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小惑星群の盛り合わせ  作者: 月卜鞠
小惑星群の盛り合わせ ~反21世紀風ソース
27/34

ゲーミング○○

 23世紀には、世界で一番人気のスポーツがeスポーツとなっていたことは、考えてみれば自然なことだった。


 アンドロイドの発達により、人間の労働量は減り、総じて外出量も少なくなった。すると運動不足になって、家にこもりがちになり、やがてゲームばっかりするようになる……。


 22世紀も初めの頃なら、まだゲーム産業も生まれたてだから、ゲームばっかりやってはいけないという忌避感もあった。けれど今や、みんな子供の頃からゲームをやっている。小学校でモテるのは足が速い子よりゲームが上手い子になった。

 こんな時代だから、子供たちが夢見る職業1位もプロゲーマーになっていたし、親が子供に就かせたい職業1位もプロゲーマーになっていた。いい大学に入るより、いいプロゲーマーチームに入った方が、高年収、老後も安泰というものだった。


 そういう世の中だから、教育熱心な親たちの行動も変わるというものだった。


「ちょっとあなた、もう寝ようとしているの? 毎日夜10時までは、ゲームをしなさいっていつも言ってるじゃない!」

「ごめんなさいママ、でも今日は体育があって、とても眠かったんだ……」


 シュンとする息子にお構いなく、母の目は三角形になって釣り上がっていた。

 これは息子をプロゲーマー選手にさせたい家庭のよくある一場面である。


「眠いから、なんなの。世界で一番有名なプロゲーマー選手、エフ君は、子供の頃から寝る間も惜しんでゲームをしていたそうよ。とても貧乏なお家でね。それに比べて、あなたはどれだけ恵まれているか……。さぁ早く、机に座りなさい!」

「はいママ……」


 母の剣幕にかなわず、息子はベッドから這い出て、ゲーミングデスクに座った。

 ゲーミングデスクとは、ゲームをするのに一番いい高さかつ、一番いい角度で調整された、特注の机のことだ。そして息子はゲーミングヘッドホンをつけ、ゲーミングマウスを握った。ゲーミングキーボードで、ゲーミングPCを起動する。

 どれもこれも、ゲームをするために性能を調整された、特注品だ。

 ゲーミングヘッドホンは普通の商品に比べて、音質が1%ほどクリアだし、マウスは0.01秒ぐらいクリックがしやすいし、キーボードは0.01秒くらいキー入力がしやすいし、PCは0.01秒くらい、処理が早い。ゲームに勝つためには、この微々たる差がとても重要なのだ。

 そしてどれもこれも、七色に光る機能を持っている。これはゲームにあんまり関係ない。


 さて、それはそれとして。

 息子はとても素直に言うことを聞いたけど、母親の口出しはまだ止まらなかった。


「ちょっとあなた、眼鏡つけ忘れてるじゃない。裸眼でやるなんて、ゲームに悪いわ!」


 母親は、ベッドの上に置かれていた眼鏡を、息子にかけてあげた。

 これも勿論、ゲーミング眼鏡である。ゲームにとって、目の使い方は命だ。モニターの中の敵をずっと追い続けるための、焦点調整機能がついた、特注の眼鏡だ。これをかけることで目への負担は大きくなるけれど、後でゲーミング目薬を差せば問題はなかった。

 母親はなおも忙しく、部屋の中を動き回る。ゲームをするために、最高な環境を息子に提供しなければならない……。


「それから、エアコンも点けなきゃ……」


 ピッとエアコンのリモコンを押すと、エアコンは七色に光って、動き始めた。

 このエアコンはゲーマーの体温をリアルタイムでスキャンしながら、ゲームをするために最適な室温へと自動で調整し続けてくれる、特注の製品だ。湿度もそうだし、なんなら酸素濃度の調整機能もついている。


「ああそうだわ、飲み物も持ってこなきゃ……」


 母親は一度手を叩いてから、1Fのリビングへと降りて行った。すぐに戻ってきたとき、手に持っていたのは一本のペットボトル。その名もゲーミングドリンク。

 カフェインやDHAが合法ギリギリの量入っていて、飲むだけでたちまち意識は覚醒し、ゲームのパフォーマンスも上がるという飲み物である。

 もうゲームのプレイを始めていた息子は、落ち窪んだ目で、そのドリンクを飲んだ。

 すると、目の下の隈は消えないまま、眼だけ血走っていく。


 懸命に努力する息子を見て、母は感慨に浸りながら、声を掛けた。


「さぁこれで今日も世界一のプロゲーマーになるために、ふさわしい練習ができるわね。頑張るのよ。だってあなたは、この私がゲーミング遺伝子を買って生まれた、才能ある子なのだから……」


 母親は元プロゲーマーだった。かつて敵わなかった日本一や世界一の夢を、自分の子供に託していたのだ。そのために、彼女はゲーマーにとって最も重要な『反射神経が高くなる遺伝子』を買って、この息子を生んでいた。


 この時代、こんな子供たちのことをゲーミングチルドレンと呼ぶことが、ままあった。


**


 それから、約四半世紀あと。


 この頃にはなんと、すっかりプロゲーマーを目指す子供も、目指させる親もいなくなっていた。

 それはブームが過ぎ去ったからではなかった。今もeスポーツ産業は、何十億の人間を熱狂させる、世界最大のエンタメである。


 ではなぜそんな風になったかと言えば、ゲーミングアンドロイドが誕生したからだった。

 ゲームのために最適な思考をし、最適な行動を取れるアンドロイド──。そんな機体を、各プロゲーミングチームが開発し、人間じゃなく、アンドロイド同士で戦わせるというフォーマットも発明された。

 そしたら、人間の試合よりぜんぜん見応えがあったのだ。

 判断にミスのないアンドロイド達が、最適な戦術同士をぶつけ合って、目にも止まらぬ速さで銃撃戦を繰り広げる──。いつしか、必ずミスが起こる人間同士の試合は、まるで人気がなくなっていた。

 そのおかげで、人間のプロゲーマーなど、この時代にはぜんぜん居なくなっていたのだった。


 じゃあ約四半世紀前、ゲーミングチルドレンと呼ばれていた子供たちがどうなったのだろう。

 答えは簡単だ。

 誰もそんなことに興味ないから、誰も知らなかった。


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