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33.不思議なお嬢ちゃんとBBA

カムイ視点です。



正直驚いた。


ワシの本気の殺気の中で平然と動けるとは思っていなかった。それだけもあやつも相当の手練だと分かる。


気付いた時には、意識のないお嬢ちゃんの横にいて何か囁いていた。予想外の行動に焦ったカムイは行動に移そうとした瞬間に、あっさりと逃げられてしまった。カムイに襲いかかってきた女子(おなご)もあやつの仲間が担いで去っていった。


(はぁー、ワシもまだまだじゃのう。ここ数年怠けていたツケが来てしもうた。)


カムイは大きなため息をついた後、倒れている2人を順に一瞥する。


お嬢ちゃんはともかく、侍女の容態が良くないのは一目瞭然である。まだ辛うじて息はあるが、何せ出血が酷い。早くしないと死ぬだろう。


(仕方ない。あのBBA(ババア)の所に連れてくか。)





※※※





その日の明け方。老人の朝は早い。眠りから覚めたカムイはようやく歩き慣れた街を散歩していると、街の外れの方から微かに爆発音が聞こえた。何があったのかと見に行けば、倒れていたこの侍女と風の防御魔法に包まれて泣いている子供達、そして目を回している白い生物がいた。


回復魔法は使えないカムイは、持っていた低級ポーションで侍女を少し回復させた。そして、子供達の風の魔法を解き、事情を聞く。すると、子供達は水色の髪の女の子に助けられたものの、助けてくれたその子は魔人に連れていかれたらしい。


水色の髪の女の子はこの街ではあの子しか見た事がない。しかも、この侍女はあの子の後ろにいたはずだ。


(あの心優しいお嬢ちゃんが攫われただと?誰か知らんが、ワシの天使を誘拐するなど許せない。必ず見つけてコテンパンにしてやる。)


そう思ったものの、行先は不明だ。その前に情報収集をするべきだろう。


目を覚ました侍女は、かなり取り乱しているみたいだった。何とか落ち着かせ、侍女からも話を聞く。この娘も中々の者だと思っていたが、彼女が負けるとは余程強いらしい。お嬢ちゃんの相手をしていたのが魔人なら、侍女の相手をしていたのも魔人の可能性が高い。


カムイは顎に手を当て思考する。


魔人は身体能力や魔力が非常に高く、殺戮を厭わない者が多い。ワシも魔人とは何回かやり合ったが、かなり苦戦した。そんな奴らにお嬢ちゃんや侍女が勝てるはずもない。


とにかく、今は早くお嬢ちゃんの居場所を探すのが先決だ。しかし、闇雲に探しても見つかるはずがない。無駄な時間が過ぎていくだけだ。すぐにでも探しに行こうとする侍女を無理矢理引き止める。


ならどうするか。不得意ではあるが、探索魔法を使用する事にする。時間は少しかかるが、これが一番手っ取り早く確実性が高い。さっそくお嬢ちゃんが持ってると言う彼女の父親の魔力が篭った魔石を頼りに探索をかける。同じ魔石がいくつも存在するため、通常よりも判別するのに時間がかかってしまった。


地図を広げ、この辺りだと示すと、侍女と白いのはすぐさまその場所に向かって行った。ここに泣き疲れて眠っている子供達を放っておく訳にも行かず、慌てて起こして家に連れていく。子供達を家に送ったあと、探索した場所に急いで向かう。


(ポーションで傷は回復したものの、未だに魔力の消耗は激しい。侍女よ、早まるなよ。)


カムイはそう願わずにはいられなかった。


探索魔法で示された場所の近くの洞窟からいくつかの魔力を感じたカムイは、念の為に気配を消しながら、奥へ進んでいく。


まだ派手に交戦中している事に安堵しながらチラリと覗くと、その視界に映ったのは、血塗れのお嬢ちゃんが猛攻撃を繰り出す姿だった。彼女はまだ指輪をはめていたはず。にも関わらず、魔法を使えるどころか、上級魔法をまるで息をするの如く連続で放っていた。


お嬢ちゃんの全身は血塗れていたので、カムイは大怪我をしたのかとヒヤリとしたが、見る限り大した怪我はなさそうだ。


(それにしても何か様子がおかしい。)


普通に魔力行使をしているように見えない。カムイはお嬢ちゃんをじっと観察する。


(意識がないのか?)


どうやらお嬢ちゃんの意識はなく魔力が暴走しているようだった。こんな事が……カムイにとって有り得ない現象に戸惑いを覚える。


そして、カムイは辺りをよく凝らして見る。血を流して倒れている侍女と白い毛がチリチリになっている白い動物がいた。


(なるほどな。)


暴走の原因はわかった。そろそろお嬢ちゃんを止めないとお嬢ちゃんの体も持たない。


天井から降り立ったお嬢ちゃんの横に立ち、自分の魔力を流して落ち着かせる。ぐらりと倒れ込む体を支え、ゆっくりと床に寝かした。


(こんな小さな体でよくあんな魔法が使えたもんじゃ。)


暴走していたと言え、カムイはお嬢ちゃんに感心せずにはいられなかった。


そんな事を考えていると、お嬢ちゃんと戦っていた女子(おなご)が殴りかかってくるのを視界の端で捉えた。


彼女の攻撃を難なく避ける。


(うん。攻撃の筋は悪くない。たが、まだ青いな。)


彼女も相当お嬢ちゃんにやられたようでボロボロで血の気がない。


久々の戦闘に忘れかけていた感覚が蘇ってくる。けれども、今は遊んでいる場合ではないのだ。楽しくなる気持ちを抑え、殺さない程度に一発パンチを喰らわせておく。勢いよく壁にめり込んだ彼女はもう動けないようだ。


(よし、これで静かになったのう。まず目の前の奴に挨拶しておこうか。ワシ特製の殺気での挨拶じゃ。何処まで耐えられるかの。久しぶりに血が騒ぐのを感じて思わず笑みが出てしまった。)





※※※





後はさっきの通りである。思考にふけっている間にあのババアの所に着いたようだ。


(これで一安心じゃの。ババアのお小言は勘弁して欲しいが、こればかりは仕方ない。)


ババアの回復力を持ってして、あの侍女が回復するまで約4日、目を覚ますのに1日、元の体に戻るまで2日の1週間は掛かる計算になるか。


最低でも1週間はここにいないといけないのに何も連絡しないのは、お嬢ちゃんの家族が心配する。幸運な事に、探索で使ったお嬢ちゃんの父親の魔力が篭った魔石がワシの手元にある。これを使えばお嬢ちゃんの父親に連絡が取れる。


要領は探索魔法と似ている。この魔石と同じ魔力が最も多い者の所に思念を飛ばすだけだ。


『誰だっ!』

「ワシの名前はカムイ・ウォーリアだ」

『カムイ・ウォーリア様だと!?』

「さよう」

『元帥であられますカムイ・ウォーリア様が私めに何用で?』


お嬢ちゃんの父親はカムイの事を知っているのか、驚きを隠せないようだ。


「お主の娘の事だ」

『エリザになにか!?』

「お嬢ちゃんの名はエリザと言うのか。安心せい。エリザちゃんは寝ておるが、無事だ。怪我も大した事ない」

『……っ』


安心したように息をつくのが思念上に伝わってくる。まだ娘が誘拐された事は知らされていないようだ。


「問題なのが、お付の侍女の方じゃ。彼女はかなり重症じゃな」

『あのユキがですか!?ユキは私の部下の中でもかなり強いはずなのですが……』

「相手が悪かったんじゃ。それでな、ワシの知り合いの治癒師に治癒を掛けてもらっておるが、通常業務に戻るのに早くて1週間はかかると見込んでおる」

『1週間!?』

「それまでエリザちゃんと侍女をこちらで預からせてもらっても良いだろうか?」

『元帥様の所ならこちらとしても安心ですが、元帥様にそこまでしてもらうのは……』


ゼパイルはカムイが何故ここまでするのか不思議だった。そもそもエリザとカムイの面識もあるとは思えなかった。


「気にするでない。ワシはエリザちゃんを気に入っておるのだ」


カムイの口ぶりから、やはり面識があるようだった。ユキからもそんな報告は受けていない。エリザはいつの間に知り合ったのだろう。しかし、今は聞くべきではない。ゼパイルは問いたい気持ちを飲み込む。


『……そうですか。すみませんが、娘とユキをよろしくお願い致します。こちらとしても軍の事で手が離せない上に屋敷は今、ある事情でいっぱいいっぱいでして、預かって頂けるのは非常に助かります』

「ああ、パンの件か……。それも多分心配せんでいい。確証はないが、直に片付くだろう」

『何!?』


ゼパイルは驚きで開いた口が塞がらなかった。パンの件もウィードと内密で対処しているのだ。この方は一体どこまで知っているのだろう。


「詳しくはまた戻ってきてから話そう。それまではワシがお前の娘を責任持って預かろう」

『はっ。私、ゼパイル・シュトーレン。慎み敬いまして貴方様に深く感謝申し上げます』

「その感謝快く受け取ったぞ。ではまた1週間後に屋敷へ連れていくからな」

『畏まりました。よろしくお願い致します』


(ふぅー。この魔法は疲れるし肩が凝るわい。)


通信を終えたカムイは、やれやれと自分の肩をもむ。


(お嬢ちゃんはゼパイルの娘であったか。という事は領主の娘という事か。なるほどな。)


しかし、出会った時から思っていたが、本当に不思議なお嬢ちゃんじゃ。誰もが関わりたくないと思うような汚らしいワシに話しかけるだけではなく、自分の昼ご飯を分け与える。


そして、パンや街の事を楽しそうに話し、自分の腕輪を金に替えてジジイの生活資金を無償で行うなんと慈悲深い幼女であるか。


それだけでなく暴走はしていたが、あの膨大な魔力と戦闘センス。本当に5歳児なのかと疑ってしまう。


魔力量は18歳頃がピークと言われ、12歳までは1年間で倍ずつ増加すると言われている。5歳であれだけの魔力量なのだ。これで1年間に倍ずつ増えるとしたら、彼女の魔力量はどうなってしまうんだろう……。


(全く……実に不思議で恐ろしいお嬢ちゃんだ。そんなお嬢ちゃんがどう成長するのか。悪い方向にだけは進んで欲しくない。)


彼女の未来を想像してみるが、想像出来ずに小さく息を吐く。


(ただでさえ、あいつらに狙われているのだ。これは何かの前兆か。もしかしたらワシの嫌な予感が既に動き出しているかもしれん。そして、その中心にいるのはきっと……。)


カムイの気持ちとは裏腹に、清々しい程の満点の星々を見つめる。


(天使はワシが命に変えても守り通す。)


思わずカムイは力こぶを作る。しかし、頼りないひょろひょろな腕に視線を下げ、人知れず落胆する。今回の戦闘は技術で何とかなったものだ。こんな弱った体では全盛期の10分の1ぐらいしか力が出せない。


(いざと言う時に備えて、ワシも1から体を鍛え直すとするかのぅ。)



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