月よりも遠く
『いつか僕は、必ず月に行くんだ』
子供の頃の君はとてもロマンチストで、月に手を伸ばしながら、自信満々でそんなことを言っていたね。
一人、夜の堤防にて、柵にもたれかかりながら、月を見上げている。
白い月が、朝のように明るく波を照らしている。
一匹、クラゲが水面まで浮き上がってきてるのが見えた。クラゲは漢字で海月とも書く。波間に反射した月と合わせて、二つも月が浮かんでいる。
あれならなんとか、私の手だって届くんじゃなかろうか。
きっと、月よりは簡単だ。
まぁ、本当には、やらないけどね。
──柵の上に腕を重ね、顎を乗せ、君のことを想う。
もう、今や君は、月よりも遠い場所へ行ってしまった。
手は届きようもない。
声も聞けない。既読もつかない。顔も、カメラロールでしか見られない。
会いたいと思っても、叶わない。
遥か遠いその場所で、今、月よりも綺麗なものを見つけられていますか。勉強のできた君のことだから、見つけられているんじゃないかな。見つけられていたらいいと思う。
柵をり越えて、一歩踏み出せば、君に近づけるような気がして、なんて危ない、馬鹿なことを、と、自分で自分を嘲笑う。
でも、それぐらいには、淋しい。
今すぐ会いたいなと、想うのです。
そうして一週間後、君は帰ってきた。
電話がかかってきて、まずは嬉しそうな声が聞けた。
『凄いよ、今回の有人探査では、新種のヒトデを見つけたんだ』
思わず笑った。
君はほんとに、月よりも遠い場所で、綺麗な星を見つけていた。