第26話 草原の小休憩
ゴブリンを倒したあとの草原は、どこまでも静かで穏やかだった。
深いダンジョンの中とは思えないほど、陽光が柔らかく降り注ぎ、緑の絨毯が風に揺れる。
「ふぅ……ちょっと休憩しよっか」
優衣は近くの大きな岩に腰を下ろした。
肩で息をしながらも、その表情にはどこか満足そうな笑みが浮かんでいる。
その横に駆け寄ってきたヴァイスは、すでに柴犬ほどの大きさに成長していた。
あの頃は腕に抱えられるくらい小さかったのに、今では膝に乗ると少し重いくらいだ。
ふわふわの白い毛並みが陽光を受けてきらめき、風に揺れる姿はどこか誇らしげだった。
「大きくなったね、ヴァイス」
優衣が微笑んで頭を撫でると、ヴァイスは「わふっ」と短く鳴き、尻尾を元気よく振る。
ふと、優衣はリュックから小さな水皿を取り出した。
「さあ、水飲もうか」
ヴァイスはじっと見上げ、「きゅん!」と応える。
優衣が水を注ぐと、ヴァイスは慎重に鼻を近づけ、ぺろぺろと飲み始める。
その姿が少し大人びて見え、成長を感じさせる瞬間だった。
飲み終えると小さく「わふっ」と鳴き、優衣に顔を擦りつける。
しばらくすると、ヴァイスは草の上にごろんと転がり、空を仰いで足をばたつかせた。
その仕草が可笑しくて、優衣は思わず笑みをこぼす。
「はは……もう、戦ったばっかりなのに元気だなぁ」
彼女は水筒を取り出し、自分も喉を潤す。喉を潤すたび、戦闘の緊張が少しずつ和らいでいった。
ヴァイスは長い草を口にくわえ、得意げに優衣の前へ持ってくる。
「……それ、どうするの?」
「きゅん!」
「いや、食べ物じゃないからね?」
小さな悪戯にくすっと笑い、優衣はまたその柔らかな毛を撫でた。指先に伝わる温もりは、何よりの癒しだった。
二人は並んで座り、ただ風に吹かれる。
草原を渡る風は心地よく、遠くからは小鳥のさえずりに似た音が聞こえてくる。
「ねえヴァイス」
「わん?」
「こうして休んでるとさ……冒険って悪くないなって思えるよ」
優衣が小さく笑うと、ヴァイスは元気よく「わふっ!」と鳴き、尻尾をぶんぶんと振った。
その声は草原に溶け込み、風に乗ってどこまでも流れていく。
「うん、これからも一緒に頑張ろうね」
「きゅん!」
大きくなったヴァイスは、その場で誇らしげに頷いたように見えた。
優衣はそんな相棒の姿に、胸の奥から温かな力が満ちていくのを感じていた。




