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small world  作者: 坂田リン
14/24

日々と敵⑦



「おい! お前ええ加減にせえよ!」


おさげの男は怒号を響かせる。


持つのはただの怒りだけ。


「うっさいわ! でけえ声出すなボケ!」


思いつきの言葉を対面にいる男は曝け出した。


その者はただ、苛立っていた。


「待てや! お前また金借りたやろ? 俺んとこにでけえ男ら来たんや。散々忠告しといて、友人の話くらい素直に聞けや!」

「もううるっさいねん! 束縛すんなアホが! 俺が何しようが自由やろ!」

「自由にしといたらこうなったんやろが! 俺だってお前がちゃんと金使えばここまで言わん! だからせめてもうやばいとこから金借りるなや。な? そしたら後は地道に返していこう。俺も協力して────」

「うざいねんお前は! 鬱陶しい! お前のこと友達なんてもう思うてへんわ!」


最後の一言が、おさげの男の何かを吹っ切らせた。


「大体お前、友達ならよ、苦しいのを分け合うのが友達じゃねえのかよ! だったらもっと稼いで俺の借金返せや!」


こっちを見もしないで愚かなことを口走る。


なんだこいつは。


自分は助けようとしているのに、その態度はなんだ?


これまで何度も、何度も何度も何度も何度も何度も、言ってきたのに……何が友達だ。


体のいい言葉を並べるな。


恥知らず。


もう庇ってやるのが馬鹿らしくなってきた。


もう怒りもない。


心にあるのはただ一つ。


(殺したい)


完全に吹っ切れた。


おかげの男は近づいて、躊躇なく────



         ────



「俺も昔、一生の友達がいたんよ」


ハンマーはもう下ろしていた。


夜空から目を離したメレはエドワードと向き合う。余裕の表情も、怒りの感情ももうなかった。いつもおちゃらけた愛嬌のある顔には、悲壮な思いだけが貼り付けられていた。


「幼馴染やった。いつも一緒にいて、よく遊んで、仲の良い友人同士。楽しかったのを覚えてる……せやけど、それだけ(・・・・)や」

「それだけ……?」

「グレン、ゆうたか。エドワードさんの友達。顔、今でも覚えとる?」

「も、もちろんです。忘れた日などありません」

「ええなぁ。俺はもう思い出せんわ。殺してから(・・・・・)


この二日間、やけに物騒な単語が辺りで飛び交っている。店の前でフィリアを殺すと言った時と違い、今の殺すには感情がなかった。無気力で、無機質で、無感情。どうでもいいが一番似合う。三分もすれば自身の記憶から抜け落ちてしまうような……。


そんなメレの姿がエドワードに少し怖く、弱々しく見えた。


「遠い街で二人で冒険者してたんや。まあそれなりに頑張って、金稼いで、それなりに名を馳せた思うわ。充実してた──けどある時、裏切られた。色んなとこに借金してたらしくてな、その上闇金にまで手ぇ出してた。俺の知らないところで金使いが荒かった。気づいた時にはもう手遅れで、俺の私物まで売って金にしてた。あん時はもう……怒りと後悔でどうにかなりそうやった。そのクソ友達にも、自分にも」


俺は見る目なかったんやなと、呆れと自嘲が悲しく見えて仕方なかった。


「そいつは俺に借金を押し付けてきよった。ふざけんなって怒鳴ったらどないしたと思う? 「友達ならよ、苦しいのを分け合うのが友達じゃねえのかよ!」って逆ギレされて、すぐ殺したわ。気色悪い害虫は消えたのに借金は消えんかった。それで……俺はこっち側(・・・・)に来たっちゅうわけや」


唐突につけつけられた他人の現実に、エドワードは言葉を失った。


裏の世界に来たメレの背景には、ドス黒い恨みと怨みが混ざり合った切なさがあった。あいそれと共感できるようなものではない。エドワードは裏切られるなど微塵も経験がないからだ。揉み合いになり挙句には殺すなど信じられない。


その手に取る鈍痛なハンマーで殺したのか。そう思うだけで嫌な気分になってくる。想像だけで苦しくなる自分なのに、メレは一体どんな気分で友達を手にかけたのか。無理矢理作ったような薄い笑みを見せるメレの顔からは、当時の心境は窺えなかった。


「今回の依頼でな、やっと借金が返せるんやわ。こんな暗い世界ともおさらばや。久しぶりに胸が躍った。言っとくけど、そのためにソルドさんの店通い始めたんちゃうで。俺が行ってた店に、偶然、依頼の標的が来たんや。情報も取れるし好都合やとしめた。あんたらと話して、過ごして、話して…………そしたら……気持ちが鈍ってしもた。だってあんたら、優しすぎるんやもん」


刹那に見えた顔の綻びは、いつも店にいるメレの表情と同じだった。


「楽しいとか……思ってしもうた。非道になろうと努力したが無理やった。俺は元々器やなかったんや。でもな、エドワードさんとフィリアちゃんと過ごして沸いてきたのは喜びだけやなかった。嫉妬もあった」


今度は謝罪するように俯いた。エドワードと、この場にいないフィリアに対して。


「俺とは違って友人に恵まれ、その死を悼むことができて、且つその先の人生で可憐な少女と出会って楽しそうにしているあんたが……気に食わんかった。俺とは正反対なあんたが。……ああもう、ほんま、死にたくなるわ」


肉体的ではなく、精神的に疲れたメレが水面に腰を下ろした。濡れるのはもう構いやしなかった。


「何やってんやろ俺……中途半端な殺気で戦い挑んで、アホみたいなマウント取って……あっははははは。笑うしかないわ。店に来た暴れ男に講釈垂れる資格なんて、俺にはなかったんやな」


顔と声に覇気がまるでない。魔妖の森で赤暴熊レッドグリズリーを倒したあの時のエドワードに似ている。起こした行動に、何も意味を見出せなかった悲 哀れさが。戦いの時のメレとはまるっきり別人のように思えた。もう世界のどこにも希望なんてないと絶望しているような零落さに、心が傷んだ。


「なあ、エドワードさん。もういっそ殺してくれへん?」


こんな軽い命、切り捨ててほしい。重圧から解放されたい。償いともとれる力無い呟きに、エドワードはメレの手を取った。川の冷たさで死体のように冷え切っていた。


「嫌です……私は……友人を殺したくありません」


シンプルに、はっきりと伝えた。半年間、言葉にはしてこなかった、たった二文字がやっと正面から言うことができた。実際に言ってみると少し小っ恥ずかしく、だがとても心安らかになる。なんだか魔法のようだった。


メレは鬱屈した表情が、ポカンとした間の抜けた面に変化した。


「友人て……誰のこと?」

「あなたしかいないでしょう。少なくとも私はそう思っていました。二十過ぎた大人が言うには、少し勇気がいりましたが」

「何そんな……いやっ……俺なんかじゃ、あんたの亡き友人の代わりにはならんわ」

「代わりなんかじゃありません。あなたはあなただ。私の人生で……数少ない友人の一人だと思っています」


亡き友──グレンと仲良くなったきっかけは、もう覚えていない。何か大きな分岐点があったのか、それとも自然と打ち解け合っていたのか。薄情と今はいない彼に怒られるかもしれないが、忘れるほどそれだけ長い時間を過ごしてきたとエドワードは思っている。


メレともそうなれれば、今でもそう願っている。ソルドの店でいつも通りの日常を、男同士呑み合って馬鹿笑いしたり、二人とも腕っぷしはあるから、少しだけ冒険者としてコンビを組んだらもいいかもしれない。そんな彩りどりな情景は、これまでフィリアと幸福だった日々をより輝かせてくれるに違いない。


きっと楽しい。


「そら……光栄やな」


冷え切った体。その顔から見せた微かな笑みは、間違いなく暖かかった。


二言程度で表せてしまう朧げな思い出だけが記憶に残り、もう友人の顔も思い出せないメレ。この手で殺した後、悲しいとか、苦しいとか、もっと一緒に生きたかったとか、全部どうでもよくなって、記憶が薄れていくのを嫌だとも思わなかった。


借金を背負ってからは裏社会に溶け込み、なるべく金になりそうな依頼を受けては寝て、受けては寝てを繰り返して、太陽が当たらない日々が影を落とし続けた。そうしていれば自然と思考は回らなくなり、将来なんて考えなくなった。


無駄だからだ。家族も友人もいない未来など、虚無しか広がっていないとわかりきっている。だがもし……もし……誰か一人でも隣にいる人生が、信頼できる友達がいる人生ならば────また歩む道に光を射してくれるだろうか。


濡れて垂れた前髪から見える自分の手を握る彼の手は、信じられる気がする。いつまでも記憶に残る気がした。エドワードの存在は、雲が晴れた月明かりの下でどうしようもなく眩しかった。


「過去に……あんたとどっかで会ってたら────」



ガサッ。



「「……っ!!」」


二人同時に振り向いた。音のした方へ。風に草が揺れた音でも雨音でもない。あれは何かが土を踏んだ音だった。


真っ先に考えたのは魔物。魔妖の森ならば魔物がいるのは当然。気がつかないうちに接近を許したと考えるのが普通。しかしメレは最初に魔物は片付けたと言っていた。遠くにいた魔物が寄ってきたとも考えられたが、答えはすぐにわかった。


「なん……で……」


立っていたのは人。


少女──寝巻き姿のフィリアがそこにいた。


「エドワードさん……それに……」


よく見れば服や顔が土や泥で汚れている。当然だ。屋敷からここまで迷わず来れても二十分はかかる距離だ。それも入り組んだ整備されていない道を、寝巻きなどの軽装で進むなどどうかしている。エドワードがいる場所などわからなかったはず。つまり迷いながら来たということだった。


「どういう状態ですか……?」


困惑でいっぱいの様子だったが、それは男性サイドも一緒だった。嘘を伝えたはずのフィリアが、こんなとこにいるはずがない。しかし幻などと決めつけるには無理があった。


「その顔じゃ、エドワードさんも予想外みたいやな。何がどうなっとんのや?」

「フィリア様、一体なぜ?」

「え、いや、私は……何か……胸騒ぎがして、森に入って少ししたら、足跡を見つけて、辿っていったら……」


……それで? それだけでここまで歩いてきたのか? 正気を疑った。まともな根拠が出てくるかと思ったら、直感にもほどがあると呆れに似た感情が心を覆った。


「は、ははは。やばいなぁフィリアちゃん。危機感知でもあるんちゃうん?」

「エ、エドワードさんの顔が……少し……暗い気がして……」

「言葉が出ませんね」


隠し事はするなと、神が天啓を授けているのか。何にせよ、もう後戻りはできない。


「そ、それより、どういうことですか! エドワードさんも、メレさんも!」


さてどうしたものかと頭を悩ませていると、


「ほな、俺は退散するわ」


え? と反応した時には既に遅く、メレは森の奥にまで姿を移動させていた。


「メ、メレさん!?」

「やること終わらせてくるわ」


一言言い終える頃にはもう影も見失って、真っ暗な森の中へと消えていった。もうこの場には、月は二人しか照らしていない。


「やることって……なんだ?」

「エドワードさん」

「えあ、フィリ──ひっ!」

「せ・つ・め・い、してください!」


唇が触れてしまいそうになるほど近づいてきたフィリアは、除け者にされているようで少し腹が立っていた。



         ────



「なんと……っ!」

「そんなことが……」

「今話したのは、全て事実です」


翌日の昼頃。エドワードはケインの自室にいた。そこにはフィリアも、一番信頼できる古参の使用人のファンもいた。エドワードは三人に昨夜の全てを話した。場に生まれたのは、もちろん動揺だった。


「メレさんが……本当に私を狙っていたんですか? そんな素振り少しも」

「ま、魔導書など馬鹿げている! その、メレとやらは、またフィリアを狙ってくるんじゃないのか?」

「いえ、その可能性は低いです。もうメレさんがそんなことをするとは思えません。ただメレさんは実行をしようとしただけで、命令を下した黒幕は別にいます。だから……まだ狙ってくるとしたら……」


戦いの緊張が晴れたと思ったら、不安はまだ拭えていなかった。メレが今どこで何をしているかはわからない。わからない以上考えるのは無駄だ。考えるべきは黒幕の方になる。顔も性別も年齢もわからないとなると、探し出すのは困難だろう。


「……すみません。私の責任です。私がもっと注意を払っていれば……こんなことには……っ!」


エドワードは責任を感じていた。フィリアを危険に巻き込んだことが、自分は許せなかった。もっと周りに注意を払っていればこんなことにはならなかったのに。幸福な日々に甘え過ぎていて、視野が狭くなっていた。


フィリアやケインは口を開こうとする。「貴方のせいじゃありません」、似たようなことを言うのだとわかる。目の前にいる人たちは優しすぎるから。だが今度はその言葉を発する前にエドワードは宣言した。


「私が責任を持って、危険を排除します」


これは自分の仕事だと認識した。


「エドワード……さん?」

「私がフィリア様を狙う輩を見つけ……私が排除します。護衛の仕事で手に入れた人脈を使えば、時間はかかるでしょうが辿り着けるはずです。その間、フィリア様は屋敷から出ないでください。私が必ず守ってみせます」

「ちょっと待ってください! 本気で言っていますか!?」

「私は大真面目です」


雇用関係のつもりで続けていた護衛だったが、長くやってた分、それなりに顔の利く知り合いは何人かいる。それらを使えば、元通りの平穏が返ってくるはず。それができるなら…………()を相手にできるはずだ。


「そう怖がらないでください。退治する敵が、魔物から人に変わった程度の違いです。だから」

「そういうことではありません! 貴方が……貴方が離れてしまうのが……私は一番怖いんです。もう……帰らないかもしれないのに……」


声が小さくか細い。怯えているからだ。身の危険を感じているのもそうだろう。だがフィリアは、本心で言ってくれた。エドワードを失うのが怖い、と。


(勘違いだった)


エドワードはフィリアと死に別れるのは駄目だとメレに言った。ちゃんとさよならを言って別れるのが、正解だと思っていた。だが今、それが勘違いだとわかった。


ただ別れたとしても、残された方は何を思うかを考えていなかった。去った相手のことをすぐ忘れることもあるだろう。だが反対にずっと頭から離れなかったら? 別れた人が生きているのか、死んでいるのか、問い続けても誰も答えてくれない物を抱えたまま生きていくことになる。


それは果たして正解なのか? 身勝手な自己満足……自分が思っていたのはそれじゃないのか? フィリアを泣かせたくない。そう誓っていたはずなのに、その手前まで迫っていたんじゃないかと、忘我した。


「我儘かもしれませんが……私は側にいてほしい。守ってくれるなら……側にいて守ってください」


願いを受けるのが、彼女を悲しませない唯一の方法だった。しかしそれでは大元を断ち切ることができない。不安は残り続け、その選択をした道の結果、フィリアに牙が剥いたらどう責任を取れるのか? 


少女の願いを取るのか、止む無しの別れを取るのか、エドワードは決断できなかった。


「私……は」




「せやせや。そうしときや」




部屋の窓の方から返事がした。あまり聞き慣れない喋り方をする人物を、エドワードは一人しか知らなかった。


「エドワードさんが人を相手に武器向けるとか似合わんわ」


全員の視線が一点に集中した。どうやって窓を開けたのか、枠に腰掛けている一人の男性がいた。緑髪のおさげが目を惹く、やはりメレだった。なぜ、という疑問が頭の中を埋め尽くした。


「メレさん!」

「なぜ、ここに……って、あれ? メレさん、なんだか汚れてません?」


疑問の言葉を紡ごうとしたのに、別に気になることがあった。メレの服と体がなんだか土や泥や木屑で異様に汚れていたのだ。去った時にはこれほどまでな物にはなっていなかったと思ったのだが。


「ああ、返り血はつかないようにしたんやけど、これな──」

「お、お前か、私のフィリアに危害を加えようとした無礼者は!」

「お嬢様、お下がりを」


ケインと使用人のファンがフィリアを庇うように前に出る。エドワードたちよりも過敏に反応している。まあ当然だった。命令だったとはいえ、実の娘と主人の娘であるフィリアを狙った張本人なのだ。警戒するのも無理はなかった。


「父親か。本当にすまんことをした。許されへんと思うが、少し喋ったらすぐ出てくわ」

「メレさん、あなた一体何をしに来たんですか?」


エドワードは率直に訊く。


「伝えるだけや。やること終わらせるって言ったやろ?」


確かに言っていた。そのやることの詳細は訊けずに別れてしまった。一息ついた後に、メレはその答えを言った。



「フィリアちゃん狙う奴ら、全員片付けといた」

「……はい?」

「だから安心してええよ。これまで通りの生活送ったらええわ」


何を言ったか理解できなかった。だからエドワードはもう一度聞き返した。


「それは、どういう意味ですか?」

「まんまや。全員一晩中殺して回った。徹夜しておかげで寝不足や」


メレは大きなあくびをする。一晩中? 殺して? 衣服や体が汚れているのはそのためか? やることとは今言ったことだったのか? 今メレが伝えた話が真実ならば、さっきまで真剣にフィリアに降りかかる火の粉を払おうと考えていたエドワードが茶番だったということになる。


「また今後、フィリアちゃんの馬鹿げた噂が裏で出回ったとしても、心配あらへん。俺が全部排除しちゃるわ。それだけ伝えに来たんや。ほな」

「待ってください!」


本当に伝えてすぐ帰ろうとするメレをフィリアが引き止めた。


「それは……本当ですか?」

「信じてもらえへんか。まあ無理もないわ。こゆ時魔法とかあったら嘘か本当かわかるんかな?」

「貴方は自由になりたかったんじゃないのですか? それが貴方の希望だったのでは?」

「気が変わったんや」 


窓の外の快晴の空を眺めながら、さらっと言いのけた。


「確かに、全員ぶっ潰したから、お偉いさんの部下や配下や残党やらが俺狙ってくるし、これからいつまで続くかもわからへん逃走劇が始まる。思い浮かべるだけでお先真っ暗ーって思ってまうわ。でも別に……後悔はしてへん」


振り返った顔は澄み切っていた。面倒ではあるが後悔はなかった。この選択をしたことに一切の躊躇いもなかったと言いたげに。彼を縛る鎖はもうどこにもない。


「俺は前より、幾分か自由や」


声は重りが無くなって、とても軽かった。


「ほな失礼するわ。二人とも」


一度言葉を途切れさせ、視界に二人の男女を映して間をおいて告げる。


「幸せになれや」


メレは風の如くその場を、


「メレさん!」

「おっとと、今、俺絶対出てくとこやろ。情緒ないなぁエドワードさん」


笑みを混ざらせて言うがエドワードは気にせず訊いた。


「また……会いましょう。友人同士(・・・・)


言葉はちゃんと伝えた。


「……いや……いやいや、やっぱそれ真正面から言われると恥ずいわ! エドワードさんもそうでしょう?」


いつもの調子で言い繕うが、エドワードはただ待った。今回はちゃんと聞きたかった。本人から、その口で、しっかりと。


「いや何かゆうてよ」

「……」

「ああ、えっと……そやな……んっ、あーえっと……あれや…………えっと…………」


中々言い出せずしどろもどろになり、顔を手で押さえ出す。恥ずかしさ故か、それとも瞳から流れる何かを必死に抑えようとしているのか。しばらく待った末、赤く腫れた両眼を見せて──



「せや、また会おうや」




約束を交わした。




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