第7話 光の矢と初めての戦い
──そして、その日の午後。
講習で学んだばかりの知識を胸に、神崎優衣は一息つくために自室の安息の空間で軽く休憩を取った。まだ体の中に緊張が残っているものの、新たな力を試す期待感が胸を満たしていた。
準備が整うと、彼女は再びダンジョンの入口へと足を運ぶ。薄暗い通路を進み、しばらく歩いた先で、スライムがぴょこぴょこと跳ねているのを見つけた。
「よし……やってみよう」
深呼吸をし、優衣は両手を前に差し出す。講師の言葉を思い出しながら、魔力をまるで水の流れのように掌へと注ぎ込む。柔らかな光が指先から集まり、やがてきゅっと形を変えて小さな光の矢となった。
「……行けっ!」
放たれた光の矢は静かに、しかし確実な速度でスライムへと飛び出し、命中した瞬間、パチンとはじけるように弾けた。スライムは小刻みに震え、そのまま水滴のように溶けて消えていく。
「できた……」
胸の奥からじんわりと温かいものが込み上げる。剣や短剣での戦いとは違い、距離を取りながら安全に確実に相手を仕留められるこの感覚は、まるで新しい世界の扉を開けたようだった。
「もっと練習しよう」
優衣はにっこりと笑みを浮かべ、再び掌に光を集めた。
しかし、その足取りは自然と軽やかになったものの、次に踏み込んだ広間の空気は一変していた。壁際や天井の陰から、次々と小型の魔物たちが姿を現す。三体のスライムと二匹の牙をむいたラットだった。
「五体……か」
以前の自分ならば恐怖で後退していたかもしれない。しかし今の優衣は違う。心が乱れず、冷静に構えを取る。
まずはすばしっこく距離を詰めてくるラットを狙う。
「光の矢!」
魔力の矢が鋭く放たれ、一匹目のラットを貫いた。倒れた敵の隙を突いて、もう一匹のラットが脇から急接近。優衣は素早く木の棒を振り下ろす。刃がかすかに金属音を立て、ラットは倒れた。
一息つく暇もなく、スライムたちがじりじりと前進してくる。
──ここで、講習で学んだもう一つの戦法を試す時だ。
優衣はバッグから石を取り出し、魔力を込めて投げる。石は空気を切り裂き、まるで弾丸のような速度でスライムの中心を正確に打ち抜いた。
残りのスライム二体も、光の矢と木の棒の連携によって次々に倒されていく。やがて広間に静寂が戻り、優衣は深呼吸をしながら水筒を取り出した。
鼓動が少しずつ落ち着くのを感じつつ、視線を下ろすとモンスターの残したドロップ品がいくつも散らばっている。
「いつもよりも沢山倒せた…」
丁寧に一つ一つ拾い集めながら、優衣の背中には確かな自信と成長が感じられた。
彼女の瞳は、以前よりずっと強く、そして輝いていた。