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家族転生

家族転生 ~弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

作者: 北条新九郎

家族転生シリーズ3作目

1作目『家族転生 ~父、勇者 母、大魔道師 ……俺、門番~』から読むのをお勧めします

 三好家は全滅した。


 そして、家族揃って異世界転生をした。


 家族はそれぞれ新世界で職を得ており、俺、三好神太郎みよし しんたろうもまた勇者である親父のコネを使って、キダイ王国の門番の職を得ていた。


 この日、俺は繁華街に足を伸ばしていた。王国で最も人が溢れ、活気のある場所。魔族の脅威に晒されながらも、人々の必死の営みを感じられるここは嫌いではない。それは彼女も同じようだ。


「活気があっていいわね」


 隣を歩く上司のルメシアが楽しそうに言った。辺りを見回すその目には、好奇心が宿っている。本来なら、彼女のような公爵令嬢が来るようなところではないのだろう。……というか、また隣にいる。


「相変わらず付いてくるんだな、ルメシア」


「何よ、いいじゃない別に。それに、今日の用は私も無関係ってわけじゃないんでしょう?」


「やっぱ異世界転生ってモテるんだなぁ」


「はぁ? 寝ぼけないの。というより、アンタこそ私に惚れてるんじゃないの?」


「まぁな」


「え?」


「可愛いし、気が効くし、優しいし、品もあるし、責任感もあるし……」


 思いつく限りの褒め言葉を口にする俺。その度に、ルメシアの顔はどんどん紅くなっていく。


 そして最後に、


「何より、上司だからな。恋人にしたら、仕事を融通してくれてサボり易くしてくれるだろうし」


 本音を送ると、彼女の顔は能面のように無表情になった。そして、こう返された。


「アンタだけとは絶対に付き合わない」




 その後、俺たちは繁華街の裏に入っていった。路地は狭くなり、どことなく薄暗くも感じる。自然と人のガラも悪くなっていった。当然、ルメシアもここに来るのは初めてだろう。


「何か、物騒そうなところね」


 どこからともなく聞こえてきた怒鳴り声が、彼女にそう漏らさせた。


「神太郎、本当にこんなところなの?」


「一回来たきりなんだが……多分この辺だな」


 やがて、記憶にある建物が見えてきた。とは言っても、周りと変わらないボロい一軒家だが。本人からは借家と聞いている。


 そこのドアをノックをし……返事がないので勝手に入る。中は薄暗く人気は感じられなかったが、どこにいるかは分かっている。真っ直ぐベッドへ向かった。そして、その上に転がっている物体を揺らす。


「おい」


「……」


「おい、起きろ」


「あん? ……何だ、神兄ちゃんか」


 何度か呼び掛けると、寝惚け声で返事しながらやっと身を起こした。ルメシアが恐る恐る見守っていたので、取り敢えずこの小柄な男を紹介しておく。


「コイツは弟の三好又四郎みよし またしろう。三好兄弟の四番目だ」


「へー、弟さん」


 正体が分かったからか、彼女も少しは表情が柔らかくなった。


 一先ず、このままじゃ話も出来ないので俺たちは席に着く。又四郎も寝惚けつつももてなしの茶を出してくれた。茶殻で作った薄い茶だったが。


「で、何の用だよ、神兄ちゃん。彼女を自慢しに来たのか?」


「それもあるが……」


 ルメシアが横で「いやいやいや……」と手を振って否定しているが、無視して続ける。


「この間、千満ちありの姉ちゃんが暗殺者に襲われたんだ。一応、犯人の目星は付いてるが、お前、何か知らないか?」


 これが今回の用件。この間、姉ちゃんの暗殺未遂事件が起きたのだが、それに巻き込まれた俺はその犯人探しをさせられていたのだ。主犯は予想できているが、それだけでは断罪できない。何かしら証拠が欲しかった。


「姉ちゃんが? マジで? 何だよ、俺にやらせてくれればいいのに」


「馬鹿言うな。殺されるぞ。実際、暗殺者の一人は姉ちゃんの連撃を食らわされていたからな」


「ひぇ……。ソイツ、生きてるの?」


「一応手加減していたみたいで、運ばれていったときはまだ息はあったが……。運良く助かっても重い障害が残るだろうな」


「ソイツ、前世に相当悪いことしたんだろうな」


 又四郎がそう言うと、


「いやいや、現世でも悪いことしてるだろう」


 俺はそう突っ込んだ。そして兄弟で爆笑。そんな俺たちを呆れながら見比べているルメシアが、一つ質問をしてくる。


「弟さんは何をされてるの?」


「暗殺者」


「暗殺者!?」


 更に、弟が一言付け加えてくる。


「ただの暗殺者じゃない。S級暗殺者だ」


「S級?」


 聞き慣れない言葉だったからか、彼女は首を傾げていた。それは俺も同じ気持ちだったが、弟のために更に補足しておく。


「悪いな、コイツは中二病なんだ」


「中二病?」


「ああ、もう中学三年生なのに、まだ中二病なんだ。可哀想に……」


「それは……お気の毒に」


 俺の嘆く様を見て症状の重さを理解してくれたのか、ルメシアも同情の言葉を掛けてくれた。尤も、当人は納得していないようだが。


「おい、変なこと言うな!」


 案の定、又四郎が吼えたので、俺はいつものように諭す。


「変なこと言ってんのはお前だろう。何が暗殺者だ。何がS級だ。もっとまともな職に就け」


「折角異世界転生をしたんだぞ。神兄ちゃんみたいなしょぼい門番なんてやってられるか!」


「そもそもS級って何だよ?」


「そりゃ、A級の上だろ」


「Sの前はR。Sの後はT。アルファベットで十九番目だ。Aの前でもなければ、一番上でもない。ちゃんと勉強をしないから、そんな恥ずかしい間違いを犯すんだ」


「ちゃう! Sはスーパーとかスペシャルって意味だ。S級とかSランクとか、S表記はもう市民権を得てるんだぞ」


「それはオタク界隈の話だろう。まぁ、お前がオタクなのは気にしない。異世界転生の知識もお前から得られたからな。しかし、生活の方はどうなんだ? 暗殺者とか言ってるが、ちゃんと仕事はしてるのか?」


「……まだ依頼はない」


「ほれみろ」


「俺はS級なんだぜ? 俺への依頼はハードルが高いんだ」


「宣伝とか広告とか出してるのか?」


「S級なんだから安売りはしねぇよ。そもそも暗殺の宣伝なんかできるか」


「じゃあ、どうやって仕事を得るんだ?」


「そりゃ……そのうち依頼人が俺を捜し出して……」


「お前が暗殺者なのを知ってる奴、どのくらいいるんだ?」


「……家族だけ」


 それじゃ、仕事こねーだろ……。


「ここまで中二病が酷くなっていたなんて……」


 俺は頭を抱えながら嘆いた。隣のルメシアも、今のやり取りで中二病がどういうものなのか理解してくれたよう。


「大丈夫よ、弟さん、いつかきっと良くなるわ」


 俺に同情し、優しく肩を撫でてくれた。


 まぁ、これで反省するような弟なら苦労はしない。予想通り反論が飛び出てくる。


「うっせー! 神兄ちゃんこそ、人のこと言えるかよ。ハーレム作るなんて、それこそ中二病だろ!」


「俺はそのための努力をしている。見ろ、このルメシアも俺の逞しさに惚れてここにいるんだ」


 ルメシアが横で「いやいやいや……」と手を振って否定しているが、無視して続ける。


「又四郎、お前もただ待ってないで行動してみせろ。行動だ。自分から行動しないと何も得られないぞ」


 それは、弟を思ってのたしなめだった。しかし、結局聞きやしない。やっぱり兄弟なんだろうな。俺が自由気ままに生きているように、コイツも己の道を突き進んでいる。受身という生き方で。


「いや、これは異世界転生で、俺は主人公なんだ。絶対、上手くいくんだ!」


「主人公だぁ?」


 その又四郎の宣言に、俺はつい聞き返してしまった。


「そうさ。今まで隠していたけど、俺にはスキルがある」


「スキルぅ?」


「この世界にはスキルというシステムがあって、どの人間にも備わっているんだ。しかし、皆それを認知できていない。それは神の領域だからね。けれど、俺だけはそれを知ることができる。何故なら、この世界に転生するとき神に選ばれ直接師事を受けたからなんだ」


「神? 俺は会っていないぞ」


「だろう? それだけで俺が主人公の理由になる。それで、俺は神から特別なスキル『ユニークスキル』を与えられたんだ。そのうちの一つに、『ステータスオープン』ってのがあってな、対象の人物のステータスを見ることができるのさ」


「ステータス?」


「まぁ、プロフィールみたいなもんだ。見てろよ……ステータスオープン!」


 又四郎はそう叫びながら、俺とルメシアの前で掌をスライドさせてみせた。そして、「ふむふむ」と俺たちに見えない『何か』を閲覧する。


「三好神太郎、十七歳。職業『衛士』。レベルは……12か。取得スキルは『病気耐性(強)』、『酒豪』、『ハゲ防止』の三つ。魔力値は驚異の0! こりゃ驚きだ。戦闘系のスキルも無いし、酷いなー」


 又四郎の奴は馬鹿にするように笑った。先ほどの俺たちの『呆れ』への仕返しのつもりなのだろう。因みに、『衛士』とは門番の正式名称だ。


「『酒豪』スキル? そういえば、俺酔い潰れたことないな」


 ただ、コイツも適当に言っているようではなく、俺にも思い当たる節はあった。


「へー、そんな力が……。凄い。それに『ハゲ防止』ってとても有用だと思うよ。ってか、絶対必要だよ、それ」


 ルメシアも何故か熱心に褒めてくれる。


 次いで、その彼女の番だ。……が、


「ルメシア・ケルヴェイン、十七歳。職業『衛長』。レベルは21。取得スキルは『勇敢Lv1』、『不屈Lv1』、『美肌』。魔力値は220で、取得魔術は『ファイアボルト』、『フレイヤー』など計一一個。あと処女で……」


 不意を突かれた言葉に、ブー!と茶を噴き出すルメシア。彼女が「おい、コラぁ!」とドスを効かせた抗議をすると、流石の又四郎も「ご、ごめんなさい」と素直に謝った。


 それはともかく、俺たちはそのステータスとやらを見ることはできんが、一応、又四郎の言っていることは合っているみたいだった。意外な才能を知る。ただ、一つ確認を……。


「それ、魔術とは違う類なんだよな?」


「勿論さー」


「でも、その人物のただの個性って感じもするな」


「それは凡人だからスキルも他愛のないものになってるんだよ。俺ほどのレベルになると、スキルも有能なものばかりだぜ。『剣術Lv9』とか、『状態異常耐性Lv9』とか、

『スキル無効化』とか……。因みに、俺のレベルは9999ね」


「うわぁ……。小学生みたいな数字」


「うるせ! ともかく、俺は選ばれし者なんだ。果報は寝て待て。その時が来るのをジッと耐え忍んでいるのさ」


 見事に居直る弟。しかし、現実はどうだ? 俺は兄としてそれを突きつける。


「言い分は分かった。……だが、本当に時が解決してくれると思っているのか?」


「……」


「何もせず、ただ待っているだけで勝手に仕事が舞い込んでくると、本当に思っているのか?」


「……ぅ」


「ある日、突然そのドアが叩かれ、依頼が飛び込んでくるとでも思っているのか?」


「く、来るさ! 見てろよ。働かないからって三好家を追放された三男の俺。だけど、その実は一族最強のS級暗殺者。世界に名を轟かせた後で戻って来いと言っても、もう遅い!」


「追放って何だよ……」


「両親を悪徳政治家に殺された超絶美少女が、なけなしの金を持って俺に助けを求めてやっててくるんだ。そんでもって、俺は無料で仇を討ってやって、結果その子に惚れられて最高ラブラブ新生活を送るんだよ!」


 高々と宣言される将来設計。その構想に俺は呆れた。ルメシアも呆れていた。


 そして最後に、


「絶対、やってくる。今にもな!」


 又四郎がそう叫びながら家のドアを指した時、


 ガチャ――。


 そのドアが本当に開いた。


「「「え!?」」」


 俺も、ルメシアも、又四郎すらも驚く。そのまま注視していると、そこに現れたのは本当に美少女だった。……ただ、その美少女には見覚えがある。


冬那ふゆな!」


 冬那だ。最愛の冬那がいたのだ。寡黙な性格を表したかのような、細身で、整った綺麗な顔。相変わらず可愛い。


「あ、神兄いたんだ」


「こんなところで会うとはな、冬那。ほら、座れ座れ」


 彼女もこちらを認めると、俺の手招きに応じて片膝の上に座ってくれた。


「相変わらず可愛いなー。元気か?」


「神兄も変わらないね」


 人形のように表情を変えすに答える冬那。それが神秘的で実に美しい……。


 おっと、隣のルメシアが目をひん剥いてこちらを見ている。この可愛い少女を紹介せねば。


「ああ、コイツは俺の妹だ」


「妹? まだ兄弟いたの?」


「これで最後。五兄弟だ」


 冬那も彼女にペコリと頭を下げ挨拶をする。


三好冬那みよし ふゆな、十三歳。宮廷薬師です。どうもよろしく」


 

 長子(長男)、仙熊せんゆう、二一歳。宰相。


 次子(長女)、千満ちあり、十九歳。公爵夫人。


 三子(次男)、神太郎しんたろう、十七歳。門番。


 四子(三男)、又四郎またしろう、十五歳。S級暗殺者。


 五子(次女)、冬那ふゆな、十三歳。宮廷薬師。


 以上が、俺たち三好五兄弟である。



「十三歳の宮廷薬師!? 凄くない!?」


 妹の挨拶を受けたルメシアも褒めてくれた。ただ、宮廷薬師がどれほど凄いかまでは、俺も知らない。


「そんなに凄い仕事なのか?」


「宮廷に勤められるほどの薬師は、この国一番の薬師と言っても過言じゃない。私も詳しくはないけど、薬師の世界は経験と知識がものを言うから、腕のいい薬師は年寄りが多いのよ。それを僅か十三歳で任命されるなんてね」


 現地人であるルメシアからそう聞かされれば、兄として褒めざるを得ない。


「流石、冬那。兄弟で一番賢いだけのことはある。兄は嬉しいぞ」


「お忍びで街に出ていた王妃様が急に具合を悪くして、それをたまたま診てあげたらもの凄く感謝されて、それで宮廷薬師に招かれたの」


 冬那から経緯も聞く。素晴らしい。実に有能な妹だ。弟も見習って欲しい。


「なぁ? 又四郎。異世界転生したとしても、自分から行動しなくては成功の機会など得られやしないんだ。行動だよ、行動」


「むむむ……」


 年下の妹を例に出されては、流石に抗弁できないようだ。……そもそも、その妹は何でここいる?


「で、冬那、何でここに来たんだ?」


「街で薬草を仕入れるついでに、又兄に今月分の生活費を渡しに」


 生活費だぁ!? 又四郎を問い詰める。


「又四郎、お前、十三歳の妹に生活費を出させているのか!?」


「い、いや……冬那から言い出したんだよ? 給料もいいらしくてさ……」


「アホたれ!」


 呆れた。本当に呆れた。みっともなさ過ぎる。それでも、又四郎には未だ自尊心があるようで、反抗してくる。


「うるせぇ! 神兄ちゃんこそシスコンのくせに!」


「妹を可愛がって何が悪い。そんなことを言う奴はな、家族から愛された経験のない寂しい人間だけだ」


「よく言う。ほら、ルメシアを見てみろ」


 又四郎の指に促され、隣のルメシアを見る。……ん? 何故か、彼女の視線が冷たく感じる。


「神兄ちゃん、呆れられてんじゃねーかよ。シスコンが彼女なんか作れるのか?」


 いや、彼女の心中はすぐに察せた。


「なーに、コイツは嫉妬してるんだよ。ルメシア、お前も可愛い奴だな~」


「はぁ!?」


 俺の的を射た突っ込みに、ルメシアは抗議の声を上げた。それを素直に認めないところも、身持ちが固い性格を表していて嫌いではない。


「知ってるぞ。ツンデレってヤツだろう?」


「違います!」


 立ち上がるルメシア。からかいすぎたか。このまま帰られるのは流石にマズイので、急いで宥める方法を考える。そして、最高の言葉を思いついた。


「分かった、分かったって。それじゃ、もう片方の空いている膝に座れよ。ほら」


 俺は振り上げた拳ならぬ、持ち上げた尻を下ろす場所を用意したのだ。二人の女を立てつつ自分の生き方を曲げない完璧な提案。ほら、ルメシアもその素晴らしい案に瞠目してしまっている。


 それから、彼女はその見開いた目で見つめ、


 見つめ、


 見つめ、


 見つめ、


 見つめ、


 見つめ、


 見つめ、


 見つめた挙句……、


 腰を下ろした。


「座るんかい……」


 突っ込む又四郎。


 が、


「おも(ボソ)」


「あ、今、重いって言った!?」


「いや、言ってない」


「言ったでしょー!」


 俺の失言にルメシアは憤激。結局長々と揉めるのであった。




 何はともあれ、折角の兄弟の再会である。夕飯を一緒にと、俺たち四人は繁華街に繰り出した。日も暮れ始めているが、人出は一向に衰える気配がない。店探しを兼ねて街を散策してみることにする。


「けど、神太郎って結構真面目に叱ったりするのね。見直しちゃった」


 ルメシアからの賛辞。俺の評価も上がってハーレムにまた一歩近づいた。が、


「ただ単に、神兄より更に駄目な男がいたから、相対的によく見えたんだと思う」


「あ、成る程」


 冬那の正論で、それは早々に遠のいた。


 確かに、異世界転生には無能な自分がもっと無能な人間たちがいる世界へ行き、相対的に優秀になるというシステムがあると聞く。尤も、今回の対象は同じ世界出身の弟であったが……。


 で、その弟はというと、


「又四郎、何だその格好は」


 只今、全身黒尽くめ中だった。外出ということで外着に着替えていたのだが、コートまで黒い。よく揃えられたものだ。


「格好いいだろう? 特にこのコート、最近やっと見つけたんだぜ」


 自慢げに見せ付けてくるブラックマン。つい弟と目が合ってしまったルメシアは返答に詰まりつつも、


「ま、まぁ……暗殺者っぽいよね」


 と、何とか肯定の言葉を口にしていた。


 ときに、気付けば弟の話ばかり。最愛の妹がいるのに、その様子を聞いていなかった。


「冬那、仕事の方はどうだ? パワハラとかされてないか?」


「順調」


「パワハラがあったら兄ちゃんに言うんだぞ。すぐに駆けつけるからな」


「言わないよ。殺しちゃうじゃん」


 まぁ、冬那はしっかりしているから大丈夫だろう。ルメシアも妹を認めて気兼ねなく話し掛けてくれる。


「宮廷薬師が診るのは王族とか一部の人間だけだから、診察より研究の方が主だって聞いたことあるけど?」


「うん、日頃は研究や勉強がほとんど。人の相手をするより好きだから助かってる」


「最近は何を勉強してるの?」


「魔界風邪の特効薬の研究。ワクチンは一先ずものになって治験中なんだけど、実用段階になるまでしばらく掛かるかな。魔族毒療法も研究してみたかったんだけど、あっちは権威があるらしくて新米の私は手が出せない感じ」


「難しそうでよく分からないけど、優秀なのはよく分かった」


 そのルメシアの感想には全面同意だ。


「そういえば、宮廷では様々な薬を取り揃えているんでしょう? わざわざここまで買いに来るなんて珍しいよね」


「今回の患者はエルフだったから」


「エルフ? 俺でも聞いたことがあるぞ。耳の長い人間だろう?」


 その単語に俺はつい反応してしまった。


「うん、エルフは長寿の生き物で、普通の人間とは薬の効き目が違うみたいなの。それで、今までの宮廷薬師じゃ手に負えないみたいだから、今回私が調薬することになって」


「この国にエルフがいるのか? 見たことないぞ」


「いるにはいるけど数は少ないらしい。エルフの国があって、そこの外交官が駐在している程度みたい」


「国の中心地ならともかく、私たちが詰めている北門辺りじゃまず見ないね」


 冬那の説明にルメシアが補足した。


 数が少ない……。希少……。そう思うと、余計興味が湧き立てられる。


「エルフか……。折角の異世界だ。俺のハーレム要員に是非加えたい。なぁ?」


 俺はウキウキに要員候補のルメシアにそう振ると、


「知るか」


 冷たくあしらわれた。


 すると、何やら喧騒が聞こえてきた。近くの飯屋からである。店内を覗くと、見えてきたのは席に着いている屈強な男四人組とそれに対峙する少女が一人。あまり穏やかではない雰囲気のようだ。


「あぁん? 俺たちは客だぞ。なのに追い返そうって言うのか?」


「お客様は神様だろうが!」


 そう吼える男たち。それに対し、


「で、でも、これ以上のツケは困ります。そろそろお代金を払っていただかないと」


 少女はおどおどとしながらも反論していた。どうやら状況が見えてきたぞ。無銭飲食を繰り返す悪い男たちに、それに正面から立ち向かう店の看板娘か。


 しかし、異世界にもいるんだなぁ。お客様は神様だなんて言う奴。


「ははは、又四郎、あれがお前の言っていた神様か?」


 俺はその冗談を言わざるを得なかった。だが、又四郎の奴、怒りもしなければ呆れもしてくれない。代わりにこう答えてくる。


「……これだ。これだよ、神兄ちゃん。これこそ、俺が望んでいた展開だ」


「は?」


「おい、お前ら!」


 そして一人、男たちに立ち向かった。


「大人しく代金払って、とっとと失せろ。店が迷惑してんだろ」


 突然首を突っ込んできた十五歳のガキ。それに男らは驚き、戸惑い、嘲笑あざわらう。又四郎は身長165センチという小柄な方だから、余計にそれを誘ったのかもしれない。それを黙って見守る俺と妹。弟のことを知らないルメシアだけは憂う視線を俺に送ってきたが、見ていろと促すと大人しく従ってくれた。


「おい、随分イキってるじゃねぇか、ガキ」


「ヒーローを気取るには少しタッパが足りねぇんじゃねぇか?」


 一方、男どもは当然あしらおうとする。も、


「フン、お前らこそ脳みそが足りねぇんじゃねぇか?」


 ヒーローのその一言で堪らず立ち上がり、憤怒を剥き出しにさせた。180センチ越えのムキムキ野郎どもが弟を囲う。


「テメェには社会常識ってのを教えてやらねぇとな」


「それは無銭飲食をしているお前らにだろ?」


 口舌に関しては又四郎の方が一枚上手のようだ。格好つけるだけのことはある。さぁ、問題はヒーローぶるだけの実力があるかどうか。激高した男は、舌戦を諦め遂に実力行使に出る。


「このクソガキ!」


 又四郎に振り下ろされる巨大な拳。それを受け止めるは小さな掌。お見事。又四郎は涼しい顔でそれをやってのけると、お返しの拳骨を相手の顎に食らわした。


 巨体が宙を舞い、木のテーブルに落下、打ち壊す。それを見た看板娘が悲鳴を上げると、残りの三人も殺気を漲らせたようだ。


「このおおおおおお!」


 あとは殴っては殴り返しの大乱闘。又四郎の奴、どうやらワザと殴られているようだ。チビと言われたのを気にしているのか、タフネスでも差を見せつけてやりたいのだろう。面子を気にするアイツらしい。


「流石、S級暗殺者を自称するだけのことはあるなー」


「戦い方が全然暗殺者らしくないけどね」


 俺の一応の賛辞に、冬那が一応の同意。弟が口先だけでないことが分かり、一安心である。これで弱かったら目も当てられないところだった。


「くそ、覚えてろよ!」


 そして、ボコボコにされた男たちは、お決まりの台詞を吐いて逃げていった。その場に残ったのは、ご満悦の又四郎。


「お前らこそ覚えておけよ! 俺は異世界転生最強の男、三好又四郎。いつでも相手になってやるぜ!」


 それは、今までにない充実感に満ちた笑みだった。それを俺にも見せてくる。


「雑魚相手に大立ち回りの無双劇。これこそ異世界転生だよ。神兄ちゃんの言う通り、やっぱ自分から行動に出るもんだな」


 ウキウキで説く弟に、俺もまた嬉しくなった。妹には敵わないものの、コイツのことも愛しているのだから。


 最後に、ヒーローはヒロインに安堵の言葉を送る。


「君、大丈夫か? 連中は追っ払った。もう安心していいぞ」


 店内の隅でしゃがんでいた看板娘に、又四郎は紳士のように手を差し伸べた。初めは又四郎のことを訝しむ少女だったが、害はないと分かるとその手を握り立ち上がった。


 そして、


 その握る手に力を入れる。


「何てことをしてくれたんですか!」


「………………へ?」


「お客さん、結局代金払わずに逃げちゃったじゃないですか! しかも、店内をこんなメチャクチャにして!」


 予想外の非難に、又四郎は呆け顔を晒していた。確かに彼女の言う通り、イスは折られテーブルは割られと、店内は酷い有様だ。


「これじゃ、もう営業できないじゃないですか! どうしてくれるんです!?」


「ちょ、ちょっと待って。これ異世界転生だろ? ここは賞賛じゃないのか? どう考えても俺が絶賛される場面だろう!」


「何言ってんですか。責任取ってもらいますよ!」


 まぁ、客観的に見れば、又四郎がしたことは店の利益には繋がっていないな。もっとスマートに解決させれば良かったのに、派手を好むその性格が災いとなった。これも中二病のせいか……。


 で、その又四郎がこちらに助けを請う視線を送ってくる。看板娘に手を握り締められ、逃げられないようだ。こうなっては仕方がない。


「残念、ここは今日は営業できないようだ。別の店にするか、ルメシア、冬那」


 俺は弟を見捨てることにした。両脇の美少女二人の肩を抱え、百八十度転進する。


「は? 神兄ちゃん……? 待って、弟を見捨てんのかよ? 神兄ちゃん!?」

 こうして、俺は断腸の思いでその場を後にするのであった。



「神兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


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