12.お父様の苦悩と愛情
父ゼパイル視点がしばらく続きます。
娘は髪と瞳色は違うが妻によく似ていた。可愛らしい姿に妻の幼い頃は、こんな子だったんだろうかと考えてしまう。髪は青色に近い銀色で瞳はクリクリして大きく、色は自分の瞳と同じ菫色。いや、自分の色よりも少し色素が薄くキラキラ輝いていて、アメジストのようだった。その子の名は妻のエレインから文字を取り、エリザと名付けた。
赤子のエリザは不思議な事に泣くことをせず、こちらの言っている事が分かっているかのような反応もした事もあった。全く手がかからない子で使用人の中には気味悪がる者もいたほどだ。
そんな彼女もスクスク成長した。部屋にこもってじっとしているエリザに誰かが人形のようだと言っていた。目が死んでいると。確かに大きな目には光がなく、何か諦めのような憂いを帯びた表情をする時があった。口数も少なく、我儘も言ったことがない。エリザはそんな子だった。
何が娘にそうさせるのか、本人に問い詰めては見たものの、首を横に振るだけで返事が返ってくることはなかった。
そんなお人形のような子でも私の初めての娘だ。可愛いくて仕方がない。特に無表情で私がプレゼントしたクマのぬいぐるみを抱っこしている姿がまた可愛い。クマのぬいぐるみが好きなのかな。無関心な娘がクマのぬいぐるみに反応した事が嬉しく、仕事で何処かに行った時は必ずクマのぬいぐるみ探し、買い与えた。
そんなエリザが急に倒れたと聞いた。仕事を中断し、屋敷に戻るとエリザの体は火傷するかと思うほど熱く、酷くうなされている。風邪や何らかの病気ではないと診察した医師から聞いた。
(なら、どうして……まさかな……。)
絶望的な事象が頭を過ぎる。いや、あれは数百万人に1人あるかの稀な病気だ。まさか私の娘が起こるはずがない。どうか違ってくれ……。
そう思いながら、すぐに私はエリザの体内の魔力を観察した。体内の魔力が体と反発しているように見える。この症状には覚えがあった。推在する膨大な魔力に対し、その魔力を覆う器が小さいことで起こる症状だ。要するに体が魔力に侵食されるということ。
もし、魔力開通されていれば、魔石に膨大な魔力を吸い取ることができる。しかし、魔力開通していない幼児には器から溢れる魔力を外に出す術はなく体を蝕む。強力な魔力は弱い体にとって毒そのものだ。だから治療法がなく、そのまま死に向かうのを見守るしかない。
私の心はこの事実に崩れ去る。
(何で……。)
私達は熱い体が少しでも楽になるようにと、クーリングをして苦しんでいる娘の手を握りながら、ひたすら祈り続けることしかできなかった。
二日目の早朝、ついにエリザの体が限界を迎え、命が消えようとしていた。
(神よ、娘を連れてかないでくれ。私はこの子にまだ何もしてあげれてない。この世界は美しく愛で溢れている事を、楽しい人生があるのだと教えていない。自分はなんと情けないことか。惨めだ。こんなダメな父親だけど……娘のためなら何でもするから……お願いだ。)
ふと、エリザの指が僅かに動いた気がした。
「エリザ!」
娘をこの世界に引き止めるかのように名前を叫び続けた。すると、浅く短かった呼吸が徐々に深いものに変わってきた。娘の目がゆっくりと開く。
「ああ。エリザ!!」
「エリザ!!本当に良かった……」
妻が娘に抱きつきキスをする。娘は少し微笑むとすぐに寝入ってしまった。奇跡が起きた。確かに娘の命は消えかかっていたのに。
魔力を観察すると暴れていた魔力は沈静化され、器にしっかりと収まっているようだ。私も安心してしまったのか、足に力が入らなくなって座り込んでしまった。すると、妻が私の所にやって来て、抱き合いながら二人で泣いた。
本当は目が覚めるまで側にいたかったが、ほっぽり出てきた仕事や昼から外せない領主の仕事があったため、後ろ髪を引かれる思いで仕事に向かった。
娘のことが心配で仕事が進むはずもなく、ウィードに再三怒られた。貴族院会議では重鎮達が、どうでもいい話をあーだの、こーだの話していて苛立ちを顕にした。もう屋敷に3日も帰っていない。
(エリザは元気になっただろうか。熱がぶり返していないだろうか。魔力が不安定になってないだろうか。きっと魔力侵食を克服した後も不安定な状態が続いているだろう。心配だ。)
一刻も早く切り上げて屋敷に帰りたかった。最終的には我慢が出来ず、一方的にキレて重鎮達を無理やり黙らせ、魔法を使いながら最速で屋敷に帰ったのだ。
出迎えてくれたエリザの魔力を観察した。すると、既に魔力開通されているではないか。これには本当に驚いた。
本来の魔力開通は、祈念式後に二年の歳月をかけてゆっくり行うものだ。しかし、最後にエリザを見てから4日しか経っていない。魔石もないはずなのにどうやって魔力開通させたのか。疑問だらけではあるが、久しぶりに見たエリザは顔色もよく、ニコニコしていて元気そうだ。さらに体調を観察しようとエリザを抱き上げる。
「ただいま。エリザ。もう体調は大丈夫なのか?」
「お帰りなさいませ。おとうちゃま。もう体調は大丈夫ですわ。お父様もごちんぱいおかけいたちまちた」
あの無口だったエリザが喋ったことにも驚いた。それに表情も豊かで、目には光を帯びキラキラ輝いている。以前のエリザとは正反対で人が変わったかのようだ。
「……そうか。エリザが心配で早めに仕事を終わらせて来たんだ」
自分の言葉に反応するエリザは可愛く、ついついその柔らかいほっぺにキスをする。うん。熱もなさそうだ。と考えていると、エリザは私の頬にキスのお返しをくれた。……やばい。私の娘が可愛すぎる!!真っ赤になって恥ずかしそうにしている姿を見ながらニヤニヤしてしまった。
するとカミルも帰ってきたのか、私たちの様子を見て顔を真っ赤にしていた。
「父上ずるいです!!」
「はは。カミルお帰り、私も今帰ってきたばかりだ。早く入るぞ」
カミルよ、言いたいことはわかる。しかし、私は私たちの元に帰ってきてくれた、可愛いエリザの観察もとい愛でなければいけない。笑いながらカミルの頭をワシワシと撫でてやる。カミルは機嫌を損ねていたが、あとでエリザを渡しておけば、治るだろう。
「おとうしゃま?そろそろ降ろちていただけないでしょうか。わたくちの代わりにカミルおにいしゃまを抱っこちてくださいませ」
エリザは何を勘違いしたのか私に訴えてきたが、その願いは却下だ。兄思いのいい子なんだろうと娘をより愛しく思った。部屋に着く間に体調を見てみたが、魔力開通しているだけで特に問題はなさそうだ。
「……これから忙しくなるな」
「え?」
「いや、何でもない。夕食までゆっくり休んでいなさい。無茶はしちゃダメだよ」
さて、これからどうしょうか。まず文献探しか。娘のためだ。わたしは何でもすると誓ったのだ。




