1:辞めさせてくれない
「んふー! 見てよ田中管理官! コレ! 新品の学生証!」
「……今年で何回目ですか、留年?」
「6回目だよッ! クソがッ!!!」
はぁい! なんか見られてる気がするから適当に挨拶しとくよ!
私の名前は蒼崎イスズ! なんか気が付いたらこの現代日本みたいな世界にTS転生してて、気が付いたら魔法少女になってるピチピチの高校三年生! とーっても頑張ったおかげで『最強』の名をほしいままにしているマジカルガールなんだぞ! しかも政府とかが全力でバックアップしてくれるおかげで、お金もたーっくさんもってます! あはー! もう人生勝ち組ってやつですねぇ!
私がもう24ってことを除けばなぁッ!!!!!
「そもッ! なんで! まだ私魔法少女やってんのッ! 長くとも中学生から高校生の6年間だよねッ! 2週目! わたし2週目おわっちゃう! 今年で2週目終わっちゃう! こんなババアにひらひらキュルルンな服着せんなボケェッ!」
「24でババアはちょっと。それと、コスを決めたのはイスズさんですので……。」
「周り考えれば十分ババアじゃッ! あと中一のころの私ッ! しねぇぇぇ!!!!!」
当時の私はね、うん。魔法少女に選ばれて光栄だったんですよ。
前世男っていう記憶はあれど、当時13歳の私は13年間もこの世界で生きていたのです。当時から魔法少女がTVに映って可愛らしく戦う姿は見てましたから、『私も世界を守るために戦うんだ!』って張り切りましたよ、そりゃぁ。当時で精神年齢アラフォーでしたけど。
んであの時はまだいた妖精のクソと一緒にコスチューム考えて、私の顔が可愛い系だったこともあり、年相応のキラキラコスチュームになったわけ。恥ずかしかったけど、クソ妖精や当時の担当官、両親からも『可愛くていいじゃない』と半ば押し切られ、私は魔法少女になったんです。
あとはまぁよくあるように、なんか変な魔物みたいなのと戦ったり、悪の秘密結社を吹き飛ばしたり、異次元からの怪獣を撃滅したり、侵略宇宙人を太陽に沈めたり、他国の魔法少女と殺し合いしたり……。うん、気が付いたらもう今年で12年目なんだよねッ!
「わかるッ!? 私の気持ちッ! 同期だった奴が既に卒業してッ! なんか結婚してッ! 子供までいるんやぞお前ッ! 私に『抱いてくれない?』とか言いながら子供見せに来たんだぞお前ッ! 旦那と一緒に幸せそうな顔してッ!!!」
「でもイスズさん恋愛対象女性ですよね?」
「それとこれとは話が違うんだよッ!!!!!」
わたしがッ! 何回ッ! 送られてきた結婚披露宴の手紙に『不参加』丸付けて送って来たか知ってんのかお前お前ッ!
仕事忙しいからって理由だけど、8割くらい気まずさしかなくて断ってるんやぞ私! 確かにTS勢だから昔も今も恋愛対象は女性だけどッ! 去年卒業した後輩が卒業式直後に結婚式挙げた私の気持ちが解るか!? 無理矢理呼ばれて旦那と幸せそうな顔見せつけられた時の私の気持ちわかるか!? あぁッ!!! なんかもう色々取りこぼして置いていかれる気しかないんだぞお前ッ!
早くッ! 卒業ッ! させろッ!!!
「いえ、魔法少女は“少女”だから成立するのであってJKである必要は必須条件です。それに、日本どころか世界最強のイスズさんが引退されると、我が国の弱体化は免れず世界情勢が……。」
「もう国会議事堂ごと吹き飛ばしてやろうかッ!?!?」
「もう先月吹き飛んでますし、現在再建中ですのでご遠慮ください。あ、その解決に関する報酬ですが、こちらに纏めておきましたので、ご査収ください。」
「あ・り・が・とッ!!!!!」
私の担当管理官である田中(偽名)の手から、先月起きた国会議事堂爆破事件における報酬金の明細を奪い取る。
コイツのいう通り、この世界に置いて魔法少女ってのはかなり大きな存在だ。現代兵器が通用しない魔物に対抗するため妖精の力を借りて戦い始めたのが最初みたいんだけど……。対抗する悪が色々と増えすぎた結果、国家お抱えのヒーローみたいな存在になっている。ま、歩く核兵器みたいな感じ?
国も魔法少女を確保するために動くし、数を保持して今の平穏を維持するために奔走している。でも私みたいな化け物級はちょっと扱いが違って……、マジで前世における核と同じ抑止力として使われているのだ。お陰様で私は永年魔法少女だし、日本は現在国際社会のトップを走っている。まぁトップって言っても色々問題あるし、私が名実ともに最強になったのは10年前。そこから色々苦労しながらお友達のアメリカちゃんと頑張ってるらしい。
「そもそも、イスズさんが未だ魔法少女としての力を保っているのが原因なんですけどね。通常18を超えた瞬間、急速に力が落ち込んでいくはずなのですが……。」
「私にわからんこと聞かないでくれる? 妖精のクソも『なんかもう色々怖いっピ。意味わからんピ。お願いだからお暇させてくださいっピ。ころさないで』とか言いながら夜逃げしやがったからな。」
「お労しや……。」
それ絶対妖精に対して言ってるだろ。
まぁ色々叫んではいるが、私が弱体化するか後継となる様な存在が現れるまでは頑張り続けないといけないことは理解してる。まだ卒業してない慕ってくれる後輩もたくさんいるし、裏事情なんかなーんも知らない無辜の市民は私のことを求めている。
ま、これでも魔法少女ですし? みんなの安全と希望を守るために……。
悲鳴、260kmぐらい先。名古屋あたりか?
「田中、窓開けろ。」
「はい、後処理に関しては現地の担当官に連絡しておくのでご心配なく。可能でしたらそちらの魔法少女に経験を積ませて頂けるとありがたいです。」
「場合によるけどな? あ、あとついでにメシ食って来るわ。」
そう言いながら、軽く床を蹴り窓から外へ。
魔力を持って軽い身体強化を体に施し、空気を蹴ってより高度を上げる。ちょっと力を入れすぎると大気圏飛び出しちゃうからコレぐらいで……、っとッ!
瞬間私の視界が流れていき、ソニックブームを魔力によって打ち消しながら、声が聞こえた近く上空へと現着する。たぶん声的に結構大き目の敵かと思ったんだけど、ここからすぐに解んない感じ怪獣系ではないか。良かった良かった。アレ後処理面倒いんだよね。
んで、肝心の奴は……アレか。はいはい、組織系ね。
「ゲースゲスゲスッ! この幼稚園バスは悪魔帝国の忠実なる下僕、ローリコンが確保してやったでゲスッ! これでゲスの評価もうなぎ登り! ついでに寄って来た魔法少女も確保して幹部に成り上がってやるでゲス! 戦闘員たち! なんかこう、いい感じに暴れてアイツらを呼び出すでゲス!」
「「「スッスー!」」」
「やだー!!!」
「助けて!」
「ままー!!!」
「はーい、悪い事やめましょうねぇ。」
音なく敵戦闘員の真横に着地し、そいつの顎を殴り飛ばし空中へと吹き飛ばす。そして軽く踏み込み、他戦闘員の眼の前へ。軽く何度か繰り返し、最後に未だ何が起きているか解っていない敵指揮官。怪人の顎も同様に殴り飛ばす。そして気づけばいつの間にか出来上がる、宙に浮かんだ悪党たちの球体。
「あ! イスズちゃんだ!」
「いすずちゃーん!」
「助けてくれた!!!」
「ア、スゥ……。それぐらいの年齢層ね。」
ゆ、夢壊さないようにしなきゃ……。
半ばやけくそになりながら、出来るだけ幼さの残る仕草、そして声で子供たちに話しかける。これ色々きついからほんとやりたくないんだけど、ちっちゃい子みんな「やってやって!」って言うから辞められないんだよね。顔は全力の笑顔だけど、心は虚無です、はい。
「みんな! 大丈夫!? わるーい人たちは、このマジカル☆イスズちゃんがぜーんぶやっつけちゃうからね! それじゃあみんな一緒にやってみようっ! まじかる~?」
ほんとは拳で殴った方が早いしそっちの方が得意なんだけど、ファンサービスの意も込めて両手でハート型を作りながら魔力を其処に集めていく。形成するのは勿論、ピンク色のハート。無論みんなの応援で一緒に倒しますよ~? って感じのパフォーマンスは忘れず、園児の子たち全員がハートを作ったことを見届けながら……。
空中で固まり、重力によって落ちようとする悪党たちの球体に、放つ。
「ビーム!」
「「「びぃぃぃむ!!!!!」」」
みんなの声と一緒に解き放たれたソレ。
私の魔力って本来は青色に近いんだけど、みんなの為にピンク色に装飾したソレが、全てを包み込み、天へ伸びていく。公式設定(政府発表)では魔法の不思議な力で浄化されてみんなお家に帰るぞ! となっているが、単なる高出力ビームで消し飛ばしているだけだ。
うーん、大人って汚いね! なりたくないや! でももう後輩に追い抜かれるのキツイからそっち側に早く行かせてください……。
「うんうん! みんなのおかげで悪い人ぜーんぶお家に帰っちゃったみたい! だいしょうりー!」
「「「やったー!!!」」」
「はーい、じゃあみんな危ないから、先生と一緒に一回バスから降りて2列に並ぼうね! あ、静かにそろーり作戦だよ? イスズちゃんとの約束! ……先生、全員いるかどうかの確認お願いしますね?」
「あ、はい!」
はぁぁ、まぁ取り得ず大きな被害出てないし。良かったってことにしとくか、うん。相変わらず私の心に大ダメージだけど、子供たちが無事でなにより……。
あ、また悲鳴だ。しかも振動的に確実に怪獣、60m級かな?
「ごめんみんな! イスズちゃん誰か助ける声が聞こえたの! そっちも助けに行くから、先生の言うことちゃんと聞いて、後で来ると思う他の魔法少女や警察の人の指示に従ってねー! じゃっ!」
後ろから待って! という声が聞こえた気もするが、あのでっかい奴に単身で対抗できるのは今の日本じゃ私くらい。新学期シーズンで去年まで主戦張ってた子たちが引退したいわゆる『過渡期』だから、私が頑張らなきゃならない。
人集めて即席チーム作れば多分討伐こそ出来るんだろうけど、それだと被害が出すぎてしまう。つまり速攻で蹴り上げて宇宙空間でボコボコにしないとダメなんだよね。死体放置したら怒られるから、後始末として太陽にポイしなきゃだし。
そんなことを考えながら、笑みを絶やさず手を振りながら空へと飛び上がり、先ほどと同じように空を蹴って現地まで飛ぶ。
すると即座に眼の前に現れる、トカゲ型の巨大生物。なんか見たことあるやつの強化版っぽいし、いつも通り異次元からの派遣怪獣だろう。一回そっちの次元に飛んで全員殺しつくしたはずなのにまだ出てくるねぇ。2,3日開けることになっちゃうけど、また消しに行った方がいいかな? なんやかんや面倒だし。
……ん? あぁ現地の子もう出撃してるのか。えらいねぇ。
「ッ! こんなのどうしたら……!」
「はーい、イスズちゃんが変わりますよぉ~。」
適当に声の方に飛んだから解らないけれど、おそらく瀬戸内海のどこかの現地魔法少女なのだろう。今いる魔法少女全員後輩だし、あっちも私の顔を知っているだろうから、軽く声をかけながらその横に降り立つ。
……ふむ、オレンジ髪のスタイリッシュな魔法少女。魔力量はちょっと心許ないけど、経験と技量で頑張ってるタイプか。オバちゃん後進が育ってて嬉しいよぉ。
年齢的に来年卒業ぐらいだろうから、また置いていかれそうだけど……、う~ん、やむ。
「い、イスズさん!?」
「はいイスズちゃんです。まじかるまじかる。名前知らないけど後輩ちゃんも大変だねぇ、関東なら出現前に私が対処できたんだけど。あ、終わったらこの辺りのご飯屋さん教えてくれる? お昼まだたべてないのよ。」
そう言い切り、彼女が口を開くよりも早く、地面を蹴り害獣の眼前まで飛ぶ。
相手の瞳がこちらを映し出し、何か行動を起こそうとするが……。その思考が起きるよりも早く、その顎を蹴り飛ばし意識を刈り取る。60m級の巨体だが、確か2年目ぐらいの時に宇宙空間で解体してその構造は大体覚えている。人間同じく顎を蹴り飛ばしたら脳震盪で気絶してくれるから安心だね。
「でも後処理がなぁ。またJAXAとかNAXAからお小言もらいそ。」
反対側に倒れ伏しそうになる怪獣の背中に回り込み、そのまま持ち上げ軽く空気を蹴り上げる。
すっと加速し、周囲からどんどん空気と色が消えていき、気が付けば宇宙空間へ。普段はこの辺りで二度と復活できないよう軽く解体してから太陽に捨てに行くんだけど……、今日はもう面倒だ。足裏からちょーっと魔力を噴射して数秒。若干暑くなったなーと思えば太陽の真ん前。そこに怪獣ポイしたら作業終了って感じだ。
「はぁ、朝からというか。魔法少女になってからずーっとこんな感じだよなぁ私。この前の休み何年前かワカンネ。やっぱ妖精に会ったころの『もしかしてあの魔法少女たちとキャッキャうふふ百合百合できるのでは!?』とか考えてた私ぶん殴りてぇ。今の私なら確実に殺せるだろうし。」
……あ、そう言えば今日まだ変身してなかったわ。
つまり学生服のまま幼稚園児ちゃんの前に出ちゃった、ってこと? あ~。やらかしですねこれは。あとで田中に頼んで私のグッズとか送ってもらっとこ。制服なんかよりコスチュームの方見たかっただろうし。
「いっけな~い! マジカル☆イスズちゃんまた失敗しちゃった! ……自分で言っておきながら死にたくなるな。まぁいいや。瀬戸内海ってことは魚系おいしそうだし、それ食べてちょっと元気だそ。」
〇蒼崎イスズ
つよくてやばくて若干頭がおかしいやつ。善人ではある。
濃い青髪ツインテ24歳独身魔法少女。
〇魔法少女などの強さについて
魔法少女初日の変身者でも、戦車や戦闘機と1対1で戦って圧倒できる程度の強さを誇っている。ただしこれは魔法少女にも搭載されている『現代兵装などの無効化』が通用しない仮定に基づいた算出であるため、実際に戦えばどれだけ数を集めてもそう勝てることはない。
またそんな変身初日の初心者魔法少女の強さを1とした場合
魔物
1~100
悪の秘密結社
1~10,000
怪獣
10,000~
各国のトップ魔法少女
10,000~
侵略型宇宙人
100,000~
未変身のマジカル☆イスズちゃん
530,000~
なイメージとなっている。
日刊世界の危機だが、それでも何とか世界が回っているのはマジカル☆イスズちゃんのおかげである。(大本営発表、事実)