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妖光  作者: 村上蘭
30/45

不安な消息






  二十九




    夜明けまでには、まだ随分早い時間に蘭は眼


   を覚ましていた。暗い部屋の中で、ぼんやりと


   した頭で昨夜の叔母の屋敷で有った出来事を思


   い出して居た。叔母の後に、源蔵夫婦と蘭が応


   接間に入ると陶子はおもむろに話し出した。




   「源蔵さん、息子の勇蔵さんはまだ見つかって


   無いんでしょ」   




    少し、戸惑いながら源蔵は答えた。




   「はあ、そぎゃんです。今日も、一日探し立つ


   ばってん・・・」




    陶子は、そんな源蔵に躊躇いを滲ませた顔で


   言った。




   「落ち着いて、聞いて欲しいんだけどその勇蔵


   さんを見たっていう人が居るの」




   「えっ」




    源蔵夫婦もだが、蘭も驚きの表情で陶子叔母


   の顔を見た。




   「陶子さん、そるがほんなこつなら誰が何処で


   見たっですか?」




    陶子は、源蔵達が当然こう言う反応をすると


   考えていた様で、三人を見ながら落ち着いた様


   子で話だした。




   「最初から、順を追って話しますんで取り敢え


   ず坐りましょうか」




    そう陶子に、勧められたが気分は落ち着かな


   いまま応接間のソファーに座った。福子は、勇


   蔵を見たと言う陶子の言葉にもう既に涙ぐんで


   いた。全員が、坐ったのを確かめると陶子は高


   い通る声で人の名を呼んだ。




   「照子さん、お願い」




    照子とは、長年佐久間本家の下働きをしてい


   る使用人の事である。名前を、呼ばれた照子は


   お盆にお茶を入れたお茶碗を持って現れ、それ


   ぞれの前に置くと改めて挨拶をした。




   「いらっしゃいませ、お茶をどうぞ」




    挨拶が、済むのを見計らって陶子が事の顛末


   を喋り出した。それを要約するとこう言う事だ


   った。佐久間本家の、敷地内には蔵があり今日


   が蔵の中の所蔵品の虫干しをする年に一度の日


   であったらしいのだが、照子はもう一人の使用


   人と手分けして蔵の中の品物の埃を、払ったり


   掃除をしたりしていた。作業は、順調に進み蔵


   を開けたまま二人は十時の休憩をする為に、一


   旦蔵を離れ母屋に行き十五分程して戻ったのだ


   が、そこで蔵から品物を持って出ようとして居


   る不審な人物と、鉢合わせしてしまった。




   「それがね、源蔵さんどうやら息子さんだった


   らしいのよ」




    流石に、その事を告げた時に陶子はバツの悪


   そうな顔をしていたのだが、源蔵も陶子の言葉


   に直ぐに反応した。




   「陶子さん、お言葉返しますけど倅の勇蔵は間


   違っても人様の物を、盗む様な人間じゃ無かで


   すけん」




    源蔵はムッとした顔をして言った。気まずい


   空気が流れ、勇蔵が生きて居るのではと言う嬉


   しさの反面、何故か盗難の犯人扱いされて居る


   のが理解出来ない福子は、微妙な顔をした。暫


   く沈黙が、続いた後蘭が口を開いた。




   「照子さんに、お聞きしますが間違いなく蔵か


   ら出て来たのは、勇蔵さんだったのですか」




    照子も、源蔵夫婦の前で蘭からの質問に答え


   るのは良いにくそうでは有ったが、それでもき


   っぱりと言った。   




   「はい、以前から勇蔵さんの顔は何回かお屋敷


   で見かけた事が、有りますから間違いありませ


   ん。それに、明るい昼間にすぐ眼の前で見まし


   たから」




    照子の、話によるとその勇蔵らしき人物は二


   人に鉢合わせした後脱兎の如く駆け出し、裏木


   戸から外に出た。当然、二人は後を追ったがあ


   っと言う間に見失ったらしいのだ。




   「・・・・・」




    源蔵は、ここに来て難しい顔をして黙り込ん


   でしまった。




   「それで、陶子叔母さん持ち出されたものは何


   だったんですか?」




   陶子は、ほんの束の間迷ってる風だったが答え


   て呉れた。




   「それ何だけど、蘭ちゃん佐久間本家に代々伝


   わる家宝の日本刀なのよ。それも、二振り」




    日本刀と、聞いた途端に蘭と源蔵夫婦に緊張


   が走った。事の良し悪しは、この際横に置いて


   おく事にしても、持ち出された品物が刃物とな


   ると話は別になって来る。普通に、高価な骨董


   品であれば惜しいものを取られましたで、済む


   所だが年代物の日本刀と言えば骨董品としての


   価値も勿論だが、何と言ってもこれは殺傷能力


   の有る道具だ。もしも、盗まれた日本刀で事件


   が起きて人が怪我をしたり最悪死人が出たりし


   たら、それこそ憂うべく事態になるのは目に見


   えて居る。それが、解っているだけに応接間に


   いる全員が、どう対処すべきか悩む事になって


   しまっていた。特に、この場合近親者が絡んで


   居るかもしれないだけに、事は簡単では無かっ


   た。結局、陶子は盗難の有ったその日に被害届


   は出したものの勇蔵の事は伏せていたのだ。照


   子と、もう一人の使用人にも事がハッキリする


   迄は、他言無用として居たみたいで、源蔵夫婦


   を呼んだのはその事を伝える為で、何はともあ


   れ意気消沈して居る二人に勇蔵がどういう形で


   あれ生きている可能性が、ある事を教えたかっ


   たのである。只、話の内容が内容だけに陶子も


   この事を言うべきか悩んだ末の結論だった。




   「陶子さん、さっきは感情的になって済まんか


   ったの、あんたが勇蔵の安否を理由はどうあれ


   伝えて呉れたのは感謝しとります。でも、倅の


   事を信じて居るのも変わりは有りまっせん。今


   度の事、もし勇蔵が絡んでいても何か訳がある


   と思うとります。わしら、夫婦は勇蔵を今でも


   信じとります」




    そう言って、源蔵夫婦は帰って行った。一緒


   に、帰るつもりで蘭も玄関まで行きかけた時に


   陶子叔母に呼び止められた。




   「蘭ちゃん、ちょっと良い?」




    夜明けが、近づいて居るのか暗闇だった部屋


   に光が少しずつ浸食して来て居る。蘭は、寝床


   の中で天井を見つめながら叔母の言葉を思い返


   して居た。




   「昨夜ね、東京の薫子姉さんから電話が有った


   の蘭ちゃんに伝えて欲しい事が有るって」




    蘭の母親は、不思議な人で予知的な能力が有


   るのか時々人を介して蘭に言葉を掛けて来る事


   が有った。それは、良い事と悪い事両方で有っ


   たが大抵は悪い事の方が多いのである。子供の


   頃は、伝える役目が姉の晶で有った。しかし、


   どうやら今回は陶子叔母にお鉢が回って来た様


   だ。叔母の雰囲気が、母親に似てる事も有って


   まるで母に直接言われて居る様な錯覚にとらわ


   れた時、陶子叔母が母親の言葉を話し出した。




   「危険に、遭遇した時大切なものを守るには我


   が身の特別なものを捨てる選択を迫られる事が


   有るものよ。もし、その時が来たら心して対処


   なさい」




    いつもながら、母親が何を伝え様として居る


   のか言葉の意味を考えたが、正直何の事か皆目


   見当が付かない蘭だった。だが、今までの経験


   からハッキリ解る事が有る。母親が、預言めい


   た事を告げた時、そう遠くない未来にそれは必


   ず現実に起きると言う事を・・・













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