誤解
次の日。
俺は何事もなく学校を終えて、あきと一緒に帰っていた。
「ねえ、信二君。さっきからあの人、ずっとこっち見てない?」
あきが急に、額にシワを寄せて言った。
怯えているというより、怒っている感じだ。
あきの睨む先には一人の女性の姿。
ん?どっかで見たカオ・・・
あ!
「智恵美じゃん!何やってんだこんな所で!」
「え?やっぱり信二?うわー、久しぶり〜!」
女性の正体は、俺と同じ中学校だった、佐々木智恵美だった。
智恵美とは生徒会仲間だったこともあって、けっこう仲がよかった。しかし、別々の高校に行ったこともあって、余り連絡は取っていなかった。「お前、ちょっと背伸びたか?」
「信二が縮んだんじゃないの〜?」
「こいつ!ハハハ」
「フフフ」
俺は久しぶりの友人との再開をたのしんでいた。
あろうことか、あきを一人にさせて。
―――
「ねえ。そっちの人って誰?彼女?」
「ああ。あきってんだ。」
「へー。あんたにも彼女できるんだ。びっくり」
智恵美は手で口を覆い言った。
「おい。ひでーな。」
「あはは。あ、私智恵美って言うの。よろしくね。」
智恵美は笑顔で手を差し出した。
「私はあきです。よろしくお願いします。」
あきも笑顔で答える。しっかり手を握りあっていた。
よかった。仲良くなって。あきはちょっと嫉妬ぶかいからな。
―――
それから、智恵美を混ぜて三人で帰っていたら、急にあきが言い出したんだ。
「ねえ、智恵美さん。智恵美さんは彼氏とかいるんですか?」
「それが出来なくてさ〜。ただいま募集中ってやつ」「今まで一人も?」
「悔しいけどそうなの。はあ〜。」
「ってことは、まだ処女って事ですよね?」
智恵美は立ち止まり、口を開けて驚いていた。
おいおい。普通初めて会ったやつにそんなこと聞くか?
俺はなぜか聞いてはいけないような気がして、聞こえないふりをしていた。
な、なさけねえ。
「ま、まあね。ハハハ・・・。」
智恵美は明らかに苦笑い。
「私は一月前に初めてしました。もちろん相手は信二君。」
「お、おい。そんなこと今言わなくても。」
まずいと思い止めようとするが、
「ごめん、信二君。ちょっと智恵美さんとお話させて。ね?」
口は笑ってるけど、目が笑ってないぞ。
情けない俺はそれで黙ってしまう。
「ごめんね智恵美さん。それで、話の続きなんだけどね。信二君たら、私が初めてなの知ってるくせに、凄い激しいの。しかも、ゴム無しで中で出すし。も〜、あれには困っちゃった。私、足腰立たなくなっちゃって」
あれはあきがゴム無しが良い、中が良いって言ったんだろ!
しかも、激しかったのは、どちらかと言うとあきだ!
智恵美は明らかに引いている。苦笑いを浮かべ、適当に相槌を打っている。
「昨日なんて、私の口にアレ押し込んで、無理矢理口の中に出したの。おいしくなかったよ〜。」
その言葉を聞いて、智恵美がびくっと肩を震わせ、汚い物を見るようにちらっと俺を向いた。
「ぇ・・・。あはは、信二やるねー・・・。はは・・・」
そんな目で俺を見ないでくれ・・・。
「しかもね!終わった後、信二君おしっこしたくなったんだけどね」
え?おい。あき?まさか言うつもりか?
「私におしっこ飲めって」
「ちょっと待った!あきそれは」
「あっごめん、私参考書買いに行くんだった。だからここで。ばいばい」
智恵美は足早に駆けて行った。ここは住宅街、お前が駆けて行った方向と逆に行かなきゃ、本屋なんてないぜ?
完全に、完璧に、智恵美の中で俺たちは変態カップルとなってしまった。
さすがの俺も黙っちゃいれない。
「おい、あき!なんであんなこと言ったんだよ!嘘までついて!」
「だって、あの女、私を差し置いて信二君とお話するんだもん!だから、わからせてあげたの。私と信二君が、単なる恋人じゃない、心も身体も完全に繋がってるんだって!」
笑顔で、あきは言った。
さっきの会話にはそんな意図があったのか?俺には、ただ俺たちの(というかあきの)趣味を恥ずかしげもなく暴露しただけとしか思えなかった。
それでも、それでも俺は、あきが好きだった。だんだんあきが変わっているとは思ってはいた。
でも、俺はあきを愛していたんだ。こんなことで別れたくなんかない。
この時は、そう思ってた。