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ムーンブレス~転生チート令嬢は無意識に聖女道をゆく~  作者: のりすけ
エリザベス商会編
51/108

13.専属執事とフレイヴァイズ



話は魔力血判の儀を終えて、本邸に戻ってきた日まで遡る。


エリザは儀式にあった神託の内容が気になっていた。神託は人に話せない事になっているけれど、このまま何もせずにいるのもどうかと思っていた。


「これは放って置けないよね」


散々悩んだ末、執務室でゼパイルに報告する。内容は詳しく言えないので、これから先の未来に世界崩壊するような災厄が起こるとだけ話した。


ゼパイルはその話に驚いていたが、すぐに考え込む。今は平和そのものなのだ。近い将来に災厄が起こると急に言っても信じてくれないと思っていたので、エリザは拍子抜けだった。


神託の話とは言っていないけれど、魔力血判後という事もあって、何となく察してくれたのかもしれない。


「そうか。戦争がない今、全ての国の者がたるみ切っているからな。災厄と言うのがどう起こるか分からないが、万が一に備えて策を講じて置くのがいいだろう。君の事だ。確信があるのだろう?」


ゼパイルはそう言って眉を釣り上げる。


「確信という程でもないのですが、可能性は高いと思います」

「分かった。報告ありがとう。一応この話をカムイ様とミーシャ様にも伝えといてくれないかい?」

「分かりました」


確かにこの話は2人に話した方がいい。元帥である2人が今後、何かしら行動をする事で世界が救われる確率が跳ね上がるはずだから。それに、あのポーションもミーシャに見てもらわないといけない。


数日悩んでいた件を父に話した事で気楽になったエリザは、気分よく自分の部屋に戻る。すると、心地よい風がフワリと通り抜けた。よく見ると窓が開いている。


「あれ?窓開いていたっけ?」


エリザが首を傾げていると、背後からただならぬ気配を感じた。慌てて振り返り、構えて戦闘態勢を取る。その気配の先には赤茶色の髪をした男の子がいた。


「久しぶりだねー。元気にしてた?」

「あなたはもしかして」


そう、彼は魔人であり、エリザを誘拐した犯人だ。


「ゲーテ……」

「正解!!」

「あなた、ここに何しに来たの?あなたの仲間になるのはお断りしたはずよ」


エリザの問いにゲーテは腹を抱えて笑う。


(笑える箇所なんて一切なかったはずだけど。それに真昼間の屋敷に誰にも気づかれる事なく侵入するなんて。)


「あはは。そんなに警戒しないでよ。ふーん。何かこの間と少し雰囲気変わった?やっぱり君は面白いねー」


ゲーテは笑うのを止め、目を細めてじっとエリザを観察する。暫しの静寂に緊張が走る。


「…………」

「僕も君を気に入ってるけど、僕の主も君の事相当気に入ってるみたいなんだよね。確かにあれを見せられちゃ興味が湧かないはずがないよね」


(「あれ」ってなんだ?シャドウとは少しの間、会話しただけで特別何かをしていなかったはず。)


エリザはゲーテの言う「あれ」について一切記憶にない。ゲーテに聞いても素直に答えてくれなさそうだ。いったん「あれ」は聞かなかった事にしようとエリザは心に決める。


「だからあなたの仲間にはならないと……」

「別に僕は君を勧誘しに来たわけではないんだよ。まあ、仲間になってくれるなら大歓迎だけど」


ゲーテは手をヒラヒラさせおどけてみせる。彼を見ても特に黒いオーラが出てるわけでもないし、嫌な感じはない。


(勧誘しに来たのではない?なのにわざわざ私の所に来るなんて、一体何を考えているの?)


「じゃあ、何しに来たのよ?」


そう言ってエリザは警戒を強める。


「うーん。監視……かな」

「監視!?誰の?」

「君の」

「私!?何で?」


(監視だって!?)


ゲーテがエリザを監視する理由がわからない。


(しかもそれを監視対象である私に直接言うとか、以ての外じゃない?ただでさえ、ユキが私の監視役なのだ。それが2人に増えるってありえないでしょ!?)


「興味があるからだよ」

「興味って……。と言うか、監視ってこっそりするものじゃないの?」

「こっそり見てるだけじゃ分からないじゃん。主はね、君が何を考え、何をどう感じるのか興味があるんだよ」


(確かにあの時、シャドウは人は愚かな生き物だと、私の心は人の闇を知る度に砕かれ崩れ去ると言っていた。でもそれが何故監視に結びついたのかは分からないが、ゲーテに詳しく問い詰めたって「楽しそうだから」で済んできそうだ。)


エリザは顎に手を当て思考する。


「で?シャドウはあなたをここに置いて監視すると?」

「そーゆーことー」


あっけらかんと話すゲーテにエリザは頭を抱える。監視とは言ってるものの、エリザの傍にいる気満々のそうだ。エリザの傍にいるには魔人特有のその見た目をどうにかしないと無理だという事を分かっているのだろうか。


魔人の姿はゲーテしか見た事がない。しかし、その2本の角と赤い瞳は誰が見ても異質だと解る。


(私は赤い瞳は綺麗だと思うけれど、世間では赤い瞳は魔族の印だと言われているそうだし。)


ちなみに魔族と魔人は違う。数多の種類の魔物の事を総じて魔族と呼ぶ。一方、魔人は魔族ではなく人間なのだ。人間の子供の中に稀に魔物の魔力を持って産まれてくる子がいる。それが魔人なのだ。突然変異なのか隔世遺伝なのかは解明されていない。


魔物は人々の恐怖そのものであり、人ならざる圧倒的な力をもつ魔人はいつの世も嫌悪され、迫害の対象となっている。だから魔人がゲーテのようなひねくれた快楽主義者になるのも仕方ないと思う。


魔族でも知性もあって人型をしている魔物もいるらしいが、邪悪でその姿はもっと異端なのだとカムイに教わった。


「でも、あなたのその格好のままじゃ皆に魔人にだって丸わかりじゃない」

「あー、これ?」


ゲーテは自分の額の角を指さし、目を閉じた。すると、角が見る見る小さくなって、なくなった。ゲーテは目を開けると赤い瞳の色も赤茶になっている。


「これで問題ないでしょ」

「え!?問題はないけど、角は何処にいったの?それに目の色だって……」

「角は出し入れ可能性なんだ。まあ、角を仕舞うと魔力が少し下がるけど、それでもこの屋敷の人達には負けないね」


(偉い自信だな。)


エリザはゲーテの強さは知っているけれど、ここの使用人は皆、それなりに強いと聞いた。それに、父や叔父だってこの屋敷の人に含まれているはずだ。


「さようですか。どうせ断ったとしてもここに居続けるんでしょ?」

「もっちろーん」


エリザは深くため息をつく。傍にいることを拒んでも今の様子じゃ彼は絶対に居座るだろう。彼はかなり強いから、エリザが本気で逃げたとしても逃げきれるわけもない。


(それならいっそ傍に置いちゃう?嫌な感じはないから、今のところ害はないだろうし。今はだけれど。どうせここにいるなら、私に魔法とか教えてくれないかな?)


エリザはゲーテが屋敷にいれる方法を模索する。


「ここに居るとしても、あなたの存在を皆に黙っている訳にはいかないわ。私の傍に居たいなら専属執事になるぐらいでないと難しいわよ」

「じゃあ、その専属執事になるよ」


侯爵家の専属執事なんてそう簡単になれるものではない。礼儀作法も言葉遣いも知識も全てクリアしなくてはいけない。失礼で砕けた物言いのゲーテがなれるはずがない。


(専属執事が何か知らないんじゃ……。)


「ちょっと待って!?あなた分かってる?専属執事よ?私の世話をするのよ?それにマナーだって出来なくちゃいけないのよ?」

「それぐらい知ってるよー」

「あなたに出来るの?」

「大丈夫だってー。こう見えて僕、結構優秀なんだよ」


疑わしい。こんなヘナヘナした少年が執事なんて出来る訳がない。


「はぁ、分かったわ。一応、お父様に専属執事の推薦状は出しておくけど、お父様があなたが専属執事に相応しくないと判断した場合は諦めてシャドウの所に戻ること。いい?」

「りょーかいー」


間の抜けた返事にエリザは力が抜ける。丁度、父にそろそろエリザの専属執事を選ばないとと言われてはいたのだ。ただ、専属執事となると当たり前だが、エリザと過ごす事が多くなる。そうなると必然的にエリザのチート能力も目の当たりにする事となる。規格外であるエリザの執事をそう易々とは決めれないのだ。


彼は戦闘力も申し分ないし、エリザの魔法も目にしているから驚かれる心配もない。見た目も整っているのでいい物件ではあるのだが。何より態度が心配だ。


(大人しくシャドウの所に帰ってくれるといいんだけれど。)


翌日、執事服を身につけた1人の少年がエリザの部屋にやってきた。


「お初にお目にかかります。エリザお嬢様。私お嬢様の専属執事を任されましたゲーテと申します。執事職は初めてですので、お嬢様に御迷惑掛ける点があるかとは思いますが、何卒宜しくお願い致します」

「へっ?誰?」


彼の振る舞いは完璧であった。しかも、ボサボサだった髪も綺麗に整っている。


(マジで誰?)


そんなこんなで私の専属執事はゲーテに決まったのだ。





※※※





カムイとの戦闘訓練の日となり、エリザはゼパイルに言われた通りカムイにも例の件を報告していた。


「なるほど。お前さんの言う通り何かあるかも知れんの。逆にここ数十年、安定しておるのが不気味なぐらいじゃ」

「安定しているのは、いい事ではないのですか?」

「いい事ではあるんじゃが……」


珍しく言い淀むカムイはむむむ、と険しい顔で唸る。平和なのはいい事だ。それは誰しもが願っているはずだ。そう思うエリザはカムイの様子を見て不思議に思った。


「エリーちゃん、この世界はの。正と負、東洋で言う所の陰と陽で出来ているんじゃ。正や陽は世界にとってプラスに作用する事で、平和であったり自然の恩恵だったりする。逆に負や陰はマイナスに作用する事で災害であったり、魔物の出現であったりする。これらは均衡しており、持ちつ持たれつの関係なのじゃ。神々はこの世を陽にする為に魔物を意図的に作り続けているとの研究発表した者もおる」


確かに日本では陰と陽の関係は古くから言われている。陰陽師とかあの時代は陰陽五行思考とかあった。それに、陰と陽は五臓六腑の考え方にも関係していたはずだ。


「長い間、陽が続いているから、近々陰が来るのではないか、と言うことですか?」

「そうじゃ。ここ数十年は災害はほとんどないし、魔物も数少ない。至って世界は平和じゃ。近々と言っても明日や明後日の話ではないだろう。きっと数年後~20年以内かも知れんの」


20年以内。カムイはその数字に確証がありそうだ。


「何故分かるのですか?」

「勘じゃ。お前さんはこの国の建国記を知っているじゃろう?」

「はい」

「建国前に150年続く戦争があったのじゃが、その戦争が起こる前はどの国も争うことなく平和で豊かだったそうじゃ」

「今はそれと同じだと?」


精霊がいなくなったとされる世界大戦。平和だった世界に戦争の火蓋が切られた理由や何故150年間も戦争が続いたのか、その全貌は一切不明だとされている。その大戦も約800年前の話だから、分からなくて当然かもしれない。


(お爺様はその大戦も陰と陽のバランスが崩れたのが原因と考えているのかしら。)


「同じかどうかはワシも知らんし、同じ事が起こるとは限らないじゃろうが……」


そうは言いながらも、カムイはその可能性が高いと思っている訳だ。150年戦争が続くような陰と同等な災害が起こる。それはきっとゼパイルが倒したと言われる大魔獣なんて屁じゃない程の脅威なのだろう。


(戦争は嫌だな。戦争は悲しみを産むだけで、誰も得しない。大きな戦争だったのだろうか。でも、150年も続く戦争があったなんて信じられない。だって150年だよ?当時の国王でも約3世代は変わっているはずなのに戦争が終わらないなんて。)


そう考えたエリザはふと疑問に思う。


「お爺様。質問よろしいですか?」

「なんじゃ」

「そもそも、大戦の詳細が分からないのに、何故150年戦争が続いたと言われているですか?」

「それはダンジョンにあった石版に書いてあったからじゃ」


(ダンジョンだと!?)


その面白そうなワードに目を輝かせる。その目の変化をカムイは見逃さなかった。


「ダンジョンは追々な」


苦笑いを浮かべながら、カムイは話を続ける。


「ダンジョンは陽を保つ為の救済措置として、神が作ったとされている。ワシは魔獣を飼育するための檻みたいな場所だと思っている。神が作ったとされる由縁は、ダンジョンの摩訶不思議さじゃ。魔物を倒しても倒してもまた同じ魔物が同じ数だけ現れる。それは何かの意図があるとしか思えんからな」


確かに。そう聞くと、ダンジョンは魔獣が減った分だけ生産するように造られているとしか思えない。「陽」を保つには同じ分だけの「陰」が必要。なら、その「陰」の分をダンジョンで補っているそう考えるのが妥当かもしれない。


「石版はダンジョンの最下層にあるらしい。ダンジョンを攻略する事で謎に包まれた大戦の出来事が分かるかもしれないんじゃ。だから、この国では精鋭を集めてダンジョン攻略もしておる」


(国でダンジョン攻略を進めていたなんて……。)


「そのダンジョン攻略は進んでますの?」

「いや、近頃は全くじゃ。ダンジョンの話はまた今度ゆっくりするとして、今は話を戻す。さっきワシは災厄が起きるのは、数年後から20年以内と言ったが、今後、世界が陰に傾くとしても何かしらの前兆があるはずなのじゃ」

「それは気象の変化ですか?」

「そうじゃ」


大雨や地震、竜巻、干ばつなどの気象の変化が陰に傾く前兆になるかもしれないのか。それなら全国で事細かに気象情報を記録する必要がある。けれども、それを私達だけで把握するのは無理だ。国家レベルで動いてもらわないと……。


それに、人の記憶なんて曖昧なものではなくて、正式な過去のデータも追える所まで集積して欲しい。


「国王様のお力で何とかなりませんか?」

「そうじゃな。ワシらの力じゃどうにもならん。国王にはワシから打診しておくわい」

「ありがとうございます。今後、災害だけじゃなくて、魔物も増えてくるのでしょうか?」

「それは有り得るな。と言うか、ワシ的にはそれは確実に起こると思っておる」


魔物が増える……。そうなると庶民にも被害が出るだろう。弱い人間は魔物に食われる。もし戦争だけが起こるなら、軍人や騎士だけで庶民には多くの被害は出ないかもしれない。庶民まで徴兵するなら別だが。もしこれが神出鬼没な魔物相手だと狙われるのは庶民になる。せめて自分の身は自分で守って欲しい。


「魔物が増えると想定して、民の戦闘力を底上げ出来るといいんですけれど……」

「それはいい考えじゃが……地方各地に教えに行くのは難しいわい」


確かにカムイが各地に戦い方を教えに回れれば、底上げ出来るかもしれないが、効率が悪すぎる。


(どうしたら……。)


エリザは思い浮かんだ案をポツリと呟く。


「やはり学校でしょうか……」

「学校?」

「学園のことですわ。今この国では学園が1つしかありません。しかも貴族しか入れない……。それを民間の学校を増やして全ての民が幼い頃から魔法や武術を学べば、底上げをする事が可能になりませんか?」

「ほう……なるほど。しかし、その話はアッチの方が詳しいかもしれんの。エリーちゃんはまたあのババアの所には行くんじゃろ?」

「はい。そのつもりですが……」

「それと同じ話をババアにもしてやってくれ」


エリザはミーシャにも、災厄が起こる話は元よりするつもりだった。けれども、カムイの話と言うのは、きっと学園の話を言っているのだろう。


(おばあ様と学園って何か関係があるのかしら。)


「分かりました。他に私がそれまでに出来ることはあるのでしょうか?」

「お前さんはきっとその災厄の最前線におる。その時にお前さんに出来る選択肢を増やしておくのがいいじゃろう。ワシら老いぼれはその時にどうなってるか分からんじゃろうから当てにはするなよ」


そう言って、カムイがウインクする。


(お爺様、お茶目で可愛いです。)


日に日に若返る目の前のカムイを見ると、20年後も現役でバリバリ鍛えてそうに思える。


「お爺様がたとえ、老いぼれたとしても、今の私より遥かにお強いですから心配要りませんわ」

「いやいや、近いうちエリーちゃんに追い抜かれるわい」

「それは孫贔屓ですわよ、お爺様」


軽口を言いながら、カムイと2人で笑い合う。


「まあ、エリーちゃんは今まで通りでええじゃろ。それに今から忙しくなるんじゃろ?」

「そうなんですよね。開店してから1ヶ月は人手が足りないだろうと思いますし。あ、訓練はしっかり受けますからね」


だからといって訓練をサボるつもりはない。


「いやいや、お前さんはむしろ頑張りすぎじゃわい。2ヶ月間休みでもええよ?」

「それはダメです!」


体を動かすのは楽しい。エリザはこの訓練を楽しみにしているのだ。これが2ヶ月もお預けなんて我慢ならない。


「ほな、半日はどうじゃ?」

「えー、うー、まあ、それなら……」


(それが妥協点かな。あー、分裂したい。いや、影分身だな。そうすれば、術を解いた時に知識が蓄積されるからね。)


「焦らんでええ。まだ時間はある。まずは商会に専念せよ」


カムイは慰めるようにエリザの頭をポンポンする。ふと、戦闘訓練を始める前にもう1つ用事がある事を思い出す。


「ありがとうございます。あと、お爺様にお見せしたい物があるんですけれど」

「なんじゃ?」

「これなんですが……」


エリザはアイテムボックスからミラから貰った短剣を出す。


「これは……」

「王都で知り合った人に頂きました」


カムイはエリザの短剣を手に取り、剣を調べ始める。


「これは見た目の割にかなり古い剣じゃ。ほれ、ここを見てみぃ。この剣のガードの紋様は1000年以上前に使われていたと言われる。それにこのマークは……どこかで見たような気がするな。デザインも繊細で精密だ。魔石も埋め込まれているが、この魔石は見たことがないわい」


カムイは更に調べようと剣を鞘から抜こうとする。だが、どんなに引っ張っても引き抜けない。暫く続けるが、ビクともしない剣にカムイは引き抜きのを諦める。


「ワシの力を持ってしても抜けんとか、錆びているのではないか?」

「そんな事ないと思いますよ。店に鞘から抜けた状態で展示してありましたし」


(展示してあった時は錆びている感じはなかったんだけれどな。2年の間に錆びちゃったとか?)


そう思いながらエリザは短剣をそっと引き抜いた。なんの抵抗もなく抜けた剣の剣身が青白く輝いている。


「わわわっ」


エリザは驚いて、危うく剣を落としそうになるのをこらえる。ひと息ついてから改めてその剣を見る。


「綺麗……」


青白く輝いている剣身から、光が溢れているように見える。要するにキラキラのエフェクトが付いているみたいだ。フラーの部分は黄色く光っている。


「この青白く光る剣!もしかして……いや……そんなはずは……」

「お爺様。この剣を知っていますの?」

「確証はないんじゃが、フレイヴァイズ。フレイヴァイズは神話に出てくる女神の剣の事だ。元々フレイヴァイズは双剣だと言われており、この剣はアークリアと呼ばれる月の女神が持っていたとされる剣の特徴と一致しておる。先程、見た事あると思ったマークも、最古の聖本に書かれていた模様と似ている気がするのう」


(月の女神の剣って……そんな、まさかね。)


カムイは確証がなさそうなので、それがフレイヴァイズかどうかは分からない。しかし、この輝きからして名剣なのは確かなようだ。今になってこれを貰ってしまって本当に良かったのだろうかと不安になる。


カムイが興味津々に剣を見ているため、エリザはカムイに剣を手渡す。エリザの手から剣が離れると剣は光を失い、以前店で見た剣そのものとなった。


「ほう。この剣は使う者を選ぶようじゃの」

「神話って創世神話の女神が荒ぶった大地に突き刺したとか言うやつでしょうか?」

「そうじゃ。お前さんは貰ったと言っていたが?」


エリザはカムイに貰った時の事を話す。


「たしか、以前にこの剣は使用者を選ぶと店の人は言ってましたわ。それに貰うかどうするか悩んだ時に、私自身もこの剣が欲しくて堪らなくなったんですよね。今となっては不思議なのですが」

「なら、この剣とエリーちゃんがお互いを引き寄せあったんじゃろう。縁があったのか、運命なのか……この剣はかなりの力を秘めておる。この剣を使うのはいざと言う時だけにしときなさい」


(そうだよね。こんな剣を使っていたらかなり目立つだろうし、アイテムボックスとは言え、高価そうな剣を出し入れ頻回にするのは気が引ける。)


エリザはカムイの案に大きく頷く。


「分かりました」

「その剣は仕舞って、組手の練習をするぞい」

「宜しくお願い致します」


そして、今日もまたカムイとの訓練が始まったのだった。



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