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15.魔法禁止令と前世の話


「おはよう。体調はどうだい?」

「……はっ!おはようございます。お父様。特に変わりありません」

「良かった。早速だけれど、昨日と同じように指輪をはめてもらうよ。そこに立って」


昨日の部屋に入ると、ゼパイルは紅茶を飲みながら本を読んでいた。その姿さえも格好いい。ボーっと見とれていたエリザは慌てて返事をして、昨日と同じように魔法陣の真ん中に立つ。


「魔法陣は状況を見て発動させる。今日はなるべく自分の力で抑えてみなさい」

「はい」


エリザは深呼吸をして高鳴る心を落ち着かせる。


(大丈夫。ちゃんと出来る。)


意を決して指輪をはめると、昨日と同じように魔力が溢れ出す。昨晩イメトレをしていたエリザは即座に昨日の感覚を思い出す。暴れ出す魔力を落ち着かせ、優しく包み込む。すると、徐々に魔力が落ち着いてきた。ゆっくりと内へ内へと落としていく。


(あっ、この感覚だ。)


昨日感じた感覚を掴んだエリザは安定させるようにゆっくりと維持する。次第に魔力が穏やかになり、穏やかな川の流れのように一定になる。しばらくしてこれで大丈夫と感じ、エリザは目を開ける。


ゼパイルの手を借りずに1人で出来た事に安堵し、ゆっくりと息を吐く。


「お疲れ様。一人で出来たね。かかった時間も随分短くなった」


聞くと指輪をはめてから30分も経過していた。エリザの体感時間的には5分だったので、驚きだった。


「そのままの位置でどんな魔法でもいいから魔法を使って見せて。指輪をはめた状態で魔法が使えるのか、何か問題あるのか確認しておきたい」

「わかりました」


ゼパイルの言葉に大きく頷いたエリザは緊張しながらも右手に魔力を移動させる。魔力操作は問題なさそうだと感じながら魔法を発動させる。


「……ウォーターボール」


拳大の水の球が手のひらに現れた。魔法はいつも通りに使えそうでエリザは胸を撫で下ろす。


「大丈夫そうだな。体はどう?何か魔法を使って変わったことはないかい?」

「特にありません」


そう言ってエリザは魔法を解除する。それを見たゼパイルはエリザに椅子に座るように促す。椅子に座るとユキがエリザの分の紅茶を入れてくれた。


「今後の予定だが、昨日の今日だ。今日一日はゆっくりしなさい。せっかく王都に来たんだから、明日はアルフとカミルと一緒に王都散策に行っておいで。明後日の朝にここを出て、領地の屋敷に戻るつもりでいるから、そのように準備しておいてね」

「外に出て良いのですか!?やったー!」


王都散策の許可が出たことにエリザのテンションMAXになり、両手を上げて喜ぶ。


「指輪は夜寝る時やお昼寝の時はもちろん、部屋で一人でいる時は外していなさい。昨日言ったように指輪を付けるときはユキを呼んで見ていてもらうように。今回魔法は使用出来たが、長時間の指輪の効果でどうなるかは分からない。体が指輪に馴染むまでは魔法の使用は禁止だよ」


(がーん。魔法使っちゃだめなの?私の楽しみが……。ぐすん。)


唯一の楽しみである魔法を取り上げられ、エリザの最高潮になっていたテンションが急下降した。体調を心配してのことなので、ぐうの音も出ないエリザであった。


「本邸に戻ってからの話しだが、体が馴染んだ後はユキに魔法を教えてもらいなさい。こう見えてユキは優秀だからな。ちなみに今まで使用していた庭は魔法練習には不向きだ。こちらで場所用意するから、そこで魔法を使いなさい」


(昨日の話から薄々気付いてたけど。お父様は全てご存知だったのね。でも、これでしっかりと魔法の勉強が出来るわ。)


その言葉にまたテンションが上がる忙しないエリザは、ある疑問を持つ。


「お父様。ありがとうございます。しかし、魔法の勉強は6歳からだと聞いていますが、よろしいのでしょうか?」

「魔法が使える体になるのが6歳だと話しただろう?だから6歳からと言われているだけであって、法律で決まっているわけではないよ。さすがに外部からの家庭教師はつけれないけれど」


(だから問題ないということか。しかし、体が馴染むのはいつの話なんだろう。)


正々堂々と魔法の勉強が出来るという魅力的な提案に、エリザは早く馴染んで欲しいと願うばかりである。


「本当は私がエリザの傍にいれたらいいが、そうはいかない。魔法が馴染んだかどうかはユキに判断してもらう。あと、内緒でこっそりと魔法を使うのもダメだよ。常にユキが監視していると思いなさい」

「ユキさん何者……」

「ああ、ユキは私専属の諜報部隊のエリートだ。魔法はもちろんだが、体術や隠行が得意で情報収集に長けている。諜報部隊と言ってもお前の魔力のことを知っているのは私とユキだけだから安心しなさい」


ユキの素性に驚いたエリザは、離れた所で佇むユキを一瞥する。ユキはエリザの好機な視線にも眉一つ動くことはない。


(諜報って、もしかして前世で言う忍者?しかも侍女も完璧にこなしているし。今まで監視されてた事に気づかなかったよ。)


「ユキから君が楽しそうに魔法を使っていると聞いている。魔法が好きなんだろう?」

「はい。大好きです。楽しいです」


ゼパイルの質問にエリザは手を挙げて勢いよく返答する。そんなエリザを見てゼパイルは目を細めて笑う。


「体が馴染むまで少し時間がかかると思う。何か気を紛らわるようなもの。何か希望するものがあるかい?」


その言葉にエリザは大きな目を更に見開き、キラキラと輝かせる。


「あります!ピアノが欲しいです。あと、出来たら厨房に入る権利をください」

「ピアノ?」


初めて聞く単語にゼパイルは言葉を繰り返す。


「はい。音楽を楽しむ楽器の一つです。鍵盤を叩いて音を出す楽器なのですが、この世界にはないのでしょうか」


エリザは説明するために、部屋にあった紙でピアノの絵と仕組みを書いて、ゼパイルに見せる。


「鍵盤楽器か。これならポプラノと言う楽器に似ているな。君の欲しい物と少し違うかもしれないが、1度取り寄せてみようか」

「お父様!ありがとうございます!」


あまりの嬉しさにエリザはゼパイルに飛びつく。ゼパイルはエリザの急な行動に驚きながらも、エリザを難なく受け止める。


「あと、厨房に入る権利だっけ?それは何故?」

「はい。美味しいご飯が食べたいので」


ゼパイルはエリザの意図が分からず、首を傾げている。首を傾げる父の姿が可愛くエリザは一笑する。


(きっと私が言いたい事は伝わってない。それを説明するためには……まず言わなくちゃいけない事がある。……「娘を返せ」と言われるかもしれない。最悪、私はこの家から追い出されるかもしれない。でも、昨日の夜に決心したんだ。ちゃんとお父様に話そうと。)


唾を飲み込んだエリザは真っ直ぐゼパイルの目を見る。


「その前にお父様に言わないといけない事があります」

「ん?何だい?」


エリザの真剣な表情に変わった事に気づいたゼパイルは、その目を見つめ返す。


「……『私』はお父様の知っているエリザではありません。身体はエリザなのですが、魂が違うと言うか……いつの間にかエリザの中に入ってたと言うか……とにかく『私』はこの世界ではない、遠い世界から来たエリザの皮を被った別人なのです。『私』がエリザの体に来たせいで、以前の私、エリザは何処かの奥底か、あるいは消滅したかもしれません。……だから……だから、『私』は貴方の本当の娘ではないのです。こんな大事な事を今まで黙っていてごめんなさい。昔のエリザを貴方に返してあげたくても方法が分かりません。お父様の怒りはごもっともだと思います。ですので、追い出すなり勘当するなり、お父様の好きになさって下さいませ」


(……言ってしまった。もう後戻りは出来ない。大好きなお父様に嫌われた。)


そう思うと自然と涙が溢れてきた。


「……知ってるよ。君が以前のエリザではない事ぐらい。多分、エレインやアルフ、カミルも気付いているんじゃないかな」

「えっ!?」


予想外のゼパイルの言葉にエリザは驚愕する。


(——皆、知ってた?)


「以前のエリザはね、なんと言うか……とても無口で人を寄せ付けない子だったんだよ。魔力侵食と言う病気があるのだけど、エリザはその病気になってしまった」


ゼパイルはその時の事を思い出しながら、魔力侵食の話をする。それを聞いたエリザはかなり深刻な状況だった事にただただ驚くばかりである。


「だからね、君がエリザの中に来てくれなければ、きっとエリザはこの世にはいないと思うんだ。君が来てくれたから、今こうやって娘とお話出来るんだよ。君に感謝こそすれど、恨むとか怒るような事は一切ないんだ。エリザの元に来てくれてありがとう。今も昔もこれからも君はエリザで、君は私の娘であることは変わらない」


父の言葉に涙が止まらなくなった。エリザは『私』になってから、ずっと思っていた。以前のエリザは何処に行ったのだろうと。『私』が来たせいで、エリザの心は何処かに追いやられたのではないかと。『私』がいたから。『私』のせいで。ずっとそう心の中で責めていた。


そして、大好きな家族に『私』は嘘をついている事が後ろめたくモヤモヤしていた。本当なら『私』ではなくエリザに与えられるべき愛情を受け取っている事に。


だから『私』は魔法や本に没頭した。好きだったっていうのもあるけれど、好きな事に没頭していると、そうした鬱々した気持ちを忘れられるから。


「この話をエレインにはしていいかい?」


母も娘の事だから知っておきたいだろう。エリザは首を縦に振ったものの、この話をして母に嫌われたり、夫婦仲が悪くなったりしないだろうかと心配になる。


「そんな心配そうな顔をしないでくれ。エレインは私が惚れている最愛の妻なんだよ。君の力になってくれるよ」


父にそう言われると大丈夫だと思えてくるから不思議だ。


(それにしてもお母様、お父様にこれ程の信頼と愛を注がれているなんて羨ましい……。)


「ねぇ、どんな事でもいいから君の事を教えてくれないかい?私は君の事が知りたい」


そこからエリザはゼパイルに前世の話をした。魔法がない代わりに科学技術が発展していること。平和であること。貴族や平民などの身分はなく全ての人が平等であること。ご飯が美味しいこと。ピアノや料理が好きだったこと。娯楽が多いこと。あと、前世を思い出してからの話もした。


その夜、エレインがエリザの部屋に来て、涙を浮かばせながら抱きしめてくれた。


「……本当にありがとう。貴方はこれからも私の娘だから」


母の言葉に、深い愛情にエリザの目にはまた涙が溢れる。


(私、泣いてばかりだな……。)



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