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冬支度と危険な訪問者

冬支度を進めているとついに雪が降り始めた。

この世界の冬はとてつもなく寒いらしい。


だがしかし、冬に備えて色々準備してきたのでこの村の冬対策は万端だった。

エルドたちのおかげで各種族用の大きな宿舎が3つ

鍛冶工房が1つ

俺とマティア用の巨大な家が1つ

そして備蓄用の貯蔵庫と、農具や工具を納めている納屋が一つ出来上がっていた。

俺とマティアが住む家が巨大なのは全員で集まれる集会所も兼ねているからだそうだ。


ドワーフたちの宿舎には鍛冶工房とは別に簡易工房も併設したつくりになっている

ラミアたちの宿舎には要望により卵を温めるための羽化室と洞窟でも栽培していた薬草を育てるための地下室も併設された。

薬草は冷暗所かつ魔素が豊富でないと育たないらしく、そのため地下室に、更にエルドたちに頼んで魔素を放出できる魔石を設置してもらった。定期的にイザやラナが魔石に魔力の補充を行うこととした。

羽化室を作ったわけはラミアは単性生殖で子孫を残せるかららしい。

子供が欲しいと思えば作れるそうだ。生まれた子供は種族全体で育てるらしい。


「もちろん有性生殖も可能なのでイザ様ならいつでもお呼びください!」

とミアに言われテンパっていたらそれを聞いていたラナがすかさず割って入りミアに制裁を加え


「ミアがすみません!…(でももし本当に必要とあらばわたくしが…)」

とイザも耳元で囁き

「冗談ですよ。ふふふ」

と笑われた。

が…何処までが冗談なのか…イザにはわからなかった。



銀牙たちは氷魔法を得意とするだけのことはあり寒さは案外平気なようで冬の間も交代で村の警護に当たってくれるようだ。

暫くしてみなで暖を取りつつ過ごしていると銀狼たちから報告が入った。

森で行き倒れている者を見つけたらしい。

とりあえず村の入り口まで運んできたようなので皆で駆け付けた。


1体の銀狼族の背中に、とがった耳に金色の髪の少女が背負われていた。

(これはファンタジー物の定番、エルフ!)とイザは感動している。

「イザ様どうかしましたか?」

「いやっ、なんでもない、この人はエルフ族か?」

「そうですね、この方は…。どういたしましょうか?」

(どうって言われてもなぁ)


「なぁきみ大丈夫か?」

「うぅ…。お腹…」

「お腹?」

『ぐうぅぅぅ』

エルフと思われる女性のお腹が大きな音を立てて鳴った。


(空腹で倒れていたのかー…。イザのエルフに対する清廉なイメージは一瞬で崩れ去った)

とくに害もなさそうなので空腹のエルフを集会所に運んで飯を提供してあげることにした。


「なんですかこれ!?こんなおいしい食事!私今まで食べたことありませんっ!」


女の食いっぷりに全員唖然とした。

イザのエルフに対するイメージはさらに落ちた。

(エルフってこう、清楚もしくはクールってイメージじゃん?期待するじゃん?)


暫く食ったら元気を取り戻したようなのでなぜ森の中で行き倒れていたのか事情を聴くことにした。

冬になって食べるものが少なくなり食い物を探して森に踏み入れたが、ろくに見つからずに空腹で倒れているところを銀狼たちに見つけられて救出されたようだ。

(俺のエルフ像をこれ以上壊さないでくれええええ)


「俺はこの村の村長をしているイザと言います。貴方はどこから?」

「これは失礼しました。私はこの森より南東に住むエルフ族のリーンと申します。行き倒れているところを助けていただき、暖かい部屋に食事まで与えていただき感謝いたします。」

(さっきまでは幻滅ラッシュだったけど、さすがエルフ空腹じゃなければ丁寧な人だな。南に住むエルフってことはこの人がラナが言ってた人か)

ラナの方を見ると苦笑いをしている。


「イザさん。とお呼びしてよろしいでしょうか?」

「はい?」

「いきなりの申し出、大変失礼なのは重々承知しておりますが、私もこの村に住まわせて頂けないでしょうか?この村の食事に惚れました。数百年生きてきましたがこんなにおいしい食事は食べたことがありません。この食事のためならば何でも致します」

(うわー。すっごく丁寧な物腰と言葉使いだけど、食事に釣られて自分を売るってこの子どんだけー。イザのエルフのイメージが100下がった)


「はぁ、まぁ別に構いませんよ」

(特に外はなさそうだしいいか)

耳元でラナがささやいた

「ほんとうに…この方をここに住まわせてもよろしいのですか?」

「別に害はなさそうだしいいんじゃないかな?」

「イザさんがそうおっしゃるなら無理に止めはしませんが…。お気を付けください…。」

含みを残してラナは話を終わらせた。




すると翌朝早速事件が起きた。


鼻を衝く異臭を感じてイザは飛び起きた。

「何事だ!?マティアの料理か!?」

以前マティアが料理をしようとした際もおぞましい何かを作り出して数人体調不良になる事件があった。


慌てて外に出ると薄紫の霧が立ち込め、銀狼たちが倒れている。

「新手の魔物の攻撃か!?毒攻撃か!?」


するとよろめきつつラナが近づいてきた。

「リーンさんが…」

そう言い残すとラナはその場に倒れ込んだ。


丁度その時起きてきたマキナは平気そうだったので、マキナに倒れている皆の介抱を頼んで慌ててリーンが借りの住居にしている貯蔵棟に駆け込んだ。

するとさらにとんでもない強烈なにおいと濃い毒の霧が部屋を覆っていた。

「リーンさん!大丈夫ですか!?」


リーンさんが危ないと思い駆け付けるとピンピンして意気揚々としているリーンが目に入った。

「これはイザさん!聞いてください!この森に生息していた希少なキノコと薬草と毒草を混ぜたら新しい薬が完成したんです!これは新発見です!」


机の上にあるキノコの欠片が見えたが、カエンタケにそっくりだ。初見で毒キノコだとイザは確信した。

(ラナが言いかけていたのはこのことかー。この子は天然迷惑系研究者だったか…!イザのエルフっこに対するイメージは地に落ちた)


「えっとリーンさん?」

「はい?なんでしょうか?」

無言でイザはリーンの頭をはたいた。


「痛い!イザさん急に頭をブツなんてひどいです!私が何をしたって…」

「この状況を見なさい!」

イザは窓を全開にして外の状況をリーンに見せた。

それを見てようやく察したようでリーンは反省した。


リーンが持っていた解毒薬で全員の解毒を済ませて集会所に集まった。

村が始まって最初の緊急集会である。


「で?なんであんなことを?」

「あれは薬品研究の一環です。新たな薬品を作るために日々研究を重ねているのです」

何故か自慢げにリーンは語っている。


よくよく聞いてみるとこんな研究ばかりしているから数百年前にエルフの里を追い出されたようだ。納得がいった。

ラナたちが変だと言っていたのも納得。


リーンは過去の文献でどんな病や怪我でも治し寿命をも伸ばすという伝説の薬エリクシルの存在を知ってから薬品の研究に心を惹かれてそれから薬の研究を続けていたらしい。

どこにいっても追い出されるので色々な薬草が採れる洞窟のそばに小屋を建てて一人で暮らしていたらしい。


そりゃそうだ、街中で毎度こんな騒動を起こされたんじゃ溜まらない。

「あんな毒物を村の中で実験するんじゃありません!今後あんなあやしい研究はこの村の中では禁止です」


「そんなぁ…!私研究以外何もできません…どうか、どうか私をおいだざないでぐだざいいい!」

(鼻水っ!分かったから近寄るなっ!)


「危ない研究さえしなければ別に居てもいいから」

「ホントですか!?でも私この村で一体何をしたら…?」

「ああ、研究が趣味って言うならちょっと別の研究をやってくれないか?」

「というと?」


「食べ物についての研究をしてみないか?」

「食べ物ですか?一体何の研究を?品種改良とかですか?」

(この子に品種改良とかさせたら危険物つくりそう…)


「発酵食品だ」

「ハッコウ?(光る食べ物?)」

(やっぱ伝わらなかったか…)


この世界では酒や酢、チーズなどはあるが科学が発展していないので発酵食品の概念がないらしい。なので知っている発酵の知識を詳しく説明してみた。



「目には見えない未知の生物たち!そしてそれらを使役して食品を加工させる技術!!これは興味をそそられますねっ!」

(うん?使役?なんかちょっとずれて理解しているみたいだけど概ね間違ってないからいいかー。)


発酵の仕組みについてはこの世界では詳しく研究はされていないようだが、酢や酒を造る文化はあるようなので受け入れは早かった。

醸造の知識があるエルドやラミアたちの方がリーンより呑み込みが早そうだったが、とりあえず研究の分野だからリーンにまかせることにした。

こうして新たな住人のリーンには食材や調味料全般を研究してもらうこととなった。



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