表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

トレントの花

トレント。

木の精霊。

花屋『quod vivere』

「これってどういう意味なんだ?」

裏にある個人病院の先生が、看板を見上げて尋ねた。

「これはねぇ、生きがいって言う意味なのよ」

ふ~ん、と余り興味なさげに、顎の髭を触る先生。

「興味無いなら、最初から聞かないでよ…それと髭面汚いから剃りなさいよ!」

「余計なお世話だ!」

リルが気配に気付いて振り向く。

かなり目線より下に、人影が見えた。

少年であった。

「どうしたの?坊や?」

空気を読んで、髭面の先生は片手を上げ挨拶をして去っていく。



「なるほど…ね、それで精霊の花が欲しいと?」

「トレントって精霊なの?それじゃあ、無理か…」

少年は、もう泣きそうだ。

「無理じゃないわよ、深き森のドライアドに知り合いがいるから、聞いてみるわね!」

ドライアド、これも木の精霊の一種である。

「っ!ほんとに?」

「えぇ、ちょい時間かかるかもだけど、大丈夫そ?」

「はい!急変する事は無いって、お医者さんが!」

泣き顔はどっかに、飛んでいっていた。



「で!深き森に来たけれど…コレ…どうやって進むの?」

ナリアは、腰に手を当て何故か胸を張っている。

「なんで、偉そうにしてんのよ…」

「そうではなく、偉いのよ」

「…はいはいはい」

リルのボディに、ナリアは小さい拳をめり込ます。

悶絶して膝をつくリル。

「…な、なにすんのよ…」

「ムカついただけだ、気にすんな!」

「んもう…」

「いいから、早く行け!!」

「相変わらず酷いわね…分かったわよ!」


魔力を集中させて、一本の木だけを氷らす。

これが、ドライアドに対する合図になる。

空間が歪んで、そこから何かが飛び出してきた。

「久しぶりだね?リヒャルト」

「リルで良いっていったぢゃない?」

「久しぶりでもキモいね!君」

「あんたも大概酷いわね…」



ドライアドの案内で、トレントの集落に辿り着く。

トレントの一人?に説明する。

「なる程、あげてやっても良いのだが…」

「なんか問題?」

小首を傾げるリル。

「ああ、トレントに花は一生に一度だけ、子供から大人になる時、成人?する時に咲く。」

「成人?のタイミングは?」

「分からない」

「成人?しそうなのは?」

「分かるが…そこから何日かかるか?何年なのかは分からない」

運次第って事らしい。

「数日、この集落に泊まってもいいかしら?」

「それは、構わんが、絶対に火は使うなよ、最悪この森が無くなる」

「ええ、それくらいは分かってるわよ」


その日の夜。

「ナリちゃん起きてる?」

「ゴーレムが寝るわけないだろ?」

「…そーよね、気付いてる?」

「うん、4人だなあ、サクッと殺すか?」

「…取り敢えず、一人は生かして捕らえましょ、理由が気になるし」


4人の男達は、一人がしゃがんで何か作業をし、他の3人が周囲を警戒している。

「それ、何中?」

作業をしていた男が驚いて飛び上がる。

「な、なんだお前は?」

「質問してるのは…私よ」

音もなく、背後に立っていた人物に目を剥いていると、ある事に気付く。

「…?」

周りを見回す男。

いない、さっきまで警戒をしていてくれた、仲間達がいない。

「あぁ、お仲間さんなら、そこの地面に埋めといたわよ、いい花が咲くといいけど」

リルの笑みは、恐怖でしかなかった。

硬直した男は、持っていた何かを落とした。

カシャ…。

「ちょっと!」

森の色々な所で、爆発が起きた。

「コレは…まずいわね…」

火を見ると、トレントは暴走する、それが各所で起きたとなると…。

「ホントは考えたくもないけど、落ち着けに行くしかないわね、ナリちゃん!悪いけどそいつを捕縛しといて!」

言うと同時に、走り出した。

「ま、こっちは任せときな」

男は目の前に背を向けて立っていた、黒いメイド服を着た小柄な少女が、首だけぐるんとこっちを向いた時、意識を手放した。

走り回って、火を消しながらトレントを1体ずつ正常に戻して行くリル。

森の中を平地のように、軽々と駆け抜けていく。

「ホント、厄介よね、太い枝ぐにゃぐにゃブン回してるけど、アレ…カチカチなのよねぇ」

当たったら、怪我じゃ済まないかも。

「もう!氷針(グラチェスアーコス)

トレントのコアを、正確に突いて暴走を止める。

寸分の狂いもなく、強すぎればコアは砕け、弱ければ効果は無い。

「やれやれ、集中し過ぎで素が出ちゃいそーよ!」

最後の1体!

「大人しくしとけや!コノヤロー!!」

野太い声が、森に木霊した…。



騒動が落ち着いて、翌日。

トレントの一人?が。

「すまなかった、助かったよ」

と、頭?を下げる。

「被害が少なくて、良かったわね」

掌でヒラヒラ顔を扇ぎながら答えるリル。

「それでだ、この騒動で暴走した1体が、成人?して花が咲いた」

良かったら使って欲しいと、花を頂いた。

「困った時は、お互い様ね」

また、寄らせてもらうわと、手を振りながら去って行くリル。


「【解放する者】?あぁ、あの皆で気味悪い仮面被った、テロリスト集団ね」

昨日あの森で、破壊工作をしていた連中だ。

「あぁ、何かある種の〈結界〉を解くピースになるんだと?」

興味の無いナリア。

「まぁいいわ」

そろそろ氷った頃だと、冷凍庫の中からトレントの花を取り出す。

今回は急速に氷らさない、急激に氷らすと花の魔力がなくなってしまうのだ。

「いい感じね、(ヴェロックス)(リミット)

魂は残したままにする。

「よし!いい出来ね」

満足顔のリル、これなら病気でなくてもある種の呪いであっても、押さえ付ける事が出来るだろう。


更に翌日。

店に来た少年に、トレントの花のドライフラワーを渡す。

「ありがとう…でもお金…コレしか無くて…」

小さい手には、銅貨10枚程が乗っていた。

「じゃ、頂くわね」

手の平から、銅貨3枚を取るリル。

「え?…?」

それだけでいいの?と慌てる少年に。

「出世払いってことで、いいわよ」

「代わりにデートに連れてってくれてもいいし」

困った顔の少年。

「今じゃなくて、2.3年したらデートに誘ってよね?」

うん…と、ぎこち無く頷いて、手を振って去って行く少年。

「普通はあと10年、じゃないのか?」

ツッコミを入れるナリア。

「2.3年じゃまだ、バリバリ子供じゃねぇか?この変態め!」

ナリアの正拳が、リルの身体の一部を正確に打ち抜いた。

本日のスキル。

氷針。

グラチェス アーコス。

目に見えない程の、細い氷の針でコアや経絡を突く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ