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2:後輩が卒業してく


「ん~、鯛めし美味かった! さすが地元の人は美味いとこ知ってるねぇ! あ、田中管理官。土産買ってきたけどいる? ついでに事務官の人たちにも渡しておいて。」


「了解です。わざわざすいません。」


「気にしな~い気にしな~い。まじかるまじまる。」



適当にそう言いながら、さっき田中が開けた窓から部屋の中に入る。


ん~、お腹いっぱい。怪獣倒したってことで定食屋の女将さんが奮発してくれたから30人前ぐらい食べさせてもらったけど、やっぱご当地グルメは良いよねぇ。……あ、ちゃんとお代は支払ったしサインも書いてきたからね? その辺りはもう12年もやってるんですから、慣れてるってもんです。



「相変わらずの健啖家で何よりです。引退してもフードファイターとして食べて行けそうですよね。」


「え! 引退していいの!?」


「駄目です。」



え~、ケチ田中。


そう愚痴を吐きながら、このビルの執務室。私用に立ててもらった自宅兼事務所のソファに寝転びながら、ちょっとあくびを一つ。お腹いっぱいなのもあるけど、ちょっと一眠りしたい気分。何せ昨晩徹夜だったし、睡眠時間全然足りないのよね。



「田中管理官~。労働環境改善して♡」


「では悪側の存在たちにお願いしてみるのはどうでしょう。イスズさんなら拳を叩き込めばすぐに首を振ってくれそうですが。」


「私が殴った奴は全員死んでるぞ♡ お願いなんて無意味♡ 全員死ね♡」



魔法少女っていうお仕事は、本当にブラックだ。


私達魔法少女が誕生した直後は『魔物』の対処だけで良かったらしいんだけど、今はそれ以外にも色々対処しなきゃならない。いつの間にかポコポコ産まれだす『悪の秘密結社』や、異次元がからやって来る『怪獣』、星を滅ぼしに来る『宇宙人』など様々。あと自然災害と他国の魔法少女が少々。


戦わなければいけない敵は、昔に比べたらずっと増えているのだ。年齢制限がある上に適性者が限られている魔法少女の仕事量は、自然と増えてしまう。



(各地に散らばってる魔法少女、地元に根付いたタイプの子たちも頑張ってくれてはいるんだけどね……。)



チーム組んで頑張ってみたり、担当地区を細かく分けてやってみたり。試行錯誤しているみたいなんだけど、どうしても許容量を超えてしまう瞬間や、その子じゃ絶対に対処できない敵とかも出てくる。だからそれをカバーする全国どこにでも出張できる魔法少女、私みたいな上位勢がいるわけだ。


でも? 私みたいなトップになるとね? 回ってくる仕事全部クソ厄介なのよ。


そもそも私って『最強』ちゃんでさ。日本の私以外の魔法少女が束になっても1秒も持たないっていわれてんのよ。実際持たないだろうし。つまり私の仕事ってね、『イスズちゃん以外誰も出来ませーん!』なクソ高難度ばっかりなの。日本以外からもドカドカ流れ込んでくるの。


今日みたいな怪獣はまだぶん殴れば終わるけど、国一つ洗脳されてたり、世界中の核兵器管理システムが乗っ取られて日本に降り注ごうとしたり、超科学力をもった宇宙人が『愚かな人類は家畜にしてやるのです! 感謝するのですー!』とか言いながらダース単位でやってくるからもう大変。



「……全部数秒で対処しておられますし、肉体的疲労はそうないのでは?」


「トイレ行ってる最中に救援来て必死に『助けてくださいッ!』って叫ばれた時の私の気持ちわかる?」


「…………謝罪させてください。」



解ればよろしい。


私も私でトップ張ってるわけだし、国の顔みたいなもんだから色々気を付けないといけない。それに結構メディア露出しているもんだから、必要ならば今日の幼稚園児ちゃんたちの前みたいに『みんなのイスズちゃん』として振舞う必要が出てくる。一歩外に出た瞬間、休めるタイミングなんかないのだ。


そもそも魔法少女になった時点で犠牲なんか出せるわけない。最強で最後の砦な私は、ずぅ~っと即応待機する必要があるんだよね。最近じゃどれだけ寝てても救援の電話来る1分前くらいに起きれるようになっちゃった。


……私人間か???



「まぁいいや。んで? 何か話したそうにしてるけど、なんかあったの?」


「えぇ。実はお話しておくべき案件がありまして……。イスズさんが在籍する学園ですが、どうやら新入生の魔法少女が一人増えたようです。あちらの担当管理官から挨拶を頂きました。」


「……またスパイ?」



まぁこんな身分だ。いつの間にか私の恋愛対象が女性ってこともバレてるみたいで、たまにそう言うのが流れてくることがあるのよ。『同じ魔法少女ですし仲良くしましょう! できたら夜の関係も!』みたいな顔して情報を抜いて行ったり、私を殺そうとしたり、日本から離反させようとしてくる奴。ハニトラね。


企んでる奴は大体わかるし、全員もれなく“わからせ”てもう二度と私に歯向かえなくした後。スパイ送って来た国、もしくは組織にお礼参りしに行くんだけど……。



「いえ。こちらでも追加で身辺捜査等行いましたが、どうやら正真正銘“普通”の方のようです。しかも今時珍しい高校生で1年目の方の様で。」


「へー。一斉検査で中学スタートの子増えてるのに、珍しいねぇ。まぁ何もないならそれでいいんだけど。」


「……なぜ残念そうな顔をしていらっしゃるので?」



だって楽しいじゃん。スパイちゃんと一緒に突撃するの。


いやぁ、だってこの前なんか壮観だったじゃん。双子のスパイなんていう面白いコンビをさ。両手に持ってW人間バットにしながら全部薙ぎ払っていくの。


私壊すタイプの魔法少女だから回復とか苦手だけど、両手から『再生』の魔法流し込んだおかげで、どれだけ振るっても壊れない上に、殴った奴も壊れないようにできたんだよ? 殴って吹き飛んだところから逆再生みたいに戻って行くの! つまり手加減不要っ! 永遠に拷問できる!


あっちの諜報のトップを何も考えられなくなるまでペシペシしたのは良い思い出です!



「わ、私達がどれだけ後始末に苦労したと……。」


「やろうと思えばその国だけ引っこ抜いて宇宙にポイできるんだから、我慢した方でしょう? それにあちらは速攻で切り捨てたし、そこそこに優秀なあの双子ちゃんを日本に引き込めたわけだし。一応国の利益考えて動いてる方だと思うけどなぁ?」


「せめて相談してからコトを起こしてください。あと、あのお二人は引き抜きじゃなくて恐怖による従属です。貴女の名前を出すだけで泣き喚きながら土下座して許しを請うんですよ? あちらの担当官からお小言がロット単位で来てます。」


「そうなの? まぁいいや。んで話戻るけど……。その新人ちゃんの担当官はなんて言ってたの? 普段ならそっちで処理してるのに、私に言う必要があるんなんて珍しいじゃん。」



ソファに寝そべりながらそう聞いてみると、彼が一枚の紙を手渡してくれる。


田中のような魔法少女管理官、所謂後方のサポート係の人たちが良く使ってるメモ帳の切れ離しみたいだけど……。



『お久しぶりですイスズ先輩! 無事研修が終わりまして、今年から管理官として働くことになりました! そんな担当の子が、先輩と同じ学園に通うという話でしたので! 是非何かご指導いただければ幸いです! あと今度一緒に飲みに行きましょう!』


「4年ほど前に魔法少女を引退し、管理官の道を進まれた西さんですね。」


「……ごめん、ちょっと泣いていい?」



なんで後輩が卒業して就職してるのに、私はまだ高校生してるんですか……???







◇◆◇◆◇






「マシロちゃーん。いるー?」


「あ、はーい! 今開けまーす!」



場所は変わり、都内のとあるマンション。政府による認可と定期的な調査、そして半ばやり過ぎとも呼べるような防犯対策が施されたそこに、そこに一人の管理官が訪れていた。



「荷解きはもう終わった?」


「はい! 万全です西さん!」


「プルモも頑張ったプ!」


「そう? じゃあお邪魔させてもらうわね。あと引っ越し祝いのお菓子。買って来たわよ。」



渡されたお菓子、妖精と共にちょっと開けてみる彼女だったが、まるで宝石箱の様にキラキラとした洋菓子がたくさん入っている。どうやらとても嬉しかったようでぴょんぴょんと跳ねながら、担当管理官を迎え入れる一人と一匹。


淡い桃色の髪を持つ彼女の名は、新人魔法少女である桃園マシロ。


桜咲き誇るこの季節に、女子高校生と一緒に魔法少女も始めることになった少女である。元々片田舎で生活していた彼女だったが、高校進学時に行われた『魔力検査』により適正が発覚。一気に彼女の人生は代わり、進学先が変更。その後、外務省が管轄する『妖精斡旋』の部署から紹介されたプルモと出会い、親元を離れ担当地区である大都会東京まで引っ越してきたのだ。



「本当は地元でさせてあげたかったんだけどね。流石に5年前に1件だけしか問題が起きてない地区に魔法少女を置くのは上からの許可が降りなくて……。」


「いえ! 全然大丈夫です! こんな都会に住めるなんて夢みたいです!」


「プルモもプ!」



二人で顔を合わせ、ねー! と言い合う魔法少女と妖精。


ドが付くほどの田舎で生まれ育ったマシロからすれば、東京のような人と物と建物で溢れた世界は憧れの場所であるし、妖精という別世界からやって来たプルモからしても始めてみるモノばかりでとても楽しい。気が合ったようで既に打ち解けた二人は、新天地での生活に全く不満を覚えてはいないようだった。


それに少し安心しながらも、担当管理官として西が口を開く。



「それで? 高校に行く必要があるって言ってたけど、ちゃんと行けた?」


「まったく! さっぱりわかりませんでした!!!」


「えぇ……。」



妖精と二人して謎に胸を張るマシロ。



「きょ、今日って確か学生証とか書類の受け渡しだったんでしょう? そこにあるってことはたどり着けたんでしょうけど……。」


「おまわりさんに送ってもらえたから何とかなりました! たぶん私達だけじゃ学校どころか家にも帰って来れなかったと思います!」


「……ごめんなさい、一緒に行った方が良かったわね。」



マンションから彼女が通うことになる学校は、電車とバスを乗り継いで大体30分ほどの距離に存在している。しかしながら一日数本しかバスが来ない土地出身のマシロからすれば、東京の迷宮としか呼べない駅内はもう確実に迷うしかなかった。


妖精と二人して地図をにらめっこしながら歩き回ってみたのだが、気が付けば何故か都外に出る電車に乗ってしまい、千葉の端っこまで行きそうになってしまったのだ。慌てて飛び降り戻れたは良いものの、また乗り間違えたり、そもそも駅内から出られなくなりそうになったり。


魔法少女であることを証明する認証カードと妖精の存在のおかげか、見かねた駅員さんやお巡りさんに助けてもらったようだったが……。



「明日入学式でしょう? 迎えに行くし、それ以降も何とか時間作って一緒に登校するから、頑張って道覚えましょうね。」


「え、えへへ。すいません。」


「貴女たちの公私を支えるのが管理官の仕事だから気にしなくていいの。現役の頃は私もかなり助けて貰ったし、ね。それで? 担任の先生にも挨拶したんでしょう? どんな感じだった?」


「あ、はい! すごい優しそうな人でした!」



本来、彼女が通う高校では入学式の後に顔合わせや諸々の書類配布が行われるのだが、『イスズが通っているせいで』政府直轄になった故に、様々な魔法少女向けの制度が拡充している。学生証などの事前配布も、その一環だ。


ちなみにだが、出席日数や補習制度の拡充に、授業中に事件発生の報告を受けてもすぐに出動できるように教師陣への通達や、魔法少女の活動を妨害せず少女たちの成長の糧になる様な生徒の配置。緊急時は簡易な要塞化を行えるような設備や、魔法少女が最適な休息をとるためのカウンセラー含めた医療チームなどなど。東京都に住む魔法少女たちが進学先として真っ先に上げる程度には環境が整った学校な様子。



「そりゃよかった。前も言ったけど、私の母校でもあるし色々やりやすいから全力で楽しんじゃいなさい。それと困ったら……、先輩を頼りなさいね?」


「先輩、ですか?」


「そ。私の先輩で、私達の先輩。基本学校にはいないだろうけど、連絡先預かって来たから登録しておきなさいね。……『マジカル☆イスズちゃん』流石に知ってるでしょ?」


「「も、もちろんです!」だプ!」



前のめりになりながら、合わせて声を出すマシロとプルモ。


何せイスズの活動開始時期は今から12年前。未だ高校一年生でしかないマシロが幼稚園児になる前から発動しているのである。テレビを付ければ毎日彼女の活躍が報道されているし、彼女が小学生になる頃には既に社会の教科書に載るレベルの存在だった。ちなみに『マジカル☆イスズちゃん』が正式名称であるため、教科書にもそのように表記されている。


無論そのレベルになれば関連商品なども大量に発売されているため、日本で生きていて彼女の顔を見たことがない人はいない。小さいころ両親に頼み込んで買ってもらった、防衛省開発『マジカル☆イスズちゃんステッキ』の玩具は、マシロにとって実家からこの家に持ってくるほどの宝物である。


妖精のプルポにとっても、妖精界で彼女の名を知らない者はいないらしく、鼻息を荒くしている。



「凄いですよね! イスズちゃん! それが西さんの先輩だったなんて……。あれ、“先輩”?」


「マシロちゃん。お願いだからそれを疑問に思っても口にしないでね。本当に。」


「ア、ハイ。」



一瞬、明らかに成人している西さんの先輩がまだ高校にいることに疑問を思ったマシロだったが、真顔を超えた形容しがたい顔の西からの忠告を受け、気圧されてしまう。


実際に西が現役だった際に『え~♡ 先輩、今一体高校何年生なんですか~♡』と煽ってしまった同期の魔法少女が、拳で消し炭にされてから再生されるという事件が起きている。ちょっとアレなイスズではあるが、その辺りの線引きはしっかりしており常人相手には一切そんなことはないのだが……、相手が同じ魔法少女であったことが災いしたのだ。


イスズからすれば『何言ってんのよ~!』と揶揄いに対し軽く背中を叩いただけだったようだが、ちょっと本人からしても軽く流せないことなので感情が乗ってしまい手加減に失敗。イスズ本人が当時『再生』系の魔法を取得していたおかげで最悪の事態にはならなかったが、この事件のせいで魔法少女界隈で彼女の年齢について触れるのはタブー化している。


つまり、化け物の逆鱗に触れる様な事はやめておきましょうね、という話である。



「ま、基本良い人だし。頼りになる人ではあるんだけど、揶揄うのと目標にするのは……、あぁうん。何でもない。とにかく年齢には触れないこと!」


「目標……? あ、はい! 解りました!」




〇マジカル☆イスズちゃんステッキ


防衛省と幾つかの民間企業が総力を挙げて開発した魔法少女専用兵装。9年ほど前の侵略型宇宙人が地球に宣戦布告した際、当時既に最強だったイスズちゃんに武器を持たせ宇宙人を追い払ってもらうため開発された。しかしながらイスズが魔力を流しただけで爆散し、本気で振るえば強度が足りずまばゆい光を発しながら消滅するという事態に陥り、実戦投入は見送られた。


結局イスズが相手の母船を拳で吹き飛ばしたことで解決したのだが、『人類が彼女に武器を用意することは不可能』と結論付けられ、他にも進んでいたイスズ向け兵装開発計画のすべてが廃止される結果となった。


なお現在はそのレプリカが『鳴る! 光る! 歌う! DXマジカル☆イスズちゃんステッキ!』として4850円で販売されており、本人が販促CMに出演している。



〇メスガキ魔法少女(魔法少女ネーム:イビルエンジェル)


既に卒業し、現在は配信者をメインに活動中。


元々魔力への適性が高く、イスズがいなければ国のトップを張れていただろう人物。当時の日本No.2。魔法少女界隈でも『もしかしたらイスズさんの足元ぐらいにはいけるんじゃね?』と期待されており、何体かの怪獣及び侵略宇宙人の一部を撃滅するなどの成果を上げていた。


しかしながらあまりにも壁が大きすぎてちょっと擦れてしまい、イスズを煽って消滅を経験。その結果イスズを見るだけで失神&失禁してしまうほどのトラウマになってしまい、メスガキも引退しかけた。だが不屈のメスガキ魂で復活を遂げ、卒業までに煽りに煽りまくって計84回ほど消滅からの再生を遂げ、定年(高校卒業)によって退職している。


今でもイスズとは仲が良く、たまにお互い変装した姿で飲み屋街をギャハギャハ笑いながら歩いている姿が目撃されている。引退魔法少女飲み会での『消滅芸』は一見の価値あり。政府からは厳重注意を受け続けているが、全て無視している。






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