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三題噺もどき3

夏祭り

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくじゅうよん。

 


 ざわざわと人々が蠢く。


 普段車の走る道路には、人があふれかえっている。

 歩道には屋台が数多く並び、威勢のいい声が飛び交っている。

「……」

 地元で一番大きな夏祭りに来ていた。

 毎年このくらいの時期にするので、この夏祭りに来ると、夏も終わりかぁなんて、らしくもないことを思う。

 基本的に、人混みが嫌いで夏の暑い時期なんて苦手なのに、なんとなく。ここには行こうかなと思うくらいには、惜しむものがあるらしい。何かは自分でも分からないけど。

「……」

 まぁ、そんな感傷のためではないと言う言い訳もある。

 毎年この夏祭りで行われる花火大会を見に来ただけという。

 誰に頼まれる訳でもないが、花火を写真に撮るのが好きで、そのために来ているという。

 決して得意ではない上に、完全に趣味に走った写真を撮るので、見せられるようなものではないが。

「……」

 だから、今日も、首に高校からの相棒であるカメラをかけてここに来た。

 もちろん1人ではない。一緒に来るような友達は残念ながらいない。

 だから、家族で来ている。

 ―はずなのだけど。

「……」

 見事にはぐれたなぁ。

 携帯を持ってはいるから、連絡は取れるんだけど、この喧騒の中であの人が通知音に気づくかどうか……。

 とりあえず、連絡だけ入れておこう。

 ここはメイン会場だから……その近くの金魚すくいのところにいる……と。

 よし。あとは大人しく、ここで待って居よう。

「……」

 携帯を鞄の中にしまい、手持ち無沙汰になったのでなんとなく周囲を見渡す。

 浴衣を着た人や、甚平を着た人。子連れの家族やカップルらしき人。友達同士の集まりや、彼らは部活の集まりなのかな同じ文字の入ったシャツを着ている。

 時折制服を着ている学生の子達も見かける。きっと真面目なんだろうなぁ。浴衣とかおしゃれしてきたかっただろうに……。学校によってなのか地域によってなのかは分からないが、一定の範囲外へ学生のみで外出する際は制服を着るようにという決まりがあったはずだ。

 見たことのあるような制服だが、まぁどこも大抵は似たり寄ったりだから、分からないな。

「……」

 出来れば花火が始まる前に合流したいが今何時だったか。

 鞄につけてある、キーホルダー型の時計を見やる。懐中時計の形をしていて、かなりお気に入りのやつだ。雑貨屋さんでほとんど一目惚れの勢いで買った。けして安い買い物ではないが、時計なんてそうそう買い替えるものじゃないからいいだろうと。

 以前は腕時計をしていたんだけど、手首が痛くなるのでやめた。……割と買い替えているかもしれないなこれは。

「……」

 まぁまだ時間はあるから大丈夫か。

 連絡に気づいているかどうかも怪しいし、気長に待つとしよう。

「……」

 視線を少し横にずらすと、金魚すくいの屋台が目に入る。

 浴衣を着た女の人が挑戦中のようだ。

 昔はやっていたが、今じゃもうすっかりしなくなったな。

 もう少し離れたところに。ヨーヨー釣りとかスーパーボールすくいとかもあったな。

「……」

 ヨーヨーやスーパーボールは物だから、なんとなくまぁ、取ってもその後に困らないからいいけれど、金魚はなぁ。生き物だから。

 家に持ち帰って、水槽に入れて、餌をやったり、水槽を綺麗にしたり、水をきれいにしたり。それなりに時間と手間がかかってしまう。いや、別にいいのだけど、それで過去にうまく行かなかったことがあるから、それ以降金魚すくいはしてない。

「……」

 浴衣を着た女性は。

 料金を支払い、店主から小さな器と、ポイを渡される。

 それぞれを手に持って、逃げ惑う金魚を追いかける。

 蜘蛛の子を散らすように広がる金魚の群れは、花火のようで美しい。

「……」

 その人は何か色の狙いでもあるのか、一匹を執拗に追いかけているように見える。

 赤やオレンジや黒の小さな金魚。影から逃れるようにあちらへこちらへ走る。

 ついに、端の方まで詰め寄られた金魚は。

 ポイに掬い上げられる。

「……」

 ポイの近くに器を用意していなかったその人は、間に合わずに逃げられる。

 水に落ちた瞬間に金魚はすい―と走り去る。

 しかしまだ、ポイは破れてはいないので。

 執拗に、きっと同じ金魚だろう―を追いかけている。

「……」

 またも掬い上げられた金魚は。

 紙の上でもがき、小さく跳ね。

 逃れるようにと身をねじり。

 しかし間に合わず、器に落ちる。

「……」

 狭くなった水の中を。

 くるくると、まるで捕らわれたことに気づいても居ないように。

 くるくると、泳いでいる。

 くるくると。

「……」

「……」

「……」

「……」

 ブ―

「――!!」

 突然鞄の中の携帯が震えた。

 何かと思い取り出すと、連絡が届いていた。

 どうやら、もうすぐこの辺りに来るらしい。

「……」

 なら、大人しくカメラの設定でもいじっておこう。

 ……お腹空いたなぁ。






 お題:懐中時計・掬い上げる・制服

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