喪女で引きこもりの私が超絶イケメンに恋してあの手この手でうふふふふh
第一話 私夜々鈴百合依ですっ!
腰まで伸びた黒髪は濡れたカラスの羽のように妖艶な輝きを放ち、膝までかかるスカートから控えめにのぞく脚は象牙細工のように白く美しく華奢であり、服の上からではほとんど膨らみを感じさせない胸からは無垢さや純真さを感じさせそれらの要素が一体となって街ゆく男子を魅惑する。しかしそんな男子には目もくれず憧れのあの人への愛しい気持ちに恋焦がれるそんな花も恥じらうきらめきと乙女がわたし夜々鈴百合依17歳です!
おいおい!
ハイ嘘です。すいません。申し訳ございません。調子に乗りましたもう二度としません許してください許してください。
はいそうです。今までのは全部嘘です。いや、全部嘘ではないです髪は黒いですし長いです。太ってないですし胸も小さい。そこは真実です。ただモテたことはありません。交際経験もありません。何なら学校にも行ってません。
そうです。わたし引きこもりなんです。もうずっと学校にも行ってません。というか家の外にも出てません。
あ、今こいつ真正の引きこもりだって思ったでしょ!わたしわかってますよ。みんなそうやって私のこと憐みの目で見るんです!
でも残念でした!実は私働いてます!1日8時間きちんと働いています!へへ、エラいでしょ。俺の仲間だって思ったそこのあなた裏切ってごめんなさい。
え?働いてるならひきこもりじゃないじゃないかって?今流行りのリモートワーク?ノンノン違います、実は何を隠そう私の実家は喫茶店なんです!わたしこう見えてリアルごちうさ系少女なんですよ!少し萌えました?
なんて冗談はさておいて私は引きこもりながら実家のさびれた喫茶店を手伝うことで一応の人権を得ているということです。ご理解いただけたでしょうか?
と、脳内の架空の観客相手に長々と益体の無い自分語りを繰り広げていると動かすたびにキィキィ嫌な軋み奏でるドアが開き、一人の老人が現れた。金蔵さんだ。わたしは来客を確認するとすぐに笑顔を作り心を込めてあいさつをする。
「いらっしゃいませー!」とびきりの笑顔と元気な声でのあいさつはまるで聞こえていないかのようにスルーされる。いくら老齢だとしても聞こえないはずのない距離で見向きもされないとさすがに心に来るものがある。金蔵さんにはおそらく悪気はなく誰に対してもこんな感じの人なのだ。難しいお年頃である。
「はぁ~今日も今日とて客が一人もいねぇなぁこの店は。来週には潰れてるかもなぁ」
これまたひどい一言だが正直反論できないのが現状である。この喫茶店の1日の来客は多くて数名、少ない日は一人も来ない。そして今日初めてのお客さんが金蔵さんなのだ。金蔵さんは暇を見つけては店に足を運んでくれる常連さんだ。口や態度は悪いがいいお客さんなのだ。そんな悲しい現実を受け止めきれず苦笑いを浮かべる事しかできない私の後ろから声が響く。
「じいさんに心配されるほどこの店は落ちぶれちゃいねえよお!そんなことより自分の寿命のことを心配したほうがいいと思うがねぇ俺は!」
イライラを隠す様子もなくそう言ったのは、勲矢さんこの喫茶店のマスターだ。
「まあ確かに俺がほとんど毎日客としてここにお金を落としていってやってるんだからそんなにすぐにはつぶれねえか。それでも俺のほうが長生きするだろうがなあ!」
「ああん?じいさんの注文なんてたかだかコーヒー一杯じゃねえか!そんな雀の涙程度の金で店に恩を着せられちゃあたまったもんじゃないぜ!一刻も早く天寿を全うできるようコーヒーに山ほど塩を盛るサービスでも始めてやろうかああん?」
「おおん?やれるもんならやってみやがれくそ親父が!客を客とも思わねえこんな店おそかれはやかれつぶれるわい!」
「そもそもうちはじいさんみてえな客を求めちゃいねえんだ!うちの経営理念は【今を生きる若者たちに青春のキラメキとトキメキとそして癒しを】だ!初めからじいさんはお呼びじゃねえんだよ!」
「なあにがトキメキキラメキじゃい!オヤジとジジイが喚き散らす場所にそんなもんあるわけないじゃろう!
それにこの間始めた新メニュー!ファミスタだかハマスタだか知らんがバエなんてよくわからんもんに乗っかろうとして失敗してるじゃねえか!」
「映えメニューバケツコーヒーはこれから大ヒットするんだよ!じいさんにはこの若々しいセンスが分からないだろうがなあ!」
「そんなこと言って今まで一度も注文されたことがないだろうが!一つでも注文されてからほざけえ!そんなことは!」
「いったな!クソジジイ‼」
「ジジイ扱いするなあ‼」
どんどんヒートアップするオヤジとジジィのケンカを前に私はどう止めたらいいかわからずあたふたするばかりだった。一瞬前までカウンター内側にいた勲矢さんは気付いたら金蔵さんの前にいて、お互いの胸倉をつかみあっていた。これはさすがにまずいと思いながらも動き出せずにいる私の後ろから涼しげな風が吹く。そこには開いたドアに肩をもたれさせるように立つ少年の姿があった。
「またケンカしてるんですか?やめてくださいよもうケンカなら外でしてください。お店が壊れちゃったら本当にお客さんがこれなくなっちゃいますよ。」
カウンターに向けて歩みを進めながらそう言い放つのは数カ月前からここでアルバイトを始めた陽介くん。年齢はたぶん私と同じくらい、そしてたぶん学校には行っていない。そしてそして私の好きな人です。
陽介君の登場で、ケンカをやめる二人。その様子を見て私はほっと胸をなでおろした。
「本当に勲矢さんたちは仲いいですよね。でもその中の良さをお店の中で発揮するのはやめてください。この店が壊れでもしたら俺、本当に困るんですよ。こっちは生活が懸かってるんですから。」
「そんなこと言ってもよおこのジジイが先に始めたから…」
「どっちが先とか子どもじゃないんだからやめてください。俺着替えてくるのでその間にきちんと仲直りしていてくださいね。」
そう言い残して店の奥へ消えていく陽介くん。その表情は凛々しくもあり、悲壮感もあり、少しの怒りと疲れの様子が窺い知れた。わたしはそんないろんな感情がないまぜになった表情を見て私はこれ以上ないくらいにドキドキしていた。やっぱり今日も陽介君はカッコイイ!とても私と同い年とわ思えない重厚感のある佇まい、落ち着きのある言動、にじみ出る疲労感そのすべてが私にドストライクだった!陽介君と出会ってから私は一日中陽介君のことばかり考えるようになった。この感情は恋だった。引きこもりになって短くない私にとって彼との出会いはまさに青天の霹靂だった。わたしはこの恋を何とか成就させたいと願ってはいるものの今のところ全く成果は出ていない。
そんなことを考えているw他紙の隣でオヤジたちが何やらもごもごやっている。気持ちが悪い。
「まあなんだ。俺もちょっと熱くなりすぎたところはある。それにじいさんみたいなのでも一応は大切なお客様だ。その…悪かったな。」
「いやあ、俺もその本当のこととはいえ言い過ぎちまったな。俺は俺でこの店のこと俺なりに心配してるんだ。ただまあ言い方が悪かったな。すまねえ。」
素直なオヤジたちの様子を見て気が付いたことがある。素直なオヤジって気持ち悪いんだなってこと。せっかくキラキラでふわふわな陽介君への想いであふれていたところなのにとんでもない不純物が紛れ込んできた。最悪だ。ずーんとした気持ちの私に救世主が現れる。
「きちんとなかなおりできました?」
「「うん」」
オヤジたちのハモリ気持ち悪い。
「ならいいですほどほどにしてくださいね。」
「「は~~い」」
この世の中に急に目の前に現れるG以上に気持ちの悪い存在はいないと思っていたが、ついに私の目の前に現れてしまった。この光景は今後トラウマとして脳裏に焼き付いてしまうかもしれない。そうならないためにも私は必死に陽介君を見つめる。陽介君のやや色素の抜けた茶色がかった黒髪や口の端にほんの少しだけ顔をのぞかせるかわいい八重歯。すっと通った鼻筋に、吸い込まれそうになるくらい漆黒に染まった瞳。その一つ一つがこの世の物とは思えないほど美しく思えた。ああ私は陽介君が本当に心から大好きだ。この思いをいつか彼に伝えたい。そしてできる事ならそのまま結ばれたい。わたしはまだ始まってすらいない二人の将来に思いをはせることでトラウマを回避することに成功した。ありがとう!陽介くん!だいすきだよ!
そんな私の思いが伝わったかのように陽介君がこちらに体ごと顔を向ける。そして目が合った。
「ん?どうした陽介?」
金蔵さんが聞く。
「いや、なんか見つめられてる気がして。」
「ははっ、なーに言ってんだそっちにゃ壁しかないぞ。」
「…はいそうですよね。」
そう。彼らに私は見えていない。若くして命を無くし、この喫茶店の地縛霊として取り憑いているのが私、夜々鈴百合依17歳だ。