第19話 はじめてのお留守番(ヴァイス視点)
朝。
あたたかい匂いと、カタカタと食器の音がする。
毛布の上で丸くなっていたぼくは、耳をぴくりと動かして目を開けた。
すぐに、あの大好きな人の足音が近づいてくる。
顔を上げると、優衣がにこっと笑って、ぼくのほうへしゃがみこんだ。
指先がぼくの頭をなでるたび、ふわっと安心する匂いが鼻をくすぐる。
でも今日は、なんだかいつもと違う。
優衣はきれいな布を着ていて、胸には可愛いリボンがついている。
「ヴァイス、今日から学校に行ってる間は、一人でお留守番だよ」
…お留守番?何のことだろうと首を傾げる。
その言葉はまだよくわからない。
ただ、優衣がどこかに出掛けようとしているのはなんとなく感じ取った。
「キューン」
と声を出すと、優衣は少し笑って、もう一度ぼくの頭をなでた。
しっぽが勝手に揺れてしまうけど、心の奥ではちょっと不安だった。
また一言二言優衣が喋り優衣は外に出ていく。
玄関の扉が開く音。
ぱたん、と閉まる音。
優衣の足音が遠くなっていく。
…静かだ。
⸻
最初は、「クーン」と少し鳴いて、ドアの前で優衣が帰ってくるのではと待っていた。
しかし、耳を澄ませても、外からは風の音しか聞こえない。
ぼくは窓際のお昼寝用のベッドの上に飛び乗った。
ここはあたたかくて、外のにおいも風も感じられる。
優衣が用意してくれたお気に入りの場所だ。
毛布の感触に包まれると、だんだんまぶたが重くなる。
優衣は、ちゃんと帰ってくるよね…そう思いながら、目を閉じた。
少しして目を覚ましても優衣は帰ってこなかった。
仕方なく、床に転がっていた赤いボールを前足でつついてみた。
コロコロと転がるけど、やっぱり優衣と一緒じゃないと面白くない。
それでも遊び続けていると、少し楽しくなってきた。
ボールを追いかけて部屋を走り回り、息があがる。
喉がかわいたから、水皿のところへ行ってぺろぺろと飲む。
また、静かになる。
寂しさを紛らわすように、またボール遊びを始める。
⸻
遊んでいるとこの空間に優衣の気配を感じた。
窓の外を見ると優衣が帰ってきたのが分かり、急いで窓際に駆け寄る。
その姿を見ていた優衣も急いでお家の中に入ってくる。
ドアの前に駆け寄って、しっぽを全力で振る。
ドアが開く。
優衣が帰ってきた!
急いで優衣に駆け寄る。
「キュン!」
胸が弾けそうな声が勝手に出た。
優衣がしゃがみこんで、ぼくをぎゅっと抱きしめる。
毛の奥まで届くようなぬくもりと匂いが、全身に広がる。
「お利口にお留守番にしてたんだね。えらいね!ヴァイスは本当にいいこ!」
その声が嬉しくて、ぼくは顔をぺろぺろと舐める。
優衣は笑いながら、撫でてくれなにか丸いものを取り出した。
鈴が入った新しいボールだ!
やっぱり優衣と遊ぶのが1番楽しい!!
二人で部屋を走り回り、鈴の音を追いかけて夢中で遊んだ。
胸がドキドキして、でも幸せで、ぼくは声を上げずにはいられなかった。
⸻
「お昼ごはんも食べようね」
優衣がくれたごはんは、とってもいい匂い。
夢中で食べていると、唯が「えらいね」ってまた言ってくれる。
おなかがいっぱいになると、。足は自然と毛布の場所へ向かった。
丸くなって、しっぽを鼻先に巻きつける。
まぶたがゆっくり閉じていく。
最後に感じたのは、優衣がすぐそばで見守ってくれている安心感だった。
お留守番、ちょっと寂しかったけど…優衣は必ず帰ってくるんだ。
ぼくはそう信じて、眠りについた。




