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また朝が来る。朝は嫌いだ。部屋のカーテンはいつも閉めっきり。朝を知らせるのは太陽の光でもなんでもなく、母のうるさい掃除機の音。わざとらしく自室のドアに掃除機が当たる。目覚めは最悪。スマホゲームをしたまま寝落ちたので頭と首がやけに痛い。


スマホがない。……ベッド脇に落ちていたようだ。拾おうとして、ベッドから落ちる。


目覚めは超最悪。


頭をかきながらふらつく脚で部屋を出る。


こんな毎日に正直嫌気がさしている。でも、感動や心を揺さぶられるような映画を見たり、そのような経験をすることにも興味はない。なぜなら面倒臭いから。感動なんて、偽善者のエゴ、そう思っている。


それが、鳩羽広樹のなんでもない一日の朝だ。




朝のリビングはいつもコーヒーの香りで満ちていて、カーテンは丁寧にまとめられ、窓から太陽の光が差し込んでいて明るい。フローリングはいつもきれいで、清潔感に溢れている。


「おはよ、ひろ。」


そっけない母の声


「顔洗ったの?目やについてるわよ。そんなんじゃモテな……」


「うるせぇよ」


僕はそう言う母を一瞥(いちべつ)するとリビングの椅子に座る。

野菜ジュースを喉に流し込む僕の隣では、対照的に母がいただきます。と丁寧に手を合わせる。


そんな朝に何故だか胸がつまり、いら立ちを覚える。


僕はいつもどこか不機嫌だ。


そんなら自分にも嫌気がさしてさらにいら立つ。


誰かこんな僕を変えてくれ。その時は思っていたのかもしれない。でも、その時は気づいていなかった。






「あの恩師の方の言葉が私の人生観を変えました。あれが私の芸能活動のターニングポイントでしたね。」


ハツラツとした笑みを浮かべながら語るタレントの声がテレビから聞こえる。


思わずめけんにしわを寄せてしまう。

イヤホンを手にして耳にいれる。


「人生が変わる?言葉、偽善、自分に酔っているだけ。くだらないし、イライラする」


そう思いながら、席を立つ。


「ごちそーさま」


テキストを読み上げるように口に出す。


「もう食べないの?」


母の声


「朝は腹減らん。」

そう答えながら、台所の三角コーナーに鮮やかな赤いプチトマトが放り込まれてゆく。緑のレタスが生ゴミと同化して端から茶色く滲む。明日には生ゴミとなって消えるだろう。


「あーーーーーっ!また………野菜高いのに!もったいないわよ!!」


「しらん!僕のところに盛らないでくれよ。」


そう言い放って、リビングを後にする。


身支度をすませると、重いドアを開ける。


朝の光が目に痛い。


深くため息をついて、舌打ちをした。






ジリジリと、脳天から焦がして来るような、陽の光、せわしない、不快な鳴き声を発するセミの音。ゆらゆらと揺らめくカゲロウ。耳をつんざく子供の笑い声、きゃあきゃあとはしゃぐ声、目に飛び込んでくる色とりどりの眩しいランドセルの色。自分も、あんな頃があったのか、と信じられない。あんな風に最後に笑った最後の日はいつだろうか。思い出せず、思考を辞めた。頭を無造作にがしがし掻きながら気だるい足取りで歩き出す。


校門が近づくと、クラスメイトの「おはよう」とざわつく。耳栓をするようにイヤホンを耳にねじ込む。音楽なんて、流さない。歌詞なんて、疲れるし。無音の世界を願った。顔を上げて、目をぐっと閉じる。


太陽の光が強くて暗闇なんてなくて。まぶたの裏の朱色の世界が広がった。


はああああああっ、大きく溜息をついて、教室に入ろう。と、腹をくくった。これは、いつものルーティーンで。


校門をくぐった。


教室の扉を開ける前から密閉した空間に声、熱気、騒がしいのが伝わってくる。指先が憂鬱で強ばる。扉を開けると、心がざわつく、、声、声、声、笑い声、声、笑い声……胸の奥にずん、とかカタマリが押し込まれるような感覚。すう、と、息を吸い込む。


うるせえ!!!とメガホンで叫んで、教室から飛び出したい衝動に駆られる。


せめて出来るのはそんな下らない、空想だけで。

ため息ばかりついてる日常。


そんな日々の暇を潰すように生きている毎日。



何が楽しくて僕は生きてるんだ。


斜め前の名前も知らないお下げの女子が本のページをめくる。


ぺらり、ぺらり、


何故かその音が懐かしい。その音に集中する


ぺらり、ぺら、ぺらり、


不規則なリズムで。


興味を惹かれたページと思われるところは少しページをめくる手が止まる。


うつ伏せになった。


彼女は、どんな本を読んでいるのか想像をめぐらせる。本なんて最後に読んだのはいつだろうか。興味なんて惹かれることなんてない日常を過ごしている僕に彼女の気持ちは全く想像が出来ない。それは、逆を言えば、彼女も感心、興味を惹かれることがない。感動することもない、無色透明なような僕なんて全く理解が出来ないだろう。


続く

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