第8話 噂とローブの理由
冒険者の間では、ある少女の噂がじわじわと広がっていた。まだ冒険者登録をして間もない、幼い見た目の少女が頻繁にダンジョンに潜り込み、立派な素材を持ち帰っているというのだ。
「最近、あの子またすごい素材を持って帰ったって話だぜ」
「ソロであれだけ稼げるのは尋常じゃない。あの年でよくもまあ……」
「いやあ、噂によると腕も確かなんだってさ。まだ子どもなのに、どうなってるんだろうな」
こうした噂話は、地下の酒場やギルド内の雑談で次第に大きな話題となり、冒険者たちの間でひそかな注目を集めていた。
しかし、その注目は時に恐怖へと変わることもあった。無防備に素顔をさらしていた少女・唯は、やがてダンジョンに潜る際には黒いローブのフードを深く被るようになる。目立つことがリスクになる世界で、自分を守るための最善の策だった。
その黒いローブは、実は以前ダンジョン内で得た宝箱に入っていたもののひとつだった。素材としてはさほど価値は高くなかったが、外見が地味で目立ちにくいことから、優衣は自然とそれを着るようになったのだ。
そんな優衣には、最近手に入れたばかりの新たな力があった。戦闘で得た素材やアイテムの価値や性質を瞬時に見抜くことができる「鑑定スキル」だ。このスキルのおかげで、無駄な物を持ち歩くことがなくなり、素材の価値を瞬時に判断できるようになった。
「これがあれば、換金のときに焦らずに済むな」
そう呟きながら、彼女はいつものように木の棒を握りしめて、ダンジョンの入り口へ向かう。
深い洞窟の薄暗い通路の中、優衣は静かに歩を進める。光源はわずかな魔法の灯りのみ。周囲の空気には、常に不穏な気配が漂っている。
スライムのぷるぷるした姿や、小さなゴブリンが潜む気配を感じ取りながら、慎重に戦いを続ける。
戦闘が終われば、鑑定スキルを使って落ちている素材の価値を確認し、効率よく持ち帰る品を選び出す。素早く所持品にしまいこみ、戦いの準備を整える。
「無駄なものは持っていけない。限られたスペースも無駄にはできないから」
そう自分に言い聞かせながら、優衣は日々成長を続けていた。
さらに最近では、ローブに「認識阻害」の魔法がほんの少しかかっていることにも気づいていた。完全に姿を隠すわけではないが、人混みの中では見つかりにくくなるというものだ。
「これなら少しは安心して動ける」
自身の身を守りながら、慎重にダンジョンの奥深くへと進む優衣。闇の中で響く足音や、近づく魔物の唸り声に耳をすませながらも、彼女の瞳は強く輝いていた。
「まだまだこれからだ。諦めないで、強くなろう」
そう心の中で誓い、優衣は今日も新しい冒険へと踏み出すのだった。