表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖光  作者: 村上蘭
35/45

終焉の結び目









  三十四





  「グアー」




   雄叫びが、運動場に響き渡った。しかし、叫


  び声を上げたのは佐久間の方で、蘭はと言うと


  佐久間の大上段からの剣を避けるすべも無く斬


  られると思っていたのに、今は眼の前の出来事


  を呆気に取られて見ているだけだった。佐久間


  の胸には、一本の矢が突き刺さっていたが瞬く


  間に第二第三の矢が、剣を持つ右手にそして左


  足に突き立って行った。堪らず、佐久間は剣を


  落とし第四矢が残りの右足に当たると苦しむ顔


  を、歪めながら地面に膝をつく格好で崩折れて


  行った。矢は、どこから飛んできたのかと辺り


  を伺うと月明かりの中に、立っている三人の人


  影が見えた。




  「キリ、キリ、キリ」




   一瞬、自分の眼を疑った。その時、村上蘭の


  見たものは第五の矢を引き絞り胸には黒の胸当


  て左手にはカケと呼ばれる皮製の手袋を身に付


  け弓を構える姿も凛々しいその人こそ、東京の


  蘭のマンションに居る筈の姉の晶だった。




  「姉さん、どうして此処に・・・」




   佐久間が、動けず苦しんで居るのを見た晶は


  構えていた弓を下すと二人の従者、と言っても


  由香と真美だが・・・を従えて座り込んでいる


  蘭の方に歩いてきた。蘭を一瞥すると、そのま


  ま通り過ぎて佐久間の所まで行き晶の矢を受け


  て苦しんでいる佐久間の真正面に立ち、いきな


  りその頭に拳骨を見舞った。




  「ウオー何をする」




   矢が、刺さった痛みに加えていきなり頭を殴


  られた佐久間は、怒りの表情で晶をにらんだ。




  「何をするは、こっちのセリフよ。あんた、ど


  この誰か知らないけど私の弟をよくもイジメて


  呉れたわね」




   その、一部始終を見ていた由香と真美は呆気


  に取られて晶の言葉を聞いていた。頼まれて、


  晶の矢をつがえる手伝いをした二人だったがま


  さかこんな展開になるなんて思っても見なかっ


  た。麻美を、拉致しその命を脅かした恐怖の存


  在のはずである佐久間の姿を借りた悪霊が、今


  は親に叱られた子供のように扱われていたから


  だ。まあ、蘭にとっては子供の頃から見慣れた


  風景ではあったが・・・




  「ところで、蘭あんたこの程度の奴に何を手こ


  ずってるの情けないわね。私の来るのが、もう


  少し遅かったらあんたの身体真っ二つにされて


  た所よ」




   実際その通りだと、服やジーンズに付いた土


  をはたきながら起き上がった蘭は、落ちている


  日本刀を鞘に納めながら思っていた。姉がいな


  ければ今頃どうなってたかを想像しただけでゾ


  ッとした。




  「姉さん、ありがとう。おかげで麻美さんも無


  事に・・・」




   と、言いかけてそこに横たわっていた筈の麻美


  がいない事に蘭は気付いた。見ると、麻美はいつ


  の間にかもがき苦しんでいる佐久間の前に、無言


  で立っていた。




  「麻美さん、近づいちゃダメだ。まだ、悪霊は佐


  久間さんの身体の中にいる」 




   蘭がそう言うと、ずっと様子を見ていた由香も


  大きな声で麻美に言った。




  「そうよ、麻美早くこっちに来なさい」




   その声に、反応するように麻美はゆっくり振


  り向くと二人に告げた。




  「だ・い・じょ・う・ぶ、私は麻美じゃ無い」




   麻美の、その眼を見たとき「あっ」と蘭は思


  った。以前、柴立姫神社で蘭を昏倒させた中川


  景子が今の麻美と同じ目をしていたのだ。つま


  り、温泉センターで彼女に取り憑いた例の正体


  不明の女の霊が、性懲りもなく又取り憑いてい


  る様なのだ。




  「そこの人、麻美さんじゃ無ければあんた誰な


  の?」




   麻美と、蘭の間に居て話を聞いていた晶が単刀


  直入に聞いた。麻美は、その晶の言葉を待って居


  たかの様に、口の端を少し上げて微笑むと誇らし


  げに答えた。




  「わたくしは、平清盛様付きの医師であ


  った藤原貞朝が娘の清乃と申します」




   その言葉を、聞いて蘭は柴立姫の伝説とそれに


  纏わる八百年に渡る怨念封じ込めの伝承が、此処


  に来てやっと繋がったと、自分の考えに確信が持


  てたのだった。




















































































































































































































































































































































































































































































  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ