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5:バンジーに紐なんていらないよね!


「……今更だけどさ。校庭占拠して良かったの?」


「現在は政府直轄とはいえ、白羽ヶ丘高等学園は元々私立ですので。それに全校生徒の皆様には入学時に『魔法少女を優先する』という契約を結んでもらっております。……ご存じでは?」


「いや知らない人に説明しないとじゃん。『見られてる』し。あ、友好的な人たちよ? 多分ね。」



は~いみんな! イスズちゃんだよー! 元気してた? ちなみにこっちはとってもいい天気で修行日和!


昨日言ってた例の二人の修行なんだけど、早速今日からスタートってことで校庭に来てる感じなのよ。流石に指導役が遅れてくるとか先輩として情けないから早く来た感じね。んで暇つぶしに後輩から送られてきた魔法で遊びながら、ウチの田中と会話してたんだけど……。やっぱアイツが送って来る魔法面白いな。空気固めていつでも『人を駄目にするソファ』を作れるとか最高じゃん。



(卒業してアメリカちゃんの魔法研究所の方に就職したって聞いたけど、元気そうで何より。……私いつ就職できるんだろ? 大学は出ておきたいから進学するつもりだけど……。さ、三十までにはいける、よね?)



ちょっと未来に恐怖しながらも、少し思考を回していく。勿論私達が通うこの高校のことだ。


ここ白羽ヶ丘高等学園は、当時私が進学するって決めたことで途轍もない魔改造を受けることになった学校だ。まぁあの時点でイスズちゃん最強だったからね、国が本腰入れちゃったのよ。お陰様で今では学費ゼロな上に、教師のレベルも設備の質も国内最高峰。その代わりに『魔法少女』優先で、そんな彼女たちに変な影響を与えないよう人格面が滅茶苦茶みられるちょっと凄い学校になったんだよねぇ。



「私がいるってことで『日本のトップ層が集まる高校』って立ち位置になっちゃったし。えらい出世だよねぇ。昔から謎に学費0だったけど。」


「当時の理事長で、現在の校長が人格者……。というか変人ですからね。」


「話したら面白いんだけどねぇ。」



ちょっと太陽系の外で変な気配を感じたので、ソファと共に一瞬だけそちらに移動し消し飛ばしながら帰還し、田中の言葉にそう返す。


ま、私ら魔法少女にとっては色々やりやすい学校だ。ちょっとやりすぎ感があるけど、イスズちゃんの前の世代に闇落ちシスターズが大量発生してた時があったし、私も初年度はその後始末に奔走させられた。そう考えればこういうのも必要なことなのだろう。


私はもう色々慣れたからいいけど、仲間同士殺し合いするのはねぇ? 人間関係ちょっと調整されるだけでソレが無くなるのなら別にいいのかもしれない。ま、上が思想出して来たら霞が関物理的にひっくり返して揺らせば反省して元通りにするでしょ。



「っと、そろそろか。」



さっきまで体を預けていたソファを解除し、地面へストン。かるーく制服を整えて魔法で髪型などなどセットし直し。『マジカル☆イスズちゃん』として完璧な姿を整えて軽くポーズを決めてみれば……。こちらに向かって歩いてくる人影が4つ。


私の弟子になる子たちと、その担当管理官だ。


確かミズキちゃんとマシロちゃんだっけ? どこまで伸びるか解んないけど、田中が言うには素質も精神力もあるらしい。でもやーっぱちょっと心配というか、不安なんだよね。過去に育成失敗しちゃった経験あるし。


ほらさ。西とかメスガキみたいに友人の延長上みたいな感じの関係、先輩後輩でやっていくのはなれてんのよ。6留だし。高校9年生だし。ずっと先輩風吹かせるのは出来るのよ。でもそれが師匠と弟子みたいな付きっ切りで教えて育てるってなれば……、やっぱり勝手が違うでしょ?



「ま、なるようになるしかない、ね。」



そう小さく呟くと、私の前で立ち止まる二人。


やる気十分というか、『自分出来るぞやってやるぞ!』って雰囲気を醸し出しながら休めのポーズで待っているのがミズキちゃんで、まだちょっと色々解ってないみたいで西と私の顔を何回か見た後ミズキちゃんの真似をするマシロちゃん。


管理官たちの方を見れば、西とあのオカマちゃんが田中の後ろに。特に何も言ってこないってことは、もう勝手に始めて良いのだろう。



「ハァイ後輩ちゃんたち! 元気かな? 朝ご飯は食べた? とりあえずまずは元気に挨拶から行ってみよう! 年次順にどうぞッ!」


「姫川ミズキ! 魔法少女ネームは『ルミナフィル』です! よろしくお願いしますっ!」


「も、桃園マシロです。な、名前はその。まだ考え中で……。」



一瞬だが、マシロちゃんに視線を送るミズキちゃん。


あー、ちょっと新人過ぎてあんまよく見てない感じね。まぁ確かに経験と実績をちゃんと積み上げて選ばれた子が、名前どころか初変身しか済ませていない子と同じチーム組まされるのは少しイヤになっちゃうよね。足引っ張られるのはみんな嫌だし。


とにかくその辺りも把握! 調整もイスズちゃんの仕事だからね!



「元気で何より! あとルミナちゃんは良いお名前ね、羨ましいくらい。」



で、マシロちゃんや。お名前ってとっても大事なものだから、出来るだけ早く決めるんやで。


まだ色々初めてで慣れてないだろうけど、名は体を表すって言うでしょう? その後の活動やキャラ付けとかにも関わって来るから、しっかり考えて早めに決めて申請しておくんやで。難しかったら西辺りが今登録されてる人たちの名簿出してくれるだろうし、先輩とかの名前参考にするんやで。


あ、ちなみにだけど。ちゃんと考えずに両親とかに色々任せた結果出来上がったのが目の前になります。



「「え。あっ……。」」



「魔法少女ってね、中学生からスタートしてるの多いのよ。んでコスも名前も基本変えられずに卒業まで行っちゃうのよね。」



なんて言えばいいか本気で解らずちょっと辛そうな顔をするお二人。


解るよね、私の名前。『マジカル☆イスズちゃん』。……ヤバいでしょ?



「私ね。ネーミングセンスないって自覚してたから、両親に頼んだのよ。美的センスもないからさ、コスも当時の妖精ちゃんと両親に。だからマシロちゃん、良く考えてね。ほんとうに。」


「ア、ハイ……。」



よろしい!



「んじゃ早速お修行を始めていくわけですが……。イスズちゃん、実はちゃんとそういうのしたことないのよね。大体見たら出来るし、筋トレとかそう言うのは自分でコツコツできるでしょ? と、い・う・こ・と・で~?」


「「え!?」」



ぱっと2人の首根っこを掴み、ぴょんとお空へ。


ちょっと空気を踏み込んでみれば、多分千葉の北部当たりまで移動完了。上空3,000mくらいからの自由落下の真っ最中だ。ちょっと小さいけど眼下にお家が沢山見えるでしょう? いわゆるベットタウンに近い地域で、悪側もあんまり狙う旨味がないのか、平均的な事件発生率も低め。その分魔法少女とかが近くにいないことが多い地域なんだけど……。


たまーに悪側の存在がそれを狙って進攻したり拠点を作ったりしている。あの住居に見せかけて地下施設作ってる所みたいにね?


あはーッ! 太陽系まで守備範囲なイスズちゃんのおひざ元に悪の秘密結社が基地作るとかッ! なめてるねぇッ! 私が消してあげてもいいけど、せーっかくいい経験値になりそうだし!


実地研修といってみよゥ!



「というわけで任務のお時間ですッ! 実戦に勝るものなしッ!」


「え!? えッ!? ここどこ!? というかなんで!?!?」


「ほら、昨日なんか私達の高校襲撃されたでしょう? あの悪魔帝国とか名乗るへんな奴らに。実は昨日本拠地も支部も全部見つけちゃったんだけどさ……。『ルミナフィル』、どうせならやり返したくない?」


「ッ! はいッ!!!」


「はなし!? はなし聞いてください!?」



どうしたマシロちゃん! 敵は待ってくれないし、私達が戸惑ってたらどんどん被害が増えるぞ♡ 悪・即・殺! これ世界の真理なのよね! あ、あと悪側の存在って普通に異次元とか人間じゃないのも結構いるから、言葉通じないしそもそも言語持ってない可能性があるから、初手に対話選ぶのって『私を美味しく食べてね♡』と同義なんだぞ。


だからそういう性癖じゃない限りはオススメしないぞ♡



「ぴゃぁぁあ!!! しぬっ! しんじゃうッ!!!!!」


「うむうむ。若人が元気でおばちゃん嬉しいねぇ。というわけで相手は組織系の支部級! イスズちゃんの地獄耳によると、怪人4体に幹部級1人! 戦闘員は三桁ちょっと! まぁ二人でいけるっしょ! 協力して殲滅して来なさいな! ほらおへんじ!!!」


「はいッ!」


「ひぃぃぃぃ!!!!!」



ダイジョブダイジョブ! 私がケツモチしてあげるし、変身したらコレぐらい……。あれ、二人とも妖精は? かなり前から妖精なしでやってたから普通に忘れてたけど。二人ともそっちのタイプだよね? ……あ、ミズキちゃんは無しでも大丈夫。んでマシロちゃんは……。まだ変身してないみたいだし、流石に補助いりそうね。


んで、その肝心の妖精は……。



「プルモどっかいっちゃいましたぁぁぁ!!!!!」


「学園に置いてきたんじゃないですか?」


「あー。んじゃ今日は無しで。生身で戦ってみようッ! がんば♡♡♡」


「しにますぅぅぅぅぅ!!!!!!」



えー。ワガママちゃんだなぁ。しゃーね。本気で危なくなったら取って来てあげよ。


それに、『ほんとに私の代わり』に成れるか確認もしなくちゃだしねー。






◇◆◇◆◇





しぬっ! しぬっ! こんな高さから落とされたらしぬっ! なんかイスズさん休日のお父さんみたいな感じで空で寝転がって新聞読み始めてるけど、私は死ぬんですぅ!!!


もう泣き叫ぶしか出来ない状況。一番頼りになるはずのイスズさんはなんか寛いで全然助けてくれそうにないし、ミズキちゃんって人はさっきからずっと私を睨んでますぅ! プルモがいないから変身どころかその仕方すら解んないしっ! もうしぬんですぅ!


マシロ! 落下死! たぶん死体も残りません! お葬式は家族葬でおねがいします……!



「チッ! 貴女も魔法少女ならしっかりなさい! でも、こういうのは……!」



私に怒りながらも、制服の胸ポケットの方に手を伸ばすミズキちゃん。そしてその手が引き抜かれた瞬間、手に握られていたのは、一枚の光り輝くカード。



「心躍るわよねッ! 『ルクス・イニシエイト』ッ!」



そう唱えて彼女がカードを投げた瞬間。空にいくつも浮かび上がる沢山のカードたち。それが落下ともにどんどんとミズキちゃんの身体に吸い込まれていき、魔法少女としてのコスチュームが出来上がっていく。


イスズさんみたいなオーソドックスな魔法少女の姿に、ちょっと騎士様のような鎧の意匠が追加されたカッコいい感じの姿。……わぁ! 変身のセリフも! 仕方も! すっごいカッコいい! 何ですかあのカード! 私も欲しいです! というか変身させてくださいッ! しにます!!!



「それはノンだね、マシロちゃん。知ってると思うけど、魔法少女の変身アイテムは人それぞれなのサ! 系統が似ることはあっても、その辺りは妖精の担当だからねぇ。私らが決めれるのは名前と、イメージで出力されるコスだけさね。」


「そうなんですか!?」


「んだんだ。だからプルモくん? ちゃん? のセンスに期待することだね。最近はお上が外務省通じてあっちに要求飛ばしてるからマシにはなってるんだけど……。私の先輩だった人ね? 変身アイテムが『アジの塩焼き』タイプで発狂してたから、あんまり希望を持ち過ぎないようにね。」


「「あ、あじのしおやき???」」



思わず私とミズキちゃんの声が重なる。



「そうそう、お店で食べる時ミョウガとか大根おろしが真ん中に乗ってるでしょう? その部分を勢いよく引き抜くことでトリガーにして、変身するの。『スウィートサンデー』とか可愛らしい名前だったのに、アジだったからね……。しかもいつも魚臭かったし。」


「「う、うわぁ……。」」



なんかもう。すごく悲惨ですね。発狂しちゃうのが理解出来ちゃいます……。あ、そう言えばイスズさんの変身アイテムってどんなの何ですか? テレビでもそういうの一切見たことなかったからずっと気になってたんです。……もしかしてイスズさんも色物枠?



「あはー! 先輩。しかも私に色物って言える胆力良いねぇ!」



お腹を抱えてけらけらと笑うイスズさん。


あ、いや。別にそんな意味で言ったわけじゃなくて、話の流れと言いますか……! だ、大丈夫だよね? これイスズさんの地雷じゃないよね? 私落下する前に死ぬみたいな変なことにならないよね!? ん? あ、どっちみち死ぬじゃん。やだぁぁ!!!!



「そう怖がらないでよ、あはー! っと、私のだけど、残念ながら普通だよ。でもアイテムのデータは全部お上が集めてる。気になったら西辺りに見せて貰えばいいんじゃない? んで、話変わるけどさ……。マシロちゃん。もう地面だけど五点設地できる?」


「え?」



思わず地面を見た瞬間、そこにあるのはいつもの地面。


私がとっても高い所から落とされちゃったことを除けば、とーっても待ち遠しかった大好きな地面。


あ、あははッ! 私の最後の記憶、アジの塩焼きなんだ! わらえない……ッ!



「ぎゃぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!」






〇魔法少女の名前について


所謂戸籍みたいなものなので、そう簡単に変えられない上に最長でも6年経過すれば卒業して使わなくなるので基本的に変更が受け入られることはない。一応魔法少女の中で上位と言われるような実績を積めば改名手続きができるのだが、そういう子たちほどそれまでの名前で知名度を得てしまっているため変えられなくなってしまっている。


ちなみにイスズを筆頭に『この名前つけた過去の自分を殺したい』と思っている魔法少女は結構いる模様。だって中1とかいう超多感な時期に名前つけるんだもん。しかも魔法少女っていう特別な力を手に入れたわけだから、みんな舞い上がっちゃって凄い名前付けちゃうんだもん。



〇イスズの使える魔法


そもそも魔法少女には、それぞれ一系統、得意分野の魔法が存在している。


メスガキならば『省略』、西ならば『感覚器の崩壊』、時間系魔法少女ならば『時間』、ひやむぎちゃんなら『ひやむぎ無限生成』のように、多種多様な魔法が存在し、得意分野も人それぞれ。勿論よくある『炎』、『水』、『風』のようなものもある。イスズの得意な魔法は政府の要請から公表されていないし使用も滅多にしないが、本人は拳で殴った方が早いと思っているので全く問題はない。


彼女達は自分たちの系統に合わせて魔法を学んだり作ったりしていくのだが、長年の経験により魔法を分解し理論化することに成功。引退した魔法少女などを中心に、日夜魔法開発が行われている。


イスズはその魔法自体を見てそのままコピーすることは出来ないが、構築式を見せられれば大体扱えるタイプの人間。つまり2を見せられてもチンプンカンプンだが、1+1=2と表記されれば理解して使える上に、2を53万くらいに増幅して殴りかかって来る。


最近のお気に入りは『再生』『無効化』『無重力』あたり。やったねマシロちゃん! 死なないよ!





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