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妖光  作者: 村上蘭
8/45

蛍火と邂逅


 七




 蛍火と邂逅




  叔母達に、案内された家は姉が言っていた別荘の


 ニュアンスと少し違って、雑誌とかの特集に出て来


 る山小屋風だったりログハウス的な感じの建物では


 無くどこからどう見ても平屋の普通の民家だった。


 期待していた分、ちょっとガッカリしたのは否めな


 かった。 玄関は、引き戸になっており小さな土間


 にはこじんまりとした靴箱があった。そこを上がる


 と襖で仕切られた六畳間が二部屋それともう一部屋


 六畳間がある。廊下は家の真ん中にあって、進行方


 向左側にトイレお風呂と続き一番奥が台所で、ちな


 みに廊下の右側は先程の六畳間になる。一人暮らし


 には、十分過ぎる広さだ。ただし昼間は暑い、これ


 は叔母から教えて貰ったのだがこの辺では熊本のベ


 タ凪と言って、風がピタッと止まり蒸し暑くなる状


 態の事を指すらしい、でも夜になるとこの家の裏手


 にある川から拭いて来る川風で随分と涼しくはなる


 らしいが、とは言っても、午後6時半の今は暑さが


 収まるまでには至っていない。この家にエアコンは


 無いので浴室でシャワーを浴びていると玄関のチャ


 イムが鳴った。




 「蘭ちゃんいる?上がるわよ」




  叔母だ。髪はまだ濡れたままだったが体を拭きT


 シャツとハーフパンツを着て取り急ぎ出て見た。




 「あっ、ごめんシャワー浴びよったとね」




  叔母は、恐縮して気の毒そうに言った。




 「良いんです、もう上がろうと思ってた所だからそ


 れより何か用事でしょ?」




 「うん、これこれ」と言って叔母は応接台にタッパ


 ーを置いた。




 「口に、合うか解らんばってん肉じゃがたいね。夕


 食のおかずにどうかと思ってね、そっちのタッパー


 は漬物だけん」




  見ると、開いたタッパーの中にはまだ作り立てな


 のだろう湯気がほんのり立って、ジャガイモの良い


 香りがしていた。




 「叔母さん、悪いね。食事にまで気を使って貰って」




  叔母夫婦の家は、この家の真向かいに立っている


 家の左横つまり簡単に言うと、すぐ近所という事で


 ある。




 「よかよか、気にせんちゃ実はね。あんたのお母さ


 んには、口止めされとったんやけど蘭が来たら食事


 の世話をしてくれんねって、あれがひもじい思いを


 せんようにして欲しかて言われとったんたいね」




  正直、呆れていた。小学生じゃあるまいしひもじ


 い思いだなんて過保護にも程があると思った。




 「母が、そんな事を」




  僕の、気持ちを察したのか叔母が付け足すように


 言った。




 「蘭ちゃんの、気持ちは解るばい良い大人を捕まえ


 て何言ってるんだよって感じたいね。でも、お母さ


 んの気持ちも解ってやらんね。蘭ちゃんの事がほん


 なこつ可愛かったい親にしてみれば幾つになっても


 子供は子供だけん」




  叔母は、しばらく世間話をすると満足した顔で帰


 って行った。食事を済ませ食器洗った後に、食後の


 コーヒーを楽しんでいたが、ふと叔母の話を思い出


 した。




 「そう言えば、蛍が今夜あたり出るかも知れんね」




  暑い日が、続いた6月の末頃と言うからちょうど


 今夜あたり例年だと出てもおかしく無いと叔母は言


 っていた。時刻は、午後8時になろうとしている。


 蛍にそれほど興味は無かったが、僕は映像意外に生


 きている蛍は見た事が無かった。それで、懐中電灯


 片手に裏の川に降りて行く事にした。物書きの一人


 としてやはり本物を見ておくに越したことはないと


 思ったからである。家の裏手には、川まで続く小さ


 な小路が生垣と石垣の間にあり、コンクリートで舗


 装された道は人ひとりがやっと歩けるような道だっ


 た。真っ暗な道を懐中電灯の光を頼りに恐々降りて


 行くと、先程から聞こえてはいたがザーザーと言う


 川の流れの音が段々と大きくなって来た。蛍は、数


 こそ少ないが既に飛び交っている。懐中電灯を消し


 てみたが思っていたものより弱々しい光が、時間の


 経過とともに次々と増えて行くのが解る。僕の眼に


 は、ゆらゆらと暗やみに跳ぶホタル達が現世に取り


 残された人の魂の様に見えて何故か物悲しい気分に


 なってしまった。蛍の乱舞は、午後9時頃をピーク


 に次第に少なくなりそろそろ引き上げるかと思い、


 川の上流を見ると明らかに蛍とは違う蒼白い光が近


 づいて来るのが見えた。




「鬼火か・・・」









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