第6話 ダンジョン攻略と魔法
洞窟の薄暗い空間に、唯の足音だけが静かに響く。
壁に掛けられた古びた松明の淡い灯りが、彼女の行く先をぼんやりと照らしていた。
「前よりは少し動きやすくなった気がする」
木の棒をしっかり握りしめながら、慎重に前へ進む。
壁の影から突然現れたスライムが、ぷるぷると揺れながら襲いかかってきた。
「ここで、しっかり倒さないと」
唯は素早く棒を振り下ろし、スライムを一撃で潰す。青く光る魔石がポトリと落ちた。
続いて、ゴブリン棍棒を持って岩陰から飛び出す。
小柄ながらも素早い動きに翻弄されながら、唯は棒を振り回し、タイミングを見計らってゴブリンを倒す。
「よし、爪と皮もゲット」
回収した素材を袋に入れながら、少しずつ自分の腕が上がっていることを感じた。
洞窟の奥へ進むほど、敵の数も増え、緊張感が高まる。
それでも焦らず、冷静に戦いを続けた。
やがて一階層の奥まで辿り着き、そして引き返し入り口へ戻る唯。
「これだけ素材があれば、換金所でまた生活費の足しになる」
薄暗い洞窟を抜け、外の光が眩しく感じられた。
「私何とかやっていけそう」
唯は心の中でそう呟きながら、静かに帰路についた。
何度もダンジョンを潜り、手に入れた安息の空間のスキルを活用しながら、優衣のレベルはぐんぐん上がっていった。
疲れたり怪我をしたら安息の空間で休憩し、回復したらすぐにダンジョンに戻る──そんな効率の良い探索方法で。
さらに新たに得たスキル「アイテムボックス」は、いつでもどこでも素材やアイテムを収納できる便利な能力だった。まだ、レベルが低いためそこまで沢山の物や大きな物は収納できないが、それでも優衣にとってはありがたいスキルだ。
また、レベルが上がるにつれて、優衣は自分の魔力が人より多いことにも気づく。そして新たに「基本魔法」を使えるスキルを手に入れた。
「魔法か……。どうせなら、ちゃんと習ったほうがいいよね」
そう考え、優衣はダンジョン協会が行っている魔法講習を受けることにした。
講習室に入ると、長机と椅子が並び、数人の探索者が既に座っていた。装備は軽装から重装まで様々で、年齢も性別もバラバラだ。
講師役の女性は長い杖を手にしており、立ち姿からして既に熟練の雰囲気を漂わせている。
「本日の講習では、魔力の流し方と初歩の攻撃魔法を学びます」
澄んだ声でそう告げた瞬間、杖の先に淡い光が集まり、小さな火球がふわりと生まれた。
何の詠唱もなしに放たれたその火球は、講習室の端に置かれた的に当たり、パチンと弾けて消える。
「……すごい!!」
思わず漏らす優衣の横で、別の探索者が小声でつぶやく。
「あの人、協会でもトップクラスの魔法使いなんだってよ」
実習の時間になり、探索者たちはそれぞれの席で魔力を練る。
「力を無理やり押し出すのではなく、水を注ぐように流す感覚を意識して」
講師のアドバイスに従い、優衣は掌に集中する。淡い光がじんわりと集まり、小さな光の矢となって飛び出した。
「やった……!」
隣の男性探索者が笑いながら言う。
「初めてでその威力はすごいな。才能あるんじゃない?」
「え、そ、そうかな……」
講習が終わった後、優衣は軽く会釈して部屋を出る。
その背中を見送りながら、講師が職員と小声で話していた。
「……あの子、魔力量も魔力の質も相当なものね」
「ええ、あれは放っておくには惜しい逸材です」
優衣はその会話を知らぬまま、静かにダンジョンへ向かう準備を始めるのだった。