恋をするなら、もう一度あなたとがいい
「もう! 見てるだけじゃなくて話しかければいいじゃない! じれったいわね!」
「ふふ、いいのよ。 今週はお茶する予定があるから、その時にたくさんお話するわ」
ぷりぷりとしているのは、王太女のエルヴィラ。学園の同級生でクラスメイト。そして私の兄、メレディスの婚約者。兄の家での様子を聞きたいと、話しかけられた事がきっかけで、仲良くなった。普段の彼女は、物言いがキツい時もあるが、明るくて楽しい元気な女性だ。
私は、フィオナ・サンダード。 侯爵家の長女。家族は両親に、2つ上に兄と2つ下に弟がいる。
2つ下の弟、リンウッドがお友達を我が家に連れて来た時に、エリモール伯爵家のアシュトンに出会い、私がひと目惚れをした。この気持ちを隠していたつもりだったが、家族にはバレバレだったらしく、たぶんお父様とお兄様が手を回して、私はアシュトンと婚約を結ぶ事になった。話を聞いた後、部屋に帰ってから飛び跳ねて喜び、侍女のマーサにとても呆れた顔をされた事はよく憶えているし、部屋を出た後、浮かれて階段を踏み外して怪我をして、マーサにすごく怒られたし、家族にも心配をかけた。
「私は、メレディスが卒業してしまって、とても悲しいわ。もっと交流すべきだったわと思ってるわ」
「え? だいぶ交流してたと思うけど・・・」
学園で1年間だけ一緒だった2人は、登校したら朝の挨拶をするために会い、お昼休みになったらぴたりと寄り添いながら一緒に食事をして、帰ったらすぐに王宮で会うのに、下校時にはとても名残り惜しそうにお互いを見つめ合って別れてたわよね・・・。
「足らなかったわ!」
思い出しながら、悔しそうするエル。
「・・・そう」
「フィーは遠慮しすぎなのよ! あなたもアシュトンと1年間しか学園生活が一緒ではないのよ? もっとお昼を一緒に食べたりしなさいよ! 年上だからって遠慮しないでグイグイいきなさい! グイグイよ!」
拳を握り、身を乗り出してグイグイを強調するエル。
「ふふ、エルはいいわよ、お兄様もエルが好きなのだから。 私の場合は、侯爵家のこちらから伯爵家に申し込んだ婚約だし、2つも年上の私が嫌でも断れなかったのかもしれないと思うとね・・・。アシュトンが卒業したら、結婚して一緒にいられるのだから、学園では自由にしてもらえればと思ってしまうのよね・・・」
実際に、1年の女子生徒から「アシュトンが可哀相だから婚約解消してください!」と言われた事が何度かあるし・・・。
「いつも言っているでしょう? フィーとアシュトンも両想いよ! 本当にわからずやね! 研究や委員会ではとても柔軟に対応して、柔軟な発想をするのに! なんでアシュトンの事になると堅物化するのよ」
「ふふ。 両想いだったら嬉しいわね。 アシュトンが私に好意を持っているとは思えないけどね。 さ、お昼休みも終わるわ。そろそろ教室に戻りましょう」
教室に向かう途中、え? 階段で誰かに背中を押された? ような気がする。
「フィオナ!? フィー!!」
エルは無事なようね、良かった・・・。
***
「フィオナ、早く目を覚ましなさい。 あなたがいない学園はとても退屈よ。 守れなくてごめんなさい、痛かったでしょう」
フィオナの手を握り、皆からは見えないように静かに涙を流す私の婚約者エルヴィラ。エルのせいではないのに。私も壁になり、エルの涙を私以外に見せないようにする。
当初は、王太女エルヴィラを狙った者の犯行かと思われたが、結果はフィオナの婚約者、アシュトンに惚れていた女子生徒の犯行だ。
エルには影がついていた。 フィオナの事も気にしてくれて、影から伯爵家と子爵、男爵の女子生徒に呼びだされていると何度か報告を受けていた。
文句だけで、手を出しているわけではなかったから、 ちょっとした経済制裁だけを各家にはしていた。だが今回は絶対に許さない。実際に押したのは子爵令嬢。 指示を出したのは伯爵令嬢。周囲を見張っていたのが男爵令嬢。私の可愛い妹になんてことをしてくれたんだ!と怒りが爆発しそうだった所を、ポンと肩に手を置かれる。
「お前は何もしなくていい。 私に任せなさい。 お前は王太女様を支える役目があるだろう?」
「そうですよ、メレディス。 エルヴィラ様の心のケアを頼みましたよ! 私も旦那様とは違う角度から、各家に自分達がしたことをわからせるつもりよ」
両親からメラメラと怒りの炎が見える気がする・・・。
あー、3家は終わったな・・・。
両親は俺も含め、子供達をとても愛しているからな。
2人に任せておけば大丈夫だろう。
「父上、母上、よろしくお願いします。 エルヴィラもとても悲しんでいます。どうかその分も」
「「 当たり前だ(よ) ! 任せなさい! 」」
エルヴィラ様が帰ってから、見舞いに訪れた姉フィオナの婚約者のアシュトン。何で俺がこいつの見張りをしなくちゃいけないんだ! 学園でも会うのに、こんなヘタれ野郎の顔を、家に帰ってきてからも見るのは、うんざりだ。
「私のせいだ、ごめん、フィオナ」
「そうだな、お前のせいだ」
「っ!」
「なんだよ? お前のせいじゃないって言ってもらいたかったのか? 言うわけないだろ、バカ野郎が」
「リンウッド・・・」
「あの時、お前を家に呼んだのが間違いだったんだ! 俺はずっと後悔してる。 お前がフィーを紹介しろと言ってきても断れば良かった! それでも婚約までしたのにお前の態度はなんだったんだ? 恥ずかしい? 緊張する? 惚れた女を手に入れておきながら情けない! 」
そうだよな・・・。
王立図書館で彼女にひと目惚れをした。
リンウッドにお願いして彼女に会わせてもらい、家で親にどうにか婚約できないか頼み、時間がかかったが、婚約者になれた。
月に2度、お互いの家でお茶をする日があった。いざ彼女を目の前にすると緊張と恥ずかしさで言葉がでなかった。学園でも遠くから見るだけだった。
学園の女子とは緊張せず普通に話せた。それを周囲に誤解され、私がフィオナとの婚約を望んでないと思われ、フィオナに直接婚約解消をしろと言ったり、階段から突き落とす行動をした。
「婚約は解消だな」
「!」
「何を驚いてる。 こうなったのはお前のせいでもあるんだぞ? それにこのまま目を覚まさないかもしれないんだぞ? クソが」
「・・・」
「そうね、それがいいと思うわ。 目を覚ましてもあなたにフィオナは任せられないわ」
「「 ! 」」
王太女様は帰ったんじゃなかったのか?
2人は慌てて礼をとる
「頭を上げてちょうだい。 フィオナを見舞って、あなたが何を思うか気になったから、戻ってきたの。 盗み聞きしてごめんなさいね」
「いえ」
「アシュトン、あなたフィオナにひと目惚れしていたの?」
「・・・はい」
「まったくそんな風には見えなかったわね。 なら、なぜ他の女子生徒と仲良くしていたの? フィオナは悲しそうに眺めていたわ。 たまにはお昼を一緒に食べなさいと言ってもあなたの様子を見ては、諦めていたわ。 それにフィーは誤解してるわね、サンダード家がエリモール家に打診をしたから婚約を断れなかったのだろうと言っていたわ」
「!」
「何を言っても、月2回のお茶の時間があるから大丈夫だと言っていたわ。 今週も楽しみしてたわよ。 それがこんな男なんてねぇ。 フィーはどこが良かったのかしら・・・。ね、リンウッド」
「はい、俺もこんな奴に紹介したことを後悔しています。 茶会を我が家でやる時は、ジャマをするなと強く言うくせに、遠目から見るといつも葬式のようなどんよりとした感じでしたね。 それでも笑顔でいるフィーが可哀相でした」
「・・・婚約は解消しません」
「ムリよ」
「フィオナがこのまま目を覚まさなくても、私はフィオナと結婚します」
「「 !? 」」
「侯爵と話をしたいので、失礼します」
「あー・・・ コホン、私はいるよ。 妻もメレディスも」
「あら、ふふ。 やはり皆様も気になりまして?」
「そうですわ。 責任の半分はあろう男が、何を言うか気になっちゃって。 ふふ」
サンダード家全員+エルヴィラ VS アシュトン
アシュトンに勝ち目なしだと、控えてる侍女マーサは思ってるが頭の中でゴングを鳴らす。
カンカンカーン!! ファイっ
「侯爵、私はフィオナの事が好きです。 このまま目覚めなかったとしても結婚したいです。 お願いします!」
「今までのことを棚に上げてかい? 眠るフィオナの世話をして世間の同情でも買うつもりかい?」
「そんなつもりはありません。 フィオナは目覚めます。それにこれからも努力します。侯爵家の為に頑張ります」
「うーん、その件はね・・・。 婚約してからの君のご家族を見てたら少し不安でね。リンウッドを私の兄の養子にして公爵家を継いでもらって、私達で君と君の家を監視しながら、フィオナには侯爵家にいてもらった方がいいと判断したが・・・なあ?」
そう言って夫人を見る侯爵。
「ええ。アシュトンは本当に何も気付いてないの? 本来ならあなたは長男だし、フィオナが伯爵家へ嫁ぐのが普通よね? それに月1であなたの家で開かれる茶会でフィオナがどんな目にあってるか知らないの?」
「え?」
「フィオナへ文句を言い、フィオナの装飾品を貸してと強請り、貸せば1つも返ってこないのよねぇ。 あなたの妹さんは、他の家でもやってるみたいだし・・・。困った人達がいる所へフィオナを嫁がせるのはねぇ・・・」
「え? は?」
「本当に知らなかったのか? お前の母親も妹もフィオナの装飾品をかなり持っているはずだぞ?」
「え・・・女同士で仲良くなりたいと、途中から追い出されてました。てっきり仲を深めているのかと・・・」
「うちの影が全部見ている。 装飾品を売った店と店主の証言も取れている」
「初めて聞く話だわ。 メレディス、 なぜ私に黙っていたの?」
「エル、ごめんね。 でもエルが知ったらすぐに動くだろう? それでこの婚約がダメになっても、フィオナの気持ちが変わらなければ次へいけないだろう? フィオナ自身に気づいてもらいたかったんだ」
王太女を後ろから抱きしめながら謝る兄。
イチャつくなよ。
「家の事は帰って何とかします。 フィオナをこうした奴らにも対処します。 お願いします、 どうか婚約解消はしないでください」
案外しつこいわね・・・
すぐにノックダウンするかと思っていたのだけど・・・
お嬢様は何でこんな奴が良かったの? 飛び跳ねて喜ぶ価値もない男なのに・・・
侍女マーサは、自分も参加して文句を言いたいのに! とイライラしながらも、澄まし顔でアシュトンを見ている。
アシュトンのしつこさに、サンダード家も全員が少し困惑した顔になる。
そこへエルヴィナが
「では、侯爵。 ちゃんと対処するか見届けようじゃありませんか。 ここまで言いきったんですもの。 できなければすぐに解消すればよろしいのでは?」
「・・・そう、ですな。 皆それでいいか?」
納得いかなそうな顔だが、渋々と頷く。
***
その後、アシュトンは急いで家に帰り父と話をする。
父は息子の話に驚く。まさか自分の妻と娘が、息子の婚約者の装飾品を取り上げ、売っていたなんて・・・。
しかも相手は格上の侯爵家。まさかだよな? 誤解だよな?と思っていたが、あちらからの証拠に証言を見せられ、真実だったと愕然とする。そして息子の今の状況を聞いた。
話を聞き終え、息子に対し
「侯爵家の方々が反対してるのだから、婚約は諦めろ。全ての装飾品は取り返せないだろう。 金額のリストを見て驚いた。それにこちらの有責で慰謝料もかなりの額になる。 この家も存続できるかも危うい。 そんな家と縁を結ぶのは、侯爵家に限らず、どこの家もイヤだろしな」
「諦めたくはありません」
「・・・。」
息子の顔を見るとその目は、本気だと言っている。
「はー、まったく・・・。やれる所までは付き合うが、爵位は手放すかもしれんぞ?」
「はい、その時が来るまであがきます。 伯爵家、子爵家、男爵家へは?」
「フィオナ嬢の婚約者の家の者として抗議の手紙は送ったが、 すでに存続不可能だろう、3家とも。 侯爵家がすでに制裁を下しているだろうな」
「そうですか」
それからやる事の多さに、父と私は忙しくしていた。
顔を合わせた時に、
「母と妹はちゃんと理解してますか?」
「うーむ・・・。そう言われると、そうでもなかったかもな。 妻とは離縁する。 娘は北の修道院へ送る予定だと伝えて呆然としていたが、罪の重さは感じていなかったかもな・・・」
「私がわからせます。 こんな状態の我が家ですが、後継者になってくれそうな人を探してください。私は侯爵家へ婿入りができなかったとしても、伯爵家当主にはなりません。世間も私を見る目は厳しくなるでしょうから、サポートにまわります」
「・・・ああ。だが期待するな。 そんな奴がいたら奇跡だと思え」
「・・・わかりました。お願いします」
母と妹の所へ行くと、案の定何も理解してない。 嫁に来るのだから家族だ。家族なんだからいいじゃないと叫んでる。
時には頬を叩き、教える。 お前達のせいで没落の危機だと。 母は離婚だと。実家も引き取らないと。 妹はこの国で1番厳しい修道院へ行き、2度と出てこられないと。
何度言っても同じやり取りだ。明日また来ると伝えて部屋を出る。
次の日、それでもなぜ?おかしい!ヤダヤダと喚くので、拳を握り頬を殴る。母には実家から自死用の毒が送られてきたことを伝え、手紙と毒も見せる。妹も今回の件が世間に明らかになり、他の家でも貸してと言っては、借りた物を貰っていたらしく、届いた抗議の手紙をみせる。お前が心から反省しないと、修道院に着く前に殺されるだろうと。
もうすでにこの件で3人の女性が毒杯をあおって、この世からいなくなっていると。懸命に訴える。
あっ! あー!、あー!!、あ゛ーーーっ!!!
そうか、私もこいつらと一緒か・・・。
フィオナを大切にしていたつもりだったは通用しないな。
それをこいつらと一緒でヤダヤダとごねたんだな・・・。
婚約継続なんてムリだよな・・・。
なかなか理解してもらえなくて、時間もかかり疲れたが、やっと2人は分かってくれた。自分の犯した罪を、どれだけ周囲に迷惑をかけたのかを。
泣きながら、謝りたいと訴えるが、その段階はとうに過ぎている。これからの時間を、何が悪くてこんなことをしているのかと過ごすより、反省し後悔をして過ごす所までもっていけて良かった。
会えないのなら手紙をと言う2人の意見を許可はしたが、渡すつもりはない。
もう全てが遅すぎるんだ、2人とも。
母と妹を片付けることができたら、次は自分だ。
学園でテストを受け、飛び級し、卒業した。 フィオナが目覚め、学園に通えるようになって私がいたら学園生活を楽しめないだろうと判断したからだ。
色々と処理が終わりひと息ついた時、サンダード侯爵から連絡があった。
フィオナが目覚めたと。
1度だけでもいいから顔を見たい。
連絡を受け、すぐ家を出た。
文句を言ってくれていい。罵ってくれていい。婚約も解消でいい。ただフィオナが生きていることを確認させてくれ。
侯爵家に着くと、リンウッドが来た。
「父上に言われたから、俺が付き添う。 目は覚めたが、フィーに今の記憶はない」
「!?」
「・・・行くぞ」
リンウッドの後をついて行く。
トントン
「フィー、入るぞ」
「リンウッド? え?アシュトン様?」
目の前にいるフィオナが若い?これはどういう事だ?
「もう! リンウッドったら、アシュトン様に話しちゃったの? お恥ずかしい話ですが、階段を踏み外してしまって、3日も気を失ってしまいましたわ。 ふふ、こんなに擦り傷だらけでびっくりしたでしょう?」
「・・・そうか。 生きてて良かった」
「ふふ、素敵な婚約者が出来たとたん、死んだりしませんわ」
「え・・・」
「これからよろしくお願いしますね、アシュトン様」
「・・・フィオナ、年はいくつ?」
「お恥ずかしいですが、アシュトン様の2つ年上で15になりますわ」
婚約したばかりの頃に戻ってる? どういう事だ?
リンウッドを見る。
「驚いたか? 目覚めたら、お前と婚約した時の記憶からだ。婚約が決まった後、確かに階段からフィーは落ちたことがある。 しかも体まで3年前に戻ってる。 呪いの類いか今調べてる所だ。 元に戻るまでは会わせてやる。体と記憶を取り戻したら、もう来るな。 俺はドアの向こうで待機してるからな」
なんて事だ。呪いまでかけられたのか・・・。
だが、少しでも一緒にいたい。呪いが解けるまででいい。婚約した時から始められるなら、あの時と同じ間違いはしたくない。
「フィオナ嬢、ごめん。 フィオナと呼んでしまって。 私の事はアシュトンと呼んで欲しい」
「ふふ、わかりました。 私の事もフィオナで大丈夫です。 アシュトン」
「ありがとう。 よろしくね」
「ええ、こちらこそ」
顔を赤らめるフィオナ。 あー、可愛いな。
私から婚約を願ったんだ。誤解を解かないとな。
「王立図書館でフィオナを見かけた事があるんだ。その時にひと目惚れした」
「え!?」
「それでリンウッドに紹介してくれと頼んだんだ」
「え!?」
「やっぱり素敵な人だなと思って、家に帰ってから、親に婚約したいって頼みこんだ」
「えー!?」
「フィオナ、好きだ。 婚約できて嬉しい。うっ」
ずっと思っていたのに、言えなかった言葉を伝える事ができて気持ちが高ぶり、涙が出てくる。
「まあ!泣かないで、アシュトン。 実は私もひと目惚れですわ。 屋敷でお会いして、ご挨拶した時からアシュトンが好きですわ。私、ベッドから出られないのでこちらに来て。涙を拭きましょう?」
え?フィオナも私を? これは夢なのか? 呪いの影響か?
手招きに吸い寄せられるように、フィオナの傍まで行くと
「ふふ、タオルしかないから、これでガマンしてね」
そう言って、優しく顔を拭いてくれた。
「ありがとう、フィオナ。 好きだ」
「どういたしまして。 私も好きです、アシュトン」
その後は、リンウッドに時間だと言われるまで、お互いの好きな本の話をしたり、好きな食べ物、嫌いな食べ物の話、好きな色、好きなお菓子の話をして過ごした。3年も婚約していたのに、初めて知った事ばかりだ。フィオナの事が知れて嬉しい。やっぱりフィオナは素敵な女性だ。今まで上手く話が出来なくてごめん。
「今度来る時には、フィオナの好きな林檎のタルトを持ってくる」
「ふふ、楽しみにしてますわ」
次に会ったのは3日後だったのに、フィオナの時間は学園に入学し、冬期休暇まで過ぎていた。
「フィオナ、約束した林檎のタルトを持ってきたから一緒に食べよう」
「ふふ、約束を守ってくれて嬉しい。食べましょう」
侍女が切り分けてくれた。食べるフィオナも可愛い。
「フィオナ、美味しい?」
「ええ、とっても! ありがとう、アシュトン。そういえば同じクラスにエルヴィナ様がいるの。 兄の話で仲良くなったのだけど、 兄と1年間しか一緒に通えないからって、お昼は必ず一緒に食べてるわ、ふふ」
「・・・私が学園に入学しても、フィオナと1年間しか一緒じゃなくて寂し・・いな・・・っ」
私は卒業してしまった。 もう学園で会うことはできない。 悲しくて、今日も涙が出てしまう。
「ふふ、すぐアシュトンは泣くんだから。 ほら、こちらにいらして。涙を拭きましょう?」
また涙を拭いてくれるフィオナ。今度はタオルじゃなくてハンカチだった。
「あのね、林檎のタルトを持ってきてくれたから渡せるんだけど、これお礼のハンカチ。 アシュトンは泣き虫だから」
「・・・林檎のタルトを忘れたら、もらえなかった?」
「そうかもね、ふふ」
「ありがとう、フィオナ! 嬉しい、大切にする」
ハンカチは初めて貰ったものだ。嬉しくてまた涙が出てくる。
「ふふ、 せっかく拭いたのにまた泣くんだから。 アシュトン、私が傍にいる時は、あなたの涙を私に拭かせて? 私がいない時に泣いてしまった時は、そのハンカチで拭いてね」
言葉が出ずに、うんうんと頭を縦に振る。言葉を交わせてら、こんなに幸せだったんだ。本当に意気地無しでごめん。
体が自然に動き、フィオナを抱きしめる。 驚いた感じだったが、フィオナも抱きしめ返してくれた。背中をトントンとしてくれる。
「フィオナ、好きだ」
「ふふ、私もアシュトンが好きよ」
次に会う時は、間隔の幅を考えると、私が学園に入学した頃だろうか? 入学した月は、フィオナの誕生日があったはずだ。プレゼントを買おう。今までプレゼントもしたことがなかった。毎年用意はしたが、緊張して渡せなかった最低な男だった。
次できっと時間軸が戻る。フィオナに会えるのは次が最後だ。
今日会ったフィオナは、やはり最終学年になっていた。
本当に最後なんだな・・・。
「アシュトン、入学おめでとう。 待っていたわ」
「ありがとう、フィオナ」
フィオナから、抱きしめてくれた。あー、幸せだ。
「フィオナ、今月誕生日だったよね?」
「ふふ、覚えていてくれたの? うれしい」
「お祝いをしよ? ケーキも買ってきた。 林檎のタルトではないけどね、怒らないで?」
「ふふ、楽しみ」
また侍女に切り分けてもらう。
「チーズのタルト?」
「正解」
「2番目を覚えてくれていたのね?」
「もちろん」
「ありがとう、アシュトン。 大好きよ」
「どういたしまして、私もフィオナが大好きだ」
ケーキが食べ終わったので、プレゼントを渡す。
「誕生日おめでとう、フィオナ」
「ありがとう。 え? 多くない?」
「うん。今までの分もある。 受け取ってくれる?」
「ええ。 ありがとう」
フィオナが箱を開ける。
「それは1年目の分」
「素敵な髪飾りね、ありがとう」
「それは2年目の分だね」
「素敵なイヤリングね、ありがとう」
「それは3年目の分」
「素敵なネックレスね、ありがとう」
「それが今年の分。 フィオナ、誕生日おめでとう」
指輪をフィオナの指にはめる
「・・・ありがとう、アシュトン」
「泣かないで、フィオナ」
フィオナに貰ったハンカチでフィオナの涙を拭く。
すると、フィオナが頬にキスをしてくれた。
「!」
フィオナをぎゅうぎゅうに抱きしめる。
「・・・アシュトンから、キスはくれないの?」
「!」
フィオナが可愛いすぎる・・・。
でもフィオナのファーストキスを貰うことはできない。
それは次の婚約者の役目だ。
フィオナのおでこにキスをする。
「フィオナ、今までごめん。好きすぎて、緊張して、恥ずかしくて、まともに話もできなくて。もう1度機会を貰えてよかった。 すごく幸せだった。 ありがとう。フィオナを幸せにしてくれる人はすぐ現れるよ。幸せになって」
涙が止まらないが最後まで言えた。
「え? アシュトン、何かあったの? 私達、婚約解消するの?」
トントン
ノックがしたので、2人でドアの方を見る
「泣きながら抱きしめあってるなんて情熱的ね!」
エルヴィナ様がいらしたので、フィオナと離れ、礼をとる
「楽にしてちょうだい。フィオナ、婚約してからのアシュトンを思い出してみて? アシュトンはどんな人?」
なんて事を聞いてくるんだ。
フィオナ、思い出さなくていい。 辛い思い出がよみがえるだけだ!
「ふふ。 えーっと、お互いひと目惚れだったの。 会った時から、好意を伝えてくれて嬉しかったわ。 私の事を知ろうとしてくれて、アシュトンの事も教えてもらって。約束は守ってくれるし、とても信頼できる人よ。 ふふ、それにすぐに泣くけど、そんなところも好きよ」
「 !! 」
「ふふ、フィオナの記憶が塗り替えられたわね。 全く手間をかけさせないでちょうだい! アシュトン、次はないわよ? あなたが泣くのは心底どうでもいいけど、フィオナを泣かせるのは絶対に許さないわ」
「・・・! あ、ありがとう・・ございます」
呪いじゃなかったんだ。エルヴィラ様からチャンスを与えられたんだ
どんな方法でこうなったかは分からないが、きっとフィオナの為に無茶をしてくれたに違いない。申し訳なさすぎて、涙が、鼻水が、嗚咽が止まらない
「まあ、アシュトン! いつもよりひどいわ! エル? アシュトンに何を言ったの?」
「フィーにおねだりされたのに、おでこにキスするなんて情けない男ね、と言ったのよ! フィーだって期待してたでしょ?」
「 っ! もう! エル!」
「ふふ、前に言ったでしょ? グイグイよ!グイグイ!」
そう言って手を振り部屋を出て行った、エルヴィナ様。
フィオナに涙を拭いてもらい、鼻までかませてもらった。
「落ちついた?」
「うん」
「これからもよろしくね? アシュトン」
「うん っ!!」
フィオナがキスをしてくれた。
「ふふ、グイグイしちゃった」
「フィオナ、可愛い。 私からもしていい?」
「うん」
今度は私から、フィオナにキスをする。
本当に幸せだ・・・。また泣きそうだ・・・。
フィオナを抱きしめる。これからはちゃんと言葉で伝えるよ。
「フィオナ、好きだ。愛してる。」
「ふふ、嬉しい。 私も愛してるわ、アシュトン」
エルヴィラ様、本当にありがとうございました。
もう間違えません。
***
「私は満足したけど、皆さんは良かったのかしら?」
フィーの気持ちは変わらないだろうし、アシュトンはただ拗らせただけだった。家族に粘り強くわからせた事を私は評価したし、婚約を諦めフィーの今後を思って飛び級した事も評価して、王家の秘宝を使ったのだけど・・・。
「エルが満足なら、私も大満足だよ。 エルに手間をかけさせてごめんね」
エルヴィナ様を抱きしめ、頬にキスをする兄上。
鬱陶しいな!
「私は、フィオナが幸せならそれでいい。アシュトンの頭脳はかなり優秀だから、ドンドン仕事を振れそうだ。伯爵領もこちらで自由に使えるし満足だな」
確かにアシュトンは頭がキレるが、中身はヘタレでクズだったんだぞ?
父上は、潰した3家の領地も手に入れようとしてたよな?
強欲なタヌキめ。
「私も、フィオナが幸せならそれでいいのです。アシュトンはフィオナに執着してるから、浮気もしないだろうし、アシュトンは顔が良いから、今から孫が楽しみですわ」
あんな事がまたおきたら、次は俺がすぐに奴を殺す!
孫って・・・。そんな話をアイツにするなよ?
フィーにすぐ手を出しそうだからな!
「リンウッド? あなたはどうなの?」
「・・・納得してません」
「ふふ、あなたシスコンだものね。 安心なさい、フィーに似た良い娘を紹介するわ」
「~~~!」
シスコンじゃない!!
・・・とは言い返せなかった。 クソっ!




