表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小惑星群の盛り合わせ  作者: 月卜鞠
彗星のカナッペ
6/34

ある芸術家の嘆き

 ある芸術家の魂が、死してなおもこの世に残り続けていた。


──ああ、なぜ誰も私の芸術を理解してくれないのか!


 幽霊になっても、自分のアトリエだった場所に留まりながら、毎日嘆いていた。

 彼が死ぬに死にきれない理由は、シンプルだった。

 彼が人生を費やして描いた最高傑作が、まだ見つかっていないからだ。


 その大作は、アトリエの奥の奥の部屋にあった。けれど、度重なる地震や、アトリエの老朽化のせいで、そこへ至る道は閉ざされてしまったのだ。

 ちょうど外から見ても分からないぐらい、上手い具合に閉じてしまったものだから、未だ、誰にも発見されていない。

 そして皮肉なことに、彼が習作として描いた画の方が後世発見されて『なんて素晴らしい絵だ!』と評価されていた。

 彼の口惜しさったらなかった。


──あんな習作を、私の本気だと思われては困るのだ! 


──もっと繊細で、壮大な画が、この奥にあるのに!


 芸術家として、当然の悔しさだった。

 習作目当てでアトリエにやってきては帰っていく人間たちを、幽霊として毎日彼は眺めていて、その度唇を噛み切りたくなるような想いだった。

 そんな次第であったから、彼が成仏できないのも、無理はなかった。


……ほら、また今日も。


 習作目当ての団体客がやってきた。

 彼は届かないことなんて知ったうえで、今日も必死に叫んだ。


──なぁ、気づいてくれ! その画なんかじゃないのだ! もっと素晴らしい作品が、君たちからあとほんのちょっと離れた場所に、あるのだ!


 でもやっぱり、声は届かなかった。

 悲しき芸術家の嘆きを知らないまま、団体の中でも案内役風の人間が、得意げに言う。


「さぁ皆さん、ご覧ください。実際に目の当たりにすると、凄いでしょう。これこそ世界遺産にもなっている、古代洞窟の壁画でございます。この躍動感あふれる、荒々しい馬のタッチ……。間違っても、子供みたいな画だと思っちゃあいけませんよ。何千年も前に、こんな画が描ける芸術家がいたということが、素晴らしいんじゃないですか……」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ