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20.家庭教師とピアノ

短めの内容となっています。



祈念式を終えたエリザは、早速、午前中に家庭教師を付けてもらった。内容は算数、歴史、経済学、商学などの魔法関連以外の学問中心となる。普通の貴族は商学を学ぶ事はないのだが、商人と関わることが多いマリンフォードでは、商学を学んでおいた方が商人を相手にするには良いと思ったエリザは、授業を受けておく事にした。


今日の午前中は算数からだ。まず実力を測ると言って家庭教師が出したテストは足し算だった。時間が勿体ないので、エリザはそのまま税金の計算までサクサク進ませた。家庭教師は「君は天才だ!!」とか色々叫んでいたが、いちいち煩くてエリザは反応しなかった。これぐらいの計算なら普通に出来る。やりたい事が沢山あるエリザは不要な勉強は省きたった。


これが、sin、cos、tan、とかの三角関数ならちんぷんかんぷんなのだが。この世界にないと信じたい。


勉強終了後にゼパイルに呼び出されたので、エリザは執務室へ向かった。ゼパイルの執務室に入ると、そこには見知らぬ人が立っていた。細身で背は高く、父に似た顔にモノクルをかけた美青年だった。


「初めましてエリザ。私は君の父の弟のウィードだ。領主の補佐を担当している。今後、色々と君と関わると思う。よろしく」

「お初にお目にかかります。エリザです。こちらこそよろしくお願い致します。ウィード叔父様」


そう言って姿勢を正しカーテシーをすると、ウィードはふわりと優しく微笑んだ。その甘い表情に叔父もなかなか素敵だとエリザは一瞬クラリとした。


「顔合わせも済んだな。君にウィードを紹介したかっただけなんだ。もうお昼寝の時間だろう。お部屋に戻りなさい。あと、お昼寝から目が覚めたら広間に来るように」

「ありがとうございます。お父様も叔父もお仕事頑張って下さいね」

「ありがとう。頑張るよ」





※※※





ゼパイルに言われた通り、昼寝を終えたエリザは広間に足を運んだ。中を覗くと、広間には既にゼパイルと数人の商人らしき人がいた。エリザは何故広間に呼ばれたのか、疑問に思いながらゼパイルの横に視線を移すと、チェンバロのような派手な装飾された大きな物体が置いてあった。


「これってもしかして……」


目を丸くして驚いたエリザは声を漏らす。思いの外響いてしまったその声にエリザが来室したと気が付いたのだろう。ゼパイルは振り返り「こちらにおいで」とエリザを招き入れた。


「そうだよ。約束したからね。この間エリザが言っていたものに近いものを取り寄せてみたんだ」

「お父様、大好きです!!」


感激したエリザは思わずゼパイルの胸に飛び込んだ。ゼパイルは笑って優しく受け止めてくれる。ゼパイルに抱きついたまま、ピアノもどきを見つめる。


「これ、触ってもいいのでしょうか?」

「勿論」


エリザの質問に短く返答したゼパイルはエリザを椅子に乗せる。椅子は既にエリザの身長に合わせてあるようで、座るとちょうど目の前に鍵盤が広がっていた。


エリザは緊張しながらも白と黒が並ぶ板を一撫でして、一先ず一音をポーンと弾いてみる。透き通るその音は調律が終了しているようだと感じ取れた。見た目はチェンバロだが、奏でる音はピアノに近い。ピアノの鍵盤数は88だが、これは少しだけ少なそうだ。


ドレミファソラシドドシラソファミレド~♪


とりあえずエリザはそっと音階を弾いてみる。懐かしくて心に響く音色に目を瞑る。


前世では母がピアノの先生をしていた。常に音楽が身近にあり、母がレッスンがない時にいつでもグランドピアノが弾ける環境であった。


『私』は3歳の頃からピアノを始め、大人になってからもピアノは弾き続けていた。と言っても、ピアノは趣味程度であり、決して上手ではなかったと自分では思っている。小さい頃にグレードの試験は受けたものの、コンクールには一切出なかったので、自分の技量がどう評価されているか知らないし、興味がなかった。


ピアノで生きていけるのは、才能を持った極少数だ。好きだからといって音大を出ても就職先が少ない。だから『私』はピアノを本職にすること無く、好きな曲を好きな時に弾いていた。


気が乗ったエリザは前世で好きだった曲「月光」を弾いてみる。洋画でも有名になった曲だ。『私』が「月光」で弾けるのは第二楽章まで。第三楽章は練習しても指がついていかなかったのが、悔やまれる。


前世ではスタンダードなピアノソナタからジ〇リとか夢の国とかアニソン、JPOP、洋楽など、とにかく気に入った曲をひたすら弾いていた覚えがある。


4歳児の指でショパンの演奏は無理かと思ったけれど、エリザの指はスムーズに動く。それに気を良くしたエリザは次第にピアノにのめり込む。鍵盤からメロディーが溢れ出し、音の波に浸る。自分が溶けて混ざり合い、更に優しい音色が加速する。


弾き終わり一息すると沢山の拍手聞こえる。父と商人にしては多すぎる拍手を不思議に思い、エリザ顔を上げると母や使用人まで増えていた。それを見てエリザは目をぱちくりさせる。


(いつの間に入ってきたのだろう。軽く弾くだけにしようと思っていたのに、熱中し過ぎたみたい。)


「エリザ。初めて聞いた曲でしたけど、心に響くような優しい感じがして……とても素敵だったわ」


恥ずかしそうに頬をかくエリザをエレインが抱きしめる。ゼパイルもエリザの横に来て、小さな頭を撫でた。


その後もエリザは気が赴くまま2、3曲弾いた。その間も観客は増え続け、ちょっとしたリサイタルになってしまった。


ゼパイルに「好きな時に弾いてもいい」と許可が出たエリザは、また夜にでも弾きに来ようと決めたのだった。



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