7:タブー!
とまぁマシロちゃんも変身出来たわけで、みんな仲良く『悪魔帝国』とかいう地下秘密基地を練り歩いてるわけだけど……。
「そういえばイスズさんは変身しないんですか?」
「あはー! しないしない!」
自分の変身した姿に少し戸惑いながらも、素人ながらちゃんと警戒して歩いているマシロちゃんが、私にそう聞いてくる。おそらく私の身を気遣ってくれたものだということは解るんだけど……、まぁ正直する必要ないんだよね。この程度じゃ。
「マシロちゃんは知らないかもだけど、私達って変身せずともある程度の魔力は扱えるのよ。それで身体強化施したり、防御力上げたり。確かに変身した方が効率も扱える量も増えるんだけど、今で十分足りてるのならわざわざ変身する必要ないでしょう?」
ほら100円のジュース買うときに、わざわざ万札使うのってほとんどないじゃん。小銭が欲しいのならまだしも、お財布の中に100円入ってたらそっち使うでしょう? そういう感覚。
「あと24の私がフリフリきゃるるんなコス着てると精神的に辛い。お客さんとかいたら覚悟決められるけど、こんな雑魚組織の為に変身するとかほんとキツイのよ。」
「「あぁ……。」」
「…………そこで二人して納得されるのにもクるものがあるね。」
私だって好きでこの仕事続けてるわけじゃないんだよ……! 辞められるならさっさと辞めたいよッ! というかもう放り出して勝手に一般人戻っても誰にも怒られないよね!? 私頑張ってるよね! 今も! これまでも! ちょっとぐらい報われても良いと思うんよ……ッ!!!
「たまにさ。ちっちゃい子の前でパフォーマンスすることあるんだけどさ。12年もやってると昔子供だったり学生だったりする人が結婚してお子さん産んでることが結構あるのね。それでご家族一緒に応援してくれることあるんだけど……。『ママが子供のころからイスズちゃんいたの!? ……おばあちゃん???』とか言われて、ね。」
まだ幼稚園児くらいだったから、仕方のないことだと思うのよ。自分が生まれる前から私がいるってことは、途轍もない長さだろうし。
け、けどね? それ聞かされてる私はどうなるの? ねぇ! どうなるの! こっちは笑顔維持しなきゃだし、あちらのお母さんはすごく申し訳ない顔してるし! こっちもプロだからいい感じに誤魔化してお子さんの意識他に移してあげないとだしッ!
そもなんでッ! 私はッ! 他の子みたいにッ! 魔力無くならないのッ! 私だけ置いて行くなッ!!!
「(ち、ちょ! マシロ! 貴女なんか話題替えなさいっ!)」
「(え、え! なんで私が! なんか明らかにヤバそうなイスズさんに話しかけたくないんですけど!)」
「(誰だってそうよッ! というかこれが先輩たちが言ってた“タブー”……、とにかく最初に話しかけたのが貴女なんだから、なんか違う事質問すればいいのよ!)」
「(ぴ、ぴぇぇぇ!!!)」
「……ちなみに全部聞こえてるからね?」
「「ア、スゥ……」」
イスズちゃんの地獄耳を舐めないように!
……でも後輩ちゃんたちに24のババアが気を遣わせてるってだけでもう自害一直線の恥ずかしさだな。ここは大人として切り替えてなんか楽しい話題提供しないと。あ、そうだ。昔の後輩たちとした飲み会でめっちゃ受けた話しよっと。これでもうドッカンドッカンでしょ。
小声で話し合っていたことがバレたせいか、なんか命を諦めた小動物みたいな二人。そんな彼女の口角を指で軽く上げながら話題を切り替えていく。
「地獄耳と言えばなんだけど……。ここで問題です! イスズちゃんの耳はどこまで遠くを聞くことができるでしょうか! 当てれたら今度面白い魔法教えてあげるよ? まぁ外しても教えてはあげるんだけど。」
二人の育成というか、日本守るのには必要不可欠な魔法だからねぇ。どっちみちいつか教える予定だったけど、別に前後しても構わない。確かにマシロちゃんは初心者だから、まず得意分野の魔法を伸ばしていかなきゃだけど、ミズキちゃんは見た感じ結構よかったしほんといつでもOKだろう。
ま、ちょっとしたオリエンテーションみたいなものね。今敵基地にカチコミしてるけど、なんか奥の方に隠れて出てこないから、そこまで行くまでの暇つぶしって感じで。
「聴覚……、元居た場所で活動していた時にお世話になっていた先輩は1kmぐらいならいけると言っていましたし。イスズさんですから100kmぐらいでしょうか? 少し適当になってしまいますが。」
「ん~、じゃあ10,000km!」
「大穴で10mっプ!」
ちょっとそう考えてから答えるミズキちゃんに、適当に大きいからという理由で答えたっぽいマシロちゃん。あとなんか妖精。……っと、ごめんごめんプルモ君だったね。私妖精にあんま良いイメージなくてよく畜生扱いしちゃうけど、気にしないでね? 悪気はないから。
「ぷ!?」
「んで正解なんだけど……、『わからない』でした~!」
「「……えぇ」」
「いやだって地球上の音全部聞こえるんだもん。宇宙行くと魔法使わない限り音なんか聞こえないし、純粋な距離とか測るの無理じゃん。」
「「………………えぇ」」
あれ? あんま受け良くないな。
ん~? もしかしてもうジェネレーションギャップ産まれちゃってる? 去年成人した子達との飲み会では腹抱えて笑ってる子までいたのに……。くっ! なんか色々つらいッ! というか今年の子で全く笑いのツボが違うんなら、これからどんどん離れてくってことでしょ!? あ~~~!!! やだッ! イスズちゃん後輩に裏で『あの人クソ面白くないよね』とか影口叩かれたくないッ!!!
……あとで若い子の話題とか調べて勉強しよ。
「あ、あの。それって何か魔法、だったり?」
「え? あぁ普通に身体能力だよ。最初は日本全域くらいしか聞こえなかったんだけどねぇ。何か頑張ったら全部聞こえるようになった。……あ! マシロちゃんも頑張れば宇宙空間でも音聞こえるようになるよ? やってみる?」
「だ、だいじょうぶです……。」
まぁ自身の聴覚を強化するとかじゃなくて、自分を中心に周囲を大気中と同じ状態に落とし込むみたいな方法だから、ちょっと初心者には難しいんだけどね? 概念系みたいなのだからイメージもしにくいし、構築式もちょっと厄介。やるにしても来年ぐらいからだねぇ。
あ、宇宙空間でも生存できる呼吸とか圧力とかその他諸々の魔法憶えてから試してね? 私は別にいらないけど、常人なら爆発四散しちゃうから。
「い、イスズさんって人間ですか?」
「…………たぶん。」
「「なんで本人が不安になってるんです!?」」
◇◆◇◆◇
っと、まぁそんなことを話してたらこの敵基地の最深部らしきまで来たんだけど……。
眼の前にある、なんかとても頑丈そうな扉。特殊合金製かな?
「ここに来るまで誰とも会わなかったし、ここで籠城しているんだろうけど……。ミズキちゃんいける?」
「……すいません、対魔法の何かが施されてるみたいで、私では無理そうです。」
多分私相手だから敬語を使っている彼女、まぁ確かにちょっと難しそうだよねぇ。
軽く見ればわかるが、最近組織系の敵が持ち始めた『魔力を分散させるコーティング』が施されているように見える。魔法による攻撃のエネルギーになっている魔力、それをより広範囲に散らして攻撃の威力を下げ、ダメージを抑える技術だったはずだ。
私みたいに物理タイプや、高出力で全部焼き尽くすタイプには全くもって意味がないんだけど……。おそらく『光』を得意分野とするミズキちゃんでは難しいって感じなんだろうね。戦い方的にスピードタイプだし、高火力技もないわけではないけど、周囲へのダメージが大きすぎてこの地下基地が崩壊する可能性あり、ってところか。
「うんうん、出来ること出来ないこと解ってる子はすごく偉いよ。300イスズちゃんポイント上げちゃう。んでマシロちゃん? 自分の得意分野は解るかな?」
「得意……、分野ですか?」
「そ。なんとなく『これだ!』ってのない? 頭に浮かんできた言葉でもいいよ。」
何となくというか、コスの節々にその意匠が出てきているので私はもう把握しているのだが、こういうのは自分で答えをだして、自由な発想で育てた方がいい。魔法ってのは何でもできる力だからねぇ。
「……植物? いやもっと、具体的な?」
「これ、プルモ正解言っていいプか?」
「言ったらイスズちゃんの晩御飯ね。」
「ぷ!?」
うんうん、そこまで解ってるならまぁ上出来かな。
大体みんな感覚で理解できるんだけど、たまーに『なんもわからん』って子がいたりするんだよねぇ。たどり着くまでの試行錯誤のおかげで生き抜いてきた子もいるから、基本私達先達は自分で気が付くまでヒントすら上げないんだけど、『系統』が理解できたのなら次に進んでいいかな。
「んじゃマシロちゃんにはコレを貸してあげよう。確かこの辺りに……、あったあった。今日食べた桃の種。あ、ちゃんと洗ってるよ?」
「な、なんでそんなもの持ってるんですか?」
「YOUのお名前が桃園マシロだったから。ちょっと買いに行っちゃった。ちょっとそれに魔力込めてみ?」
「は、はい……。」
受け取りながら、魔力魔力と念じ彼女の体に眠るそれを叩き起こそうとする彼女。
たどたどしいせいかミズキちゃんの表情にまた不満が出始めてたけど、ちょっとウインクを送ることで我慢してもらう。彼女には悪いけど、さっきの戦いである程度どういう感じなのか解っちゃったんだよね。後は経験を積ませながら叩きのばしていくだけなんだけど、彼女と違ってマシロちゃんはまだスタートラインにすら立てていない。
ま、後輩を待ってあげるのも先輩の役目ってやつですよ。
そうこうしていると、ようやくマシロちゃんが魔力の感覚を掴めたようで、どんどんを桃の種に魔力が注がれていく。するとすぐに芽が出て成長し、木々へとなって行く。本人は想定外だったようであわあわしているが、上出来だ。
「……やるじゃない。樹木操作、いえ植物操作あたりかしら? まぁさっき貴女が行ったみたいに植物関連ナノは間違いないみたいね。」
「うんうん! んじゃマシロちゃん。それちょっと動かしてみ?」
「ど、ど、どうやってですか!?」
「気合ッ!」
ほらあそこになんか頑丈そうな扉あるでしょ? そこに向かってその桃の種と言うか、樹木の塊を使ってドカーンと壊してみましょう。あ、細かなイメージはそっちに任せるよ? 私の言うように勢いよく伸ばしてぶち抜いてもいいし、周囲に木々を張り巡らせて“扉”という存在の機能を破壊してもいい
さて、どっちが正解か解るかな?
「……後ろの方! だったら!」
すぐに答えに辿り着き、自身を中心にどんどんを桃の木を伸ばしていくマシロちゃん。この地下基地を補強するように壁に張り付いた木々たちは、即座に扉を浸食し、その機能を破壊する。両開きの自動ドアタイプの奴だったんだけど、その隙間に木々が入り込んで機能自体を破壊した感じだね。固定具とかも浸食済みっぽいから、後は蹴り飛ばすだけで軽く破壊できるだろう。
あとマシロちゃん、当たり。地下での崩壊の危険性と、奥に敵がいるからこそ“布石”がいるってこと。ちゃんとわかっててグッジョブね! YOUにも300イスズちゃんポイントを上げちゃおう! 100万ポイント貯めたらイスズちゃんがこの世界の半分をプレゼントしてあげるよ♡ ちょっと武力統治するのに3秒ほどもらうことになるけど♡
「い、いらないです……。」
「……3秒で出来るんだ。」
「さ! ガールズ! 気合入れてけ?」
「「はいっ!」」
そう元気に答えたと、すぐに視線を交わすミズキちゃんとマシロちゃん。おそらくミズキちゃんが前衛で周囲をかき回し、後衛でマシロちゃんが樹木による攻撃や支援を行うって感じで進めるのだろう。ミズキちゃんの方が経験があって戦闘力も高い。まだマシロちゃんに思うことはあるみたいだけど、それを飲み込んで最適な手段を探ろうとする姿勢はとてもグッド。
邪魔になりそうな畜生、じゃなかった。妖精を回収しその頭に鉢巻を巻かせながら、応援の準備は完了。
さぁ悪者退治の時間だー!
「ㇱ!」
腕のバックルから光のカードを取り出しながら、全力でその扉を蹴り飛ばすミズキちゃん
すると聞こえてくる、おそらく敵幹部の邪悪な笑い声。
「ジャババババ! 良くきたな魔法少女ども! 悪魔帝国が誇る幹部、このエ・チョット・ライ様の基地に良く来たと褒めてやろうッ! しかーしっ!!! ここが貴様らの墓場となるのだァ!!! そこのイスズとか言う年増」
「は???????????????????」
……あ、やべ。
消し飛ばしちゃった。
〇イスズちゃんが言ってたこの前の飲み会
その場にいた全員が、イスズが『これ面白いでしょー!』って言いながら自慢して来たので、無理矢理笑った、
マシロやミズキはその規格外さに驚きそこで思考が止まってしまったが、この時場にいたのは6年間魔法少女として生き抜き、イスズの背をずっと見続けた者たちである。それ相応に「様々」なものを見ているし、経験も積んでいる。
地球全てで起きていることを聞くことが出来るのであれば、騒音雑音のみならず、人々の会話なども全て聞いてしまっているということ。陰口は勿論罵倒や不満などすべてが彼女の耳に届いており……。人が死ぬときのオヨや悲鳴、助けを求める音全てを聞いていることに他ならない。
イスズの能力であれば聞いた瞬間すぐに助けに行けるだろうが、他の魔法少女に任せなければ育たないし、国家間のややこしい問題もある。それを全て聞き分け瞬時に判断し行動しているわけだし、無論助けられなった人たちの最期の瞬間も聞こえていることになる。
その場にいた子達は自分たちが如何に甘えていたのか、頼り切りなってしまっていたのか、そしてもう戦えない自分たちでは何もできないことを理解してしまい、その後一切味が感じられなかったし、酒を飲み過ぎて戻す振りをしながら、何もない胃の中を吐き出していたという。
なおイスズ本人は本当に何も気にしていない。『助けを求める声と、その近くにいる魔法少女とか一瞬で把握できて任せるか私が行くか即座に判断できるから便利~』としか思っていない。
〇悪魔帝国幹部 エ・チョット・ライ
ほんのちょっとだけ偉い。普段より10分くらい早起きするぐらい。
一番踏んではいけない地雷を踏み抜いた後、その上でボックスステップをとても丁寧に踏んでしまった。
別件で大変申し訳ないのですが、本日から拙作の『TS剣闘士は異世界で何を見るか。』がドラゴンノベルズ様で発売されております。『ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双』ともども、どうかよろしくお願いいたします……!
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