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ムーンブレス~転生チート令嬢は無意識に聖女道をゆく~  作者: のりすけ
エリザベス商会編
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03.魔力血判の儀と神託



白いドレスに身を包む。


トップは白地に薄紫や水色の花柄を入れ、上からソフトチュールで覆うことで軽く花柄が透けるようにした。その下のスカート部分は白いオーガンジーを贅沢に使い、ふんわりとフェミニンに仕上がっている。比較的シンプルなデザインではあるが、薄らと花柄を入れたことで華やかしさが増した。オーガンジーで作った薄紫の花をウエストのリボンに飾ってあるのもこのドレスのアクセントになっている。


チュールとオーガンジーの生地を制作するには骨が折れた。ドレスを一から作るなら、これらの生地はどうしても手に入れたかった。ドレスは今までに色々と見てきたものの、どういった素材で出来ているのかは知らない。エリザのドレス作りはまず素材を探す所から始まった。


エリザの「眎見(しけん)」を使い、それっぽい素材を探し当て、何度も試行錯誤しながらやっと出来た物なのだ。それが本当にチュールやオーガンジーなのかは定かではないが、それに近いものは作れたと自負している。


苦労をすると我が子のように愛着が湧いてくものだ。是非とも大勢の人に知ってもらって好きになって欲しいと思う。


勿論、魔力血判の儀と言うことは、今は王都の屋敷にいる。昨日は兄達が散々可愛がってくれた。離れて暮らす分、反動が凄いと言うか、キュキュ同様離れてくれない。妹としてはそんな兄の将来が心配である。


そんなアルフとカミルとお別れして、2年ぶりに教会に向かう。キュキュはぐっすりと眠っていたので、そのまま屋敷に置いてきた。


久しぶりの礼拝堂は前回と変わらず、神々しく光を帯びていた。今回も早く到着したと思ったが、やはりこの間の公爵家の男の子、イアンが先に来ていた。


「おはようございます。私はシュトーレン家が長女、エリザ・シュトーレンと申します。以後お見知り置きを」

「おはようございます。私はグロスター公爵が次男、イアン・グロスターだ。こちらこそよろしく」

「よろしくお願い致します。イアン様はいつもお早いのですね」

「君も人の事は言えない」

「ふふっ。そうですわね。お互い様ですね」


クールな印象を受けていたが、思っていたよりも話しやすい子のようだ。前回の祈念式と違い、今回は会話はしてもいいので、気は楽だ。


魔力血判の儀では、礼拝堂の奥にある部屋に1人で入り、その部屋で水晶に手をかざす。それだけで、自分の魔力を登録できるわけだが、この儀式はそれだけでない。


その登録した魔力で、神様から神託を得るのである。その神託の内容はその子の運命であったり、心の持ちようであったり、覚悟であったり、悩んだ時の答えであったりと内容は人によって様々だと聞いた。


神託を心に刻むために、身につけている指輪に神託の言葉が宿り、指輪が自分の中に吸収されると言う。自分にとって重大な事であるため、内容は人に話す事は禁止させている。


開式までの待ち時間はこの特殊な場所のせいなのか、とても人と話せる雰囲気ではない。


特にする事がないため、エリザはプレオープンが間近に控えた商会の段取りについて考える。商会の代表になったからには責任感を持って行動すべきだ。不測の事態にも円滑に対応出来るようにもしないといけない。


あれこれ思案している間に皆が集まり、開始時刻と同時に王族の方々が入場する。最後に現れたエドワルドと目が合ったエリザは軽く会釈をしておいた。


そして祈念式と同様、国王の挨拶と神父の長いお話が終われば、ようやく儀式が始まる。最初にエドワルドの名が呼ばれ、控えていた神官と共に礼拝堂を出ていく。


しばらくして戻ってきたエドワルドは複雑そうな顔をしている。内容が良くなかったのだろうか。そんな顔をされるとエリザまで不安になる。次は爵位順に進んでいくので、イアンが2番目。その後にアンリエッタでエリザの順番がくる。


エリザの名前を呼ばれ、神官の後ろをトコトコついて行く。案内された場所は、やはり祭壇の奥の部屋だった。そこは祈念式の時に巨大な魔力を感じた場所のはずだ。どんな凄い部屋なんだろう、とウキウキしながら部屋の前で神官に入室してからの行動について説明を受ける。


意気揚々と部屋に入ると、真っ白な部屋の真ん中に曇り一つない透き通った水晶がポツンと置いてある。その水晶の前に宝珠をもった女神が像が祀られている。ただそれだけのシンプルな部屋で、エリザは一瞬呆気にとられた。


この部屋は魔力と言うよりは、特別な霊気に満ち溢れているように感じる。まるで自分がこの世から一人はじかれたような、この世界とは別の場所にいるような、そんな不可思議な場所であった。


「エリザ・シュトーレンです。よろしくお願いします」


そう言ってエリザは、水晶に手を伸ばす。すると、水晶がゆっくり虹色光り、輝きが強くなる。あまりの眩しさに目を閉じた時、まるで歌っているかのような綺麗な声が聞こえてくる。


「——悪しき闇に覆われ、全が荒れ果て混沌となりし時。太陽と月の御光が交わり合い、癒となる音調が芽吹き溢れ、世を明るく照らすだろう─導かれし、運命の子よ。そなたの前には数多の困難が待ち受けている。しかし、臆するでない。そなたは心思うがままに突き進み、多くの人々を癒し導かれよ。それが崩壊を止める唯一の手段であり、我の希望である。そなたが屈しぬように我も微々たるものだが、力を分け与えよう。我が愛し子よ。そなたに幸あらんことを——」


神託が終わると指輪が熱を持ち、ひとりでに指から離れる。指輪が光を帯びたと思ったら、エリザの中にスっと消えていった。すると、胸がじんわりと温まるような体感を覚えた。


水晶の光が消えたので、終わりだろうか。部屋は入ってきた時のように静まり返り、次に何かが起こる気配はない。


「女神様。ありがとうございます。私にそんな大層な力はありませんが、私に出来ることしっかりとやって行きたいと思います」


何となくそう言っておきたかった。相手が女神かどうかは不明だが、今の自分の気持ちを伝えておく。


先程感じた存在は、女神像と言うよりは水晶から強く感じた。あれは魔法具の一種なのだろうか。あの荘厳な雰囲気は特別な何かだとは思う。気になるが、あの場で流石に「眎見(しけん)」をする勇気がなかった。知っているかは分からないけれど、あとでカムイに聞いてみようと心に決めた。


説明をされた通り、反対側の扉から部屋を出て、少し歩くと祭壇横に出た。ここに出るんだと思いながら、前に視線を向ける。


(あれ?何かキラキラしてる?眎見を使っていないのに。)


目の前の世界が以前と比べて少し違って見える気がする。今までとどう違うかは説明しにくいのだが、エリザの感覚が敏感になっているような、そんな不思議な感じだ。これが魔力血判の儀のせいのか、女神の力なのかはわからないが。


その後は、他の子が終わるまで席でひたすら待つ。その間、ついつい小指を見てしまう。2年間付けていた指輪が無くなるのは寂しい。


(あの花の形も好きだったのに。)


更にエリザの思考は指輪から神託の言葉に向く。指輪に神託を刻むと言っていた。そのお陰なのか、神託を一言一句間違うことなく思い出せる。


先程の神託、これから先に世界を揺るがす良くないことが起こるのだろうか。エリザはこの先何かと大変らしい。神託の内容は他人には言えない。けれども、世界を揺るがす事件があるのを知っていて、このまま何もせずに日々を過ごすのはどうなんだろうか。


(それに、神託で(いと)()って言っていた……。力を与えるとも……。それってアウトなやつだよね?特別スキルとかで神の(いと)()とかついてチートになるやつだよね?スキルがこの世界にあるかは知らないけれど。どの小説においても、そのスキルはとんでもない状況を作り出していたはず……。)


正直に言うと、エリザは強くはなりたいけれど、世界を圧倒する力までは要らない。大切な人や目の前のいる人を守れるだけの力でいい。だってエリザは魔法が好きな、ただの6歳児なのだから。全世界の人々を救うだなんて思えるほど出来た人間ではない。でも、それが大切な人を守れるために必要な力なら、有難く頂いておく。


力の件は百歩譲っていいとして、数多の困難は嫌だ。誰だって人生穏やかに過ごしたいものだ。信託で授かるぐらいだから回避できない事象なのだろう。そうなるとエリザの大切な人も巻き込まれるのは決定事項だろう。ならエリザの取る行動は1つに絞られる。


(他にも私と同じような神託を授かった子はいるのかな。エドワルドくんも出てきた時に複雑そうな表情をしていた。彼はこの国の王子様だし、何か私と似たような神託を授かったのかもしれない。他の子は……どんな神託だったのかな?)


悩んでも仕方がないと気持ちを入れ替える。エリザが他の子の神託の内容を聞いても答えられないのだから。


ここにいる子供たちは、学園の同級生となる。祈念式でも思ったが、やはり可愛い子が多い。可愛い子が可愛い服を着ている姿はエリザにとって癒しそのものである。


特にエリザの隣の席に座っている。艶やかな赤髪のファリス・ハワード。エリザと同じ侯爵だ。着ている服は地味だが、素材がいい。平均より背が高く、すらっとしているように見えるけれど、よく見ると鍛えられているのが分かる。格好いい騎士服とか似合いそう。将来はイケメン女子だろう。是非とも仲良くなりたいと、エリザはほくそ笑んだ。


魔力血判の儀が終了し、急いで別邸に帰ってお披露目会の準備に取り掛かる。お披露目会のドレスは魔力血判の儀とは違うドレスを準備している。


チュールをたくさん使ったふわふわの薄紫のドレス。チュールの良さをアピール出来るように装飾は少なくし、先程のドレスと同様にシンプルなデザインにしてある。それだけじゃ味気ないので、バックルライン程ではないが、大きめのリボンを付けてインパクトを出している。


魔力血判の儀が済むとこのようなパーティーに参加したり、親のお茶会に同行する事が出来る。つまり、自分の領地外に遊びに行く事が出来るようになるのだ。


今回のパーティーは前国王様の代から開催されたイベントであり、魔力血判の儀を済ませた子とその家族が参加出来る。貴族は国王様に無事に儀式を終えた感謝を述べ、我が子の存在を周知してもらうための場となっている。


両親や兄達も参加するため、家族全員の衣装を準備した。特に母エレインは青色と紺色のドレスでオーガンジーにスパンコールをふんだんに使い星空を見ているかのような豪華なドレスである。トップも目立たないが刺繍を施して模様を作り、非常に繊細な仕上がりになっている。勿論、エリザのドレスと統一感はあるものの、全く別物である。


父や兄の衣装は、今まである衣装と形はあまり変わっていないが、生地や色合い、装飾、刺繍など細部に工夫を凝らしてある。遠くから見たらわからないが、近くで見ると誰もが気付くだろう。


チュールとオーガンジーの制作に時間がかかり、男性の衣装を一から考える時間と余裕がなかったのだが、それでも家族は喜んでいたので良しとする。


(さて、家族にはエリザベス商会の宣伝として大いに活躍してもらおうか。)



補足説明

チュールは網目模様をした薄手のメッシュ素材の事を言います。最近はよくスカートで使用されますね。一方、オーガンジーは平織りに特殊加工した、透け感のある薄手の生地です。チュールと似ていますが、チュールのように網目状ではありません。柔らかく半透明で軽い光沢があってエレガントな仕上がりになる生地です。

どちらもゴージャスで可愛いですが、作者的にはオーガンジーの方が高級感があって好きですね。

ちなみにバックルラインは、スカートの後ろを膨らませてヒップラインを美しく見せるシルエットの事を言います。本当かはわかりませんが、ヒップにボリュームがあるので、対比でウエストが細く見えるらしいですよ。

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