00.プロローグ
自分が置かれた状況に、ただ混乱していた。
冷静にならなければと思いつつも、鼓動が高鳴り、心を上手く落ち着かせることが出来ない。三半規管に支障をきたし、ぐらぐらと地面が揺れているように感じる。
なぜ……どうして、自分が選ばれたのか。それは必然ではなく、単なる気まぐれだ。
どうする? どうすればいい?
誰も答えてくれないし、深く考える時間もない。無茶振りもいいとこだ。どうなろうと知ったことではないし、責任を問われる筋合いもない。
ただ、それでも……。
自分の内から、湧き上がる衝動がある。こうあるべきでは無く、こうであって欲しいという勝手な願望。または、かすかな希望?
出来るだろうか……自分に。
自信などないが、やらないという選択もありえなかった。
やってみる。いや、やるしかない。
鼓動が少しづつ治まるにつれ、ほどよい緊張感が体を支配した。頭が、急速に冴えていくのがわかる。
時に覚悟や決意で、自分の能力以上の力を発揮することがあるという。求める結果に辿り着くための道筋を、脳が冷静に模索して始めていた。
それが、どんなに困難で、単なる自己満足であったとしても……。
彼は静かに目を閉じ、その時を待った。
平凡な1日。当たり前の日常。
人々は当然のように、次の日が訪れると思っている。ニュースで起こる悲惨な出来事も、かわいそうと思いつつ、確実に他人事だ。
そんな鈍感さも、平和であることの証と考えれば、悪いことでは無いのかもしれない。そんな日々がどんなに貴重かは、失われた時に初めて気付く。そこまで含めて、ごく当たり前なサイクル。
その日も、悲惨なニュースが各媒体に流れ始めた。
朝の通勤時間、大勢の人を乗せたバスの横腹に、トラックが猛スピードで突っ込んだらしい。ドライバーの居眠り運転が疑われているが、その結果は起こるにしても最悪なものだ。
死傷者、多数――。
数日はこのニュースが大きく取り上げられ、人々の悲哀を誘うだろう。
そして、誰もがいつか、そんな死の当事者になる時がやってくる。大きな事件、事故では無いのかもしれない。
しかし、望む望まないに関わらず。誰にでも必ずくる、その時が……。