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08 義妹の不和

 さて、あり得ない程長い1日だった。


 陽奈によるグループ追放。

 それによる周囲からの嘲笑。


 星川姉妹による取引。

 伊藤さんと友達になり協力してくれる発言。

 ついでに星川姉妹のせいで周囲からの嘲笑が敵意にランクアップ。


 濃いよ。胃がもたれるわこんなもん。

 それなのに問題は何一つなくなっていない。胃薬買わなきゃ。


 あーもうヤだ。……ちょっと頭も痛くなりそうだし、一度整理しとくかね。


――まず問題は、周囲からの敵意。


 本来の意味のカースト制度でも最下位だった奴隷という立場は、この学校のスクールカーストにおいても奴隷的立場の俺に適用されている。


 ただ便利だからとこき使われていたのだが、それがここにきて敵意へと転じた。

 もともと抵抗力のない俺相手だし、多分イジメまで発展する。マジやだ怖い。


――次に、問題への対策。


 手段は現状3つ用意された。


 1つはただ耐える事。

 とにかく逃げ回り、耐えて、嵐が過ぎ去るのを待つ方法だ。

 これだと俺以外に迷惑も被害も及ばない。俺だけの問題で済むワケだ。 



 2つ目は星川さんの取引に応じる事。

 星川さんの圧倒的人気やグループの力を使ってゴリ押しで俺の立場向上を図る方法だ。


 デメリットとしては、生徒会長になる星川さんの補佐として生徒会役員になること。

 そうなれば星川さんが怖くて直接文句は言われずとも、男子からの嫉妬はこれ以上なく集まるようになる。

 地味に嫌な学校生活を送ることになるだろう。

 あとは単純に生徒会の仕事をしなくてはならない。



 3つ目は星川妹――星川の取引に応じる事。

 星川の、いわばジョーカー的な立ち位置に引き込まれる事でイジメから脱却する方法だ。


 デメリットは、星川と仲良く見せる為に一緒に居る時間を確保する事。

 ……地味に辛い。星川と長く居るなんて疲れること間違いなしだ。

 その他の細かい人間関係については、冷静に考えればデメリットにはならないので省略。


 ただもう一つのデメリット。

 あえて本人にはそう言わなかったが……陽奈への復讐がある。


 いやね、「それがデメリットだ」なんて本人に言ったら取引関係なく星川が陽奈に突撃するかも、と思って言わなかったんだよ。

 確かに陽奈は俺の扱い悪いし、奴隷扱いされる原因だし、口悪いし面倒だし我儘だけど……だからって復讐までしたいとは思わない。

 しかも星川がシナリオを描く復讐とか怖すぎる。



 そして……星川姉妹の取引を躊躇う理由がもう一つ。

 単純に、人に余計な迷惑や被害、手間を掛けさせたくない。


 もうね、拒否反応出るの。

 こちとら長年お付きなんて立場してきたんですよ?

それがこんな一大事をーー対価こそあれどーー解決自体はほぼ丸投げにするとか。

 そんなの落ち着かない。いたたまれない。なんかヤだ。申し訳なさで窒息する。


 本当は……現状だと、星川の取引に応じるのがベストだと思ってる。

 もちろん、陽奈への復讐の部分を交渉するという前哨戦は必要になるけど。


 ただ、よりによって後輩に丸投げして助けてもらうってどうよ?

 いたたまれなさや申し訳なさは当然だが、それ以前にやばくない?俺ダメすぎない?



 とまぁ長くなったが、そんなワケで現状は1つ目の『ただ耐える事』を採用予定。

 陽奈いわく「逃げ足だけは早い」という俺の本気を出して、ひたすら逃げ回る方向でいこうかと思ってます。


 つまるところ、俺は取引を全て却下するつもりでいる。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 そんな事を昨日の夜に考えて、迎えた翌日。

 祝福するかのような晴天に、嫌味かと内心舌打ちしながら登校する。


「おっはよー秋風くん!」


「へっ?あ、おはよう、ございます……」


「あははっ、なんでビックリしてんのさー!友達だし挨拶くらいするでしょ!」


 教室に入って一発目に、伊藤さんからの挨拶が飛んできた。

 

 愛嬌のある整った顔立ちに満面の笑顔をのせて、両手でふりふりと手を振る姿はかなり可愛らしい。

 こちらにぴょこぴょこと小走りする伊藤さんは、明るい茶髪を揺らし、それ以上に大きな胸部装甲も揺らしてと、なんかもう色々と目を惹かれる要素が搭載されている。……まさか星川よりでかい…!?


「そう、ですね。すみません。あ、雨森さん達が待ってますよ?」


「へっ?あ、ごめんごめーん!じゃあまたね秋風くんっ」


 笑顔を見せてUターンする彼女の姿を見送ることなく視線を切る。


 …………さて、どうしよう。

 いや、まさかこんな対応してくるとは思わないじゃん?

 何考えてんですかあの子。昨日侮れないと思ったのにやっぱ考えなしなの?


 うーん、非常に良くない。

これ誰も幸せになれないやつ。


 俺の今の嫌われっぷりと見下されっぷりは、伊藤さんが話しかけてくれるくらいじゃどうしようもない。

なんなら男子の嫉妬が追加されるだけだ。学年2番目にモテるって噂だし。


 なにより最悪の場合、伊藤さんに被害が及ぶ。

 彼女のキャラや立場的にないとは思うが、だからといってその危険性を除外するのは楽観的だし、何より迷惑を掛ける側の俺が考えないのはダメだろ。


 ………ここは、伊藤さんに控えてもらうよう誰かにとりなしてもらうか。


 適任は、まぁ星川さんか。次点で雨森さんだな。


 どちらも俺なんかと話してくれる器の大きい人達だ。

 グループの伊藤さんの為となればきっと動いてくれるだろう。

 なんなら事前に察知していて、言うまでもなく伊藤さんを止めてくれるかも知れない。


「おいおーい友香ぁ?今秋風に話しかけちゃダメじゃねー?」


 ところがどっこい。

 予想外にも、火縄さんが伊藤さんにそんな事を言っていた。


「へっ?なんでさー!友達だし挨拶くらいするじゃん!」


「いやいやー、友達とかは別に良いと思うぜ?ただ今はダメだっつーの。秋風にも迷惑かかっちゃうぜー?」


「えっ、そ、そうなのっ?」


 いやはや、びっくりしすぎて思わず火縄さん達の方を見るところだった。

危ない、ここは聞こえないフリしとかないと。


 しかしあの火縄さんがなぁ。

 正直、彼の印象は軽い、チャラい、性格悪い、だ。

 性格の悪さについては陽奈みたいなストレートなタイプじゃない。

どっちかといえば星川寄りか?チャラさにうまく隠してるタイプだ。


 こう、裏で色々企むような感じがするんだよね。

 星川と違って何か悪事をするというより、うまく立ち回る為だったりコソコソなんかやってるイメージだけど。

 いや、別に嫌いとかじゃなくてね。

そういう、いわば『良い性格をしてる』って話だ。


 そんな火縄さんが、こんな助言をするとはなぁ。

 彼にもグループメンバーに対する良心があるって事かね。


 勿論俺の為に言ってくれたとは思わない。

それはない。昨日俺が追放されて嬉しそうだったし。あれはガチの笑顔だった。


「そうよ友香、ほっときなさい。それが一番よ」


 ちなみに陽奈は普通に性格悪い。

 迷惑や被害とかは深く考えず、単に俺に話しかけるのが面白くないだけ。


「ははは……まぁ、今はその方が良いだろうね」


 雨森さんはただのイケメン。

 ちゃんと理解した上で、伊藤さんや俺の為に言ってくれてるんだろう。


 だからといって俺を助けてくれるなんて事は一切期待してないけどね。


 彼は多分、考えすぎるタイプだ。

 誰の為に、より多くの人が傷付かない為には、なんて色々考えて……考えすぎて行動に移せない事も少なくない。

 だからよく星川が襲撃してきても固まってるしね。

 実際、俺なんかよりも星川を止める力はあるにも関わらずだ。


 もったいない、と思わなくはないが、それが彼の良い所だとも思う。

 少し偉そうな言い方になったが、俺はあの立ち位置にいるのが雨森さんで良かったと思ってる。少なくとも火縄さんじゃなくて良かった。


「……まぁ、そこが友香らしいんでしょうけどね」


 そんなグループを最終的に鶴の一声でまとめるのは星川さんだ。


 悩む雨森さん、企む火縄さん、我儘な陽奈、奔放な伊藤さん。

 そんなほっとけば好き勝手バラバラに動き回りそうなメンバーを、そのカリスマでまとめあげている。

 そしていざとなればリーダーとして決断して、全員の行動を統率するのだ。


 それぞれが発言力を持つメンバーだし、星川さんでなければまとめる事なんて出来ないだろう。

 

「うぅ、そっかー……」


「まぁきっとその内チャンスはあるさ。元気出しなよ」


「うん……ありがとね優斗くん」


 落ち込む伊藤さんを宥めるイケメン雨森さん。周りの女子も目がハートですわ。


「それに友香?今日の小テストは大丈夫なの?先生が成績に影響すると言ってたわよ」


「ぅえっ?!わ、忘れてたっ!」


「はぁ。範囲は分かるの?」


「えぇっと……ごめん沙織ちゃん教えてぇー?!」


「そうなるわよね……ほら、こっち来て」


 星川さんは女にもモテそうだな。てかもはやオカンでは?

 伊藤さんはそこまで成績は悪くない。まぁ星川さんのフォローあってなのかもだが。


 小テストがあるのは……歴史だったか。うーん、陽奈は大丈夫なのかね?


「…………ぁ」


 あー、陽奈固まってら。あかんヤツですわ。


 本来なら俺がさりげなく教える場面なのだが、今は追放された身。

 しかも面倒な事にプライドの高いお姫様の陽奈はこういう時素直に周りに聞けないのだ。


 更に言うなら、陽奈はバカではないのだが、努力が嫌い。

 数学とかの理解系はそこそこなのだが、ひたすら地味に覚える記憶系の歴史や社会の類は苦手なワケだ。

実際赤点とって星川に遊ばれたのもそれだしね。


 もうクセなんだろう。

なんかソワソワする。


 陽奈は大丈夫なんだろうか。

 多分陽奈の様子に星川さんは気付いてるだろう。

 けどだからといって教えようとしても「大丈夫に決まってるでしょ」とか言って突っぱねかねない。

 雨森さんも気付くだろう。

 そして彼になら陽奈も喜んで教えてもらう……いやどうだろう。それこそ好きな人の前で見栄を張る可能性もある。


「………」

 

 さて雨森さんは……あぁ、多分俺と同じ葛藤をしてるな。

 何か言いたげだけど黙ってるし。

 こういう時、考えすぎる彼は陽奈と相性が悪い。

 例えばこっそり教えるとかすれば多分いけるんだろうけど、その手前で悩んでるからそこまで思いつかないんだろう。


「うへー、オレも忘れてたわぁー!沙織―、オレにも教えてくれぇ」


 お、火縄さんが動いた。

 いや火縄さんも成績は微妙だから単純にそう言ってるのかも知れないが、陽奈が乗っかるとしたらここしかない。


「………ぅ」


 ダメかぁー。まぁそうだとは思ったけどさ。

 うーん……もしかして陽奈、これから色々とやばかったりするか…?





 それからも、いくつか小さな問題が起きた。


「秋風さん、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」

「後にして」


 雨森さんと話してる途中で目立たないタイプの女子生徒が話しかけてきたが、顔も向けずに素っ気なく突き返す。

 陽奈、あのタイプの人を見下しがちだもんなぁ。


 話しかけた女子生徒は、よく先生の手伝いなんかをしてる子だ。

 きっとそれ関係の話だったんだろう。

普段なら俺がとりなすなり話を聞くなりするけど……。


 結局、女子生徒は苦笑いをしつつも不満そうに去っていった。

 その後しばらくして陽奈は職員室に呼ばれていったし。



「あれ、陽奈?ご飯は?」

「ん、購買で買ってくる。一緒に来てくんない?」


 そうなんです、実は弁当の用意もしなくなったんですよ。

 というのも、俺作の弁当を雨森さんの前で食べていたら結局俺の影が見えるからと廃止になったのだ。

 最初は自分で作ると言っていたが、どうやら作らなかったらしい。


「仕方ないなー!でも今日だけだよー?あたしだってお腹空いてるんだからっ」

「わ、分かったわよ。なによもう…」


 結局伊藤さんを連れて行ったのだが、ほんの少しばかり雰囲気が悪くなった気がする。

 しかしさすが伊藤さん、よく分かってるなぁ。確かに陽奈の言う事をなんでも頷いていたらどこまでも巻き込まれる。

 だからさっきみたいに線引きするのは大正解だ。むしろそれが健全な付き合いに繋がりすらする。……まぁ俺は立場上できない方法だけど。



 その後陽奈がどんな感じだったかは分からない。


「せんぱーいっ!」


 その直後に突撃してきた星川に連れ去られてしまったもんで。


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