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第14話 名前と成長のしるし

 翌朝、安息の空間には朝の柔らかな陽光が静かに差し込んでいた。

 窓から見える庭の花々は朝露に濡れ、輝きを増している。外の世界が新しい一日を始める中で、この穏やかな場所はいつもと変わらず、優しい空気に包まれていた。


 フェンリルの赤ちゃんは、ぐっすりとした眠りから目覚め、すっかり元気を取り戻していた。

 あの酷かった怪我はもうほとんど分からなくなってきている。

 ふわふわと柔らかな白い毛並みが朝の光を受けて、まるで淡い光の絨毯のように輝いている。  

 小さな体は軽やかに動き、かすかに震えていたときの弱々しさは完全に消えていた。


 優衣はフェンリルのそばに座り、今日もミルクをあげる準備をしていた。哺乳瓶を粉ミルクを入れた哺乳瓶にお湯を注ぐ。

 その動作は回を重ねるうちに慣れ、今では手際よく手を動かせるようになっていた。 

 フェンリルの赤ちゃんももまた、ミルクタイムを楽しみにしているかのように、小さな尻尾を振りながら待ちわびるように彼女を待っていた。


「さあ、おいしいミルクだよ。」


 優衣がそう声をかけると、フェンリルは小さな口を開けて嬉しそうに哺乳瓶をくわえた。ミルクが彼の口に流れ込むたびに、身体全体が満たされていくのを感じているようで、その仕草には小さな幸福が溢れていた。


 フェンリルの目も少し開くようになり、まだぼんやりとだが世界を見つめている。時折、きょろきょろと周囲を探すように頭を動かし、まっすぐに優衣の方を見つめては小さな鼻をぴくぴく動かしている。

 その純粋な目に優衣は胸が熱くなった。


「ねえ。君に名前をつけようと思うの。」


 優衣はフェンリルの赤ちゃんを見つけた時から考えていた、沢山の名前の候補を何度も口の中でつぶやいた。

 可愛らしくて、でもフェンリルらしい、彼の白い毛並みにふさわしい名前を――。


 数分後、彼女の顔にぱっと笑みが広がった。


「決めたよ!ヴァイス。ドイツ語で『白』っていう意味なの。君の真っ白な毛にぴったりだと思わない?」


 フェンリルはその名前を聞いたのか、すぐに


「キューン、キュン」


 と可愛らしい声をあげ、小さな尻尾をピコピコと楽しげに振り始めた。その動きはまるで名前を気に入ってくれたかのようで、優衣はその様子に思わず笑顔がこぼれた。


「名前、気に入ってくれたんだね。よかった。」


 優衣は優しくヴァイスの頭を撫で、その柔らかい毛並みを愛おしそうに撫で続けた。二人の間に確かな絆が芽生え始めているのを感じ、胸の奥から温かな感情がじわりと広がっていった。


 それからも、ヴァイスは日に日に元気を増していき、優衣も彼の成長を間近で見守ることができた。

 歩くこともできなかった小さな体は、ほんの少しずつだが力強さを帯びていく。

 小さな尻尾と足をパタパタと動かしている姿は、見る者すべての心を癒やすような可愛さだった。


「ヴァイスは本当に可愛すぎるよ‥‥」


 毎日のミルクタイムは、ただの栄養補給の時間ではなく、優衣とヴァイスが心を通わせる大切なひと時となった。


「ヴァイス、一緒に頑張っていこうね。」


 優衣はそう語りかけながら、これから訪れるかもしれない困難にも負けないでいられるように、そっと手を握った。


この日差しが優しく照らす安息の空間で、少女と小さな魔獣の物語は静かに、しかし確かに動き始めていた。


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