第25話 ヴァイスの風とゴブリン討伐
何度もダンジョンに潜り続ける日々の中で、優衣とヴァイスはしずつ強くなっていた。
装備も整い、生活のリズムも掴み、冒険者としての腕も確実に磨かれている。
フェンリルのヴァイス。
かつては優衣の胸元で眠るだけだった存在が、今では元気いっぱいに草を駆け回り、時に頼もしい戦力となっていた。
その日、二人が足を踏み入れたのは 17階層の草原エリア。
広大な緑の絨毯が風に揺れ、小さな花々が咲き乱れている。
深いダンジョンの中に、こんなに開放感にあふれた場所があるなんて、初めて訪れた者なら誰もが驚くだろう。
「ふぅ……気持ちいい」
優衣は深呼吸をして、思わず笑みをこぼす。
その横で、ヴァイスはぴょんぴょんと跳ねながら、草の匂いを嗅いでいた。白い毛並みが草原の緑に映えて、まるで光の粒のように見える。
「今日も元気いっぱいだね、ヴァイス」
声をかけると、ヴァイスは「キュン!」と元気に返事をして、尻尾をブンブンと振った。
その時だった。
ヴァイスの耳がピクリと動き、視線が茂みに向けられる。
「ん? どうしたの?」と優衣が首をかしげる。
次の瞬間――
「ゴブリン……!」
草むらの影から、緑色の小柄な魔物が姿を現した。ぎょろりとした目を光らせ、手には粗末な棍棒を握っている。
「ヴァイス、気をつけて!」
優衣が小声で呼びかけると、ヴァイスは背中の毛を逆立て、低く唸った。
と、その時。
ヴァイスの周りに、ふわりと柔らかな風が舞い始めた。
「えっ……風?」
優衣は目を見開く。
ただの空気の流れではない。ヴァイスの魔力に反応して生まれた、小さな旋風だ。
その風が草原を駆け抜け、ゴブリンの足元をすくうように吹きつけた。
「グギャッ!?」
ゴブリンはバランスを崩し、派手に転んで草の上を転がる。
「すごい……! ヴァイス、魔法まで使えるの!?」
優衣が驚く間に、ヴァイスは一気に駆け出した。
小さな体から響く、低い咆哮――「ガルルルッ!」
勢いよくゴブリンに飛びかかり、牙で押し倒す。
ゴブリンは抵抗するが、風に翻弄された身体では立て直すこともできず、そのまま倒されてしまった。
「やった……! 本当にやったよ、ヴァイス!」
優衣は駆け寄り、抱き上げるようにしてその頭を撫でた。
ヴァイスは得意げに「キュン!」と鳴き、尻尾を勢いよく振る。
「風を起こせるなんて……さすがフェンリルだね」
優衣は目を細め、心の底から嬉しそうに笑った。
倒したゴブリンの遺骸からは、わずかながら素材が手に入った。
優衣はそれを手早く回収し、ヴァイスと目を合わせる。
「よし、まだ進めそう?」
「キュン!」
小さな声が力強く響いた。
広い草原の風は穏やかで、二人の背中を押すように吹き抜けていく。
その風はきっと、新しい未来への希望を運んでいるのだろう。




