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6:変身できてえらい


「マシロちゃーん、生きてる? 直前で色々魔法かけたから死んでないとは思うけど。」


「イ、イキテマシュ。」


「なら良かった。」



地面奥深く。地上のカモフラージュ用住宅のみならず、大地すら貫通してマシロちゃんが到達したのは、ちょうど地下秘密結社のエントランス。まぁそこに着くよう飛んできたんだけど……。生きててよかったね♡


ま、マシロちゃんだけじゃなく、ミズキちゃんにもかけてたんだけどね。緊急用の魔法。外部からの衝撃が全部なくなる『無効化』と、重力を弄って絶対に地面に接着しない『無重力』、んでしないとは思うけど死傷するレベルのダメージを受けた時に起動する『再生』。あとはまぁ細々なものを色々と。



(精神的な負荷は掛かるだろうけど、ソコが弱くっちゃ一年どころか一月も持たないからなぁ。)



着磁時にちょっと付着した砂煙を払いながら、口から魂みたいなのを出しているマシロちゃんを瓦礫から引き抜いて綺麗にしてあげる。


実際、私らってかなり心の影響受けるからソコ鍛えて適応していかないとすっごい難しいだよね。私がいるから大分減ったけど活動の中で人死は出るし、殉職者もいないわけじゃない。軽い気持ちで飛び込んだら地獄を見るんだけど、国としては数を集めて育てていかないと今の文明社会が終わる。ま、みんなで頑張って行かなくちゃいけませんね、って話だ。


そんなことを考えていると、魔法か体術で減速したのであろうミズキちゃんがようやく現着。これで全部そろったね。でもまぁ、こんなダイナミックエントリーしてしまえばあちらも気が付くわけで……。



「て、敵襲ッー!!! ま、魔法少女が攻めてきましたッ! す、すぐに応援をッ!」


「うんうん! カチコミらしくなってきたね! さ、『ルミナフィル』! お仕事開始しちゃいなさいっ! 室内、しかも地下での基本は頭入ってるよね?」


「もちろん、ですッ!」



弾かれたように動き出す彼女。即座に全身に魔力を流し込み、身体強化の効果を発生。


さらに腕のバックルから変身時に使ってような光のカードを取り出し、効果発動。得意魔法なのであろう『光』を拳に込めながら、受付的な敵戦闘員の顎に向かって叩き込んでいく。1発で確実に脳震盪起こして気絶させる最適な手だね。


……ん~、でもやっぱ新鮮かも。


私ってほら、暴力のJKでしょ? 人だろうが怪獣だろうが悪の存在なら問答無用で殺しつくして消し飛ばすタイプの。でもルミナフィル、ミズキちゃんはちゃんと気絶で止めて全員刑務所に叩き込むタイプの優しい子の様だ。


最近の子って偉いねぇ、私なんて初日から血の雨降らせてたのに。


っと、もう一人も働かせなきゃ。



「マシロちゃーん?」


「ワタシ、シンデナイ。ワタシ、イキテル? イキテル、イキテル……」


「……処す?」


「ハゥッ!? だ、大丈夫です! マシロ、問題ありませんッ!」


「なら良かった、まじかるまじかる。ところで人間砲弾に興味ある?」


「ふぇ?」



そう言いながら彼女を放り込むのは、勢いよく開かれたドア。


おそらく騒ぎを聞きつけてやってきたのであろう戦闘員と怪人だったが、その瞬間目と目が合う彼女達。瞬きも出来ぬままに激突し、ボウリングの様に敵が吹き飛んでいく。



「さぁマシロちゃん! さっさとしないとルミナフィルが経験値全部持って行っちゃうよ! 未変身でもとりあえず戦ってみようッ! ほらパンチパンチ!」


「無理ですッ!!!」


「ぬぅ、なんたる石頭よッ! しかし悪魔帝国が誇る第217支部はこんなもんでは終わらんぞ! この怪人アル・バイトが相手になってやろうッ!!!」


「「「スッス-!!!」」」



あぁもう倒れてるところ攻撃しに行かないから……。


さっきの人間砲弾にへこたれず、立ち上がり名乗りを上げる怪人と現代火器で武装した戦闘員たち。対してこちらは未変身で素手のマシロちゃんだけだ。確かに普通の生身じゃ怪人に捕まれるだけで全身の骨が砕けるし、戦闘員が銃火器ぶっ放したら普通に死ぬ。でも魔法少女ならここでガッツを……。



「ひッ」



あ、ダメだ。腰抜けてる。


ん~? 私は例外としても魔法少女ならここで構えくらいは取らない? 私の先輩の若いころとか、変身前常人の力しかないのにドス一本もって秘密結社にカチコミかけてたのに。……ちょっとコレ、早いうちにガチで怒っといた方がいいかもしれないね。気持ちは解らないでもないけど、放置してたらこのまま殉職一直線になっちゃうし。はぁ、イスズちゃんこういうのガラじゃないんだけどなぁ。


動けないマシロちゃんに、ソレに向かって拳を振り抜こうとする怪人。どんな風に言ったらちゃんと伝わって頑張ってくれるかなぁ、なんてのんきなことを考えていると、視界に投げ込まれる『光』が一つ。



「戦えないのならそれ相応の行動をとりなさいよッ!!!」



怒号と共に突っ込んでくる、ルミナフィル。


即座に要救助者であるマシロちゃんの身体を掴み、その場から離脱。そして慣れた手つきで腕のバックルから引かれる2枚のカードには、さっき見たのとはそれぞれ違う紋章が刻まれている。そして即座に起動される、光の魔法。


3年間戦い続けて得意分野を磨いたのだろう。怪人や戦闘員たちの眼前に出現した光玉が、常人であれば失明する明度で、『明滅』し始める。……マシロちゃんどころか私にすらサングラス的な魔法をかけてるのは流石と言うべきかな?



「ぬぐッ!? 前がッ!」


「何も解らないまま吹き飛びなさいッ!!!」



そう叫び音で自分の位置を教えながらも、無音で踏み込み背後から強襲していくミズキちゃん。視界を奪って強制的に聴覚頼りにさせながら、錯覚させることで確実に相手の数を減らしていく。



「ちょっと間違えば崩壊の危険性がある地下じゃ高威力の魔法は使えない。しかも外みたいにスペースの余裕もないから閉所前提の戦い方を考える必要がある。うんうん、良く出来てるんじゃない?」


「ありがとぅ、ございますッ!!!」


「がはッ!?!?」



怪人にとって完全な意識外から叩き込まれる、顎へのジャンピングアッパー。う~ん! 意識ちゃんと刈り取れてるし、花丸上げちゃえるかも。正直教本に乗せてもいいくらいのレベル。ちょっと前まで中学生って考えれば、この短時間で敵の無力化に成功してるのはハグして挙げたいくらい良い成果だ。


他に動いてる敵はいないし、一旦この場では状況終了。軽く周囲を見渡して誰も動いていないのを確認した後、ゆっくりと息を吐き出すミズキちゃん。さっきの救助で端っこに座らされたマシロちゃんも、ようやく危険が無くなったことで安堵の表情が浮かんでいる。



……うーん、でもやっぱまだ足りてないんだよな。怖い思いさせちゃうけど、仕方ないか。



音を殺し、ちょうど足元で動こうとしていた死に掛けの戦闘員。


その頭を、勢いよく踏みつぶす。



「減点、かな?」



響き渡る、破裂音。


瞬時にミズキちゃんとマシロちゃんの視線がこちらに向き、飛び散る血と脳漿。おそらく対魔法少女用の弾丸が入った銃器に手を伸ばしていたのだろう敵の動きが、その道半ばで止まる。



「情けをかけたいのならもっと徹底的にやりなさい。中学生の時みたいに、上が配慮して『勝ち切れる』お仕事だけ用意してもらえる時期は終わったんだから。それに私は『まぁ二人でいける』と言ったんであって、ミズキちゃん一人で倒し切れる相手にぶつけたんじゃないよ?」



淡々と、表情を殺し言葉を紡ぐ。


ちょっと口調がきつくても、新人ちゃんにあたりが強くても別に問題はない。個性だしね? でもチームアップした相方をお荷物扱いして動いて、全部一人でやろうとしちゃうのはあんま良くないかな。ま、合格レベルではあるんだけどね?


戦闘も判断も何も間違ってはいない。ただ高校1年生レベルでの合格であって、満点じゃない。ミズキちゃんの性格的に上なら上を目指したい感じなんでしょう? その辺りは個人の自由だから好き勝手言わないけど、殺しを手段にいれたくないのならもっと強くなりなさいな。


……とりあえず、ミズキちゃんはこれまで。


次は問題の彼女だ。



「マシロちゃんさ。一応魔法少女なんだよね?」


「ぇ」


「もっかい聞くよ。魔法少女なんだよね? なるって決めたんだよね?」


「は、はぃ」


「ならなんで動いてないの? 戦わないの? 確かにイスズちゃん無理難題投げつけたけど、何で足を竦ませてるの? 魔法少女がどんな存在か、そもそも理解できてる?」



私らってさ、とってもキラキラしたお仕事よ? でもそれだけ残酷なお仕事だって、始める前に西管理官から教えてもらってるよね?


ならなんで何も出来てないの? 必要であれば殺しもしなくちゃならないし、必要ならば目の前の人を見捨てないといけないんだよ? ぴぇぴぇ言っても別にいいけど、戦う意思すら見せない子が、変身して力を得たとしても本当に誰かを守れるの?


私達の後ろにいるのは、何か本当に解ってる? 私達が諦めて動かなかっただけで、どれだけ犠牲が出るか解ってる? 私達がここで敵を取り逃した時、将来的にどれだけ被害が生まれるか考えたことはある? それも解らず泣き喚いて戦えない子が、この星に住む何でもない人たちの為に、命を差し出せるの?


貴女は本当に、魔法少女なの?



「……ぁ。」


「新人でもね、守ってもらう側からしたら関係ないの。貴女の憧れの魔法少女は、敵の前で蹲ってぴぇぴぇ泣き叫んでた? 何もできなかった?」


「ちっ! ちがい、ます……。」


「でしょ?」



ま、イスズちゃんも気持ちはわからんでもない。怖いものは怖いし、動かないものは動かない。別に何でもない距離だし、今すぐ彼女の妖精を取りに行って変身させてあげてもいい。でもこの子の魔力を考えると、ちょっと楽になり過ぎちゃう。


流石世代トップって紹介されるだけあって、当分は力押しで何とかなるだろう。でも本当にそれだけで最後まで戦い抜けるのは、私みたいな規格外だけ。マシロちゃんはまだ常識の範囲内でしかない。そんな子がもしどこかで立ち止まってしまったり、折れてしまったとき。何が起きるかは誰も解らない。


挫折から立ち直れる子であっても、折れちゃったタイミングが致命的ならばもう二度と帰って来れないとか普通にあるからね。早めに叩いて壊して二度と崩れない芯を積み上げてあげなきゃならない。どこかまだ、浮かれてる気配があるから、なおさらね?



「んで? まだやる、マシロちゃん? 今なら全部忘れてお家に帰れるよ? 何でもなくてとっても大切な日常に。守る側から守られる側に、多分そっちの方が幸せではあると思うけど……。やる?」


「…………ゃり、ます。」



うん、目に意思がある。折れてないし、澱んでもない。


でも、まだ弱い。



「聞こえない。」


「やり、ます。」



まだ。



「それで誰か守れるの?」


「やり、ますッ!!!!!」



……うん、いい子。



「……ふーん、そっか。じゃあ死ぬ気で頑張らないとね! というわけではいコレ。イスズちゃんからプレゼント、大事にするんだぞ♡」



殺していた表情を元に戻し、張り詰めた雰囲気をふざけたものに変える。


そして一瞬だけ場を離れ、学園の校庭へ。あたふたしていた妖精っぽいのを掴み、元の場所に戻った後マシロちゃんの頭の上に乗せる。うんうん、ぴったりだね! 私の妖精はクソだったけど、この子たちはまぁいい感じのコンビになりそう! ……そう言えばアイツ今何してんのかな? 妖精界の方に夜逃げしたことは解ってんだけど、どうせいらないから探しにすらいかなかったんだよな。


っと、今はあんなクソ気にする場合じゃなかったや。



「ぷゥ!? ここどこ、ってマシロ!?」


「ッ! ごめんプルモ! 今すぐ力を貸して! 私も、私も戦うのッ!」


「な、なんかよく解んないけど解ったプ!!!」



パートナーの声に応えたのか。おそらく視界の端に見えているだろう私が踏みつぶした戦闘員の死体を見ないようにしながら、妖精が取り出すのは一つのブローチ。ピンクのダイヤモンドが填め込まれ、それを囲うように様々な装飾が為されている。そして感じる、ちょっとした魔力。


さっきの会話のせいか、おそらくこの場にいた妖精以外の全員が色物でないことにちょっとだけ安堵しながら。それを手に取り、天へと掲げるマシロちゃん。徐々にその魔力が、高まっていく。



「へん、しんっ!」



その瞬間、彼女の立つ地面から一気に空へと延びる極大の桃色な魔力。


その身を隠すように生み出されたそれは、内部で彼女の肉体を守る装束。マシロちゃんの魔力を起点とし、コスチュームを構成し装着していく光たち。既に彼女の内である程度のイメージは固まっていたようだが、未だ不完全。そこを妖精が補うことで落とし込み、形にしていく。……あっち側の技術も進んでいるようで、私が使ってる12年前の旧式よりも大分融通が利くようだ。既に事前にコスを決めておく必要はないみたいだね。


っと、目を逸らしておかなきゃ。私の眼じゃ普通に変身中のお着替えも見ちゃうからね、うん。


そうこうしてる間に、光の柱から一瞬だけ伸び出る手。まるでカーテンを開くように勢いよく振られたその手は、柱を打ち消しながら、その完成された姿を外気に触れさせる。ほんの少しの大人っぽさを出しながら構築されたドレスタイプのコス。若干植物の意匠が入っている、彼女の新しい姿。



「お待たせ、しましたッ! まだ全然何もわかりませんが、もう止まりませんッ! ミズキ、いえルミナフィルさん! 一緒に、戦わせてくださいッ!!!」


「……ふんっ! 足手纏いはいらないわよ? 手伝わせてあげるけど、少しでも手を抜いたら見捨てるからッ!」


「っ! ありがとうございますッ!!!」



ん~~~~! なんか青春な感じッ! めっちゃいい!!!


あ~、イスズちゃん厳しい言葉かけちゃって心配だったけど、とりあえず何とかなって良かった良かった。お修行終わったら後で美味しいご飯連れて行ってあげるからねぇ。あと戦闘後にはなるけど、言葉が強かったのは謝っとかなきゃ。まだまだニュービーだけど、いつか背中を預ける日が来るかもだしー。



「さ、二人とも。ここで騒いだせいで、あちらさんは多分守りを固めて待ち構えてるよ? しっかりお尻は持ってあげるから、全力で暴れて来なさいな!」


「「はいッ!!!」」




〇妖精について


妖精界と呼ばれる別次元に住んでいるのが彼ら、現在人類と唯一友好関係を築けている知的生命体でもある。元々自分たちの世界を救うために魔法少女となる存在を求め人間界にやってきており、『最初の魔法少女』と呼ばれる存在によって妖精界側の問題は全て解決している。今はその恩を返すために人間界に協力している形。


戦う力は持たないが、その肉体から彼らにとっての魂のようなもの部分的に取り出しを物質化することで変身アイテムを生み出すことが出来る。一度形を決めてしまうと変えられないらしいが、人間界から技術や文化が流れ込んだことにより、多機能化や見た目の向上が図られている。(最初期:どんぐり→現在:スマホ)だがたまにトチ狂った妖精が意味不明な変身アイテムを持ってくるので、覚悟が必要。


最近君主制から大統領制に変化し、とある実績を認められた妖精が初代大統領になったという話だが……。







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