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妖光  作者: 村上蘭
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流下神




   二十四





    原始より、人々は見えざるものや自分達の理


   解を超える事象に、畏怖し敬いの心を持ってい


   たが、時にはその事で自らの肉体と魂を奮い立


   たせ生きる活力となった。古来その見えざる者


   達の事を、人は神と呼び崇めていた。




   「中村さん、船の準備は出来とるかな」




    有田は、作業服に着がえながら同僚の中村に


   声を掛けた。




   「ああ、湖面にさっき降ろしたけん何時でも出


   発出来るばい」




    日本三大急流の、球磨川にも当然のごとくダ


   ムが存在する。今更だが、ダムの役割とは洪水


   調節や水資源の確保それに発電と河川環境の保


   全などになるが、最近は観光目的でのダム利用


   も盛んのようで簡単に言うと川を堰き止めて水


   を溜めている訳だから上流からの、ゴミや流木


   の類はそれなりに流れて来る。ダムを、管理し


   ている電源開発の職員が小型船を使ってそれら


   の漂流物を、木材とペットボトルなどの一般ゴ


   ミの仕分けをしながら岸に寄せて片付けを行う


   訳だが、時に台風などの後は半端ない量の漂流


   物でダム湖が埋め尽くされる事になってしまう


   のである。



   「これは又、凄い事になっとるな」




    ここ、球磨川流域の八代寄りに稼働している


   瀬戸石ダムでも、漂流物の片付け作業が行われ


   ていた。職員の有田は、その量の多さにうんざ


   りとした口調で呟いた。




  「仕方んなかですよ、この前来た大型台風の後


   だけん、むしろこの位の量で済んだ訳で、喜ば


   しかこつじゃなかですか」




    中村は、この面倒な仕事が好きな様で嬉々と


   しているのを、有田は些か呆れ顔で見ていた。




   「俺には、そぎゃん悟ったような事はとても言


   えんばい」




    午前九時に、始めた作業だったがお昼前にな


    っても全体の20%ガやっと終わった位だっ


    た。いつもは、もう少し人数を掛けて作業を


    行ってるのだが、今日は業務の都合で湖面に


    は二人だけでその時二人は、ダムから少し上


    流の所に設置してある漂流物用のフェンス近


    くで作業をしていたが、小型船の操船を止め


    て隣の有田に仲村が言った。




   「あれなんだろか?あそこに浮いとっとは」




    中村が、指さす方を有田が見ると四角い木製


   の箱が浮いている。近づくと、古色蒼然とした


   物が流木の間に浮いているのが見えていた。




   「これは、この間の台風で上流から流されてき


   たつじゃなかろか」




二人は取り敢えず、流木とゴミを掻き分けて


   それを船に引き上げた。




「あちこち、かなり痛んどるばってん古か祠の


   御神体のごたるない」




    その、御神体らしき物の扉を開けると中から


   泥水でグチャグチャになった紙が出て来た。




   「そら、何かな?」




    仲村は、有田の手元を見ながら言った。




   「ああ、多分お札か何かだろ泥で汚れてよう見


   えんけど梵字のごたっとの見えるけん」   




   「有田さん、これどぎゃんすっと」




    いっとき、思案して有田は中村に答えた。




   「御神体て、解った訳だけん打ち捨てる事は出


   来んばな、取り敢えず事務所に持って帰ろか」




    そう言った有田の言葉を、聞き泥水で哀れな


   程汚れてしまった御神体を、見直した。どこの


   村なのか解らないが無くなってしまったと年寄


   りが嘆いているかも知れない。でも仲村は、正


   直言って面倒な仕事が増えたなぐらいにしか思


   っていなかった。自身の不信心を、少しだけ諫


   めてエンジンスイッチを入れると小型船は、ゆ


   っくりと格納庫に向った。湖面にスクリューが


   作った波紋が微かなさざ波を作り余波で流木が


   一瞬上下したが直ぐ元に戻り、鏡を貼った湖面


   は、突き刺す様な空の青を写し静寂が湖を支配


   するのに、そう時間は掛からなかった。




































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