたノアールを避けるのは簡単だが、そんなことをしたら壁に激突する。


 大人しく体当たりをされた。


【シオンを泣かせた!!】


 力のない猫パンチは攻撃にすらならない。


 懸命に私を倒そうとするのは、シオンの心に変化があったから。


 「泣いたのか?」

 「泣いてない!!」


 食い気味に否定。


 体が小さいノアールは片手だけで充分に収まってくれる。


 話し合いには適度な緊張感が必要。


 抑え込んでいると次第に暴れなくなる。


 「レイ。さっきはごめん」


 私は今、何に対しての謝罪をされたのか。


 「怪我を治した理由。スウェロに聞いた」

 「見ていたのか」

 「違います。シオンに聞いたんですよ」


 たまたま通りがかったスウェロは、シオンが暗い顔で立ち尽くしていたのが気になり声をかけた。


 大元となった部分は省き、その場で起きたことだけを説明。


 ──英断だな。


 フェルバー商会のことを話していたら今頃、スリパフェル国は水の底。


 百歩譲って店を荒らしただけなら、せいぜい嵐が吹き荒れるだけ。


 数年間に渡り。


 特にドルッフィ領地は復興の目処が立たないほどの被害を被る。


 「私も冷たくあしらって悪かった」


 キツい言い方をした自覚はある。


 ムキになるシオンの言葉に耳を傾けるべきだと理解しながらも、レディーを優先させるしかなかった。


 「ああいう人間は、次に何をするか予想がしづらい」


 あんな大声で言い合っていたのだ。ほとんどの内容は丸聞こえ。


 どちらに非があるのか明白。


 私が現れた途端に態度を変え、被害者ぶるレディーの性格からして、シオンの味方をすればどうなるか。


 ──避けられるなら、最悪の事態は避けたい。


 「叔父上は言葉足らずですね」


 あの状況で余計なことを言おうものなら、もっと面倒事になっていた。


 ───これからは、頭痛薬を常備したほうがいいのか?


 あの甘ったるい声と喋り方で名前を呼ばれるのは不快。


 どの辺がお淑やかなのか。


 調査対象と別人だと言われたほうが、まだ納得がいく。


 「それで?優しいシオンが意味もなく人を叩くとは思えない。何があったの?」


 スウェロからの質問に答えられるはずもなく、二人同時に口を閉ざす。


 違和感を覚えさせるには充分な奇行とも言える。


 鋭くなった金眼がじっくりと私達の観察を始めた。


 考え事にノアールはすぐさま除外。レーツェルの森にいたのなら、何かされた確率が一番低い。


 レディーと言い争っていたシオンが濃厚な線ではあるが、外傷はなかった。

 理不尽な暴力で苦しめられたシオンは、理不尽に誰かを傷つけたりはしない。


 私のことは最初から疑おうともしていなかった。


 たったあれだけの会話のから、レディーが私に気があることを見抜き、そのレディーが私に何かするわけがないからだ。


 下手に隠し通そうとすれば大事になり、王宮全体を巻き込みかねない。


 「冷静に聞くと約束しろ」

 「私はいつでも冷静ですよ」

 「はぁ……。シオン。話してくれ」

 「う、うん。実はね」


 シオンが見たこと、本人から聞いたことを、伝えた。


 悪意を持って魔法を暴走させるかもしれないスウェロを対処するために、シオンも闇魔法をいつでも使える状態。


 友人を傷つけられたスウェロの怒りがどこに向くのか。


 殺気にも似た怒りはノアールを警戒させた。

 毛並みを逆立たせ威嚇する。


 「スウェロ」


 呆れたように声をかければニッコリと笑う。


 「冷静ですよ?私は」

 「どこがだ。魔力をしまえ」


 部屋の隅々まで魔力を行き渡らせて、冷静と言われても説得力に欠ける。


 今では国一番の魔力量を誇るシオンでさえ、凍てつくようなスウェロの魔力にまだ慣れない。


 「彼女の国はスリパフェルでしたよね?明日辺りにでも天災が起きるかもしれませんね」

 「やめろ。他の人間にまで迷惑がかかる」

 「ならばドルッフィ領だけ」

 「被害届が出ていない以上、こちらから攻撃を仕掛けることは許可しない」


 シオンの顔が暗く沈む。

 泣くわけではないが、とにかく暗い。


 「公女のこと罰せられないの?」

 「今のところはな」

 「店をめちゃくちゃにされて、怪我を負わされた人だっているのに!?」

 「シオン。彼らは絶対に被害届は出さない」

 「どうして!!」

 「レディーが、リーネットと親交の深い国の人間だからだ」

 「……まさか」


 気付いたシオンは俯く。


 極端な話、店を潰されても泣き寝入りを選ぶ。


 買い手と売り手。シオンとブレットはそういう関係で、親しいわけではなかった。


 一介の商人として公爵家でのシオンを無視しても、誰にも咎められることはなかったのに。


 気にかけて、救えないことを気に病んだ。

 何も出来ないことに責任まで感じて。


 そんな優しいブレットだからこそ、国の損失に繋がることはしないだろう。


 私達が届を出せた言ったところで、首を縦に振らない強情さ。


 「不名誉が流れるかもしれないのに……」

 「どうでもいいってわけじゃないだろうけど、信じて欲しい人に信じてもらえたら、それでいいんじゃないかな」


 穏やかに説明を受けたシオンは「そうか」と納得していた。


 信じてもらることは何気に嬉しかったりもするものだ。


 「怪我人がいると言っていたが、怪我の具合はどうなんだ」

 「傷は私が治したんだけど」

 「回復魔道具を貸す。すぐに行くといい」


 傷を飲み込んだとしても、痛みは引かない。魔法は万能ではないということだ。


 待機させていたナンシーに送らせて、今日はもうそのまま帰るように言った。


 レディーには部屋から出るなと念を押したが、私の話をちゃんと聞いていたかどうか。


 シオンがいなくなると、すぐさま防音の魔法を張る。


 ──理解が早くて助かる。


 「レディーの家族を呼べ。強制的に帰らせる」


 騒ぎを起こすだけの人間は早々に出て行ってもらわなければ。


 私はただシオンを守りたかっただけ。

 その結果として傷つけてしまったと、知ったときの罪悪感。


 傷つけた後に「傷つけるつもりはなかった」と言うのは卑怯。


 傷つけたくせに、許されたいと願うのは図々しい。


 「ナンシーの魔法で飛んだほうが早くないですか?」


 隣国ならともかく長距離の場合、数回に分けて目的地に辿り着く。


 《《今回も行くとしたら》》、その方法になる。


 「は?非があるのは向こうだ。馬車を飛ばし一刻も早く駆け付けるのが筋だろう」

 「それもそうですね。スリパフェル王経由で呼び出す。そのほうが緊急性が伝わるでしょうし」

 「そうしてくれ」

 「それと。彼女に関して私が手を打ってもいいんですよね?」

 「国に手を出さなければな」


 最近のスウェロはやり口が私に似てきた。

 宰相の仕事だけに集中して欲しいが、今のスウェは聞く耳を持たない。


 身内に甘いからこそ、問答無用で排除しようとする。


 フェルバー商会は王家の御用達でもあり、王家が認めた特別な店。


 被害届がなくとも、営業の再開目処が立つまでの補償は出る。


 「他に連絡事項は?」

 「元グレンジャー公爵が亡くなりました」


 アース殿下……。向こうも王位継承したため今はもう陛下か。


 アルフレッドとは別に連絡を取り合っていて、近況報告をしている。


 作物はともかく、魔物被害は隣国の騎士団だけで太刀打ち出来る数ではない。

 王都への侵入はないにしても被害は拡大していく一方。

 要請があれば出向いてもいいのだが、思いの外、自分達だけで頑張っている。


 「早いな。まだそんな歳ではないだろ」

 「ユファン嬢に拒絶されたことが精神的に《《きた》》みたいで。ここ最近では食事もロクに摂っていなかったみたいです」

 「残りの三人は」

 「息子二人も大分静かになってきたようです。もう一人は……ずっとシオンを求めてますね」

 「はぁー。連中のことはシオンの耳に入れるなよ」

 「もちろん」

 「ドルッフィ公爵の件は最優先だ」

 「すぐに手紙を出します」


 一人になると一気に疲れが押し寄せてくる。


 ノアールはシオンを泣かせたと言った。実際に涙を流していたわけではないが、心が傷ついたということだ。


 壊され踏みにじられた心がようやく、形となり元に戻ってきたというのに。


 考えて話しているつもりだが、私はまだ失敗をする。


 「ふぅ……」


 缶いっぱいに詰められたクッキー。保存用の魔道具を使用しているため、腐ることはないが……。


 量が多い。スウェロに分ければ良かったな。


 一枚食べて、残りは後で食べるように蓋をした。


 スリパフェルからリーネットまで、どんなに急いでも一日半。


 今日出発するとしたら到着は明後日か。

 道中で何もなければ、だがな。


 あの国の周辺はあまり治安が良くないため、貴族の馬車は格好の餌食。


 上級貴族なら賊なんて簡単に追い払えるだろう。


 事実、レディーは侍女と二人で無事に来られたわけだし。


 問題は魔物だが……まぁ、何とかなるはず。

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