表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/73

06. 命の譲り方

 都筑つづき は未知の経験をした高揚感が冷め、心が少し沈んでいるのが分かった。


 無意識にポケットの中で、ピルケースの溝を爪でカリカリと引っかいている。これが、考え事をしている時の癖だと、自覚したのはいつだっただろうか……。


 どうしたものかと思案していると、ふと隣にいたみことと目が合った。軽く微笑み返すが、少女は何も言わず少年の方を向き、この事態をぼんやりと眺めている。


 やはり、この子は……。


 都築はみことの表情を、昔の自分と重ね合わせた。


 希望を持つ事を辞め、ただ状況に流されながら生きていく。そんな処世術が、自然に身に付いてしまった、あの頃。


 もしこの子も、そんな何かを背負っているのだとしたら。諦めたと思いつつも、心の奥底は救いを求めているのだとしたら……。


「これ以上、説明する事は特にありません」


 少年の態度があまりにもそっけなく、新たな情報が出てこないので、取り囲んでいた人々の輪が解け始めていた。


 都築は、そんな輪の中心に向かって歩き出す。


「珠を譲渡するには、どうすればいい?」


 少年の前まで進み出て、都築はそうたずねた。少年は都築の顔を見返し、少し間をおいてから返答する。


「……譲ると念じてから、自分の珠を、相手の珠に重ね合わせてください」


「わかった」


 そう言って都築はきびすを返し、みことの元に向かった。何をするのかと、人々の視線が都築の後を追ってゆく。


「君の珠を出して」


 都築がそう言うと、少女は言われるがまま、自分の珠を差し出した。都築の意図も、大事な珠も、全てに関心の無いような反応だった。


 都築は優しく微笑みながら、自分の珠を少女の手のひらにそえる。


「君に俺の珠をあげるよ。もし生き返れたら、辛くても楽しい、価値のある人生を送れるといいね」


 都築の珠が、みことの珠と触れ合った瞬間、ほのかに光り輝いて融合した。ひとつになった珠を呆然と見つめてから、みことは都築の顔を見上げる。


 どうして、私なんかに?


 そんな、怪訝な表情だった。


 都築は何も言わず、ひらひらと手を振って、再び少年の元に戻っていく。


「珠を譲り終えた人間は、どうすればいい?」


 そう問われた少年は、少し驚いた表情で都築を見る。そして、面白そうに微笑んで言った。


「何もする必要はありません。みなさんと一緒に、7日経つのを待ってください」


 そう言われた都築は、不満げな表情をする。


「譲った者は、退場するんじゃ無いのか……」


 そうつぶやく都築を、少年は興味深そうに観察していた。


 都築の行為を、人々は驚きを持って見守っていた。そんな彼らに向かって、少年は高らかに言う。


「さあ、残された時間で、考え抜いてください。あなたが取るべき、最後の選択を!」



 少年の元から帰ってきた都築を、結衣香は怪訝な表情で見つめ、率直な質問を投げてきた。


「自分が生きたいと思わないの?」


 都築は、苦笑しながら答えた。


「まあ、なんて言うか……。そういう順番だったんだよ」


 意味がよく分からないという表情の結衣香は、さらに何かを問いかけようとしている。


 そんな彼女に向かって、都築はひと言謝りを入れた。


「ごめんね」


「え?」


 謝られる理由が分からず、結衣香はさらに困惑した表情になる。


「君に譲るという選択肢も、あったと思うんだけど……」


 都築の言葉が予想外だったのか、結衣香はあわてふためいた。


「な、何言ってるの!? そんなの、謝るようなことじゃないよ……」


 彼女はさらに何かを言おうとするが、急に頬を赤らめてうつむいてしまう。どうかしたのかという都築の問いにも、首を振って何も答えない。


 彼女の気に触るようなことを、言ってしまったのだろうか?


 都築が戸惑っていると、結衣香は恥ずかしそうにぽそりとつぶやいた。


「私、そんなに物欲しそうな顔してた?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ