表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖光  作者: 村上蘭
2/45

旅立の訳は理不尽




 

 「ふーん、あんた売れない小説書いてる割には良い


 所に住んでいるわよね。何か、裏でコソコソ悪い事


 やってんじゃないでしょうね」

 


  こんな、毒のある言葉を平気で吐くものだからア


 ラサー目前で未だに彼氏の影も見えないのは、その


 所為かも知れない姉の名前は村上晶と言うのだが名


 前からして男でも女でも良さそうである。そう言え


 ば、姉は子供の頃からボーイッシュな見た目から男


 の子によく間違われ僕は逆に女の子と言われる事が


 多かった。こんな強気の姉のおかげで小さな頃か


 ら僕が苛められると姉が、その何倍もやり返し


 たので苛められた事はあまり無いその事は


 率直に有難かったが・・・



 「蘭、あんた私に感謝しなさい!もし私がいなかっ


 たらあんたずっと苛められてたんだからね」


 

  何しろ、事あるごとに言われるのでもしかして


 これを一生聞かされるのか、僕が不安を抱いた


 のが中学から高校に進学する頃、それは大学


 を卒業して社会人になってからも何も


 変わらず現在に至っている。



 「あのね、蘭・・・アンタにとっても良い話が有る


 んだけど聞いてみる」




  姉が、猫なで声でこう囁く時が一番要注意だ。




 「何だよ、話しって」




  もう、こうなったら蛇に睨まれた蛙でどんなに


 用心して聞いても僕にとって嫌な展開


 になるのは解っていた。




 「あんたさあ、別荘地に避暑に行かない?」



  

  むむむ!別荘地?避暑?そう聞いて心が動い


 た。子供の、頃から憧れが無かったかと言え


 ば嘘になるかも、僕はこう見えてもネット


 で作品を発表しているとは言え小説家


 の端くれだ。老舗の、旅館とか別荘


 で執筆活動すると言うのは小説家


 の定番中の定番だからだ。



「それで、場所はどこ軽井沢それとも蓼科高原?」

 


  僕が言うと姉は何の迷いもなく自信たっぷり


 に言った。



「それがねえ、熊本なの」



 耳を、一瞬疑ったが確かに姉は熊本と言った


 様だ。しかし、僕の記憶の中で熊本が


 別荘地という認識は無かった。




「それって、あの大きな地震が起きた熊本?」



  うん、そうと笑いながら頷いている姉だったが


 眼が笑ってないのを僕は見逃さなかった。


 こんな眼を、するときの姉は今までの


 経験から何事か良からぬことを


 企んでいる筈なのである。




 「蘭、あんたもお母さんの故郷が熊本ってのは聞い


 た事あるでしょ今もそこに住んでるお母さんの妹つ


 まり私たちには叔母に当たる人から、お母さんに電


 話があったらしいのよ。空き家になってる親戚の家


 があるんだけど、夏場だけでも良いから住んでくれ


 る人はいないかって人が住まないと、痛むらしいの


 それであんたが候補に上がったって訳」




 「何で、僕が?」と言うつもりだったが姉の眼が


 そんな事言わせないわよとでも言う様に僕を


 睨んでいたので言葉にはしなかった。




 「ほら、あんたこの間電話で言ってたでしょ小説が


 書けないって、それで良い事思いついたのよ。環境


 を変えればあんたの空っぽの頭にも良いアイデアが


 浮かぶんじゃないかって」




  空っぽの、頭って言うのは余計なお世話だと思っ


 たけど姉の言う通り最近どうも頭が煮詰まって


 小説が思う様に書けて無いのは事実だった。




 「それに、叔母が言うには家の裏手には清流があっ


 て色々な川魚が釣れるし、蛍も出るんだって何より


 川風で涼しいから避暑には最高らしいわよ」




  姉の、言う事を鵜呑みにして良いかは別にして


 何とかしなければとは考えて居た所だった。




 「でも、ここを一カ月も留守にってのもなあ銀ちゃ


 んの世話もあるし」



  銀ちゃんは、僕が飼っている黒猫の事だが実は


 このマンションは動物NGここのオーナには


 内緒で養ってる訳でバレると非常にマズイ


 ことになる。その時、ソファーに寝そ


 べっていた銀ちゃんが自分の名前を


 呼ばれたと思ったのか「ニャー」と


 一声泣いてこちらを見上げた。




 「その事なら、大丈夫あんたが留守の間は私が


 銀ちゃんの世話はするから、それに私もこの部


 屋に引っ越して来る事にしたからヨロシク!」




  嫌な、予感がするとは思ってたけど姉の目的は


 僕の部屋に転がり込む事だったみたいだ。話を、


 聞いてみた所どうやら勤めていた会社が営業


 不振でリストラ対象になって辞めさせられ


 たみたいで、今まで貯金を取り崩して何


 とか生活してたけど、それも底を尽き


 かけた時叔母の話が舞い込んで来た


 みたいなのだ。渡りに、船とばか


 りに弟の部屋乗っ取り作戦を


 思いついたと言うみたい

 

 なのだ。 




 「じゃあ、母さんの所に行けば良いじゃないか


 実家が有るんだから」



  僕は、最後の望みをかけて反撃を試みた。



 「あ、それはダメ実家に帰ったらそれこそ早く結


 婚しなさいってうるさく言われるからね」



  結局、姉に押し切られる形で僕の別荘地?での


 避暑は決まったのだが、それだけじゃ無く小説の


 ネタになる事が見つかるかもという淡い期待も持


 ちつつマンションの部屋と僕の愛車である。EV


 の、日産リーフそれに黒猫の銀ちゃんの世話を、


 姉に頼んで九州それも熊本に旅立つ事になったの


 である。でも、村上蘭はまだ解ってなかった。軽


 い、気持ちで出掛けてあんな事になるとは・・・









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ