邪悪な笑み
俺が智恵美のニュースを聞いたのは、翌日の朝だった。
つまり、智恵美は俺達と別れた後に、襲われた事になる。
俺は責任を感じていた。
もしあのまま、あいつと一緒に帰っていれば。
こんなことには、ならなかったかもしれない。
あいつは親友だ。
俺がきっちり、責任とらなきゃならない。
―――――
「なあ、正樹」
「なんだ?」
「お前の親父って、刑事やってんだろ?」
「ああ、それが?」「お前、昨日の夜この辺で起きた事件知ってんだろ」
「ああ、あの、女子高生がぼこぼこに殴られたってやつか」
「その女子高生、俺の友達なんだ」
その言葉に、正樹は目を大きく見開いた。
「マジ?」
「ああ。だから、何かわかったら俺に教えて欲しいんだ。俺も何か気付いた事あったらお前に話すからさ」
正樹は少し考えてから、「わかった」と答えた。
―――――――
放課後。
俺はいつものようにあきと帰っている。
「智恵美さん、かわいそうだよね」
不意にあきが言った。
「ああ。あきも気を付けろよ。最近物騒なんだから」
「うん。ありがとう信二君。やっぱり優しいね」
そう言ってうれしそうに笑う。
かわいいやつめ。
俺はあきに不意打ち的なキスをした。
あきは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに破顔し、「もっと〜」とかわいらしく口をすぼめた。
俺達は周りの目も気にせず(といっても俺達以外誰もいないが)熱いキスを繰り返した。
その後、あきを送ってから智恵美の入院している病院へ向かった。
智恵美は頭、右腕、両足に包帯を巻いている姿がただでさえ痛々しいのに、これらの他にも数え切れないほどの打撲、切り傷、骨折等の損傷が見られるという。生きているのは奇跡だそうだ。
智恵美は今だ昏睡状態が続いている。
看護師さんが教えてくれたのだが、両足の骨は綺麗に折れていて、恐らく犯人は足を凶器で一撃で折ったのだろうという話だ。
さらに犯人は智恵美をわざわざゴミ捨て場まで運んでいる。
つまり、女性の犯行というよりは、一撃で骨を折ることができて、容易に遺体を運ぶことができる“男性”によるものだという可能性が高いらしい。
動機はどうあれ、女をめった打ちにする男なんて糞だ。
俺はゆるせねえ。
俺は智恵美の左手を握り、必ず犯人を捕まえてやると心に誓った。
数日後。
俺はいつものようにあきと帰っていた。
「ねえ。信二君?」
「ん?」
「最近ぼうっとしてるよね。どうして?」
「あ、いや。智恵美の事があったからさ。悪いな」
あきは何も言わず首を左右に振るだけだった。
しばらくお互い何も喋らず歩いていると、ふいにあきに声をかけられた。
「ねえ、信二君。今日うち誰もいないから、遊びに来ない?」
「あー・・・。ごめん、そんな気分じゃないんだ。ごめん」
「でも、もうすぐテストだよ?勉強大丈夫?」
はっとした俺であった。
「お邪魔させて頂きます」
――――――
そんなこんなで、あきの家で勉強しているのだが、まったく頭が働かない。
智恵美は怨みをかうような人間ではない。中学の頃はかなりの人気者で、生徒会長になれたのもその人望の厚さ故だ。
恋愛絡みでもないはずだ。あいつは彼氏など出来たためしがないと言っていたし(嘘でなければの話だが)、もしそういう悩みがあれば誰かに相談するだろう。そういう奴だ。
では通り魔が?
その線もないと俺は思う。ただの通り魔なら、誰かに見つかるリスクをおかしてまで、あそこまでぼこぼこにするとは考えにくい。
もっとも、犯人がただならぬ異常者だったのかもしれないけれど。
なんにせよ、俺には情報が絶対的に足りていない。
警察がまだ進展なしというのも気になる。
勉強するふりをして一人で考え込んでいると、コーヒーを二つ持ってあきが俺の隣に座った。
「少し、休憩しよ?」
「ああ、そうだな」
俺はコーヒーをすする。
甘っ。
「信二君、あんまり集中出来てないね」
「えっ。そ、そうかな」
「また智恵美さんのこと考えてるの?」
すっげえ。
「まあ、俺の責任でもあるし」
あきは悲しそうに、切なそうに、俺の瞳を見つめていた。
「あき、あの――――」
言い終わる前に口を口で塞がれる。
乱暴な舌が、俺の咥内で暴れた。
「うむぅっ!ぷはっ、あ、あき!俺、そんな気分じゃ」
あきは俯き、たった一言、「寂しいよ」と呟いた。
なんと言っていいかわからないでいると、急に視界が歪んだ。
にたあ、と笑うあきを最後にとらえ、俺は意識を失った。
次からちょっとキモいっす。
苦手な人回れ右