希望
「へくしっ! ああ……さむっ」
まだ夜が明けていない時間帯の冷え込みを肌で感じ取り、メレは今日では既に使われなくなった森小屋の中で肌を摩る。こんな早くに起きた訳は、事前に昨日にこの時間帯に起きると決めていたからだ。
冒険者の裏の仕事をしていたメレにとって、三時間も眠れば一日をフルで活動できる体に仕上がっている。なりたくてなった体ではないが、時間を有効活用できる分には気に入っていた。
「ふぁ~ほな行くか」
あくびをしながら立ち上がり、ボロい小屋を後にする。
エドワードと別れてから一年あまりが経った。殆どが逃亡生活にのようなものだった。クソの友人から無理矢理肩代わりさせられた借金を返すだけの関係だった老害を殺してから、その後ろ盾の組織や下っ端の子分諸々に追い掛け回されていた。身を隠して各地を転々としていくうちに、エドワードからは大分離れてしまっていた。
忙しない日々が続いたが、不思議とメレは窮屈に感じなかった。借金を返さなければと常に考えていた、エドワードと出会う前の日常の方が、よっぽど窮屈だった。牢獄から解放されたような、以前では絶対に感じ得なかった楽があった。身体的な疲れよりも、精神的な重圧の方が自身を削るのだと理解できた。これならばもっと早くに行動に移すんだったと、エドワードに感謝しているくらいである。
何より苦痛に感じないわけは、エドワードの存在が絡んでいることを己でも認めていた。
逃亡生活と同時進行して、フィリアに対して不信な動きが見られる厄介者を排除する作業も進めていた。噂が流れれば、些細な違和感を感じ取ったら、迷わず行動を開始し、黒であれば即滅。そんな大胆な動きを何度かしていたため、色々危ない目にあってきたが、友人の平穏を守るためならなんて事の無いものだった。
これは償いでもあった。優しい彼への八つ当たり、あのか弱い少女を怖がらせてしまったことへの謝罪。やらなければならない義務があり、メレにはやり遂げる責任があった。それに自分がいることによって、あの二人が幸福のままでいられていると思うと、やっている達成感があった。
メレは過ごす時の中で人生を振り返っていた。
家は貧乏で、父親はとっくに死んでいて、母親は殆ど家にいなかった。同じ地区で近くに住んでいる同士であったから、殺した友人とは必然的に一緒にいることが多かった。「冒険者になって、もっと楽な生活を送ろう」。そんな言葉をどちらかが言ったのがきっかけで冒険者を目指した。
結果それなりに稼げるようになって、そんな日々を悪くないと感じていた。それが徐々に悪い方向へと沈んでいって、自らの手で打ち壊した。見る目がなかったと言う他ない。よく思い返してみれば、殺した友人は、面倒なことは自分に押し付けて、逆に自分に得がありそうなことは横取りするなどをしていた記憶が多々ある。当時のメレは頼られてると思って盲目になっていたのだろう。人生選択を誤るとこうなってしまうのだと身をもって知った。
酒の肴にもできない汚れた人生だが、今は綺麗な人たちと出会うことができた。不幸な人生のおかげと言うわけではないが、エドワードに出会って良かったと思っている。あんなに真っ直ぐした目を向けられたことはない。
友人なんて二度とごめんだと固く誓っていたのに、彼はその自前の概念を真っ先に壊してくれた。会いたくないと言われてもおかしくなかったのに、また会おう、友人としてなんて言葉を言ってくれたのだ。涙が出かけたのを覚えている。
だからメレは、心から幸せになってほしいと思い、それを言葉にして別れ際に告げた。
「後どんくらいやろ」
そんなメレは現在、ある場所へと向かっている。次々と変な輩に追い回されていたメレだったが、二ヶ月前くらいからばったりとその予兆がなくなった。諦めたなと確信した。もしくは追っ手そのものが消えてしまったのか。どちらでも良かったが、メレの周りは静かになった。
蠅を振り払っていたのもあるが、メレは献身的に敵地に乗り込んで火を絶やしていたこともあってか、案外こうなったのは必然なのかもしれない。
そこでふと思いついた。会いにいこうかと。
落ち着いた今なら迷惑をかけないと、エドワードと顔を合わせたいと思い立ち、遠く離れた地から十日かけてエドワートとフィリアがいる屋敷付近まで辿り着いた。
別に会えなくても良かった。そう思ったのはフィリアとエドワードのことを考えたからだ。長い時間が経った今、人と人との関係は変わっていてもおかしくない。エドワードとフィリアが恋仲になったとしてもおかしい部分など何もなく、むしろそれをメレが望んでいるまである。
二人が結ばれれば、きっと幸せに違いないと自負がある。そうなればメレは邪魔になると考える。顔だけ見て、幸せな姿を記憶に残せればそれでもいいと思った。会うのはまだ先の機会に取っておく。
それで今は十分だった。
「懐かしいわ」
屋敷が眼前に聳え立つ。
中にエドワードとフィリアがいる。そう考えると少し緊張した。どんな顔をすればいいか、最初の一言はどないしようとか、色々考えてしまう。
「てか早過ぎたか」
問題が一つ。太陽は昇ったが、朝はまだ早い。こんな時間では誰も起きていないのではと今になって悟る。考えが甘いなと一人で笑った後、せっかくだから少しお邪魔させてもらうことにした。
「やってること不法侵入やな。捕まるのは勘弁してや」
独り言を呟きながら中に入るのはまずいと思い、とりあえず庭の方に回るかと足を動かす。屋敷にはまだフィリアを殺す命令が根深く棲みついてた頃、何度か下見をしにいったことがあったので、庭の場所はすぐにわかった。
「は?」
驚愕が声を裏返させる。広い庭だと視界に入れた一秒後、寝転んでいる少女の姿があった。日向ぼっこでもしているのかと思ったが、どう見ても寝ているというより倒れていると断言できた。
「フ、フィリアちゃん!?」
思わずでかい声を漏らしてしまったことに気づき、口を押さえながら駆け寄る。フィリアになら聞こえる声で語りかける。
「おいフィリアちゃん、どないした! 意識あるか?」
「……ぁ……エドワード……さん?」
「いやちゃうよ。とにかく運ぶで」
────
「ありがとう……ございます」
「全然ええよ。気にせんでええ」
フィリアを担ぎ上げ、指示してくれた彼女の部屋の元へと運び出した。横たわるフィリアの顔色は、良い物とは言えなかった。別れてから何があれば、あの生気に満ち溢れた顔がここまでになってしまうのか。
「どうして……メレさんがここに?」
「ああ、それな」
答えようとして、もっと他にやるべきことがあると気づく。フィリアが苦しんでいるのだ。身の上話に花を咲かせるより早く彼に声をかけなければならない。
「いや、話してる場合ちゃうよな。待っててや。エドワードさん連れてくるわ。後父親にも」
「もういません」
「へ?」
「彼はもう……いないんです」
そう告げるフィリアは、何かを思い出したかのように泣き始めた。メレは彼女が泣く姿を初めて見た。悲しみがフィリアの心に纏わりついている。何もかもわからないメレだが、ただ事ではない何かがあったことはわかった。
「何があったか、話してくれへん?」
────
「嘘やろ……それほんまか?」
「嘘を言うメリットなんてありませんよ」
メレは全てを聞いた。フィリアが母親の遺伝性疾患で倒れたこと、エドワードが必死になって探し回ったが治療法は見つからなかったこと、エドワードがだんだんおかしくなっていったこと、そして…………エドワードが去ってしまったこと。
庭でフィリアが倒れていたのは、単に久しぶりに変わった景色を見たくて無理して体を動かした結果、ああなってしまったらしい。メレは頭を抱えるしかなかった。
「信じられへん……なんでそんな……エドワードさんが……」
頭の整理が追いつかないが、メレは一つだけ明らかな感情を持っていた。
怒りだ。
見損なった。なんで見捨てた? 泣いてほしくないって言ったのは全部偽りやったのか? ここにはいない本人にぶつけたい言葉が山のように出てきた。失望しか見えていない中、フィリアが弱った体で強く言葉をかけた。
「エドワードさんを……責めないでください。それは筋違いです。彼は本当に……本当に頑張ってくれていたんです」
「フィリアちゃん……」
言われて自分の考えが浅はかなことに気づく。自分に真剣に向き合ってくれたエドワードのことを忘れたのか? あの時のエドワードはどこまでも真っすぐで、だからこそ友人になりたいと思ったんだ。考えてみれば、愛する人を助けるために身を削って頑張った先に、何も得られなかった現実が待ち受けていれば、どんな精神状態になるのか想像ができない。
それに自分だって自らの都合で二人を傷つけようした。かつてエドワードに言った。他人にとやかく言える立場に自分はいないのだ。そう感じるが、やはり煮え切らない部分はあった。
「全部……私が悪いんです」
「え?」
「彼が去って……私は悲しみに暮れました。その時考えてました。彼は去る前に言ったんです。「独りに……なりたくない」と。弱々しかったですが、まろび出た本音のように。気づいたんです。エドワードさんは孤独を恐れてる。誰もが死は怖いと揃えて言うように、彼にとって孤独とは、耐えられない苦痛だった。きっと家族の方たちでも消してはくれなかったと思います。でもその苦痛を……癒してくれる人を見つけたんです」
元気で活発で、人の先頭に立って周りを明るくする太陽のような存在。そんな人間が、独りはやだと思っているくせに喋るのが苦手な変な男に手を差し伸べ、友達になろうと言ってくれた。
グレン=シーディアスは、エドワードにとって心の拠り所だった。
「私も一度でいいから会ってみたかったです。きっとグレンさんとエドワードさんは、互いを想って、いつまでも隣同士で笑っていたいと思える……そんな……まさに理想の友人関係だったと思うんです。私が思うよりも、ずっと……ずっと尊い……」
短い小説などでは、到底語り切ることなどできはしない。
でもそんな日々は、突如泡が弾けるように消滅してしまった。
「どれだけ辛かったのでしょう。不安を消してくれる人が、忘れさせてくれるくらいの幸福をくれた人が、突然目の前で、いとも簡単に切り離されてしまう瞬間は……どれほどのものなのか」
フィリアも似た苦しい思い出がある。母親の死。何もできなかった自分を責めて、病んで、絶望した。惨めな思いは黒より黒く、後悔は中々消えてはくれない。現実を逃避したくもなる。失った命は、二度と戻ることはないのだから。
「たくさん傷ついたでしょう。何よりも自分が己を責め続ける。他に吐き出す場所がないから、自分を苦しめるしかない。また孤独に陥りながらも、エドワードさんは生きることを決めた。その決断にどれだけ時間がかかり、いかばかりの勇気がいったか、考えも及びません。そんなエドワードさんに……私は……鋭利な剣を突き立てたんです」
剣は病気、病気は死、死は孤独。予期しない不穏は二人の関係を引き裂いた。
「私のために身を粉にして動いてくれていたのに……そんな彼の心情も知らずに私は……彼の努力を裏切るような言葉を言ってしまいました。彼の恐怖に気づいてあげられなかった。ああ……どうして……私は何もできないのか。もっと何か……違う言葉があったんじゃないか。大切な人が横たわっていても、体を動かしてくれていても……私は…………ただその場にいることしかできない……っ!」
頑張らなくていい。ある人には助け舟に聞こえても、エドワードにとっては、孤独を後押しする言葉に聞こえてしまった。あんなに激昂する彼をフィリアは知らない。だから傷つけたのだとわかった。
謝りたかった。そう思った時には、彼は既に手の届く場所にいなかった。好きな人と一緒にいたかっただけなのに、何もうまくいかない。世界に一人置き去りとなった結果を招いた自分は、一体何がしたかったのか?
「メレさん……どうすればいいですか? 後少ししか命がない空虚な私は……彼のために何ができますか?」
他人に訊くのは哀れと訊いた後に悟る。自分がしでかした失態だ。それを打開する意見を他人に求めるのは馬鹿だろう。なによりこれは、自分が病に冒されている限り終わることはない。無為なやり取りだと忘却しようとした時、メレから返事がきた。
「会うしかないと思う」
それは明確で、単純で、フィリアが一番求めている答えだった。
「会って話さなきゃ何も始まらへん。わだかまり抱えたままじゃ落ち着かん。ちゃんと目え合わせて話さな、してやりたいこともできん」
至極真っ当だ。そうするべきなのはわかっている。だが、一番求めている答えであると同時に、それは一番選んではならない答えだった。
「そうですね……そうしたいです。でも……できない。私にはできません」
頬が濡れる。会いたくても会えない歯痒さが、涙腺を緩ませた。
「私が……今の状態の私がエドワードさんに会ったとしても……何も変わることはありません。また顔も合わせられず、言葉も交わさず去ってしまわれるのがオチです。私の我儘を押し通しても、彼の恐怖を呼び起こすだけです。孤独を強く意識させ、踠き苦しむ姿を私はもう見たくありません。また……強く言葉を言われるのは………………私は嫌です」
死ぬとわかっている人がまた現れたとて、何ができる? 最後に謝りたくてなど論外だ。エドワードも、フィリアも、そんなことは望んでいない。ただお互いを傷つけ合うだけ。会うべきなのは間違いないのだろう。でもそれで? それで何も変わらなければ意味がない。
また昔のように、笑い合えなければ。それが実現できればどれだけ幸せか。
想像してしまう。また本を読んで語り合い、エドワードの言葉で傷ついても、すぐにまた笑い合って、何時間でも一緒にいられる。たまに肌が触れ合ってドキッとしてみたい。ずっと横になっていたから、エドワードと一緒にどこかへ行きたい。彼が友人と冒険者として旅してきた場所を巡る旅も良い。彼の思い出に干渉できて、また話す話題が増える。
好きを伝えたい。きちんと伝えて、彼が手を差し伸べてくれたら、もちろんその手を握る。他にも、他にも、したいことはたくさんある。だが病気のフィリアのままでは、それらは全て叶わない。難攻不落の要塞の如く、入り口の前にすら立たせてくれない。
「どうしようもありません」
手数はない。メレも項垂れるしかなかった。何もできない自分に不甲斐無さを感じる。これなら無限に湧いて出てくる追っ手を蹴散らす方がマシだった。顔を見に来ただけのはずだったのに、どうして少女の泣き顔を見ることしかできないのか。
なんとかしたい。恐いくらいに思考を回転させていると、ふと一点に視線が止まる。
「あれなんや?」
それはテーブルに整然と置かれている紙の束だった。部屋に入る時は必死だったので気づかなかった。何枚も何枚も重ねられて置かれていることがわかる。フィリアに訊いてみると、泣くのを止めて少しだけ微笑んでくれた。
「あれは……彼の努力です」
いまいち納得のできない答えだった。気になって立ち上がり紙の束の前に来た。
「それがあるから……私はまだ……彼を感じていられるんです」
紙は蛇腹折になっていた。解いて中身を見てみると、目を疑った。
「これは……」
二、三枚、同じようにして確認してみる。どれも似たような文面が書き綴られている。
「もしかして……」
メレはこの紙の束を見てわかった。エドワードは諦めていない。確かにエドワードはフィリアの元から逃げてしまった。その事実は変わらない。未来が怖くなってフィリアから目を逸らしてしまった。
だが、フィリアを救いたいと願うその思いの柱は、まだ完全に折れてはいなかったのだ。この紙の群れがその理由を物語っている。メレは全ての紙に目を通した。そしてその中の一枚に興味を示した。
「可能性は……あるか」
「メレさん、どうかしましたか?」
「フィリアちゃん。お手柄やで」
フィリアは間抜けな声を上げる。先ほどまで深刻な表情をしていた男は、希望に満ち溢れた顔に変わっていた。
「どういう意味ですか?」
「さっきフィリアちゃんが言ったこと。エドワードさんと会うことができない訳。病気以外にもう一つ懸念点があった。エドワードさんに戻って来る意志があるかっちゅう話や」
すぐにメレは教えてくれなかった。病気が治ったとして、フィリアに会いたい意志があったとしても、向こうはどうかわからない。メレの情報網があればエドワードを見つけることは容易い。だがそれで連れてこれなければ、それこそ意味がなくなる。
一度出ていく選択をしてしまったエドワードには、不治の傷が刻まれていてもおかしくはないのだ。でも、
「それは心配いらんかったな」
メレはやることが定まった。
「よく聞いてくれフィリアちゃん。これから俺は、エドワードさんがくれたこの紙の束を手がかりに、昔の知人に会いにいく。何年も前のや。俺も今の今まで忘れとったわ。で、それで会って、もしや、もしかしたら、フィリアちゃんを蝕む病をぶっ倒してくれるかもしれへん」
「え!?」
フィリアが思わず体を起こす。動きを待たずしてメレは続ける。
「でも期待するにはまだ早いねん。これは賭けや。成功するかわからん。確率も五分五分かもわからん。でもやらないよりマシや。やれることがまだあるなら、俺はやってみるで」
フィリアはよくわからなかった。一体紙の束から何を見つけたのか? メレも説明不足なのは自覚していた。しかし、
「まだ…………やり直せるのですか?」
メレの真意はわからない。誰に会うのか、何をするのか、まだ説明されていない。でもこれだけは言いたかった。生まれた希望がそこにある。叶わないかもしれないし、また落ち込むかもしれない。それでも希望に縋り付きたかった。
またエドワードに会いたいから。
「可能性はある。今んとこ俺の口からはそれしか言えへん。頼りなくて頭が上がらん」
「いえ、十分です。希望があるなら……私は待ちます。私には何かできることはありますか? 些細なことでもいいんです。私もできることをしたいです」
メレに頼りっぱなしはいけない。自分は自分で行動を起こさなければ。寝てなんていられない。そう決意を込めて告げたフィリアに対して、メレは軽く言った。
「本でも書いたらどや?」
「ほ、本?」
「そうや。いつも通りのことをしたらええと思う。いや、それじゃ味気ないか……なら、自分の半生を書いてみたらどうや? それをエドワードさんに見せるんや。自分の思ってた気持ちを全部吐き出す、本当に伝えたい気持ちは後から自分で伝えるんや。それで本のラストにあり得ない急展開が来よるんや。なんかこぉ、あれや、試練とかわけわからん敵が立ちはだかって主人公の行手を阻む。そいつを倒した先にハッピーエンドが待ち構える。それを現実にするんや」
「現実に……」
「サプライズっちゅうやつや。創作物が現実に出てくるとか、結構おもろない? エドワードさんも絶対驚きはるよ。だからそれを……ああ、いや、やっぱなんもないわ。ははっ、忘れてや。余計なことせん方がいいわな」
メレは急に自信がなくなったのか、話を終わらせた。きっと会い方を考えてくれたのだろうとフィリアは思う。ずっと顔を合わせていないのだ。再会の方法もどうすればいいかわからない。普通に会えばいいと言われればそれまでだが、それは難しい。
メレのやりたいことは半分もわからない。でも本の書くのは賛成だった。自分を知ってもらおう。出会った時にどう思っていたか、気持ちが徐々に変化していったことを知ってもらいたかった。
「メレさん。とても良い案だと思います」
そして今度は、自分から伝える────
丘の上の草原で、貴方を待っています。
────
「やっと……会えましたね」
私の前には、ずっと会いたかった彼がいた。




