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妖光  作者: 村上蘭
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除霊は、夕食の後に



  四


 

 

   結局、何にも喋らない麻美さんと友達の三人が


  にらめっこの状態になったので、僕から口火を切


  った。




  「あの、良かったら僕が何とかしましょうか」




  事態を、まだあまり飲み込めてない友達二人に


  話しかけてみた。




  「え!何とかって、これどうにか出来るものな


  んですか」




   山本さんが、半信半疑の顔で答えるのを聞い


  てから二人には脇に退いてもらった。そして、


  麻美さんの前に立ち二人を見ながら言った。




  「良いですか、今から麻美さんに取り憑いてい


  る霊を追い出しますけど、その時麻美さんがも


  し暴れたりしたら二人で押さえて貰えますか」




   僕が言うと、二人は頷いて麻美さんの両脇に


  立ち身構えていた。




  「じゃ、行きますよ」




   麻美さんの、頭に手を置き精神を集中させて


  いたら山本さんが不安そうに尋ねて来た。




  「あの、これってテレビの心霊特番でよくやる


  除霊ってやつですよね。だったら数珠とかお札


  みたいなアイテムは要らないんですか?」




   全く、これだから素人は困る。でも、彼女の


  疑問も解らない訳じゃ無いので一応返答はした。




  「僕は、お坊さんじゃ無いのでアイテムみたい


  な物は持ってません」




   返事を、山本さんに返すと今度は細田さんが


  聞いて来た。




  「じゃ、ニンニクとかは?」




  「それは、ドラキュラでしょ」




   僕が言うと、今度は山本さんが細田さんと交


  代するように聞いて来た。




  「うーん、ほら銀で出来た弾と銃とか」




   それは、狼男だろって僕がツッコミを言う前


  に、それまで黙っていた麻美さんが急に笑い出


  した。



  「アハハハ、この人達完全に勘違いしてる。


  ねえー」




   麻美さん?が、僕の方を見ながら言ったので


  つい返事をしてしまった。




  「えっ、うん・・・って!お前が言うな」




   それまで、頑なに押し黙っていた麻美さんに


  取り憑いた霊が堰を切ったように喋り出した。




  「お前が、言うなって失礼ね。それに、さっき


  から黙って聞いてたら私の事を追い出すとか簡


  単に言ってるけど、貴方にそんな力が有るよう


  には見えないんだけど」




   幽霊のくせに、こいつ人の事舐めてるなと思


  ったけど言葉には出さなかった。霊と言う輩は、


  人間と違って疲れを知らないから放って置くと


  一晩中でも喋ろうとする。だから、昔から霊に


  関わると疲労と寝不足で最後は倒れて死んでし


  まう。それが、取り憑かれる言う事なんだけど


  そんな事に時間を取られるのは、愚かな事だか


  らそろそろ実力行使に出る事にした。




  「君は、口悪いけど悪霊では無さそうだね。そ


  れに、さっき麻美さんに取り憑く前に見た君の


  顔すごく美人だったし」




   「えっ」




   一瞬、取り憑いた霊に隙が見えた。僕はすか


  さず麻美さんの頭に手を置き念を集中させた。


  自分の手のひらに熱が押し寄せてくるのが解る。


  それは、やがて小さいしこりの様な物に変わり


  手の平の皮膚にグリッと入り込んで来て少しの


  痛みを感じさせながらギュッと交わって行く暫


  くすると玉のような塊に当たった。その、玉を


  逃さぬように用心しながら掴みじわじわと麻美


  さんの頭頂部から蒼白い綿上の物が出て来るの


  を見ながらゆっくりと引き揚げた。勿論、麻美


  さんの友達二人には見えていないが急に麻美さ


  んが苦しそうに手足をバタつかせたので、慌て


  て二人は押さえに掛かっていた。何時もの事な


  がら、ここからが難しい所なのだ。




  「じゃ、最後の仕上げに行きます。しっかりと


  押さえてて下さい」




   山本さんと、細田さん二人は顔を見合わせ僕


  の方を見て黙ったまま頷いた。麻美さんの、身


  体から出た綿上の物は心霊現象の世界ではエク


  トプラズムと呼ばれる物質で、これが霊魂なの


  だがもう既に麻美さんの身体から半分以上は出


  ていた。エクトプラズムを掴んでいる手に自分


  の体内から霊力を流し込んだ。僕のパワーが、


  圧倒的に強い筈だからこの霊魂は気絶したよう


  な状態になる筈なのだが・・・




  「よし、力が抜けてきた」




   僕の手に、絡みつき必死に麻美さんの身体か


  ら出るのを拒んでいた霊魂だったが、急にスッ


  と力が抜けるように大人しくなった。間髪を入


  れず麻美さんの身体から、全てのエクトプラズ


  ムを抜き出した僕は窓を開ける様に山本さんに


  指示し開け放たれた窓から手を突き出した。ほ


  んの少しだけ霊力を手に集中させ放出させた。


  普通の人には聞こえないし見えないと思うが、


  僕の耳と眼には確かに「バシッ」っという音と


  共にエクトプラズムの白い塊が遥か彼方に吹っ


  飛んで行くのが見える。窓を閉めて振り返ると


  麻美さんの正気が戻ったみたいだった。




  「麻美、大丈夫・・・」




   山本さんが声を掛けた。




  「私、いつの間にこんな所に?」




   細田さんも、ホッとした顔で麻美さんの手を

  

  握り話しかけている。




  「麻美、良かった普通に戻ったのね」




  「えっ、普通ってどう言う事」




   取り憑かれている間の、麻美さんの記憶は当


  然無いので今までの一部始終を僕が説明した。


  最初は、不審な眼で僕を見ていた麻美さんだっ


  たが、山本さんや細田さんの補足もあり後半は


  やっと信じてくれた。




  「それで、霊は今ちょうど電気ショック受けた


  みたいに気絶してるだけだから目覚めればまた


  戻ってくると思う」




   僕の言葉を、聞いて三人の女性は顔を見合わ


  せて不安そうに僕を見た。




  「あっ、もしかして心配してるんなら大丈夫」




   僕は、持って来ていたショルダーバッグの中


  から一枚のシートを、取り出し彼女達に差し出


  した。




  「これは、何ですか?」




    

   受け取ったシートを、見ながら麻美さんが聞


  いた。




  「これは、僕の念を入れたシールさっきの幽霊


  くらいの霊力だったら、簡単に弾き返すことが


  出来るからこれを君たちの部屋のドアとか窓に


  張って置けばあいつら(霊)も勝手に入って来


  れないら、ゆっくり熟睡できると思うよ」




   友達二人は、安心したみたいだったが麻美さ


  ん一人浮かない顔をしてポツリとつぶやいた。




  「でも、また何処で取り憑かれるか解んないん


  ですよね」



   僕は、自分の首に付けていたネックレスを外


  して麻美さんに渡した。




  「その、ネックレスを御守りのつもりで付けて


  たら良い僕が、愛用してた物だから念が隅々ま


  で入っている筈だから君を護ってくれると思う


  よ」




   恐縮して、最初はネックレスを受け取るのを


  固辞していた麻美さんだったが、最後は納得し


  て受け取ってくれた。三人と別れ、部屋に戻り


  缶ビールを一気に流し込むとやっと一息つけ、


  窓を開けると川のせせらぎが微かに聞こえてく


  る。先程の騒ぎが嘘のような静けさが夜の闇に


  拡がっていた。東京を旅立って、初めて遠くに


  来たなあと言う感傷が少しずつ湧いてきている。


  明日は、無事に一日が過ごせます様にと祈りな


  がら布団に潜り込むと疲れかアルコールの所為


  なのか、五分も待たずに、自称ネット小説家村


  上蘭は夢の世界に滑り込んで行った。









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