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妖光  作者: 村上蘭
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新たな来訪者







三十一





   迂闊、と言う言葉が村上蘭の頭の中で繰り返


  し浮かんでいた。今更だが、後悔していた。も


  う少し気を配るべきだったのだ。その連絡が、


  入ったのは夕闇が迫る球磨川の捜索現場で、蘭


  が麻美達の待つ家に帰ろうと車の運転席に坐っ


  た時だった。




  「はい、村上です。あっ由佳さんですか丁度良


  かった今から帰りますね」




   蘭が、喋った言葉を遮るように由佳が焦りま


  くって言った。




  「蘭さん、呑気なこと言ってる場合じゃないで


  すよ。麻美が、誰かに拉致されたんです」




  「え・・・」




   蘭が急いで、家に帰ると由佳と真美が茫然自


  失の顔で待っていた。




  「由佳さん、いったい何が」




   蘭はテーブルに、二人を坐らせ気持ちを落ち


  着かせた所で、一部始終を聞く事にした。




  「それで、物の割れる音が聞こえて二人で玄関


  に行ったら、麻美さんが居なくなってしまった


  という訳ですね」




   村上蘭は、念を押す様に聞いた。




  「はい、そうです。直ぐ、家の外に出たんです


  けどやっぱり麻美の姿は無く割れた花瓶と、こ


  れが玄関の上がり框にあったんです」




   真美が、そう言ってテーブルの上に置いたの


  は和紙に、毛筆の黒々とした草書体で果たし状と


  書かれた手紙であった。




  「果たし状って・・・」




   少し呆れ顔で、蘭は手紙を開いてみた。手紙


  の中には、こんな事が書かれてあった。




   うぬが女は、儂が預かっている。先般より、


  儂の邪魔をするうぬが目障りになった。うぬが


  何処の誰かは知らぬが決着を付けるべく果し合


  いを望む。今夜、丑の刻に童が集いし広場にて


  待つ。もし、うぬが来ぬ場合は女を慰み者にし


  て命を絶つ所存だ。念の為、言っておくが役人


  に知らせ助けを求める様な事をすれば即座に女


  の首は飛ぶ事に相成る事を存念せよ。


                 村上三郎頼時




   草書体で、書かれた手紙を読み終えた蘭は疑


  問に思った事を声に出して言った。




  「この、童が集いし広場って何処の事だろう」




   それを、聞いた由香が答えた。




  「童って、小さな子供の事でしょ。小学校の運


  動場じゃないかしら」




   真美も、同じ考えだったらしく頷いている。




  「なるほど、そうかも知れないですね。丑の刻


  は、現代の時刻だと午前1時位だと思います。


  その、時刻までに麻美さんの居る場所に行かな


  いと麻美さんの身に危険が及ぶ事になるな」




   そう、言った村上蘭に向かって由佳が心配そ


  うな表情をして言った。




  「じゃ、早く警察に連絡しないと」




  「いや、それはやめて置いた方が無難だと思い


  ます」




   上目遣いに、少し探るような眼をして二人を


  を見ながら蘭が言った。




  「どうして、ですか」




   由佳と真美が、殆ど同時に蘭に対して非難す


  る口調で言った。




  「この手紙には、役人に知らせたら麻美さんの


  命は無いと思えと書いてあります。役人と言う


  のは、警察の事だと思うんです。だから、下手


  に動いて警察に助けを求めた事が、犯人に知ら


  れたら逆上して何をしでかすか分らないと思う


  んです」




  「だからと言って、何もしないと言うのもどう


  かと思います。それにしても、麻美を誘拐した


  この村上三郎頼時って侍みたいなふざけた名前


  の犯人は、どうして麻美を・・・」




   由佳が、不安そうな眼で言った。




  「その、犯人について推理の段階では有るんで


  すが大方の目星は付いています。心配されてる


  お二人に、僕の方からこんな事言うのもおこが


  ましいんですが、麻美さんの事は必ず救い出し


  たいと思ってます。ただ、お二人には安全の為


  に此処で待っていてくれませんか。ここまでの


  事に、なってしまった原因の一端は僕にも有る


  と思っていますので」




   由佳と真美は、互いに顔を見合わせた。その


  後、由佳が口を開いた。




  「でも、蘭さん一人で行かせる訳にはは行かな


  いですよ。私達も、一緒に行きます」




   一瞬、思案した蘭だったが直ぐに答えた。




  「いや、やっぱりどう考えても危険すぎます。


  下手したら、今度は女性三人共人質になりかね


  ません。だから、ここは僕を信じて待っていて


  下さい。一人の方が、動きやすい事があるし応


  援がいる時には携帯に連絡しますから、その時


  は警察に知らせてもらって良いですか」




   二人は、納得してない顔だったがこの家で待


  機する事は約束した。それから、蘭は丑の刻


 (午前1時)にはまだ早かったが犯人より先に現


  場に行く事にした。何しろ、果たし状の件があ


  る。犯人の、文面からすると正面切って戦わな


  ければ麻美さんを、犯人の手から救い出すなん


  て到底無理の様な気がしていた。それなら、早


  めに行って下見をしとくに越した事はないと思


  ったのだ。村上蘭が、出掛けてから30分程が経


  っていた。突然、由佳は居ても立っても居られず


  台所のテーブルの椅子から立ち上がった。




  「やっぱり、私達も麻美の所に行こう」




  「まずいよ、ここで待てと言われたでしょ」




   真美が、止めるのも聞かず由佳は玄関に向か


  った。鍵を外し、いきなり飛び出した所に思い


  掛けず人が立っていた。由佳は、避ける間もな


  くぶつかってしまい、よろめき尻餅を突いてし


  まった。




  「イタタタ、あなた誰なの」




   由佳が言った。




  「あなたこそ誰、ここ村上蘭の住んでいる家よ


  ね」




   そこに、立っていたのは長身で凛とした表情


  が、際立って性格の強さを表している。誰でも


  無い、蘭の姉の村上晶だった。




































   

  



  




  




   




  



   









































 










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