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偽物令嬢〜幸せを手にした元悪役令嬢は平和で平穏な愛しい日々を暮らしています〜  作者: あいみ
真の悪役令嬢はどちらか〜貴方は私の未来の旦那様♡〜
2/11

運命の瞬間【カナイア】

 わたくしはわたくしではない。『私』である。


 瞬時に理解した。これは流行りの『転生』であると。


 私こと、丸本姫華は鏡に映るような美しい容姿ではない。


 よく名前負けしていると、からかわれる。特に女子から。


 面と向かって言われるより、影で笑われるほうが精神的にもキツかった。


 私だって好きでこんな顔に生まれたじゃない。

 名前に至っては両親が付けたんだ。もっと無難な、ありきたりな名前にしてくれれば良かったのに。


 ──親の自己満足のために子供を利用しないでよね。


 太っていて顔はニキビだらけ。身長も低く、鏡を見るのが嫌になる。


 中学の頃に受けた酷いいじめにより、かれこれ十年以上、引きこもりだ。


 父親からは見捨てられ、母親は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。


 引きこもってやることと言えば、アニメを観るか、ゲーム。


 最近の推しゲームは『公女はあきらめない』


 本編とifの二つがあるらしいけど、私は本編をやったことはなかった。


 作品レビューで必ず、悪役令嬢のシオンについて書かれているから。

 この悪役令嬢(ライバル)が本当に胸糞悪いらしく、読んでいるだけで、いじめられた記憶が甦る。


 ifもやるつもりはなかった。だって、そのシオンが主人公と書いてあったから。


 作品説明を飛ばして、どんな攻略対象がいるのかだけ見ると……。


 私は運命の恋をした。


 レイアークス・リーネット。


 私好みの顔立ち。声も良く、恋に落ちて当然だと思う。


 すぐさまプレイをした。


 私とレイ様の恋を成就させるために。


 それなのに!!恋愛ルートが一向に開けず、友情ルートだけをコンプリート。


 何を言ってもレイ様の心が開けなかったところで、ようやく運営が答えを発表した。


 レイ様の色をただ褒めるだけではダメだったのだ。

 自分の価値(いろ)を落とさないと。


 恋愛ルートを開き、徹夜で攻略するためにコンビニで夜食(おかし)を買いに行った夜。


 酔っ払いの運転するトラックに轢かれた。


 ハッキリと記憶にあるから間違いない。


 「カナイア様?どうかなさいましたか?」


 この女は……あぁ。侍女か。


 「いいえ。何でもないわ」


 わたくしが私である以上、私として生きることに決めた。


 前世の記憶とカナイア本人の記憶を照らし合わせると、ここが『公女はあきらめない』の世界であり、私はリーネットと交友関係のある国の公女。


 ──嘘、でしょ。


 本物のレイ様に会えるってこと!?


 嬉しさから胸が躍る。


 すぐさまリーネットへ行けるよう、公爵に頼み込む。


 娘を溺愛している公爵はすぐにでも準備に取り掛かる。


 「カナイア。体調は大丈夫なのか?」

 「体調?ええ、もちろん」


 心配しているのは昨夜、私が階段から落ちて頭を打ったから。


 医者も大丈夫と言っていたし何より。そのおかげで私はこうして転生が出来た。


 元のカナイアのことなんて、どうでもいい。



 リーネットはとても美しく、景観が保たれている。


 街はどこも活気があり、特産のチョコレートが大人気。


 王宮に着き、こちらの要望通りにレイ様が出迎えてくれる。


 ──待ってヤバい!カッコ良い!!


 画面で見るよりも色気があり、立っているだけなのにイケメンオーラが輝いている。


 「初めまして。私はレイアークス・リーネット」


 存じておりますとも!私は貴方に会いに来たんだから。


 「お初にお目にかかります。私はカナイア・ドルッフィと申します」


 声!ヤバい!耳が溶ける。


 赤紫色の瞳を細めて微笑む顔はスチル。しっかりとこの目に焼き付けておかないと。


 レイ様は私の誕生日を知っていて、プレゼントをくれた。


 「本当に受け取ってもいいんですか?」

 「急だったもので、このような物しか用意出来ませんでしたが」

 「も、もしかして。レイアークス様がご用意してくれたんですか!?」

 「ええ、まぁ」


 中身はチョコレート。しかもハート型。


 ──う、嘘。まさかこれって……。


 私達、両想い!!?


 だってそんな……。出会ったばかりなのに。


 他にも色んな形がある中で、あえてこの形を選んでくれた。


 「私の部屋に?」

 「はい!見てみたいなって」


 どんな部屋に住んでいるのか。


 レイ様のことだから、あまり物はなくてシンプルかな?

 知的イメージがあるから広い部屋に本棚がいくつもありそう。


 「すまないが、部外者を自室に入れたくはないんだ」

 「そう、ですか」


 部外者……。


 レイ様の心は私に傾きかけているのに、まだ素直になっていない。


 やっぱり恋愛ルートを解放しないとダメなんだ。


 「あ、あの!レイアークス様」


 前を歩くレイ様を呼び止めた。

 立ち止まり振り向く様子に胸が高鳴る。


 「何でしょうか、レディー」

 「“レイアークス様の髪色はとても綺麗ですね。私の色なんかとは違って”」


 これでレイ様は私を意識してくれる。


 告白とかされたらどうしよう。

 キスや、それ以上のことも……。


 きゃー!!想像するだけで幸せが溢れる。


 レイ様との結婚生活。邪魔者のいない二人きりで暮らせたらいいな。


 「レディーの髪も綺麗ですよ」

 

 綺麗だなんて、そんな……。


 シンプルな褒め言葉が一番、胸に響いたりする。


 ニヤけてしまわないように表情を作るも、レイ様がいるだけで感情の制御が効かない。


 「……レディーは観光に来られたとのことですが、目当ての場所はありますか」


 レイ様です!!


 とは言えない。私はレイ様と過ごしたいだけ。


 目的地なんてない。強いて言えばデートをしたいな。


 手を繋いで、手を絡めた恋人繋ぎ。


 レイ様はもう私を意識して、どんな誘いにも乗ってくれる。


 「ないようでしたら、こちらを。人気の場所をリスト化しました」

 「わぁ、ありがとうございます」


 つまり私と行きたいってことね。


 レイ様って女性を誘うのが苦手なのかしら?


 私だからこれがデートの誘いであるとすぐに気付いたけど。

 他の人だったらきっと、何もわからず一人で街に行っていたはず。


 「レイ様もご一緒に行きましょう?」


 恋愛に奥手のレイ様を私がリードしてあげる。

 そして、ゆくゆくはレイ様から私を……。


 「レディー。許可なく勝手に愛称で呼ぶのはやめていただきたい」

 「え?あの……」

 「それと。私は観光案内人ではありません。侍女がいるのですから、お二人でどうぞ」


 私に気を遣って後ろに下がっていた侍女がリストを受け取る。


 このままでは本当に侍女と二人になってしまう。


 ──私はレイ様とデートがしたいのに!!


 「あ、こんな所にいた!おーい、レイ」

 「シオンか。どうした」

 「実は……その、魔道具のことでご相談が」


 シオン?それって悪役令嬢じゃない!!


 どういうこと!?なんで私のレイ様と馴れ馴れしくしてるのよ!!


 「一応、聞くが。何の魔道具だ?」

 「レイ様!!早く街に行きましょう!!」


 腕にしがみついて、二人を引き離そうとするも、私の手は振り払われた。


 「レディー。先ほども申し上げましたが、愛称では呼ばないでください」


 冷ややかな目。軽蔑するように私を見下ろす。


 「そちらの女性はもしかして……」

 「あぁ。本日、訪ねて来た公女様だ」

 「ごめん。昼前に到着って聞いてたからてっきり」


 はぁ?何言ってるのよ。時間より早く着くのは、人としてのマナーでしょ。


 教養も作法も身に付けていない断罪されるだけの悪役令嬢。

 こんなのがレイ様の近くにいるなんて。


 「魔道具のことはスウェロに頼むからいいや。邪魔してごめんね」

 「待て。いい。私が聞く」

 「え、でも……。公女様……」

 「侍女と二人で観光に行くそうだ」

 「私はレイ様と!!」

 「これで三度目です。愛称で呼ばないで欲しいと言ったのは」


 息を飲むほどの圧。


 魔力を放出しているのか、耐え切れず後ろに下がってしまう。


 「レディー。貴女は公女だ。最低限のマナーと教養は身に付けるべきでは?」

 「ちょっとレイ。怯えてるじゃん。やめてあげなよ」

 「事実を述べただけだが?」

 「言い方があるでしょ」


 私の目の前で、私のレイ様と親しい悪役令嬢。


 闇魔法でレイ様の心と思考を操っているんだわ!!


 悪の化身と呼ばれるほど最低な女!!誰からも好かれなくて当然よ!!


 「それとレディー。観光目的は構いませんが、王宮内を勝手に出歩くなんて真似は控えて下さい」

 「あ……」


 レイ様は通信魔道具で人を呼び、後のことを任せて悪役令嬢と行ってしまう。


 ──どうしてよ。恋愛ルートは解放されたはずでしょ。


 やっぱり操られているのね。


 可哀想なレイ様。


 あんな女にいいようにされて。


 なんとしてでも私が救ってあげなくちゃ。


 だってそうでしょう?


 私とレイ様が結ばれるのは運命なんだから。


 と、その前に。新しいドレスを買わなくちゃ。


 カナイアって、地味なドレスしか持っていないのよね。お金持ちのくせに。


 色合いも地味だし、こんな恰好ではレイ様の隣に立つに相応しくない。


 リーネットにはかなり人気の商会があると聞く。


 この私に似合う物があるか、見に行かないとね。

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