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【完結】恋人の率いる反乱軍に殺された皇帝の姉ですが、今世は悪役令嬢に生まれ変わりました。  作者: 礼三


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 ベルトランはイリス擁護院へ生誕祭反逆事件の調査へ赴いていた。 

 周囲の彼方此方で騎士や兵士たちが後始末に追われている。イリス擁護院の子供たちは一時的にディアス公爵家の離れへ避難をして過ごしていた。

 暴動の目的は皇帝への復讐…。

 前皇帝の後ろ盾であったアーリス公爵家の残党が企てたことだ。アーリスには政権を覆せるような力は残ってなかった。せめて、一矢報いたいとの切望で事を起こしたようだ。

 彼らは随分前からイリス擁護院へ目をつけていた。擁護院のマクシムが証言するには、数ヶ月前から通っていた庭師も徒党の一員だった。

「子供の扱いが上手な男でして、仕事の休憩がてら、子供たちの遊び相手もしてくれていたのです。あの男がまさかこんな事に加担するなんて…。穏やかで子供好きな男だったのに…」

 彼らは掃除道具のモップに刃を仕込むなど、生活用品に武器を多数忍ばせていた。

 前々から皇太子の暗殺を計画していたようである。皇太子の婚約者であるディアス公爵家の娘ルイーズがこの擁護院へ通っていたのを聞きおよび、いつの日かカイルも共に訪れる機会を狙っていたようだ。生誕祭は彼らが待ちに待った好機だった。

 擁護院で宴を開くことが最終的に決定してから開催まで一ヶ月もなかった。素早く警ら隊による厳戒態勢を敷き、持ちこまれたものに対しては厳しく検査が行われたが、以前からある備品を見落としていた。

「おじちゃんがくれたんだよ?一緒に飛ばして遊んだんだ…」

 子供たちの玩具、カイトにまで武器の材料が隠されており、解体して組み直せば、それは弓となった。それを知った擁護院の職員は慄いた。

「子供たちが触れるものまで…。卑劣です…」

 無邪気な子供さえ利用したその男は、エルンストの剣の餌食となり命を散らした。

 シャンデリアの残骸を前にベルトランは腰を屈める。床には血痕のあとが残っており、白の手袋をしたままその跡をなぞった。

 敵味方の判別つかない血が床へこびりついている。彼の脳裏に一人の少女が浮かんだ。

 年齢にそぐわない大人びた表情をみせ、ベルトランがディアス家へ訪ねると極上の笑顔でいつも出迎えてくれるルイーズ…。

 生誕祭は昼間の開催とのこともあり、蝋燭へ火が灯されなかった。エントランスホールのカーテンさえ開ければ、日差しで十分に室内は明るかったからだ。尚且つ、窓からは民衆が皇帝の姿を確認できる。

 警護に重点を置き、締め切っていれば、シャンデリアへ明かりを灯していただろう。蝋燭に火が着いていれば、火事になっていた。エリアーヌは無事にルイーズが倒れていた場所へ行きつくことができなかったかもしれない。

「不幸中の幸い…。と言っても良いんだろうか…。お前が無事で良かった…」

 ベルトランは独りごちる。大切な姪である。心配しないわけがない。

 混乱時、国家予算の職務で多忙を極めていた彼は、皇帝への祝辞を述べ、すぐに退出し帰城した。故に、あの惨事を目の当たりすることはなかった。


 後処理に追われたユーゴが、ディアス公爵家へ戻ったのは事件発生から三日後だ。ベルトランはディアス公爵夫妻が激しく口論していたのを知っている。

「何故…。ルイーズを置いていったんですか⁉︎貴方はあの子の父親なんですよ‼︎」

「…」

「どうして‼︎あの皇帝を護らないといけないの⁉︎皇帝や皇太子よりもルイーズが大切ではないのですか‼︎」

 否、口論ではない。アリシアがユーゴへ一方的に非難の言葉をぶつけていた。ユーゴは黙ったまま、奥歯を噛みしめ、妻の言葉を受けとめる。

「…懐かないからですか?」

「なっ!」

 アリシアとて、ユーゴがルイーズを大切にしていることは熟知している。

 職業柄、家族よりも皇室の警護が最優先であることも…。

 ベルトランは姉の気持ちを察した。

 本来なら、アリシアが主催を務めなければいけない行事だ。それをアリシアがルイーズに任せた。社交界へ背を向けているアリシアは一緒に付き添うこともなかった。アリシアは自分に対して行き場のない憤りを夫へ向けたのだ。


「兄上…。泣いているのですか?」

 宰相の執務室でルイーズの吉報が届いたときの話だ。ユーゴの目に光るものをベルトランは認めた。ユーゴの涙腺が緩くなっている。

「バカ言え⁉︎泣くはずなんてない…」

 あの騒動の中、人前で涙一滴見せたことのないユーゴが泣いていたのは、部下たち自らの意思で緘口令をひいた努力の甲斐も虚しく、城内には行き渡っていた。

「良かったですね…。ルイーズが目を覚まして…」

 ベルトランはハンカチを胸元から差しだすと、ユーゴはむしり取って鼻をかんだ。そのまま、涙と鼻水の入り混じったハンカチを返却する。ベルトランは手を胸の前で掲げて制すると、ユーゴへ差し戻した。

「…。もう、お父様の顔なんて見たくないなんて、言われるんだろうか…。それでも…。目を覚ましてくれて、オレは…」

「だから、泣いてますよね?」

 再び、ベルトランは問うが、ユーゴは声を大にして否定する。大粒の涙が溢れているのは目に見えて明らかだ。

「泣いているわけないだろう…?オレは血も涙もない宰相様なんだから‼︎」

「自分で言いますか?」

「ふんっ!」

 ユーゴと他愛もない会話を交わせる日常に戻れたのをベルトランは素直に喜んだ。

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